しつこい奴には容赦なし
キレると手がつけられない……それが紅蓮です。
特に藍苺の事となると尚の事沸点が低くなります。要注意です。たまに理不尽になります。
こちら紅蓮。今ギルド本部の受付兼酒場に居る。しかも入って早々ガラの悪い連中が私とルルトを取り囲んだ。迷惑である。
「よぉ……女顔の優男。カミさんに養ってもらってる奴がこのギルドに何の用だぁ?」
「とうとうカミさんに愛想尽かされて仕事でも貰いに来たのかぁ?」
取り囲む馬鹿共の中でもかなりの馬鹿二人が私にヤジを投げると周りの金魚のふん共が一斉に笑い出した。なんだコイツら……練習でもしてたのかって程の息の合いようだ……仕事しろよ。こんな所でたむろしてるなら。
「お前ら……つくづく…馬鹿だなぁ……そんなことするからギルドの質が落ちるんだよ。それにその態度が原因で仕事減らされたんだろ……また減らされたいのか?」
ルルトが心底呆れている。その気持ち分かるよ。
「(馬鹿だ馬鹿だと思ってたが……そこまで馬鹿なのか……)」
ルルトの話ではこの馬鹿達は依頼人宅で馬鹿騒ぎをしたあげく、報酬を渡すから早く帰ってくれと懇願する村長さん(84歳)を殴り飛ばし顔面打撲と足の骨(太股)を骨折の重傷を負わせた挙げ句、報酬が足りないと駄々をこね倍以上の金額を請求し、村一番の美人の娘を寄越せと山賊のような要求をしたとか。そして、村長さん(84歳)の息子さん(婿養子)の迅速な報告でギルドのお掃除担当の花梨おばちゃん(推定70歳)に迅速に制裁で伸され事なきをえた。とのことだ。
感想としては馬鹿だとしか言えない。本当にそのの頭には何が詰まっているだ?おが屑か?
それと、村長さんお大事に。多分ギルドから医者と粗品(いろんな詰め合わせ。食料とか)を渡しておくように言っておくよ。お大事に。
「どうして毎回本部に顔見せに来るだけで因縁つけられるんだよ……てか、何で毎回居るんだよ……仕事は?」
「さっきも言ったけど、コイツらギルドの規定で謹慎中だから、仕事したくても出来ないんだよ。まあ、今の話だけどさ」
「それって失業中と変わらないんじゃ?」
「だよね。それに、ギルドマスターもいい加減お怒りだし……資格剥奪もあり得そうだよね」
ま、父さんの事だし、野放しにするよりは飼い殺しにしておく方が良いだろうな。慈悲はないのか?山賊や盗賊に慈悲なんて要るのか?
………まぁ、賊と言っても色々だけどさ。良いやつらも要るよ……けど、コイツらに慈悲なんて無い。
「ちょっとそこどいて。ギルドマスターに呼ばれてるから」
「~~~~~~っ!さっきから黙って聞いてれば!」
「言いたい放題言いやがって…ガキの癖に大人にナマ言ってんじゃねぇぞ!!」
取り囲む馬鹿共が一斉に各々武器に手を掛けた……やるのか?
ふと、視線を感じたのでそちらの方を見ると……受付嬢の双子、來音と玲譜音が「「殺れ」」と目で合図をしていたのでOKがギルド側から出た。いや、アンタ等二人が殺れば良いでしょうに。ちなみに、ギルドの受付嬢は強さが求められる。何せあの様な輩が居たりすると対処できないからだ。
彼女たちに掛かればあいつ等馬鹿共は赤子の手を捻るより簡単にのされるだろう。
「(え?ホントに殺るの?殺って良いの?完膚なきまでに再起不能にしても知らんよ?)」
「(殺れ!)」
「(抹殺!)」
物騒な双子受付嬢の殺意の眼差しを受けて少し血の気が失せた私の顔を見て勘違いした馬鹿とアホがまた何か喚き始めた。
「へっ、今頃誰に喧嘩売ったか分かったってか?」
「もう遅ぇーんだよ女顔。許して欲しけりゃ……お前が俺達の機嫌をとるんだな」
気持ちの悪いニヤニヤ顔が更に気持ち悪くなった。どうせヤラシイ事でも考えているんだろ。ヤダヤダ。こういう輩が居るから男は下半身に頭が付いてるって思われるんだよ。善良で奥手な男性諸君に土下座して謝りな。今なら焼き土下座で許してやらぁ…。
そう言えば、受付嬢の双子はコイツらにセクハラ受けてたって嫁さんに聞いたっけな……その都度嫁さんに魔の手が届かないうちに暗殺しようかと思っていたところだ……
さっきの言葉撤回ね。今なら堂々と殺れる。
「恐怖のあまり黙りか?ギャハハハ……」
古典的な悪党の……いや、小悪党の三下の笑い声を上げた。ハマりすぎで逆に笑いが込み上げる。もう少し普通の笑いは…出来ないか。
「テメェの綺麗なカミさんも一緒に俺達の機嫌をとるなら許してやらなくもねぇぞ」
「「「ギャハハハ…」」」
「もう戻ってこねぇかもな!」
「違いねぇ!」
品の無い豚よりも劣る笑い声が本部中に響いた。今のは……か・な・り、カチンときた……ね。
へぇ……誰が……誰を……どうするって?
