嫁さんダウン
やはりダウンしました。
お読みくださる皆様に感謝をm(__)m
なお、この話は私の想像で書いています。間違い等ございますのでご容赦ください。
晩の料理にほうれん草がタンマリ入っていることに不満な嫁さんの無言の訴えを慈愛の微笑み(黒笑)で撃退しつつ、明日の予定を考える。
何せ嫁さんは本格的にダウン。別に金銭的に困窮してる訳でもないけど、依頼は休む暇なんか無い。他に回せば良いのだけど、生憎みんな忙しい。その他の傭兵に頼もうにも役不足、格が違って受けられない依頼だし。一応、嫁さんと同じ格の私がやらないといけないのですよ。
私と嫁さん、父さんと母さんを除く最高位ランク保持者はたったの5人……とてもじゃないけど手が回らない。
それに母さんは今妊娠中だから論外、父さんもギルドマスターの仕事の為に依頼をこなす訳にもいかない。私も店番で……。実質嫁さん含めた6人しかし居ないのだ。一人欠損が出るだけでテンテコ舞いだ。
「目眩はもうしない……明日は仕事に……」
「そんな青い顔で倒せる敵なの? 慢心は禁物だよ。特にその手の痛みに慣れてないのにいつも通りに動くなんて出来るの?」
苦虫噛み潰した顔で嫌いなほうれん草の味噌汁を食べる嫁さん。そんなに休みたくないのか、それとも私に戦って欲しくないのか……どちらにしてもこんな状態の藍苺を闘いに送り出す訳にはいかない。
あ、ほうれん草が嫌いなのもあるのか……?このほうれん草母さんが改良してえぐみを抑えたのに……それでも嫌いか……筋金入りだね。
本来子供が苦いものを嫌うのは自己防衛の為と言われている。苦いものは毒と思うようにプログラムされているらしい。不思議なもんだね……。そして歳を取ると苦味に鈍感になるとか……まだ藍苺は苦味に慣れないらしい。ま、まだ十代だからね。身体的には……ね。
「そんなに簡単な相手じゃ無いんでしょ? 相手は上位の傭兵達を悉く退いてきた兵……そんな相手に日頃手傷を負っているのにそんな状態で大怪我せずに勝てる?」
「それでも、お前に闘わせる訳にはっ!」
藍苺の気持ちも分からないでもない。大切な人がそんな危ない敵に挑むなんて、考えただけでも嫌だ。でもね、危ない目にあって欲しくないのは私も同じ。特に孤立しがちな藍苺はいつもハラハラしながら帰宅を持っているのだ。例え顔に出していなくとも……
「俺はお前に……傷付いて欲しくない。」
「私も同じ気持ちだよ。だからこそこれは譲れない。明日は私が依頼をこなすから、店番はよろしくね。」
「………」
「それとも、一週間ほうれん草とヒジキご飯のローテーションにしてもらいたい?プラスゴーヤも付けるけど?」
「Σ(ノд<)」
こうして藍苺の養生は決定したのだった。余談だけど、鉄分ってビタミンCと一緒に摂ると効率的に摂取されやすいらしい……。何でもバランスよく摂るのが一番って事だね。
「何でそんな事するんだよ………卑怯だぞ……」
「ん?ナァニ?」
「あ、いや、な、何でもないです」
「(おっかねぇ……ボスがこえぇー……)」
*******
さて、夜が明けて次の日。私の仕事は勿論しましたよ。何の収穫もなかったので割愛した。宮廷魔術師(笑)はもっと仕事した方が良いと思う。そうすれば私の仕事はもっと楽になる。睡眠時間が増える。私のイライラも減るのではないか?
思春期の睡眠は成長に必要なのだ。これ以上背が伸びなかったらどうしてくれる。私の夢を壊さないでほしい。
「一日程度なら休んでも良いんですか?」
「まぁ、本当はダメなんだけどね。でも、藍苺は今まで休みなんて取ってないから。多少の融通は効くよ。てか、効かせる。私が使える権限を駆使して……」
コキ使うギルド上層部にはどんな嫌がらせ……イヤイヤ、制裁を加えてやろうか……フフフ
「あの……ボス?」
『ダメですよ。あの状態の時は話しかけても反応が鈍いですから……』
今日は八雲も眠たいのに着いてくる様です。寝てればいいのに……寝不足は肌に悪いよ?
ま、八雲はそんな事気にしないみたいだけど。知ってるかな? 女性は肌が汚いイケメンよりも肌が綺麗なフツメンを選ぶ傾向があるのだよ。
八雲はフツメンでなくイケメンだけど、奥手なシャイボーイ何だから、外見をもっと磨こうよ?
