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ユディト


 赤い扉を開けると、昼下がりの喧騒がモカの匂いと流れ出す。

 カフェ・ニヒリズム。

 奥行きのある店内を埋めるのは、茶や黒の上着で洒落込んだ紳士たち。彼らは丸めた指で卓上を叩きながら、内輪の議論に夢中になっている。高い天井に紫煙が閉じ込められて漂う。

 気船から降りたばかりのイシュトはとにかく喉が乾いて疲れていた。椅子の合間を突っ切って奥へと進む。

「アインシュペンナーを一杯。砂糖を多めでね!」

 ダヌビウス河の風に濡れた落ち葉を肩から払って、壁際の革張椅子にどっかと腰を下ろした。給仕の少年が向こうで了解の手を挙げる。

 ――グリングリング!

 扉の鐘が立て続けに鳴り響いた。

 店内につむじ風が吹き込んだ。そう思えた小さな歓声の嵐は、手に手を取ってカフェにもつれ入ってきた若い男女の二人連れ。

 きゃっきゃと笑い声をあげながら窓際の席に向かい合う。

 上気した顔を仲良さげにつきあわせる二人。

「エイナは何を飲む……?」

「リッヒと同じでいいの」

「僕もエイナと同じでいいんだけど……」

「リッヒが決めてね?」

「僕は知ってるよ。君はそう言っていて、けっこう好みが煩いんだ……」

「うふふふ」

「せーので一緒に言ったらどうかな……」

「いいわ。せーの」

「「メランジェ!」」

 窓際の若い男女は幸福な一致に笑い転げた。

「リッヒは私のこと、なんでも知ってるのね」

「僕は君のこと、どんなことでも知っているよ……」

 赤の他人であるこっちが照れてしまう。

 呆れるような微笑ましいような思いでイシュトは男女のほうをつい眺めてしまいながら、隣の紳士へと身体をかたむけた。

「何かいいですよねえ、周りが見えないほどの若さと情熱って、何かいいですよねえ」

 隅の席で新聞を広げる初老の紳士は黙り込むばかり。紳士の前に置かれたモカ・シュヴァルツァーは、なみなみと残ってすでに冷めていた。

 よくよく見ると、その紳士は精巧な蝋人形であった。

 ぎょっとして飛び上がったイシュトの前に少年給仕が、真白い泡の角が立派に立ったアインシュペンナーを置く。

「彼は我がカフェ・ニヒリズムの常連だった名高き文士、ツェントラールさまですよ」

 もともと寡作な先生でしたがね、一昨年のチフスの流行でついにモノ書かぬ方に──、片目を瞑って少年給仕はテーブルを離れていった。

 世紀末を迎え、新時代を控えたエステルライヒ帝国にて。

 文化爛熟の帝都は香ばしい珈琲の香りと情熱の熱弁と悪趣味な冗談に満ちている。


        □


「こっちの道で良かったのかな」

 イシュトは偶然その庭へと迷い込んだ。

 木立の奥にひらけた空間は空の青さを天井代わりにして気持ちよく賑わっていた。頬を撫でていくそよかぜの先で白い子犬が転がる。カンバスの脚元を走り抜ける子犬。子犬のため両足を浮かせながら一心不乱に絵筆をすすめる画家。

 老画家の後ろを通ってイシュトは広い庭を歩いていった。

「公園みたいだな……」

 中央の噴水彫刻の周りではたくさんの子供が歓声と水を撒き散らして遊びさわいでいるし。

 あきらかに日雇いの家なし者と見える青年たちが木陰にいびきをかいていたりもする。

 運河沿いの遊歩道からの道なりの流れが、門の存在を人々に認識させないのかもしれない。

 だが、この庭はれっきとした私有地の中だ。

 歩いていく正面には白亜の宮殿の片翼が優美な威容を晒す。

 親鳥の羽に子らが集まるように、純白のガチョウが芝生の上を競争していく。

 風を遮るレースの天幕の内側へと、ガチョウたちは我先にと侵入した。

 があがあと餌の催促を歌い上げる鳴き声の合間に、砂糖つぶのこぼれるような声が聞こえた。

「グストー、あなたの絵は本当に素晴らしいわ。けれど、一つだけ我慢ならない欠点があるのよ」

「そーらそらそら始まった! 今日も今日とてお嬢さんの高邁な審美眼講座が幕あきだ、寄ってお出で皆の衆、だ!」

「何度でも言わせてもらうわ。だってもったいないと思うもの。せっかくの、奇跡みたいな天才の芸術が……」

「そーうそうそう! 俺の絵はいつだって世界でそのとき一番の美と愛の結晶だからな。ありがとう、ありがとう」

「それは間違いないわ。でも一つだけ欠陥があるのよ。あなたの絵は、その……、ええと……」

 それまで小さいながら凛と響いていた声が、急に恥ずかしそうに口ごもる。

「だから……その、とても露骨なのよ」

「つまり?」

「過剰なの」

「であるからして?」

「扇情的すぎるってことよ」

 絵筆を手の甲でくるくると回し、壮年の画家が破顔した。

 イシュトから正面に見えるその顔は、少女をからかう悪い大人のものだ。

 可憐な声の主は画家の企みに気づいていない。

「生々しいというか――」

「もっとはっきり言いたいくせに! さあ、どうぞお嬢さん、さあ俺の言う通り繰り返して──猥褻 ワイセツ ワ・イ・セ・ツ!」

 のせられたお嬢さんが大きく空気を吸った。

「ええそう。あなたの絵はときどきとっても猥褻なのよ!!」

 途端に、大声を張り上げたばかりの少女とイシュトの目が合った。

 少女は慌てて首をすくめた。

 華奢な肩を隠したがるように、細くて長い指で絹の掛けものを引き上げる。

「あら、あなたどなた?」

 ぼうっと突っ立っているイシュトの手元に少女の視線が落ちた。

「グストー、あなたのお仲間? 素描綴りを持っているみたいだから」

 恰幅のいい体をカンバスから剥がして画家が、

「見かけない顔だな。どこから?」

「ちょっと待ってくださる。わたしが当てるわ。あなた、その上着の縁取りはパンノニアで生まれたアラベスク図案じゃないかしら。中のシャツの刺繍はシビウの尖峰地方に住む鷲ね。その刺繍は女性のお手製みたい。お母様がシビウの出身ってところかしら」

 驚いたことにその通りイシュトの母親はシビウ公国の出身だ。

 パンノニア大公国からダヌビウス河を上って帝国帝都にやってきたイシュトは、茶色の目を白黒させて両腕を広げた。

「すごいな」

 感嘆を、少女の青い空色の大きな瞳がぎょろりと受け止める。

「カフェ・ニヒリズムから来たのか?」

 イシュトを芸術家仲間と断じてグストーという画家が訊く。

 この場所へ辿り着く手がかりが、大抵あの店にあるのだろう。カフェ・ニヒリズムの客層は、睦まじく寄り添う男女から学生、文士、芸術家まで幅広い。顔の広い常連も多そうだった。

 イシュトは頷いた。カフェ・ニヒリズムに入ったのは確かだから頷いたのだが、時間を止めた文豪ツェントラールのほかには誰とも話を交わしていない。イシュトは別の目的地を目指していて、ここへは単に迷い込んだだけなのだ。が、詳しく弁解しようと口を開きかけたとき、少女と画家のあいだでふたたび論争の蒸し返しが始まっていた。

 イシュトは自己紹介の機会を失った。

「お嬢さんは芸術の庇護者としても、人間としてもまったく素晴らしいのに、一つだけ残念だ。知性も教養も要らんほど持っているのに、いちばん大事な最後の一つが欠落している」

「私、自分が素晴らしいなんて思ったことありませんけれど、いったい私に何だけが欠けているとあなたは思ってらっしゃるの? 聞かせて」

「それはもちろん愛ですよ。愛の経験だ」

「おっしゃいそうなことだわね。私、愛なら父上からも母上からもあふれるほどいただいています。あなたのおっしゃる愛は、もっと低俗なものでしょ? 噂に聞こえるところ、あなたが日々繰り広げていらっしゃるそれは……」

「愛に低俗も高級もあるもんか。もっとも、知らなければこのことはわからない。知らない口で何を言ってもこいつらガチョウと同じだよ」

「私はガチョウでかまわないわ。」

「そこで怒らないのがお嬢さんのいいところでらっしゃる」

 芸術協会の連中ならガチョウ呼ばわりされて形相を変えないやつはいない、と画家は素直に褒め称えた。

「私の人生が堕落するかしないかであなたの絵の猥褻さが許されるわけじゃないのよ」

「俺の絵を許すか許さないかは俺が決めることだ」

「だからこそ、私はあなた自身に問うているのよ」

「誰かに何かを問うているのは俺の絵で、お嬢さんはそれに対して優等生の答えを発しているだけですよ。千差万別うまれる答えに文句はつけないのが芸術の無害なところ、芸術のいいところ」

