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青い少女達の藻掻く先  作者: 小屋隅 南斎


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第7話

 真剣な顔を見上げ、碧は眉を寄せた。

「力?」

「三丁目のアーケード、わかるか?」

 突然の単語に戸惑いつつ、碧は小さく頷いた。

「もう一件も入っている店のない、古い商店街だろ? どっかの小規模組織が占有していて、誰も寄り付かない溜まり場になってるって話は有名だ。廃屋は破壊されつくして、至るところに武器が転がっているらしい。誰も来ないから無法地帯で、ボコされるのに使われてはその死体が放置されたまま、なんて噂もきくな……」

「そのアーケードを占有しているのは『ACDA』っていう小規模組織なんだ。素行の悪い連中の集まりで、普段から好き放題しているらしいんだが……そいつらに妹が捕まって連れてかれたって奴が、あたしに泣きついてきてな。以前あたしに喧嘩を挑んできた一人なんだけど、仲間達の弱さじゃ太刀打ちできないってんであたしを頼ってきたらしい。そいつの妹は、十中八九そのアーケードに連れてかれたはずだ。救出するためには、そこに屯しているその小規模組織の奴らごとぶっ潰すことになるだろう。泣きついてきた奴も一緒に来るし、そいつもそこそこ動ける奴ではあるんだが……何せ組織を敵に回すのは初めてだから、流石に心許なくてな。わりかし戦える人手が欲しかった。んで、お前の顔が真っ先に浮かんだ」

 水面は無遠慮に碧の顔を指差した。いくらか呼吸が整った碧は、疑い深い目を向けた。

「……それ、騙されてないか? あんたに以前負けた報復がしたくて、アーケードに誘き寄せているようにしかきこえないぞ」

「あたし、人を見る目には結構自信があるんだ。あいつは演技ではなく、本気で困っているようだった。だからあたしはあいつを助けたいと思ってる。……万が一罠だったとしても、妹が無事だったんならそれでいい。後で倍返しにするだけだしな」

 曇りない目。真っ直ぐな瞳は彼女の心を映しているようで、碧は視線を逸らした。

「……それに、私を頼る意味がわからない。私はそんなに強くない」

「お前は強いよ? 身体も鍛えているし、動きも申し分ない。……というより、あたしが頼れる顔ぶれがそもそもあまりいないんだよ。学校の奴らってほとんどあたしを好意的に見ていないし、友達には腕っぷしの立つ奴はいないし。お前はあたしに敵意のない知り合いの中では、一番動けるんだ」

 ……正直、かなり意外だ。彼女の友達も戦闘狂ばかりなのかと思っていた。ただ、考えてみれば学校であれだけ噂になって生意気だと敵視されていたら、人が寄り付くわけがない。一匹狼のようになるのは当然である。最強も大変だな、と碧は他人事の様に心の中でごちた。

「どうだ。……手を貸してくれないか?」

 水面は表情を引き締め、窺うようにじっと碧を見つめた。その真面目な声色は、真摯に頼もうとする誠意が籠められていた。碧は慣れない状況に一呼吸置くように、頬の横の毛先をフープピアスのついた耳へと掛けた。

「……助けてもらった手前、断るわけにはいかないだろ」

 水面へと視線をあげる。その目に、覚悟を宿して。

「ただし、戦力になるかはわからないぞ」

「そうこなくっちゃな。頼りにしてるぜ」

 水面は快活な笑みを浮かべて、満足そうにそう言った。それから一度、川の方へと顔を向けた。空は段々とその青の色を変えようとしていた。

「お前が動けるようになったら、早速出発しよう」

「……もう平気だ。行こう」

 碧はよろめきながらも、気丈に立ち上がった。まだ違和感は残るが、日々殴られ過ぎて自分の身体がどれくらいで回復するのかは把握済みだ。それにもし妹が連れ去られたという話が本当だったとしたら、なるべく急いで向かった方がいい。組織の者達は、どこも人を殺すことに躊躇いがない。

「……よし」

 水面も続いて立ち上がった。そしてパックリと袖の開いた碧の腕を取ると、自身の肩へと回した。伸びたままの『角玄会』の女を残し、二人はそのまま河川敷を後にした。水面に支えられた碧は、アーケードを目指して横の少女と共に足を動かした。ふと隣を見れば、すぐ近くにある顔は真っ直ぐと前を向いていた。その瞳には恐怖も不安も微塵もなく、ただただ燃えるような情熱が宿っていたのだった。




 結果として、たった三人の生徒達は一つの組織を壊滅させた。アーケード一帯は結構な広さで、そこは全て『ACDA』がアジト代わりに占有している状態だった。様相は噂通りで、並ぶ廃屋は荒れ果て、武器は無造作に転がり、殴打痕の痛々しくついた死体がいくつも奥に放置されていた。煙草の吸殻やアルコール飲料の缶、薬の吸入器。落ちているゴミの数々から、組織の者の素行の悪さが伝わるようだった。アーケードにいる『ACDA』のメンバーは、全員で二十人程だった。恐らく組織に属するほぼ全員がその場にいたのだろう。セーラー服のまま乗り込んだ三人の生徒達は、それらを一人残らず叩きのめし、立ち上がれない程ボコボコにした。……正確には、水面がほぼ一人で全員を相手にして、圧勝していた。素行の伝わる派手な見た目、年も何歳も上、体格的にも向こうに軍配の上がるような組織の者達を、水面は物怖じすることなくまるでボーリングのピンのように次々と倒していった。一方で妹を捕らえていた者達に対しては姉が力戦奮闘し、妹を無事に救出することに成功した。その時の姉の気迫は凄まじく、水面が引き受けた者以外を片付けたのは彼女だった。……つまり、碧は出る幕がほとんどなかった。数人を引き付けて、拾った武器を投げて渡して、撃たれそうになっているのを見つけて教えて……始終アシストに徹するだけで終わっていた。

 アーケードには『ACDA』のリーダーもいたが、水面に完膚なきまでに痛めつけられていた。メンバーの身や金、土地を差し出す代わりに自分だけは見逃して欲しいと無様に連呼して命乞いをする体たらくだった。水面は勿論命を奪うようなことはせず、全員を見逃す代わりにアーケードからの撤退を要求した。そしてもう二度と妹に手を出さないように誓わせた。『ACDA』が真面目に順守するつもりがあったのかは怪しいが、水面の化け物級の強さの前では全員ひれ伏すしかないようだった。彼女達は逃げるようにしてアーケードから去っていった。骨が折れていそうな者も大勢いたが、彼女達は這うようにしたり仲間に引っ付いたりしてなんとか撤退していった。彼女達の面目は丸潰れである、直にこの情報も広まり、組織として活動していくのはかなり難しくなるだろう。そうしてだだっ広いアーケードには、三人のセーラー服の少女達と救出された少女だけが残ったのだった。




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