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天使の歌11
「有働さん、あんたまさか最初から自爆するつもりだったのか!?」
有働清一には娘がいた
妻はいなかった。
病弱だった彼女はもういなかった
病弱であるとわかっていながら妻にした女はもういなかった
危険だとわかっていながら産んだ子供と引き換えに、有働の短い甘い幸福な結婚生活は終わりを告げた。
それでも男は幸福だった。
愛するものがいなくなっても、代わりに愛する者がいたから
愛しい娘が生きていたから
体の強さまで母親とそっくりな娘でも、父親にとってはそれだけで生きている価値があったから
愛する最後のものを殺されたとき
愛するものがなくなった代わりに
復讐するものができた
愛が深ければ深いだけ
憎しみは愛のように深かった
そして仇は果たされる
そして仇と共に逝くのだ
この男に
いったい何の未練があるだろう
「今さら気付いたかよ。甘ちゃんめ」
有働の乗った装甲車が単騎発進した。
「有働さん考え直せ今なら……」
政直は言葉に詰まった。
政直には止めることが出来なかった
物理的にも精神的にも
有働の気持ちを知りながら
それでも否定できるほど
政直は偽善者でも残酷でもなかった