「そうね、芸術の懐の深さはわたしにとっても救いよ。それは同意するわ」

「どうもありがとうございます」

 議論の一段落に、少女のぎょろりとした瞳がイシュトの没頭する作業を見た。

「ずいぶん年季の入った〈綴り〉ね」

 熱心に書き込むイシュトの後ろへいつのまにか回り込んだ大きな影。

「なんだこりゃあ」

 イシュトの肩に肘をかけ、覗いたそばからグストーが呆れ声を出した。

「お前、独学か? 素描からちゃんとやったか? 太陽の二つある世界を描くんだって、まずは、素描、模写、人体なら骨格からなんだぞ」

「見せて。見せてちょうだい」

「あっ」

 イシュトの手からそれを取り上げたのはグストーではなく、控えの女官たちだった。さっと現れ、女たちは素早く少女の元へ綴りを持っていく。

「見てもいいわね?」

 一応の確認はするのだ。

 しかし少女の瞳には有無を言わせない強い力があった。それは少女が生来そなえたものだろう。

「その頁だけなら」

 イシュトは炭筆で額を掻きながら答えた。

「この棒人間たちが、グストーと、私? 双翼宮の庭にて出会う。──あなた、五分ごとに日記をつける習慣なの? 日記じゃなくて、『分記』かしら。書き付け魔なの? 分厚いはずね……」

「俺は……」

「あなた、私たちに会いにきたってわけじゃないのね。この庭が何て呼ばれているかご存知?」

 やっと誤解が解けそうで、ほっとしてイシュトは首を振った。

「いいや、知らない」

「ヴェル・サクルム。聖なる春の庭。ここは新進気鋭の芸術家たちのためのアトリエよ。私がパトロンを務めているの」

 絵筆を演技的に振り回しつつグストーがカンバスに向き直る。

「なるほど」

 少女が真面目な顔で〈綴り〉を差し出していた。

「お書きになったら。今言ったこと」

 女官の手を経て戻ってきた綴りにその通りイシュトは書き込みを増やす。墨筆を走らせながら説明した。

「俺は、ものを考えるのが下手なんだ」

 首を傾げる少女の気配。

「ものや人が、目に見えているときは大丈夫なんだ。でもその場所から離れてしばらくすると、物事はばらばらに散らばって、もやの中へと隠れてしまうんだ。忘れてしまうわけではないんだ。ただ、頭の中で、別々の記憶を結びつけてものを考えることができない」

 だからイシュトは、いつでも膨大な記憶の〈書付綴り〉を手元に持ち歩いている。

「こうして書いておいたものを見返せば、ちゃんと憶えているんだよ」

 顔を上げると、じっと見つめる少女の瞳に出会う。

 とても静謐に凪いだ瞳だ。

 記憶ごと吸い取られそうな青。

「探偵だけは絶対に無理ね」

 からかう微笑を浮かべて少女が言った。

 イシュトの〈病〉を知ると誰もが言葉を失うのに、少女はたあいない打ち明け話でも聞いたように優しくわらう。

「私もそうよ。謎を解くのは好きだけれど、刑事にはなれないの」

 今度はイシュトが首を傾げる。

「刑事になりたい? あの足で稼ぐやつ?」

「難しい問題を解くのが好きなのよ。言ったでしょ」

 変わった女の子だな、と、そのとき初めてイシュトは思った。

 少女の手から餌を撒いてもらったガチョウたちが、歓喜の羽根音でレースの天蓋を揺らめかせる。

 石造りの露台にしつらえられたパトロンの居場所。

 小春日和の日差しが柔らかくそそぎ、少女の白い肌を輝かせる。

 遠くの木立から彫刻家のノミの音が聴こえた。

「ヴェル・サクルム……」

 つぶやいて転がした言葉は、少女が君臨する自由の庭にふさわしく馴染む。

「見たり聞いたりしたことの記憶なんてつまらないものさ。これを観ろ。この芸術の前に立ってみろ。描きかけだが、どう思う。一枚の中に、どんな理屈も理論も込められる。一枚の中で完結している。すべてが語られている。それが俺の芸術」

 グストーの絵は、人物画だった。だが描かれた人物は、写実的に描かれた顔以外、抽象の世界に埋没していた。胸元から流れるシダの枝の緑。幾何学的な魚たち。くりかえされるアラベスク。無限に入れ子になった正方形の重なりは四次元に導くような奥行きを演出する。それらの意匠はすべて画面を支配しつくす銀色の横溢のなかに。

 身体の線が否定された抽象的な装束をまとい、絵のなかに留められた人物は、その表情によって圧倒的な存在をしめす。

 白い肌を潤す頬の紅潮。

 皇帝の家系を象徴するまっすぐな鼻筋。

 意志の強い凛とした青い瞳。

 大きな空色の青。

「私の肖像はすべてグストーに依頼しているの」

 絵に描かれた人物──アイナ・デリ皇女が言った。

「国民にこんな姿はそのまま見せられないもの。だからずっと私の絵姿は一般に公開しなかったのだけれど、グストーの絵に出会ってからよ、彼の絵で、私の顔を最近は国民もよく知るようになったわ」

 エステルライヒ帝国の第一皇女アイナ・デリ・サヴァッタリにまつわる噂は、政治関係の話題が苦手なイシュトでも知っている。生まれつきの病により横臥の生活を強いられているらしい、との憐れみ混じりの噂。〈寝台姫〉、という侮蔑的な渾名。

 生まれてからずっと寝台に寝ついたままの皇女は、胸から下の自由が殆どきかない身体なのだと。

 イシュトはじっくりと絵のなかの皇女を脳裏に写してから、その声の主をゆっくりと振り返る。

 二つの人物はまったく同じ顔をして、凪いだ微笑をイシュトに向けていた。

 しかし三次元のアイナ・デリ皇女は、ごまかしようのない平らかな場所に小さな身体を沈めている。

「おっと」

 やっと全羽が満腹して周りから退いていくガチョウの波に押し出されるように、イシュトは細身の寝台の足元へ辿り着いた。

「お目にかかれて光栄です。皇女殿下」

 ガチョウではないイシュトはそれが初対面の人間の礼儀であろうと思い出して、皇女の前に跪いた。幼少に身につけた常識は彼の頭から欠落しないのである。

「ヴェル・サクルムへようこそ」

 頭を垂れる青年の礼を、寝たきりの少女の細い細い小さな白い手が優雅に受け取った。



【ユディト】



 天蓋をくぐり出ていくガチョウの流れに遡行して、一人の若者が大またで駆け込んできた。

「ご機嫌うるわしゅう、姫君さま! お待ちかねの続報です!」

 日に焼けた腕で届けたのは刷りたての号外だった。

 捲り上げた袖のあちこちにインク染みをつけた若者は帽子をかかげてグストーたちに挨拶をした。背負った革鞄から丸めた大きな画用紙が覗いている。見たところ、身なりのきちんとした勤め人風の青年だ。

「ブルーノは新聞社に雇われてる挿絵家だ。ふたつき前までは雀とパンくずを奪い合う貧乏画家だった」

「食い扶持稼がにゃ、絵を書く前に肉体もろとも才能も枯渇するという哲学的矛盾にぶちあたりましてね」

「なに、技能で金を稼ぐのは悪いことじゃない。俺の親父は職人だったし、俺が出たのも工芸訓練校だ」

 アイナ・デリ姫の大きな瞳は紙面に吸い付いた。

「さっきまでオレは法廷で最前列に張り付いていましてね。今日はよくよくあの人の顔を観察してきましたぜ」

「〝アデーレ・シュニッツアー事件、美貌の未亡人の勝ち得た逆転無罪。聖女は暴漢の魔手をかわし、その邪まな魂に冷然と鉄槌を下したり――。〟相変らず大げさな見出しをつけるものね」

 眉を顰めて読みすすむ。

「お嬢さんの趣味なのさ」

 グストーが腕組んで口笛まじりに言った。

 グストーはほぼ完成に近づいた絵を一歩引いて眺めたあと、三脚からそれを外し、新しい描きかけのカンバスと差し替える。

 一転して今度の絵は、まだ下書きの状態であるものの、それでも目の眩むような艶めかしさにどきりとさせられる。

 恍惚とした表情の女。はだけた装束から覗く裸の乳房。女はどす黒い何かを小脇に抱えて立っている。その何かに焦点が合ったとき、イシュトはぎょっとして後ずさった。

 それは男の生首だ。

「ユディトの伝承を知ってるか?」

「ああ。美しき未亡人ユディト。街に攻め来たる敵将を美貌にて籠絡し、宵の深きにその寝首を掻き切りたり。魔性の救国英雄ユディト。……旧約の第二聖典収録だ」

「いい記憶力してるじゃないか」

 記憶を引っ張り出してくれるものがあれば、イシュトはちゃんと思い出せるのだ。

「まるで、現場を見てきたみたいな絵だ。こんな表情、誰を元にしたんだろうか。あなたの愛人ですか?」

「いいえ、それはこの人よ」

 アイナ・デリ姫が号外をひっくり返す。

 ブルーノが描いた法廷画。被告席に立つ女性の横顔は確かに、絵のなかの女性と同じ特徴を持っている。

「しかし困ったねえ。アデーレが無罪放免、まっさらの無実、タダの悲劇の女性だってことなら、俺の中のこの女は霞と消えちまうんだ。続きは描けない」

 頭上に腕組んで嘆くグストー。

「諦めるのはブルーノの話を聞いてからよ。新事実はあった? 新聞は人の関心をひくような情報しか拾わないんだから」

 心得ているブルーノが、しっかと焼き付けてきた裁判進行を一からあまさず語りはじめた。


        ◇


 その朝は、まだ前夜のどしゃぶりの名残りの雫が雨樋からけたたましく垂れていた。

 貿易商シュニッツアーの邸宅前に、漆黒の馬車が到着する。雲の垂れ込めた空の下、降り立ったのは警視庁総監、エゴン伯オルブリッヒ・クリンガー。

 〈刃の優雅〉と称賛される切れ長の瞳を左手上方へ向け、呆れる微笑とともに呟いた。

「派手に壊したものだな」

 煉瓦積みの邸宅の壁面に、戦馬車の通ったごとき穴が穿たれている。

 翻る外套。

 クリンガーが通った後には慌てふためく区分署員が着いてくる。

 あわあわと敬礼しながら口々に彼らは言った。

「総監がおいでになるとは……」

「わざわざお運びいただきまして……」

「ただいま現場検証を進めているところで……」

 クリンガーが黒手袋の手を挙げて制す。

「挨拶はよい」

 腹の中では腰掛け貴族閣下の乱入を迷惑に思っている現場警吏たちである。

 知ってか知らずか、クリンガーは目敏くあたりを見渡しながら、

「シュニッツアー氏は帝都の要人だったからね。既に故人ではあったが、役人の肩には荷が余るだろう。それでなくともこの事件は、起きる前から新聞紙上に取り沙汰されていたという特異なものだ。過剰な騒ぎがこれ以上広がらないよう、宮廷社交界での説明の役割も私にはあるだろうよ」

