表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

夢の夢の夢

作者: 笹森 照央

過去ブログ掲載歴あり

 日が暮れてどのくらい経ったろうか。

 そこは空爆後の廃墟のようだった。完膚なきまでに破壊し尽くされた建物は、砂に埋もれた遺跡にも見える。足元に注意しながら先に進む。ふと前を見ると赤い光がチラチラと輝いている。誰かが火を焚いているのだろうか。


--ああ、どうか人がいますように……。


 僕は祈りながら光に向かって歩いていった。

 苦労して残骸を乗り越え、目前までたどり着くと、少し警戒しながら壁の向こうから洩れる光を覗き込んだ。

 人だ。生きている人だ。

 僕は息を呑んだ。光はやはり焚き火だった。周りには5、6人の男が火を囲んで座り込んでいた。皆、毛布のようなものを頭から被っている。

 どうしよう、やっと見つけた人たちだけど、近づいても平気だろうか。

 身じろぎすると、足元の小石がカラカラと音を立てて落下した。それに気づいた一人が、顔を上げて僕の方を見た。顔立ちはわからなかったけれど、若い男だった。

 彼は僕の姿を見止めると、ゆっくりと手招きをした。

 大丈夫だ、きっと悪い人たちじゃない。

 僕は決心して彼らに近づいていった。

「よく無事だったな」

 別の一人が声をかけてきた。

 僕はぎこちなく頷くのがやっとだった。

 見知らぬ存在にこれほど安堵したことはなかった。もうくたくたで何も出来ない。考えることさえ億劫なほど、自分は疲れていたのだとぼんやり思った。

 ちらっと横を見ると、彼の足元に古びたギターが置いてある。

 僕の視線に気づいた彼が皮肉な口調で言った。

「残ったのはこれだけだ」

「そう」

 特にどうとは思わない。皆似たり寄ったりだからだ。

「歌える?」

「ああ」

 彼を見上げると、どこかで見たことがある顔だった。

 そうだ、彼はたしか歌を生業にしている人じゃなかっただろうか。こんなことがないかぎり、言葉を交わすことさえ考えられないくらい彼は有名な歌手だった。

 僕は小さく笑った。

 こんな事態に陥ったのも悪夢のようだけど、こんな人と普通に出会って話しをするのも夢みたいだ。

「歌ってくれる?」

 無意識に言った言葉に自分で驚いた。大胆で突拍子のないことを言ってしまった。

 彼は一瞬、目を見開いて小さく苦笑すると、静かにギターに手を伸ばした。

オチなし

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