腹の底が煮えたぎる……そして、その怒りが頂点に達すると……スウッ……と腹の底が冷え始めるのだ……。
「(ヤバ)全員緊急退避!!第一級避難!!」
「殺れとは目で言ったけど……」
「そこまで殺れとは……」
「「言ってないよね……」」
「地雷踏んだあの馬鹿が悪い。レンが何れだけ愛妻家か知らないんだな……ぁぁ……壊れたしないよな……本部。」
フフフ……フハハハハハハ……ククク……
私の……藍苺に何をするのか…な?
『テメェ等の汚ねぇ面を俺に二度と見せるな……』
何だか…とても心が凍えているよ。フフフ……
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どうも。ボスの眷属の中では一番の新人(何年も新人が居ないから未だに新人なんだ)、妖狐の八雲です。読みはヤクモね。
え~と……今の状況を説明するよ。
ボスは藍苺様の事を侮辱されてブチ切れました。まあねぇ、あんな風に好きな人の事を言われたら腹が立たない方がおかしいよ。俺だってあの人がそんな風に言われたら……どんな毒薬で葬ってやろうか……おっとすいません。
『フハハハハハハ……ククク…フフフ……』
高笑いというよりは堪えきれずに声に出ている笑いというのか……そもそも我等がボスは高笑いしない。どちらかと言えば鼻で笑う方だ。
風は逆巻いて荒れ狂い丈夫な壁や家具を粉微塵にしている。床から地響きが伝わり大地震が来るのではないかと肝を冷やす。ボスの周りの床から床材に使われている剛鋼樹から新芽が芽吹きボスの周りを取り囲んでいる……。その中のボスは狐火で燃え上がり……かなり怖い。
それに建物の外は雷が鳴り響き地響きと共に大音量を奏でている。しかもである、ボスの髪がウネウネ生き物かのように動いている。
これは…………誰が止めるのだろ? まさか……俺じゃないよね?
無理だよ……俺じゃ役不足っ!
『………………フッ……』
いつの間にか髪は白くなり白龍の姿を見せ始めている……ヤバイ。
ボスは白龍ということを隠している。勿論白の国の上層部は知っているし、ギルドの上層部――ボスの両親のギルマスと副マス、最上位の傭兵たちと受付嬢のまとめ役の双子――は知っている。けれど、何かに巻き込まれるのは嫌いなボスの考えで隠している……とはいえ、ボスもそこまで徹底していないから実力者なら気付いている人もいると思う。
「ねえ、止めないの?従者くん?」
「ルルトさんの方がまだ渡り合えますよ。俺は役不足ッスよ。……死ぬ気でも相討ちには持ってけませんし」
「…――だよね。うん。俺も無理だわ~。後何人か……そうだなぁ…あと5人居れば……相討ちには持っていけるか……いや、それならマスターに出てもらう方が良いよなぁ……」
ホントに規格外な親子だよねぇ~とルルトさんは言っているが、親子だけじゃないよ。家族全員が規格外のチート何だから……
「おんやまぁ、こりゃすごいねぇ……レン坊がお怒りかい?」
何の気配も無く俺の隣にぬぅ~ッと入っていたおばちゃん……本人は花梨ちゃんと呼べと言っているボスが唯一心を開き掛けている(開いているけどちょっとまだツン)お人だ。肝っ玉母ちゃんを地で行っている。頼れるお掃除担当の傭兵だ。この人の手に掛かれば恐ろしい虎や獅子も子猫の如く大人しくなる。実際ボスも一目置いている。
「あ、あの花梨さん、俺の後ろに気配消して立つの…出来ればやめてほしいッスね…」
「おんやすまんね~。癖だから…っと、ホンで?レン坊は何をそんなに怒ってんだい?あの龍にしては温厚なレン坊が怒り心頭で荒れ狂ってるなんて……余程の事だよ……」
流石年の功、場数の違いは切り抜けてきた修羅場の違いか。全く動揺していない。
『………………(無表情)』
「ありゃりゃ……あれはラン嬢ちゃんの事を言われて怒ってるんだね……龍にとって家族は命だ。しかも伴侶は命より大事なモンだよ。それを……はぁ~若さから来る無謀かねぇ……命知らずな。もう少し絞めておば良かったかねぇ…」
「流石花梨ちゃん♪ で……悪いんどけど……レンの事、止めてくれない? 俺達じゃこの殺気と妖気の嵐はキツいんだよね……」
ルルトさんが花梨さんに頼んでみるが……俺はそれはちょっと無謀だと思う。実力を認めていないわけではない。この人の実力は俺より上だ。でも、でもである。
自分の祖母位の人に地獄とも言えるほどの戦地に行けと言えるか?俺はそんな度胸無い。
「ダメなら俺が命懸けで行くッスよ。主を止めるのも従者の勤めッス……止まられるかは別として」
手もないことも無いんで……奥の手はあるんです。でもこれを使うのも……恥ずかしいので……主に藍苺様が……ですけどね。
……愚痴ならボスをキレさせた奴等に言ってくださいよ。
「仕方ないッスね……。あの手を使うッスよ」
「奥の手か?」
「おんやまぁ、どんな手だい?」
興味津々な最上位の傭兵二人と無言の二人の視線と疑問に答えずボスの怒りの矛先になっている哀れな馬鹿達をみる。
ボスの怒りの矛先を受けてはいるが、致命傷は負ってはいない。単にボスが手加減をしているからだ。あの人が本気だしたら……この頑丈な建物でも粉微塵になっていることだろう。手加減が出来るのは最終的なマジギレは未だなのだろう。
馬鹿達はボスの起こす暴風に〇ッダン状態だ。もっと詳しく説明すると、ノンストップな上に竜巻の中で上も下も分からない程グルグル揉みくちゃになっている……かな。しかも体にはご丁寧に床材から芽吹いた頑丈な木々が巻き付いている。
ボスも……手加減はしているけど、加減が分かってないのかもしれない。アイツらそろそろ吐くのではないか?