 なめらかに、もっともな理屈を披露した。

「夫人はどちらかな?」

 警吏がクリンガーを屋敷の奥へ案内する。

 鎧戸を閉めきった朝食室に、寡婦アデーレ・シュニッツアーは肩を震わせて座っていた。周囲には制服の刑事が隙間を生めるように立つ。警護とも包囲ともつかない雰囲気で。

「まあ、エゴン伯……」

 黒い瞳のふちを赤く腫らしたシュニッツアー夫人が、ガウンの前をかきあわせて立ち上がる。すこしよろけて、傍らの刑事に支えられ、足元を取り戻した。

 社交界の顔見知りに対しクリンガーは帽子を取って優雅な会釈を交わした。

「だいぶ落ち着かれたかな。少々お話を聞きたいのですが」

「あたくしが殺したのです」

 夫人の口調には傲然とした響きがあった。

 けして悪びれることなく、ただし開きなおるわけでもなく、品格をもって罪を受け入れる意志があった。

 凛とおもてを上げた夫人の姿は一輪の黒百合である。

 寝所用に緩く結い上げた黒髪は大いに乱れ、ほつれているが、濡れた花弁のはらりはらりと落ちるごときその流れすら美しい。

 白い額をじっとりと覆う汗は、戦場の英雄が身にまとう血しぶきと似て、勇敢な行為を飾るもの。

「あの男がいつかこのあたくしを狙ってやってくるのはわかっておりましたわ。あの男が主人の命を持っていきましたときから」

「現場へご案内いただけましょうか?」

 実質的には容疑者を殺人現場へ連行して行なう実況見分であるが、最大の尊重をしめしてクリンガーは夫人を歩かせた。

 夫人が歩むと、強く百合の香りがただよう。

「エゴン伯には見慣れた光景でいらっしゃるのかしら」

 殺人の現場は夫人の寝室であった。

 クリンガーはためらいなく踏み込んで死体の足元に立った。

 だが、やや考えてのち死体の頭上へと位置取りを変えた。あおむけに倒れた死体の剥いた白目が、彼を睨み上げる構図となる。

 名誉職である警視庁総監に就任してからのエゴン伯が、たびたび事件現場に姿を現すことを誰もが奇異の思いで噂にのぼらせる。本人にしてからが、特権を行使して得たおもしろおかしい死体の記憶を嬉々として語ったりする。勤勉というよりも奇行の趣が増すのはそのせいだ。

 大伯爵の子息であるオルブリッヒ・クリンガーは元々変わり者で知られる。その度合いは謎めいた引きこもり皇女〈寝台姫〉アイナ・デリとも匹敵するといわれる。

「フリントロック銃で一発か」

 大の字になって事切れている被害者の胸には鮮血の滲む風穴。下にした背中から流れきった血液が、毛足の長い灰色の絨毯に牡丹色の池を描いていた。

 クリンガーは凶器を探して振り返る。

 乱れのない寝台の上に、黒光りするフリントロック銃が投げ出されてあった。

「被害者は繊維工業家カール・ストクレー、五十四歳。三ヶ月前に被疑者の夫シュニッツアー氏に決闘を挑み、シュニッツアー氏を死に至らしめています」

「シュニッツアー氏に決闘を持ちかけたのはストクレー氏でしたか」

 クリンガーは夫人へ目をやって訊いた。

 手にかけた死体を見下ろして動じる様子はない。

 夫人はオニキスの瞳をぎらりとひらいて言った。

「いいえ。決闘を申し出たのは主人です。あの人は、つねづねストクレーの野卑な視線が目に余ると申して……、そしてあの夜会の日はついに、ストクレーが主人の怒りの琴線に触れる言葉を発したのです」

「ストクレー氏は夫人にただならぬ想いを寄せていたとの噂。つまりその想いから出た言葉が、という意味ですか?」

「想いなどという、心のものではありませんわ。ストクレーの、あの眼つきは、ただの……野蛮で、暴力的な……。……礼儀のないものですわ」

「肉欲ですか。つまりふたつき前の夜は、夫人の名誉に関わる、いわゆる侮辱的な礼賛をストクレーが口にしたのでしょうね。夫人もそれを耳に?」

 夫人は苦痛の表情で頷いた。

 それは一瞬、死体が思わず立ち上がってむしゃぶりつきかねないほど倒錯的な妖艶さをはらんだ。

「許しがたい言葉でした」

 夫人は色のない唇を噛んで横を向いた。

「それでも、主人にはあんな行為に及んでほしくなかった。明らかに挑発されたのです。今ならわかりますわ。この男は、初めから粘着質に計画していたのですわ。主人をわざと挑発にのせ、一か八かの勝負に勝って主人を亡き者にし、のちにあたくしをこの薄汚い手にかけようと──」

 身震いが夫人の全身を巡る。

 ともに手広く事業を展開するシュニッツアーとストクレーの間には、商売上の競争関係も存在していた。

 名士の生まれのシュニッツアーに比べ血筋と教養に劣るストクレーだが、いま現在の彼の商売の隆盛が、たかが女への懸想で道を踏み外すような男に達成できるものだろうか?

 決闘事件時の世論はその意味で常識的だった。

 ストクレーが一計を図って商売敵を抹殺したのだと理解する派が当時は大勢を占めていた。

 アデーレ・シュニッツアーの美貌を間近に見たことのない者ならば、そう考えるのも道理だ。

 しかし。

 今宵、惨劇の場に誇り高く立つ彼女の姿はどうか。

 豪奢な衣装も、昼の化粧も削ぎ落とした、無防備の彼女にまつろう生々しく艶な美しさは。

「そして昨夜、ストクレーは雨足強い夜更けにシュニッツアー邸へと侵入。あなたがストクレーを撃ったのは、彼が寝室に入り込んできてすぐ?」

「悲鳴する間と、この男がわけのわからない野蛮な理屈を吐く数秒と、それを聞いていられないあたくしが一言二言この男を罵った、そのあとですわね。それは確かです。そこから先は記憶がありませんわ……あたくし……」

「結構」

 寝台の上の銃を手に取ってクリンガーは子細に調べていた。

「奇しくもあなたは同じ銃殺という手段でご主人の仇をとった。実に、奇跡的な手際と言える。銃の心得はあった筈ですね。シュニッツアー氏と以前お会いしたとき、山荘では夫人もともに射撃遊びを嗜まれるのだと仰った。仲睦まじさの窺われる様子が印象深いが、何の因果だろう、絆を象徴するような凶器となりましたね」

「神に感謝をいたします」

 警吏たちがはっと息を詰めた。

 悪びれもせず、開き直るわけでもなく。

 アデーレはただ心から感謝を捧げた。

 迷いなく、恐怖するでなく。

 現実を前にして聖者のごとく落ち着いたさまは、一種の狂気すら感じさせる。

 鬼気迫る黒百合のような女から、むせるような妖艶が漂った。

 クリンガーはただ独り、呑まれぬ傍観者として存在を示した。

 小卓の下に落ちていた弾薬包の包み紙を拾い、灯かりにかざす。

「それにしても、実に見事な弾込めの手際だ。あなたが一人で守る邸に、襲って来られるかもしれないという予感があったのでしょうね」

「ええ、その通りです」

 銃身と火皿に火薬をそそぎ弾を込め──、乱入した男に恐怖しながらそれだけの作業をこなした夫人の冷静さ。

 命中して即死にいたらしめた腕前。

 それらは夫人にとって不利な事実となるのだろうか。

 だが夫人の堂々とした態度によって、刑事たちは疑いを差し挟めない思いに傾いている。

 ゆえに。

 誇り高い夫人に対し区分署長が助け船を出した。

「侵入の気配にはいつごろ気づきましたでしょうか。外に馬車が止まる音でしょうか。外壁に火薬を仕掛ける物音でしょうか。その段階で、銃をお取りになりましたか」

「馬車の音は聞こえませんでした。昨晩は雨が酷うございましたから。でもその雨音が外の音を遮断してあたくしは昨晩そのころは深く眠っていましたの。ですからあの瞬間まで、あの気狂いじみた崩落の音が邸を揺さぶるまで、目覚めておりませんでした」

