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悪の華
政直が喚ばれたのは、有働の件についてだった。メッセンジャー拉致のことを聞かれると思っていた政直は、少し拍子抜けした。
「まあ、座れ」
上原と過ごした取り調べ室が、無闇に懐かしかった。政府に敵意を抱いたあの日が何年も前のことのように思えていたが、実際には数日しか経っていない。
それにしても、有働の口から座れと言われたのは妙だと思った。
「取り調べなんだから、カツ丼くらい用意しろよ…高級過ぎるってなら、鶏丼でもいいから…豆腐飯かよまあいいや」
おかしい。
被告人であるはずの有働が、まるで使用人のように看守にドンブリを運ばせている異常を通り越してシュールだ。
「あれ?取り調べは?」
これから何が起こるのか読めなくなった政直は困惑した。きつく無意味な取り調べかと思いきや、慎ましい会食が始まろうとしている。
「取り調べ?…ああ、そりゃ、方便だ」
ご飯に乗った木綿豆腐に醤油をドバドバかけながら、有働は爆弾発言をした。
「お前さんを買収するために呼んだんだ。食え食え」
あまりに突飛なことを言われて、政直はつい醤油差しを落としてしまった。ドンブリは有働のものより醤油まみれになってしまった。




