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東京ドーム居住区8
政直は失意に落ちた。
(まず過ぎる……)
三時間待たされた挙げ句に、有働の素行について以前に三回も言った全く同じ証言だけとられて政直はようやく解放された。
既に夜の十時。明日からは今まで以上の鬱屈に悩まされるかと思うと鮎貝の気持ちがわかりそうになってきた。
(やばいやばい……)
これでは相手の思う壺だ。恐ろしい話だが、政府の人命を守る意識は恐ろしく低い。仮に政直が首を吊ったとしても、厄介者が消えてくれて清々するだけだろう。彼らの気に病むことといえば、死体の始末をどこの管轄に任せるか悩むレベルだろう。
風呂にでも入って気分転換をしようとした政直に、思わぬ幸運が訪れた。公衆浴場に入ろうとした政直は、ナオミと鉢合わせた。
「あっ……」
風呂上がりのナオミは顔を赤らめ、政直に申し訳程度に頭を下げ、気まずそうにすれ違おうとした。
「待てよ」
政直はナオミを引き止めた。
「風呂に入ろうと思ってたけど、気が変わった」
壁沿いに歩いていたナオミの頭の両側に腕をつき、ナオミと正対した。ナオミから立ち上る湯気が鼻腔を誘惑し、臥した眼が加虐心をそそった。
政直にこんな一面があることが、彼自身にも意外だった。疲労とストレスの産物なのかもしれない。