 ストクレーは一階の外壁を火薬で小さく爆破し、邸に侵入した。後先を考えない暴挙だ。事件の異質性を際立たせるのはそこだ。そうまでして手に入れたかった運命の女に、幸か不幸か、望みのままか、ストクレーは討ち取られたのだ。

「その音に目覚めた瞬間、恐怖で息ができなくなりました。でも、するべきことはわかっていました」

 満足げな女の声音によって、すでに事件は完結していた。

 法廷で証明されるのは、彼女がいかに勇敢に自らの貞操を守り、夫の名誉を支えたかという、神話の再来のごとき夜の出来事だ。

 それから一行は再び階下に降りた。

 客間に穿たれた侵入口の破壊の状況、邸の構造などをつぶさに見て回り、さらに夫人を別室に置いて召使から証言を聞き取ると、クリンガーは来たときと同様、気紛れにも見える素っ気なさをつらぬいて邸を後にした。

「ありがとうございました。納得できるあらましだ。私の用件はこれでお終いです。では失礼」


        ◇


「エイナ、お腹空いているかい……?」

「あら、わたし、お腹のことなんかぜんぜん忘れていたわ。だって、リッヒとお喋りしていると何でも忘れちゃうのよ。でもそうね、川沿いをずっと歩いてきたんだから、お腹は空いているわね。あらわたし、お腹が空いているのね。少し風もあったし、あたたかいものにしましょうよ」

「寒かった?! 大丈夫かい、エイナ?! 大丈夫なの……? 風邪を引いたんじゃ――」

「ついさっきの今よ。引いてたってまだわかったものじゃないわよ。リッヒお願いだからそんな顔しないでね。わたしは丈夫なの。ちょっとやそっとで風邪を引いたりしないのよ。だってリッヒが握っていてくれる手が、とってもあたたかかったし――」

「エイナ……」

「リッヒ……」

 見詰め合う二人の頭上に、ずんぐりした影が立つ。

 遠慮がちの咳払いが響いた。

「ハインリヒ・アルブレヒト様でいらっしゃいますな」

 話しかけられた青年はぎょっとしてたじろぐ様子を見せた。

 連れの少女がさっと顔を伏せる。

「待ってください、僕が誰ですって……」

 声をひそめて首を突き出す青年の前で、五十がらみの髭の男は恐縮しきり――、

「いや、小官のような下賎の者が口をおききして許される貴方様でないことは充分承知でございます。しかしどうか、捜査にご協力願い奉りたく。小官はこういう者であります」

 名刺を渡す。

 注目が集まっていないことを確認しながら相席に身を縮こめた。

 カフェ・ニヒリズムでは今日も学生や若手文士達が政治談義に口角泡の花を咲かせている。

「帝都警視庁二十六区分署長のホフマン……さん? えっ、ええと、僕が何かまさか……」

「滅相もございません。アルブレヒト様には、ご協力いただきたいことがあって参りました。いえ、ご警戒はごもっともでございますが、この店に貴方様がいらっしゃることは、警察の力で知り得たのではございません。かねてより、ご出没の噂は耳にしておりましたものですから」

 ホフマンは私服であることを示して、今が公務の時間ではないことを強調した。

 場所をはばかり、敬称として呼ぶべきハインリヒの爵位名をわざと出さない。

「そ、そうですか。あははは……。ああ、そんな丁寧な言葉遣いもしなくていいですよ。すでにお気遣いいただいているとおり、なるべく街に溶け込んでいたいものですから……。協力というのは事件捜査ですか……?」

「左様です。アデーレ・シュニッツアー夫人事件について、個人的に細部を詰めたく思っていまして」

 ホフマン署長は、ハインリヒのとなりで帽子のつばに顔を隠して俯いている少女を少し気にした。

「あっ、彼女のことはどうぞおかまいなく……。僕の身内の者ですから。ああ、でも、聞かせて気分に触るような話なら──」

 ハインリヒの心配をホフマン署長がすぐ否定する。

「アデーレ・シュニッツアー夫人の行動は、多くの犯罪者の鬼畜な所業とは無縁です」

 はっきりと、こう言った。

 それだけでホフマン署長が、アデーレ・シュニッツアー夫人にだいぶ心酔しているらしいことがわかった。

 ハインリヒはちょっと困ったように微笑む。

「うん、新聞もそう書いているので、そうなんでしょうね……」

「お訊きしますのは、二ヶ月前のあの夜会でのことなのです。あの夜会にアルブレヒト氏も出席していたそうですね。さらにあの夜あの時、決闘騒動のまさに発端となった瞬間、かなり近い場所に立っていらしたと、同じくご出席のアイテルべルガー伯爵夫人から窺いました」

「そういえば……」

 すかさずホフマン署長は前のめりに乗り出した。

「何か覚えていることがおありでしょうか。特に、ストクレーが言ったとされる侮辱の言葉について、あるいはその雰囲気について、具体的な記憶というものがあれば、お聞かせ願いたい」

「うーん……」

 ハインリヒは首をひねるたび柔らかな茶色の髪を揺らして、思案げだ。

 横でその彼を見上げる少女が、彼の襟足にひっかかっていた枯葉を優しく摘まんで取ってやる。

 婦人帽のつばから一瞬覗いた少女の大きな青い瞳が強い印象を残す。

「ううううーん……。確かに僕のすぐ後ろのほうでストクレー氏とシュニッツアー氏は剣呑な口論を始めたんです。それで僕は振り返った。シュニッツアー氏がついに激昂して手袋を投げつけるまでの一部始終を、呆然と見ているしかなかった。ただ、その口論のきっかけの一言を僕は、聞いたような聞かなかったような」

「……どっちなんでしょう」

 ハインリヒは目を閉じ誠実に記憶を追おうとしていた。

 曖昧な表情で頭を左右に揺らしつづける。

「両氏が声を荒げはじめてからの内容は、証言者もいっぱいいますよね。彼らが見聞きしたものと同じく、僕の記憶の中でも、両氏の言い争いは商売に絡んだ遺恨のぶつけ合いでしたね……」

「問題は、何が温厚なシュニッツアー氏をそこまで昂らせたかなのです」

 ホフマン署長はだんだんと興奮してきたようだった。

「ことの発端を証言する目撃者はまだいない。しかし、それが夫人へ向けられた侮辱だったことは確かです」

 ホフマン署長は興奮のままに、現場検証の場で夫人自らが曝け出したという一連の真相を、訊かれもしないのに滔々と説明しはじめた。

 声をひそめた熱弁は、モカを三杯おかわりしながら長引いた。

 それにつきあうハインリヒの署長を見る目が、同情にも似たものへと変わっていくことにも署長はついぞ気づかなかった。

 話の中で事件現場からエゴン伯オルブリッヒ・クリンガーが去った頃合い、少女が突然、顔をあげてホフマン署長を見つめた。

「召使いたちはなんと証言しているの?」

 訊かないではいられないという様子で少女は口を挟んだ。

 意表をつかれてぎょっとしたらしいホフマン署長。我に返るとやや不快そうに咳払いをしたが、それでもハインリヒの手前、義務を感じるのであろう、彼は真面目に答えた。

「召使いたちは雨音のせいで騒ぎに気付くのが遅れ、一番早くに駆けつけたのは家令ですが、すでにことは終わっていたそうです」

「馬車の音や、爆発の音、銃声をすべて聞いた者はいないの? 馬車は停まっていなかったそうだけれど」

「おりません。あれだけ警戒していた夫人に聞こえなかったものなのですよ。確かに三日前の夜の嵐は凄かったですな? 馬車は流しを使ったようで、現在、当日の夜にストクレーを乗せた馬車を探していますが――」

「ストクレーに通じている召使いがいる様子はなかった?」

 矢継ぎ早に質問する少女を心配そうにハインリヒが見守る。

「おかしな様子の者はいませんでしたね。だいたい、手回しなんぞしておく必要がありません。侵入手段は爆破を用いた強硬突破だったのですから」

「他に出入りできたようなところはなかったの? 買収されて、鍵を開けておいたような入り口は?」

「夫人はそれを恐れて、すべての出入り口と鎧戸に錠をつけなおし、最後の戸締りは家令がつとめ、鍵はまとめて夫人に預ける決まりだったそうです。家令は代々シュニッツアー家に仕える信頼できる筋の者です。現場検証でもすべての錠が閉まっていましたし、客間からの侵入経路以外、泥の痕跡は残っていませんでした」

「泥の痕跡がなかった……、そう」

 やっと納得したように少女が口を閉じる。だが事件そのものには納得いったわけではないように考え込んだ。

「密室の事件ではないですよ。あれほどデカい風穴が現実に開いているんですからな。お暇ならシュニッツアー邸の前をお通りになってみられればよろしいですよ」

 噛んで含める親切さでホフマン署長は少女の相手をしてやった。

「だって、外壁の爆破音を聞いて、侵入の騒ぎを聞いて、それから銃声がした、という証言は誰からも取れていないんでしょう? 結局、決闘の発端も、あの夜カール・ストクレーがシュニッツアー邸に来た理由も、発砲の動機も、すべてアデーレ・シュニッツアーの言い分に過ぎないのじゃなくて。ホフマン署長、あなただって職歴に負うところのある専門家ですもの、状況証拠と被告の証言だけじゃ、裁判の場ではもしかしたら心許ない、そういう勘が働くから、こうして証言を集めているのでしょ」

 これには言葉を完全に失って、ホフマン署長、しばらく髭を撫でる人形になってしまった。


        □


 双翼宮のアイナ・デリの寝室は、月の光をたくさんそそがれる造りだ。

 濃い闇の居場所のない室内へと――、帰ってくる人影の足取りはとても静か。アイナは仰臥した寝台の上でじっと、その影を待つ。

「おかえり、エイナ」

 天窓から射す月の光を銀色の髪にまつろわせて、少女がアイナに屈んだ。

「ただいま」

 青い瞳と青い瞳が、合わせ鏡をなす。

 四つの瞳に映る、一つの顔。

「楽しかった?」

「ええ、とっても楽しかった」

「よかったわ」

 アイナはエイナの頬に片手を伸ばす。

 引き寄せて、互いの額と額をくっつけた。

「私にも、教えてね……」

 夜空を流れてきた淡い雲の群れが、月の交差点を通り過ぎるくらいの時間があっただろうか。

 いつしかエイナの瞳が眠るように閉じたと思うと、その総身からも力が抜けて、少女ひとりの重みが消え去った。

 かたりとしなだれて、それはアイナの上に落ちた。

 魂をなくしたエイナの抜け殻。

 からくりの利かなくなった操り人形。

 林檎一つぶんの重さもない人形を、かきいだいたまま――、アイナは今日一日の出来事を反芻する。歩いて、走って、はしゃいで、しゃべって、飲んで踊った、街での出来事。

 自由に、自在に、自分の足で、自分の身体で!

