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炎上10
「当然だ。ドームに入りたいと言えば入れるようだったら、人で溢れ返る。特権階級の住処なのさ、あそこは」
有働はしたり顔でそう言った。
花と戦う前に人間同士の損得勘定に振り回されるようでは勝てるものも勝てない。政直は歯噛みして悔しがった。
間もなく電話が鳴った。
ナオミが受話器を取り、「かしこまりました」とだけ言って切った。
「一時受け入れの許可は出たようです」
とナオミは告げた。
「勿体ぶるな」
政直は不平を口にしつつも内心はホッとしていた。このまま有働と同じ空間に居続けたら、殺人者になるかもしれない。
それにしても政直には気になることがあった。
「ナオミって本当は今みたいな喋り方する人だったのかな?」
隣でナオミがビクっと体を縦に揺らした。
「別にいいじゃないですか……」
目を逸らしたまま、誤魔化すように言った。
「いや、今のが可愛いからいいんだけどさ……」
政直は口を滑らせた。運転に集中するふりをして、それ以上は言葉を続けなかった。
時間を置いてこっそりナオミの顔を覗くと、紅潮したうなじが目の端に映った。
政直は密かに決意した。
東京ドームに有働を置き去りにしたら、ナオミだけは連れて行こうと。




