第5話「三人の誓い」
朝日が森を黄金に染める。夜の戦いの名残を残しつつも、俺たちの小屋の前には新しい空気が流れていた。
昨夜の魔獣との戦いを共にした青年――アレンが、今は川辺で甲冑を洗っている。陽光に濡れた鎧が鈍く光り、彼の逞しい背中を際立たせていた。
「……やっぱり強い人なんですね」
エリナが俺の横で呟いた。両手には森から摘んできた野草があり、小さな籠に山盛りにしている。
「ああ。剣筋が違う。あの一撃がなかったら、俺も根で押し切れなかった」
俺の声は自然と柔らかくなった。昨日までの俺たちは二人きりで、頼れるものは互いの存在だけだった。だが今は違う。力強い仲間が加わったことで、この小さな拠点が確かな「居場所」になりつつあるのを感じていた。
「ふぅ……」
鎧を洗い終えたアレンが、こちらへ戻ってきた。
「改めて、世話になる。俺は一人で旅を続けるつもりだったが……正直、もう限界だったんだ」
「アレンさん……」
彼の言葉に、俺は頷いた。
「なら、ここで一緒にやろう。俺たちは追放されたり、居場所をなくした者ばかりだ。でも、だからこそ――新しい居場所を作れる」
「新しい……居場所」
エリナが小さく繰り返す。頬に朝の光が射し、その横顔は希望を映しているようだった。
アレンは少し笑い、真剣な表情で手を差し出した。
「なら約束だ。互いを裏切らず、この拠点を守り抜く」
俺もその手を握り返す。
「もちろんだ」
エリナも両手を重ねた。
「私も……ずっと、ここに居たいです」
三人の手が重なった瞬間、小屋の前に吹いた風が心地よく頬を撫でた。俺たちは確かに「仲間」になったのだ。
昼になると、三人で畑づくりを始めた。
俺が《創耕》で大地を耕すと、土がふわりと膨らみ、肥沃な黒土が顔を出す。エリナは丁寧にそこへ草の根や種を植え、アレンは森から持ち帰った木材で畑の周囲に簡易の柵を組んでいく。
「おお、なかなか様になってきたじゃないか」
「すごいです……! 昨日まで荒れ地だったのに」
額に汗を光らせながら、俺たちは顔を見合わせて笑った。
その光景は、戦場にいた頃の俺には想像もできないものだった。剣と血にまみれる日々ではなく、誰かと力を合わせて命を育む時間。胸がじんわりと温かくなる。
夕暮れ。小屋の前で焚き火を囲む。
煮込んだ野草スープに、アレンが狩ってきた小動物の肉を加えると、香ばしい匂いが広がった。
「やっぱり肉があると全然違うな!」
「ふふっ、リオさん、子供みたいですよ」
「いや、本気で感動してるんだって」
笑い声が弾ける。追放された時には考えられなかった温かい時間だった。
だが――。
「……そういえば」
アレンがふと表情を引き締めた。
「この森に魔獣が出るのは異常だ。瘴気の影響だとすれば、ただ事じゃない」
「……異常、か」
思わず胸がざわめいた。勇者パーティにいた頃、魔王軍の勢力圏で瘴気の被害が広がっていると耳にしたことがある。もしそれがここまで及んでいるなら――。
「それに……」
アレンは焚き火を見つめながら続けた。
「勇者一行が、この森の近くに現れたって噂を聞いた」
心臓が跳ねた。勇者一行――つまり、俺を追放した連中。
「どうして……こんな所に」
「わからない。ただ、魔獣の異変と関係があるのかもしれない」
胸の奥に冷たい影が広がる。せっかく得た新しい居場所。だがそれを壊そうとする影が近づいているのかもしれない。
「リオさん……」
エリナが不安げに見上げてくる。
俺は力強く答えた。
「大丈夫だ。何があっても、俺はここを守る」
アレンも頷いた。
「そうだな。ここは俺たちの居場所だ。絶対に守り抜く」
エリナが小さく笑みを浮かべる。その顔を見て、俺は決意を固めた。
――もう二度と奪わせはしない。追放されたからこそ掴んだ居場所を、必ず守り抜く。
夜空に瞬く星々は、まるでその誓いを見守るように輝いていた。