「リッヒは本当に心配性ね……」

 幼馴染である公爵令息の青ざめた顔を思い出しては、アイナは可笑しさをぶりかえす。

「私にしてくれていたようには心配しなくて大丈夫なのにね。だってエイナは私とは違う──」

 ふと、アイナの唇から笑みが消えた。

「私とは違うんですもの」


        □


「あら、あなたも常連になったの? 昨日の今日で、またいらしたのね」

 天蓋をくぐって現れたイシュトにアイナ・デリの鈴の声がかかる。

「おたのしみの真実は明日にお預けと姫がおっしゃったんだ。俺は血なまぐさい出来事全般に興味がないのに、そう言われると気になって気になって、異国の地で不眠症になるところだった。あれ、もしかして来ちゃいけなかったのか?」

「いいえ。ここは万民にひらかれたヴェル・サクルムよ」

「良かった。申し遅れたけど、おはようございます、アイナ・デリ姫」

「おはよう、イシュト。……イシュトバーン……何だったかしら、正式な名前は?」

 イシュトはそれに答えるのをややためらった。

 決心して口を開きかけたとき、背後でがちゃがちゃと三脚を組み立てながらグストーが露台へのぼってきた。

「お嬢さんおはよう。今朝はお客がもうひとり」

 画家の後ろから天蓋をくぐったのは、蜂蜜色に輝く金髪と端正な優しい顔つきをそなえた貴公子。

「アイナ! やあ! 今朝は顔色が良いみたいだね……」

 横たわる姫の姿を認めるなり、一週間ぶりに水を飲んだ砂漠の人のような顔をして、彼女の元へ近づいた。親しい家族の雰囲気で寝台の傍らに跪く。

 白い小さな手を取ってキスした。

「ああ、でもこんなに薄い掛け物だけで大丈夫かな。そろそろ本格的に寒くなってきたんだよ……」

「ちゃんと暖炉も焚いているの。顔がほてってしょうがないくらいだわ」

「顔がほてる? 熱があるんじゃないかい?! 頬が血走っているね、ああ、嘘だろうアイナ……そんな……」

「落ち着いてね、ハインリヒ」

 仕事に誇りを持つ女官たちともども、困った人だという顔をして眉尻を下げるアイナ・デリ。

「退屈していないかい? 届けさせた本はもう全部読んでしまったんじゃないかな……」

「まだ半分くらいだわ」

 今朝のやんごとない訪問者はそれで終わらなかった。

「入らせていただきますよ、姉上」

 甲高い子供の声が耳に飛び込む。天蓋の外から裾をまくりあげたのは大人の侍女だ。うやうやしく侍女が導いたそのあとを、昂然と小さな顎をそらして軍服姿の少年が登壇した。

 だいぶ幼く見えるが、仕草や衣装でせいいっぱい威容を嵩上げしている様子。

「ご尊顔、うるわしゅう。高いところから申し訳ありませんね。私まで仰臥してお話しするわけにもいかないのでね」

 その金髪碧眼は姉姫と同じ血のものだとすぐわかる。

 世継ぎの皇子に公爵令息ハインリヒが挨拶の礼をとった。

「ソビー。あなたの訪問は珍しいことね。キスさせてくださる?」

「かまいませんよ。姉上のそのご不幸はけして伝染病ではないのですからね」

 もったいぶった調子で皇太子は姉姫に寄り、小さな紅顔を差し出した。

「お勉強ははかどっていらっしゃるかしら」

「教師が良いので恙なく進んでいますよ。帝王学の何たるかは姉上に縁のあるものではないでしょうけれどね」

 この皇子、いちいち姉姫に対し嫌味を混ぜずにいない。

 とげとげしい対立の雰囲気はアイナ・デリのお付き女官たちとソーヴァ皇子の取り巻き女官との間にもあり、冷たい戦争の空気が肌に痛い。

 ちょうどやってこようとしたブルーノがレースの天蓋の外で怖気づき、うろうろしていた。

「勉学に励まれる殿下の疲れたお心が、姉上の慰めを欲してこちらへいらっしゃったのですね……」

 ハインリヒの手助けは皇太子の顔を真っ赤にさせた。

「そ、そんなわけあるか! 何を言う!!」

 まるで図星をくらった人間の反応である。

「何でもいいけれど、丁度いいところにいらしてくださったわ。ソビー、あなたの教育係であるエゴン伯は昨夜のうちに都の社交界を渡り歩いて、アデーレ・シュニッツアー事件の判決に警察当局の視点からのお墨付きを広めたそうね。いったいそんなことをしてあの方に何の得があるのかしら……」

 深く思慮する姉姫の前で皇太子は鼻を鳴らした。

「暇な御病人はまた下賤な市井のけがらわしい裁判などに興味を差し挟んでいらっしゃるのか。低俗ですね。視線が低いからかなあ。オルブリッヒは社交的な人だ。聴かれれば親切に答えるというだけのことでしょう。まったく近頃の都は上から下まで低俗だ。夜会やサロンで彼らが姉上のご不幸をどう楽しんでいるかご存知でしょうね」

 十年ちょっとしか生きていないソーヴァ皇太子の言葉にしては賢しらである。

「下は下で昨今は、あのくだらない、民族自立運動! それに革命運動とやら! 皇室の慈愛ある政治によってこそ市民の生活は守られるというのに、なんと小賢しい思い上がりであることか!」

 幼い顔が苦虫を噛むが、あまり似合わない。

「国民の声にはつねに全開に開いた耳を傾けていなければだめよ。時代を読めない王は、正しくない理想を追いはじめるものよ」

 言った後で、アイナ・デリははっとして口を閉じた。

 打ち消すように首を振ると、話題を元へ戻す。

「……それはそうと。アデーレ・シュニッツアー事件よ。グストー、あなたはどうして、アデーレが正当防衛ならあなたの絵が描けなくなると思ったの?」 

「下書きだが、見れば一目瞭然だろう?」

 白布の覆いを外したカンバス。

 そこには、生首を吊るし持つ妖艶な女。

 妖艶に、勝ち誇る女──。

「この女は、罪」

 再び絵と対面したイシュトは、昨日も今日もその印象が胸に湧かせる一つの言葉を、呟いた。

「そう」

 作品を解説するのは不本意そうだったが、作品をものにするために必要なときもある。倒した人差し指で鼻の下をこすりながらグストーが、自らの心象を説明した。

「罪だ。英雄の罪。悪女の罪。どちらにしても罪は罪なんだ。アデーレの事件から俺が受けた印象は、こういうものなんだ。だが裁判の場で語られたあらましでは、アデーレは悲劇の主人公。夫を殺され、貞操を狙われた哀れな普通人に過ぎず、まったく主体性をもってない」

 絵のなかの女には、強烈な意志の果ての達成感が燃えている。

「一度信じたその女が実在しないとなると、俺はもう描けないね」

「あなたは女への愛で絵を描くのですものね」

「そう、そう」

 アイナ・デリ姫はお気に入りの画家にとても心を許した表情を見せる。

 やがてその青い大きな瞳は翼を得たように輝いた。

「アデーレは哀れな寡婦なんかじゃないわ。グストー、あなたはその絵を描けるわよ」

 イシュトは思わずアイナ・デリ姫の瞳から目が離せなくなった。

 視線に気付いたアイナ・デリの首がごろんとこちらを向いて転がる前に、イシュトは手元に開いた〈書付綴り〉に頭を突っ込んだ。簡易な図形と文章で埋めた左右の頁と睨み合い、自力で解けない謎に首を傾げる。

「どういうことだ?」

 アイナ・デリ姫は、まだわからない? という顔で瞬く。 

「簡単じゃないかしら。抜け道があるのよ。シュニッツアー邸には、アデーレ以外誰も知らない第三の入口があったの。アデーレはその道を使って自らカール・ストクレーを招き入れたのよ。夫の仇を、殺すためにね。それも、根も葉もない不名誉な罪を押し付けた上で殺すために。ということは、爆破はアデーレがカールを撃ったあとに工作したというわけ」