俺はそんな事なるのも御免なので早々に止めることにした。
止めにはいるときに……
『もう少しそのままでも良くないか?』
『主並びに奥方までも侮辱したのだ。この建物が壊れようと構うものか。遥か彼方まで吹っ飛べばよい。』
「そうは言っても、そのあと色々怒られるのはボスの方ッスよ?いいんすか?」
『『…………仕方無い』』
と、こんなやり取りがあったのです。
分かるよ、分かるけどねその気持ち。俺だってアイツらの安否なんてどうでもいい。ボカロの歌でもあったよなぁ……どうでもいいって歌。今ならあれを歌いながら笑ってやりたいスッわ。
「でも止めないとねぇ~……不本意っすけど……」
「いや、止めてくれないと困るよ俺たち……」
「「止めて」」
「止めとくれたら…ありがたいねぇ……」
ハイハイ。止めます止めますよ。だからチラッ…チラッと見ないでください。
俺は覚悟を決めて腹から目一杯声を出して叫んだ。
「ボッスー……早く仕事終らせないと晩御飯の仕度に間に合いませんっスよ~…奥方がきっとお腹すかして待ってます~っ!!」
多分、これで大丈夫だと思う。前もこの一言で収まったし。
『……………(無反応)』
……………心持ち馬鹿達のゲッ〇ンが激しさを増した気もするがどうでもいいな。
「…………」
「「………」」
「おや……まぁ」
「………ダメっした。」
「ちょ、どうすんだ!」
えっと……そうッスね……もう一回。
「えーっと……すいません依頼見せてください」
「は?」
「別にいいけど……」
「どうするの?」
「何か考えがあるのか従者くん?」
「お手並み拝見だねぇ……」
依頼を記入している依頼帳を見て手頃な依頼を探す……。位が高ければ低い物は受けられないのが決まりだ。ソコはバランスがどうのと問題があるんだってさ。ゲームでは無い現実ならではのルールである。
ボスの位は最上位。俺も一応上位の位を持ってはいる。一応決まりとして自分の位より上の依頼を受けることも出来る。とはいえ条件付きだけど。
条件としては自分より上の依頼を受けられる人(詰まり自分より上)が助っ人、仲間として同行を許す事。所謂パーティ組んでクエスト攻略かな。
えー……っと。あ、これなら良いかも。
「すいません。この依頼キープで。」
「畏まりました……でもなぜ?」
「今この時に……?」
こんな時だからこそだ。さて、これで仕込みはOK。これで止まらないとボスの両親を呼ぶことになるな。最悪の場合は不調の藍苺様を呼ぶとこになる。
「ボス!珍味の岩窟鳥狩猟が依頼に載ってますよ~。栄養満点の食材って、今奥方に必要な栄養も満点なんじゃないっすかぁーー?」
ボスを見るといつの間にか狐耳が頭に生えていた。あれ?白龍じゃなくて九尾ッスか? 尻尾が生えてないだけマシッスね……九本揃うと半端無いほどの力を出しますから……おぉぉ恐い。
そして俺の言葉にピクッと反応している。その耳……本当に触りたくなりますね。藍苺様も触りながらどれ程触り心地が良いか延々と説いていましたもんね……。命が惜しいので触らないけど。
で、
『その話、聞かせて』
食い付いてきました。やっぱり藍苺様命なんですねボス。お見逸れしましたよ。
こうして俺達とギルド本部は事無きを得たのだった。馬鹿達? その辺の床で目を回して倒れてるよ。でも、そんな事気にする必要があるかい?
結構図太くなってます八雲さん。コレも紅蓮の無茶ぶりを身近で見ていたからです。
そして、眷属になってからは妖力も増して妖怪的にも強くなりました。