「クラウドもそう思うだろ?」
『話が飛びに飛んでそっちに行きましたか……』
「……俺、サッパリ分からない。ボス、クラウドさんと話が言葉に出さなくても通じるからって俺まで通じてる訳じゃないんですけど……あ、いえ、何でもないッス」
今はまだ開けてない店のカウンターに座るプリティな子猫のクラウドに何時ものように心のなかで話しかけていたらしい。すまん八雲。口が動いてなかったことに気が付かなかったよ。
クラウドとは眷属よりも深いところで繋がっているので意識しなくても通じる。
『主、今日は藍苺様が店番を?』
「そう。兎天は藍苺の手助けよろしく。他は私の狩りの手助けよろしく。八雲、お前は寝てろ。体調を崩すぞ」
『任せてください主様! それに八雲さん?貴方はもう少しご自分を大事になさった方が良いですよ。そんな事では主様に迷惑を掛けます』
『そこまで言ってやるな……。八雲は努力家で無鉄砲なだけだ……まぁ、寝不足で足を引っ張るのはいただけないが……おっと、自分には足がなかった』
大蛇の夜夢はこの頃こんな蛇をかけたジョークを言ってくる……それに対してのみんなの反応は……あまりよくない。結構自虐ネタが多い所為かもしれない。
さて、今日は久し振りなギルド本部に“次いでに嫌々ながら”行くことにする。彼処は居心地悪くて好きじゃない。彼処に居るなら安い酒場で温い酒をかっ込む方がマシだ。そんな事両親の前では言わないけど。けど、私の態度で勘づいていると思うけどね。
「もう行くのか?」
リビングの方から青白い顔で出てきた嫁さん。ふらつき気味なのは貧血か? 本当に残していって大丈夫か多少の不安があるが、四の五の言っても仕方ないか。
「店番は任せろ。お前は怪我するなよ?」
「私は前衛向きじゃないから、敵に接近し過ぎない様にしてるんだよ? おいそれと攻撃は喰らわない。ま、術が飛んできたら……多少の怪我はするけどさ。回避能力だって父さんよりも上だし、治癒術は母さんよりも上なんだよこれでも。(ま、他のところは秀でてないけど)」
「ん。……気を付けろよ」
「うん。じゃ、行ってくるね」
不安そうな顔で見送る嫁さんに笑顔で手を振る。店の扉を開けて外に出ると疎らに人が歩いていた。只今の時刻7時過ぎ。多分もう少しすると客足が増すだろう。頑張れ藍苺……朝方の奥様方はテンションが高いぞ? それに、新しいものや何時もと違う所には喜んで首を突っ込む様な野次馬根性がスゴいのだぞ? ドンマイ。帰って来て余計に藍苺の具合が悪くなってませんように!
両親が経営するギルド本部は白の王宮に程近い場所に建物を構えている。高物件をどうやって確保したのかは……聞かない方が身のためだ。母さんが王妃様と結託して白の王に何をしたか……きっと知らない方が良い。父さんも顔を背けた。
さて、建物の紹介をしようか。ギルド本部は、本部と銘打っている通り大きな建物だ。白を基調とした外装で、全部が木材で出来ている。勿論そこは母さんクオリティ……高級で頑丈な素材を惜しげもなく使い、高ランク保持者が本気で暴れても壊れない頑丈さと耐震性を備えたもしかすると王宮よりも頑丈な建物だ。しかし、資金をケチッたのか仕様なのか我が家と実家よりは脆いそうだ……流石はマミィ……
さて、内装はと言うと。父さんが凝って某モンスターを狩猟するゲームに出てきそうな内装にした。まぁ、それらしいから文句はない。酒場も兼用だから始終煩いけど、そこは仕方ないと思う。私に突っ掛かって来なければね。
『主、私は今日は姿を表して付き従います』
『ならば自分は主殿の首に巻き付いていよう…』
『マスター、私は子猫の姿で肩に乗っても良いですか?』
「皆……何でそんなに張り合っているんスか?」
『『お前だけ何時も側に仕えて狡い!』』
『私は……ノリです』
「どうやって捌けばいいんスか?」
「皆出てくれば良いだろ……」
この頃眷属のみんなのノリが良い。それと、ギルド本部に行くと必ず何かを牽制するかの如く影から出てきたがる。別に何時も出てきても良いのだが、周りに怖がられないために遠慮しているらしい……何て主思いのいい子達なんだ!