 瞼をいちど伏せ、そして、カンバスをうっとりと見つめた。

「悪女であり、英雄よね」

 誰かが小さな肩で息を吸い、瞬発力をためる気配がした。

 甲高く笑い転げたのはソーヴァ皇子だ。

「まったく居合わせて損をしたよ。推理が呆れたな。くだらない妄想のお披露目会なんだもの。外の世界を知らない方はやっぱり夢物語に生きるしかないんだね。お可愛そうなことだ!」

「あなたこそ、いつからこのヴェル・サクルムが裁判所気取りの暴露場だと勘違いをしていたの?」

 アイナ・デリ姫はにっこりと笑んだ。

「大切なことは、芸術が息をできるかどうかなの」

 煙に巻くような言い方をして弟皇子を閉口させたが、アイナ・デリ姫自身、思いあぐむ表情を見せた。ますます姉姫のおままごとへの軽蔑を深める弟皇子に、もう少し実のあることを聞かせるべきか迷う様子だ。つまり彼女には、本当は確信があるらしいのだ。

 足りないのは証拠だ。

 なにしろ彼女には、エゴン伯のように自ら赴いて気になるところを検分する手段がない。

「でも。そうね、一つ根拠があるとしたら……ソビー、あなた、シュニッツアー邸の住所をご存知?」

 興味なさそうに天蓋の裏を眺めはじめるソーヴァ皇太子。

「さあ、知らない」

環状道路(リンクシュトラーセ)に面した、二十六区一番地。リンクシュトラーセのすぐ内側よ」

「それが何?」

「環状道路のことなら、都市整備建設事業の責任者だったノイシュタット伯ヴィルヘルム・クリンガーのご子息であるエゴン伯が詳しいかもしれなくてよ」

 エゴン伯という教育係への傾倒をからかわれていると思ったのだろう、小ぶりな頭をぷりぷりと振ってとうとうソーヴァ皇太子は背中を向けた。

「まあ、もうお帰りなの? お茶をお飲みにならないの? ソビーの好きな苺紅茶だわ」

「辛気臭い寝台のそばでくつろぐ趣味はないから結構。はああ、これ以上、忙しい私の時間を夢追い人の妄想で埋めないでくれるかなあ。姉上、暇な午後はどうぞ暇な皆さんとご一緒に。私はこれで失礼」

「ごきげんよう、ソビー。根を詰めないでね」

 小さな王様が大きな歩幅で庭を目指す。前を通り過ぎるとき初めて、ソーヴァ皇太子がイシュトの姿をみとめ、おや、という表情で見上げてくる。

 慇懃にイシュトへ会釈をしたあと、ソーヴァ皇子はヴェル・サクルムから退場した。



「ソーヴァ殿下は姉姫のことが大好きなんだよ……」

 傲慢な風の吹き抜けた余韻を穏やかにそう評するハインリヒ。

 イシュトははてなと首を傾げてしまう。 

「あれで?」

「屈折してるんだよ。あの年頃はみんなそうさ……」

「あなたには兄弟姉妹がいないじゃない」

 きっぱり指摘されてハインリヒは困った顔だ。

「でも君と僕は一緒に育ったようなものだよね……」

「私のことを忘れないでいてくれて、リッヒには感謝しているの」

「どうして忘れると思うの……。僕は君のために何ができるか考えるのが趣味だよ……」

 ハインリヒはソーヴァ皇太子に占領されていた場所を取り返してアイナ・デリ姫の額に触れる。

「明日も身体が空いてるんだ。一日中ヴェル・サクルムにいられるよ……」

「あら、じゃあ――」

 小さな手でやや強引に掴んだ肩口を引き寄せてアイナ・デリ姫が耳打ちする。

 ハインリヒは少しだけ表情を翳らせて姫を見つめた。

「わかった……うん……」

 約束できて姫は嬉しそうだ。

 こちらも絵筆の勢いを取り戻して嬉しそうなグストーが、鼻歌を高らかにユディトの世界を描き出してゆく。

 ユディト。

 英雄譚の裏側を暴く、残酷な生気(エロス)の笑み。

「復讐の女神」

 宮殿のなか、逆光に黒ずむ硝子扉の奥では――その一間はアイナ・デリ皇女の暮らす一角なのだろう――納品された皇女の肖像画を運んで女官たちが右往左往する。

「芸術の守り手」

 ヴェル・サクルムの主は、小さな寝台の上で満足げに平和を楽しみ、眼を閉じる。

 やがてうつらうつらと微睡むようだ。

「この都には、いろんな女神が存在する、と」

 イシュトの〈書付綴り〉は、どんどん書き込みのある頁を増やしていく。


         □


 環状道路(リンクシュトラーセ)は帝都中心部を円周する約四キロの大通りである。

 元、その場所には外敵から街を守る市壁があった。市壁の役割はすでに失われて久しく、外側の堀と防御斜堤の草地(グラシー)は市民の遊歩道として緑深く蔦を絡めていた。やがて市壁は近代化のなかで鉄道敷設の障害となった。皇帝クラーラ・デリ・サヴァッタリの名により歴史的意味をもつ解体工事が号令されたのは、十五年前のことだ。

 環状道路建設計画は都市整備の一大事業だった。十五年の間に、市壁跡には宮廷歌劇場をはじめとして、帝国議会、帝都市庁舎、大学、美術館、博物館、劇場、芸術協会などの公共建造物が計画的に配置され、次々に建ち上がった。建物はそれぞれ異なる歴史様式を施され、費やされた建設費もそれぞれ小さくはない。この新生区画一帯にはまた、新興のブルジョワたちがこぞって土地を買い求め、豪奢な邸を構えた。

 帝都をめぐる四キロの環はいまやもっとも新しい時代を象徴する都市の名所だ。

「新しい時代に! 我らの進取の精神に!」

 学生たちが酒を入れてはしゃぎはじめる。

「市民の意志に! 自由に! 友愛に! 前進に!」

 宵の口を迎えたカフェ・ニヒリズムにて。

「それで、お前さんはパンノニアからここ爛熟の都へ何しに。見たところ、坊ちゃん育ちの身なりじゃないか。おおよそ見当はつくねえ。青い夢を口走って勘当同然、家出してきたとかだろう。沢山いるんだぜ、そういうやつぁ」

 麦酒を煽ってグストーが勝手ににやにやした。

 イシュトは人いきれと酒精の効果で暑くなってきて上着を脱いだ。指先に吊るしたその上着を客観的にちょっと眺めてみたりしたのは、グストーの言葉を気にしてだ。

「いや、違う。俺はちょっと、人を探しにね」

「親の仇か」

「そんな物騒な話がごろごろ転がっていたら困るよ。ふらふらと出て行ったまま音信不通になった兄を探しにね」

 赤ら顔の髭をひくつかせてグストーが意地悪く請け負う。

「誘拐事件だな。あり得ることだぜ。パンノニアの田舎者と言っちゃあなんだが、気をつけたがいいぜ、生き馬の眼を抜く帝都じゃ珍しいことじゃないからな。お前さんの兄貴だったらやっぱりボンボンなんだろう。気の毒になあ。せめてお前だけでも無事に帰れ、な」

 中央のテーブルから人が落ちた。演説の途中で引きずり下ろされたらしいが、演説自体誰かのものまねだったらしく、当人もろとも笑っている。

 そろそろ非学生の運動家も食い扶持仕事を終えてカフェ・ニヒリズムに合流してきた。すると過激さに拍車をかけて思想論議が再燃してゆく。

「諸君、聞いてくれたまえ。近々パンノニア大公国を併合する代わり、帝国内のパンノニア人の地位を引き上げはじめるだろうって話はどうやら本当らしいぜ。あそこも少数のパンノニア人が諸民族を牛耳ってる混成民族国家なのはエステルライヒと同じ。諸民族の自立の鳴動を支配民族同士で協力して押さえつけようって腹らしい」

 事情通ぶって一席ぶち始める文士風の痩せた男。

「パンノニアの大公家は大昔にサヴァッタリ家がルーシャ帝国の侵攻を追い払ってやってから実質は臣下も同然だし、併合成立したのちは、サヴァッタリ家当主がパンノニア王を兼ねるらしい。異文化の大公さまが帝都社交界にちやほやされる日も近いってこった」

「いいのか、そんな乱暴を進めさせて!」

「いいわけないさ。民族自立運動の旗振り役だった帝国内のパンノニア系がエステルライヒ人とくっつけば、ソルブ人以下の被支配系諸民族は梯子を外されたかたちになる。あちらとこちらの上どうしが結託していじめられるのは下同士。いいわけないだろう。国民を敵に回す裏切り行為だ」

 新たなお調子者がテーブルに上がった。

「我々もフランクライヒの共和革命に続け!」

 それぞれの杯を高々と掲げる。

「自由の声を! 民衆の声を!」

「どこもかしこも頭の固い重鎮が仕切ってやがるのは変わらん。芸術協会だってそうさ」

 離れたこちらでグストーが同意のぼやきを重ねた。

「また始まったりグストーの愚痴」

 同席の芸術家が超然と混ぜ返す。

 さっきからイシュトはその男のことがとてつもなく気になっている。文豪ツェントラール氏の隣あたりで男は、女性と腕を絡めて座っているのだが……。

 否、それはどこからどう見ても女性の等身大人形(マネキン)である。

「こいつは俺の弟子だった男で、今は独立してる」

 新進気鋭の画家にして戯曲台本の才能も評価されつつある異才、ココシュ。

「彼女はマリー・バリー。僕ちゃんをフった女だよ」

 マリー・バリーと言えば田舎者のイシュトでも知っている有名人だ。大作曲家の妻であり、その人自身も多彩な才能と人間的魅力で社交界の華の地位を磨いている。同性異性を問わず、浮名を流すことの多い人でもある。

