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選ばれし者16
ナオミは肩に置かれた手を振り払った。
「何ですかこれ。戦場に赴く男を心配するヒロインみたいになってるの、気持ち悪いから辞めてください」
眉をしかめてそっぽを向いたナオミの顔に、政直はところかまわず興奮した。
「ナニ言ってるんだいハニー、オレのことなら心配すんな。無事に帰ってくるって言ってるじゃないか」
政直は話の流れを勝手に捏造した。
気分は最高だが、彼女の心を掴むのには逆効果であることまでは頭が回らない。
苦笑した有働が乱痴気騒ぎに歯止めをかけた。
「納得してくれた人だけで構わない。一緒に来てくれ」
政直は頷いて、有働に続いて取り調べ室を出た。去り際にナオミが大きな溜め息を吐いたので、政直はわざとらしく大真面目な顔で敬礼してからドアを閉めた。閉めたドアを通して、更に大きな溜め息が聞こえた。
「君が好きな女の子を苛めるタイプだとは意外だな」
廊下を歩きながら有働はニコリともせずそう言った。薄暗い蛍光灯が瞬くだけの天井を、虚ろな瞳が仰いでいた。
「何のことやらわかりません」
政直はバレていることは重々承知しながらも、敢えてそう返した。
「大切なものに敢えてそんな真似が出来るのは、余裕のある証拠だ。正直、羨ましい」
有働はらしくない言葉と共に、立ち止まってエレベーターのボタンを押した。