感激していたら涙が出そうだ。
と、便利連絡網で話していると下町を抜けて市街地に入った。此処からは比較的裕福な人々が暮らしいる。もう少しすると貴族街があるのだが……行きたくもない。
白の国王都は、白の王宮を中心に展開する街だ。区画は王宮、貴族街、市民街、商業区、下町に別れている。中心は白の王宮。外側が下町。下町の外には高い塀が有り、外敵から身を守っている。ボロボロだが。
市街地の人々は下町には目もくれない。正直いって目の敵にしている節がある。この間なんて、子供が市街地に遊びに出たときに、市街地の子供に石を投げられて怪我をした。市街地の大人は知らんぷり。人間の浅ましさの縮図を見たね。あれが人間の奥底に誰しも持ってる“攻撃性と無関心”だね。
怖いねぇ……私も人の事言えないけどさ
「ちょっと、あの人下町から来たわよ……」
「なにしに来たのかしら」
「どうせロクな事じゃないわ」
「連続誘拐犯も下町に居るって噂聞いた?」
「聞いた聞いた。何でも、食うに困った貧民が人を拐って他国に売り捌いてるって聞いたわ~」
「いやぁね。私たちも気を付けないと。」
今の話で私の影に潜んでいる眷属達が殺気立った。隣を歩いている八雲も不機嫌を顔に出し始めた……皆結構短気だよね?
《(それはマスターが大切だからですよ。)》
私を見て噂話を始めたババ……失礼、暇なブ……オッホン……暇をもて余した野次馬主婦達が私をジロジロ見ながら喋り倒している。
はっきり言おう。あのババ……主婦達が狙われる心配は一ミリもない。誘拐、或いは行方不明の女性たちは見目麗しく、若い女性ばかりだ。あの主婦達は今回の…“今回の”件では狙われないだろう。
鏡を見てみようね?謙虚過ぎるのも考えものだけど、自意識過剰な狂言はダメだよね。
「あ、居た居た!」
遠くの方で声がする。この声は……
「昨日は藍さん休んだんだって?鳶で知らせが来たけど……大丈夫?今日も休むらしいけどホントに大丈夫?今度我が家の医者に見せようか?」
このマシンガントークを噛ますのはルルト。白の国から遠い緑の国からの移民。この辺では珍しい片仮名の名前をしているのは、緑の国では片仮名の方がポピュラーだからだそうだ。少々お調子者でトラブルメーカーな私よりも二つ上の18歳の男。目は薄黄緑で髪が緑。どうやら緑の王族の分家らしい。詳しくは知らない。人懐っこい性格と結構なイケメンの顔のお陰でよくモテる。しかし、親が決めた婚約者が居るため他に目移りはしないもよう……
何かにつけ私と藍苺に話し掛ける。どうやら世話焼きらしい。嫌な感じがしないので多分全部善意。
兎に角よく喋る。放っておくといつまでも喋っている。得意属性は風。他は私は知らない。高ランク保持者の一人。
私は誰とも組まずに依頼をこなすので知らないのだ。ま、ルルトとはたまに組むこともあるけどね。
全く組まないのは嫁さんの方で……依頼で人数制限が掛かってないと組みたがらない。私のせいですご免なさい。
「話の腰を折るようで悪いけど、こんな道のど真ん中で話す内容でも無いだろ……」
「お?そうだったな。いや、悪い悪い。で、大丈夫か?」
「大丈夫だ。それよりも、どうしてここにいるんだ?誰かに頼まれた?」
こんな道のど真ん中で……しかも未だにババ……いや、野次馬主婦達が居るのに話なんてしていたくない。此処に留まっても居たくない……
変な視線も感じるし……
「そうそう! お前の父親のギルドマスターが呼んでるぞ。頼みたいことが有るってさ。」
「今から行くところだよ。妻の代わりにね」
なんだ、呼びに来たのか……それなら鷹でも鳩でも飛ばせば良いのに。入れ違いになってたら二度手間だろ。
「ほらほら、早く早く~~」
「ちょ、腕を引っ張るなぁぁ!」
人が大勢いる街中で女にしか見えない私の手を引きながら歩いていると……婚約者にラリアット喰らうぞ……ま、コイツがラリアットを喰らおうがバックドロップを喰らおうがどうでもいいけど。コイツ頑丈だし。
前で目元を隠していても女に見える私を引っ張りギルド本部まで引っ張られていくのだった……本当に誤解されるぞ、私は知らんぞ……ハァ……