 帝都の爛熟を象徴するような進歩的女性である。

「ココシュは女への未練で気が狂ったわけじゃないんでさ。元から狂っているんだよ」

 ブルーノは身なりと画材のために金を切り詰めているからシラフだ。

 職業病か、カフェ・ニヒリズムの革命家予備軍たちの熱気を素描しながら訊いてくる。

「発掘家にはもう会ったかね?」

「発掘家……」

「神出鬼没な人だが、ヴェル・サクルムで緋色の髪の美女を見かけたらそれが発掘家だよ。一年前ふらっと現れたときから姫殿下の一番のお気に入りで、宮殿に実験室を持たせてやっているらしい。いろいろ珍妙なものを生み出す美女だよ。それで発明家じゃなくて発掘家と名乗ってるのは、ナンダカカンダカって理屈があるらしいが、あの人の言ってることは宇宙的すぎておれにゃわかんねえや」

「だがなあ、あの美人の一番の不思議は、俺の食指がまったく反応しないことだ」

 グストーの言葉でイシュトは盛大に麦酒を吹いた。

「大丈夫か」

 けっほけっほと咳き込みながら、イシュトは誤魔化すように書付綴りをひらく。

「ところでエゴンッ……エゴン伯って、いったい何者なんだ? 昨日今日で書付綴りがその名前ばかりで埋まってる」

 ケチの付いた流れを仕切り直すために話題を変えた。

「僕ちゃんたちと同じ道楽者さ。違うのは金の使い方だけなり」

「エゴン伯の父親、ノイシュタット伯爵というのは保守政治家の重鎮でな。ソーヴァ皇子の後見人的な位置を占めているのがこいつだ。息子のエゴン伯はソーヴァ皇子の教育係兼剣術の師として皇子から尊敬を得てる。師がどうのって聞いたよな?」

「じゃあ、ソーヴァ皇太子が反革新的な嫌悪感をみせていたのは、その親子の影響で?」

「専らの噂だな」

「でも、ソーヴァ皇子は第一皇子だよな。なのにどうして、厄介な連中をわざわざ後見役に? 皇帝陛下は頭の柔らかい方だと評判が高い。跡継ぎの皇子なんだから、自ら教育を授けられればよかったのじゃないか。有力大貴族なんかが大きな顔で入ってきて、皇子がごりごりの保守思想に染められてしまう前に」

 そこだよ、とブルーノが溜息を差し挟む。

「クラーラ・デリの心のなかなんぞ、庶民のゲスな目で窺い知れるところじゃないが、まわりの口さがない噂は噂でこんなものがあるんでさ。つまりさ、君も見た通り、あのソーヴァ皇太子ってのは結構な凡愚なわけでさ」

「一方でどうだ、俺たちのお嬢さんは」

 赤ら顔のグストーは巨体を椅子の背に預けて一息つく。

 パトロンの姫君への賞賛はしこたま酔った酔っ払いが言っても本物だ。

「アイナ・デリ皇女の頭脳と人柄のほうが、ずっと皇帝に相応しいのは確かなわけでさ。だがしかしもちろん、皇帝位は男子が優先だから、普通はあり得ないことだし、それに」

 ブルーノの口が急に重たく鈍る。

「それ以上に……」

 言わずもがなのことだと頭を振って、ブルーノはアイナ・デリ姫の身体の件に触れないまま、先へ進めた。

「だがそれでも噂がかまびすしいのは、クラーラ・デリの愛情もあきらかにアイナ・デリ姫へ厚く向けられているからなんでさ。面立ちも才覚も自分に似たアイナ・デリ姫が、打てば響く会話の手応えもあって大層可愛いんだろうとね」

「そのせいで苦労してるのはお嬢ちゃんかもなあ。ヴェル・サクルムは、政治に関わらずに生きていくということの意思表示で、隠れ蓑で、安らぎを得るための隠遁の場所でもあるんだろう」

 彼自身が権威主義の芸術協会に反旗を翻した異端児であるグストーは、政治のわずらわしさをよく知っているようだ。

(政治のわずらわしさ……)

 思い出してしまった憂さを晴らすように、次第にイシュトは地の麦酒にのめりこんでいく。

 その呑みっぷりに、グストーが図体に反して可愛げのある眼つきで茶々を入れた。

「書き留めなくていいのか?」

「ああ」

 卓上に伏せた書付綴りを指差され、イシュトはやや苦笑して答えた。

「この話はいいんだ」

 ふと、目端に映った雰囲気にイシュトは目を惹かれる。

 熱気高まる議論の端で頭を寄せ、興奮気味に何か打ち合わせのようなことをしている男たち。

――環状道路の下のあれを使えと言っていた。二十四番通りの時計屋の裏から入れる

――シーッ。声が大きいぞ

 リンクシュトラーセ。

 帝都を新生させた一巡りの道。

 帝国の衰退を防がんとして造られた、その道が、加速度を増して人々の運命を運んでいく。

 行き着く先を、誰が知るだろう。

 それを知るどころかイシュトには、少し前の酒の味を憶えていることすら困難なのだった。


         □


 アイナ・デリが庭に面した一階に居室を置き、明るくひらけた天窓の下を好むのには、理由がある。

 十年前、アイナ・デリが七歳のころ、宮殿で火災があった。皇帝が執務を取る場所――政治機能を集約させた宮殿左翼が全焼する大火事だった。自分の力では首と両腕しか動かすことのできないアイナ・デリは、他を置いて真っ先に飛び込んできた父に抱かれて難を逃れた。迫りくる炎や煙を間近にしたわけではないが、遠くから響く叫び声や、建物に伝わる地鳴りのような軋み、きな臭い匂い、周りを包む緊迫した空気、宮殿庭園から呆然と眺めた火の粉舞う宮殿の崩壊──そのなかで押しつぶされながら焼け焦げていたかもしれない自分を思うと、根源的な恐怖感が襲った。

 死、というものへの。

 どんな危険が迫っても、自分の足では逃げられない。

 考えただけで見えない黒煙に喉を潰されたように息ができなくなった。

 それまで与えられていた三階の広い間を出て、一階に空の見える居室を造らせたのは、取り残される恐怖を少しでも薄くするためだ。

「今では、大げさだと思わないでもないのよ」

 誰もいない寝室で、アイナ・デリは独りの夜を楽しむために星空を眺めた。

 もうすぐエイナが帰ってくる頃だ。

 楽しい記憶を携えて。

 この頃だんだんとエイナの帰りは遅くなっていた。

「帰りたくない。まだもっと、自由な手足で踊っていたい……」

 夕が暮れて深まっていくとき、エイナのなかのアイナはいつもそう思っている。

「戻りたくない。どこにもいけないあの寝台には、もう」

「……アイナ、ただいま」

 瞼をひらく。

 アイナの上に影を伸ばして立つエイナ。

 両腕を差しだし、アイナ・デリは鏡合わせの少女をその小さな胸に呼んだ。

「おかえり、エイナ」

 額と額をこつん、と合わせる。

「植物園に行ったのね。花はほとんど時季を終えていたわね。孔雀の羽がいちばん綺麗だった……」

 思い出し笑いにくすくすと息を漏らす。

「リッヒはくしゃみばかりしてたわね。花粉に弱いの、相変わらずだわ」

 つねづねハインリヒはアイナを植物園に連れていきたいと言っていた。アイナがエイナという身体を得て、ハインリヒの夢も叶えてやれるようになった。彼もきっと嬉しい。彼の負担にならずに彼を楽しませてあげられたのだ。やっと彼の愛情に報いることができた思いで、アイナはとても満足していた。

「お気に召していただけているようですわね。私の〈発掘〉したこの子を?」

 いつの間に、そこに座っていたのか、傍目にはわからないだろう。

 知的で艶やかな声の主は、神出鬼没だ。

 透明な空気に一瞬にして色をつけるように出現する、奇抜な技を身につけた、魔術師だ。本人曰く、発掘家だけれど。

 くゆらせる煙管から紫煙の輪っかを排出しながら、緋色の髪の美女が流し目をくれた。

「ええ、とっても」

「だんだんと使い慣れてきたのじゃありませんこと? 最初のうちは、身体の扱いも、記憶の統合も、おっかなびっくり、大混乱、といった感じでしたでしょう」

「ええ、あら、でも、すぐに慣れたわ」

 美人は長いまつげに縁取られた瞳を細めて笑んだ。

「発掘家さんは、発掘したものが上手く使われているとやっぱり嬉しいものなのかしら?」

 くたりと糸の切れているエイナの腕を、ぽんぽんと弄び、発掘家は気だるく答える。

「ぜんぜん興味がありませんわ。私の楽しみは宇宙の記憶の〈発掘〉と再現までの過程にあるんですの。掘り出したモノがあとにどうなろうと、知ったことではありませんわ。ただし、私は私の気に入った方にしか発掘物を託そうと思いませんけれど」

 発掘家を招き入れて宮殿に置いているのはアイナ・デリ姫であったが、発掘家にとっては、自らがアイナ・デリ姫の懐を居場所として選んだということになっている。

 さもあらん、とアイナ・デリはそれを納得して聞いていた。

「発掘家、私はあなたのお話が好きよ。宇宙は何度となく、改めて一からやりなされているのだというお話」

 星空に目を遊ばせてアイナはエイナの髪を撫でる。

「左様ですわ。宇宙は何度も終わって、また始まる。そのたび歴史は巻き戻されて、少しずつ前のそれとは形を変えながら、それでも似たり寄ったりの進歩をたどって繰り返す」

 紫煙の輪っかが、一つ、湧き立って生まれ、また一つ、生まれ。

 漂って、限界を迎え、次元を越えることなく消えていく。

「〈発掘〉に目覚めた者が掘り返すのは、今のこの一巡りではない、過去の宇宙の記憶。上塗られた絵のしたから別の絵が姿を表すように、それは埋もれているのですわ」

 発掘家の言うことが本当か嘘かは、博識なアイナにすらわからない。

 発掘家が目の前で一瞬にして現れたり消えたり、アイナのためにエイナを作り出してくれたりしなければ、ただの素敵な空想だとしか思わなかっただろう。

「誰しもおぼろげに埋没記憶を夢として視たりすることはあるかもしれませんわ。でも、私のようにはっきりとそれを掴める人間は、長いこの今の歴史のなかでも限られていましたのね。百年に一人、いいえ千年に一人というくらいかもしれなくってよ。けれど私は思いますの。発掘家がいつかの歴史から何かを掘り返すたびに、その歴史はいつかの歴史とは大きく過程を変えていくのではないかしら?」

 アイナのエイナも、現代の技術程度と比較したとき、今この時ここに本来あってはならないものだ。

 投石機の時代に大砲をぽんと置くようなもの。

 アイナは目を閉じる――。

 深く考えるような沈黙が横たわった。

「そのときも私はこの身体なのかしら」

 発掘家はひとすじに結い上げた緋色の髪を月影に揺らす。

「さあどうでしょう。そのやり直し世界では、もっと昔に医術に関する埋没記憶を見やすい発掘家が生まれて、姫様の生まれる年代の技術をがらりと変えてしまっているかもしれませんわよ」

 発掘家は、少し追従が過ぎたことに自ら鼻白んだよう。

 秀麗なかんばせを顰める表情すらも、飄々と演技じみていたけれど。



 しばらくうとうとしていたのだろうか。

 寝台から発掘家の気配はとうに消え、天窓の向こうに月はもういなかった。エイナの抜け殻は腹心の女官たちによって片付けられていた。

 夜更かしなアイナ・デリの周りには手の届く所にいつでも本が積み重なっている。読みさしの戦記に視線をやって、けれど、せっかく眠れていたのだから、もう一度目を閉じようか。ずっと枕に当たっている後頭部が痛い。アイナ・デリは精一杯、自分に出せる力を首筋に込め、枕に横顔を沈めた。

 風を感じた。それはおそらく、あわいの夢だろう。露台とつながる窓は閉められているし、宮殿に隙間風など入ってくるはずがない。そう、エイナが戻ってきたら、エイナを片付けたら、女官の誰かが戸締りを完璧にする。

 ふたたび、冷たい風が吹いた。

「……刃物で刺すのはいい方法じゃないわ。枕で窒息させるのがいいと思うわ。死ぬまで息を塞いで、あとから身体を床に落としておくのよ。枕に突っ伏すよう、うつ伏せにね。事故死ということにしたほうが、都合がいいでしょう」

 思わぬ言葉に侵入者が怯んだ。

「怖がることはないわ。どうせ私は動けないのだから。口しか動かないから口を動かしているだけよ。どうぞ安心して命令を遂行なさったらいいわ」

 暗殺者は唾を飲み込んで気合いを入れ直した。

 手近な椅子のクッションを手にし、息を殺してアイナ・デリに覆い被さる。視界が塞がれる瞬間、濃い髭を生やした男の顔が暗闇に浮かんだ。

「っ」

 恐怖しないわけがない。恐怖が生まれないわけがない。火事の夜よりもっと生々しく、悪意に満ちて死はアイナ・デリの目の前に押し付けられていた。鼻が潰れ、口がひしゃげた。枕に頭がめり込む。地獄の底の沼に沈められていくような、暴力的で、絶望的な、死。終わり。終わりまで、あと何秒かかるだろう。

 終わりの先の、自由まで。

「――ぐおっ」

 バコっという音がして、急に夜風が顔を冷たく撫でた。

 塞ぐものがなくなって、アイナ・デリの胸が大きく膨らむ。心臓が早鐘を打ちつづけた。

 ひら、ひら、と舞い落ちる紙。

 無数の頁。

「立ち去れ! 今すぐ去れ!」

 押し殺した鋭い声が、蹲る男へ命令する。

 殴られた頭を押さえる暗殺者のまわりに、書付綴りの頁がばらばらになって散らばっていた。殴った拍子に綴り紐がちぎれたのだ。暗殺者の片腕は捻りを加えて吊り上げられている。呻き声が低く床をはう。

 アイナ・デリは、暗殺者とのあいだに立ち塞がるその背中を仰いだ。

 イシュト。

「どういうことだ。衛兵は外で倒れていたけど、それもてっきり罠だと思うから様子を見ていたのに。だって君は、頭が良いんだろ?」

 侵入口から暗殺者がほうほうの体で出ていく。金で雇われた暗殺者――。

 険しい顔のイシュトがアイナ・デリを振り向いた。

「備えがないなら、どうして叫んで女官を呼ばないんだ……?!」

 アイナ・デリはそのままじっとイシュトを眺めていた。

 傍観者の面持ちで。

「……アイナ・デリ姫?」

「あなたこそ、何故ここに入ってきているの?」

「それは……」

 イシュトの表情が曖昧に曇った。

「門が閉まった後も庭に隠れていたの? 犬を放すから、隠れるのも容易なことではないはずなのだけれど。いいわ、何のために?」

「それは……」

 ますます口ごもって、青年はあさってに目をそらす。

「人探しのためで」

「人を探しているの? それで宮殿をうろうろしていたわけ? 探している人は双翼宮にいるの?」

 イシュトが暗闇に向かって頷いた。

「そうらしい、そう聞いた」

 彼はうつむいて、声の調子を正す。

「姫殿下の御寝室に勝手に上がったことはお詫びします。カーテンが揺れていたんだ。だから不審に思って……、だから、でもどうして」

 なぜ暴漢に襲われるがままになっていたのか、と、イシュトはふたたび振り向いた目で厳しく問うていた。

「あんなふうに暗殺のやり方を誘導してまで……」

「べつに殺されてもかまわないな、と思ったからだわ」

 虚をつかれた顔でイシュトが静止した。

「べつに、今この晩に殺されたって、惜しいことないって思っているからだわ」

「本気で言っているのか?」

「本気で殺されかけていたでしょう?」

「殺されかけて、死にたくないって思わなかったか?」

 イシュトの声がかすれていた。

「苦しいのはいやだったけれど、それは一時の……身体の悲鳴よ。だけど私の中には身体の声だけがあるんじゃないわ。心の声もある。心の声は今でも、べつに殺されたってどうでもかまわないと言っているわ」

「つらい思いをする人がいるよ」

 からい辛子の種を噛んだような顔になるイシュトを、アイナ・デリは無感情に見つめていた。

 アイナだってそれがわからないわけではない。

 けれどアイナの心の声は、もうずいぶん前から、誰かの心の声との対話を拒んでいる。

「そうね。でも、私はどうせ、あの人たちに報いることができない身体なんですもの」

 アイナ・デリはだんだんイシュトを眺めているのがつらくなってきた。だんだん、なんとなく。淡々と彼を見上げる視線が少しずつ、彼の真摯な瞳に押し返されてくるのだ。無機物を見るように青年を静かに眺めてはいられなくなってきた。それが不思議で、なおのこと。

「誰にも報いることができない身体の持ち主は生きてちゃいけない? へえ、君がつくる国はそういう国なのか。だったら、みんな君を買いかぶりすぎだ」

 イシュトは身を翻して散らばった紙を拾い集めはじめる。

「よく似た姉と弟なんだな。二人とも、揃って最低の差別主義者だ」

 それもわかっていたからアイナ・デリは何も感じない。

 寝台の上で過ごす一日には、ありとあらゆることを考える時間がある。自己反省も、自己肯定も、自己否定も、それらへの反論も非難も自嘲も、ぜんぶアイナ・デリはもうやりつくした。やりつくした上で、もう消えてしまいたいと思っているのだ。

「さっきの暗殺者は?」

 ぴらりぴらりと、記憶の断片を拾い集める音がする。

 絹の掛け物に落ちている頁をアイナ・デリは指につまんだ。

 明かりのない暗闇で、書いた本人にしか解読できない法則で書き連ねられた文字が、読めたり読めなかったり。

「ソビーが寄越したのよ。──ねえ、あなたの正体も、まだ充分の証拠が揃わないわね。外交官が扱うようなことが書き付けてあるけど、あなたみたいな記憶に障りのある人を外交官にはしないでしょうし」

「エステルライヒ帝国はクラーラ・デリの代で終わりだな。──勝手に見るなよ」

 イシュトは腰を伸ばしてアイナ・デリの手から頁をひったくった。

 アイナ・デリは悪びれもせず枕の上で首をわずかに転がす。

「帝国が終わるからって、あなたが困ることなの?」


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