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青い少女達の藻掻く先  作者: 小屋隅 南斎


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第44話

「……折山の娘……」

 男はサングラスの奥から碧を捉え、銃口を碧へと向けた。しかし今の『角玄会』に、学生は殺せないはずだ。それでも碧の胸へ向けて、真っ直ぐと黒光りする円が覗いていた。

「お前を最大限利用するため、生かしておいてやったのにな。あまりにも恩知らずだとは思わないか?」

 自分勝手な理論を並べ、男は小さく肩を竦めた。

「お前に部下達の鬱憤を発散させる以外の使い道を見出したのは、優秀な幹部候補の一人だった。海老で鯛を釣るって話だったが、釣る相手は想像以上の化け物だった。『隠地組』制圧に必須の人材だ、釣れた暁には計画した奴は幹部の席に座るのが当然だろう。お前の働きが、そいつの価値を決めることになった。……だから注視していたんだがな。お前は使えないどころか、殺さないでいた恩義も忘れて反抗してきやがった」

 銃口の向かう先が素早く移動した。その先は水面の仲間と交戦中の『角玄会』の一人、レザージャケットを羽織る背中だった。そして、引き金が躊躇いなく引かれる。乾いた銃声のあと、『角玄会』の少女は血を吹き出し、その場に崩れるように倒れた。彼女の攻撃を避けようとしていた学生の少女が、真っ赤な血を浴びて茫然と立ち尽くす。男は顔色一つ変えずに、硝煙の昇る銃を碧へと戻した。……どうやら今殺した『角玄会』の部下が、件の『幹部候補』の者だったらしい。

「とんだ使えないクズだったな」

 男は碧へ冷めた目を向け、鼻を鳴らした。その言葉は碧へ向けたものなのか、今しがた処分した部下へ向けたものなのか。あるいは、双方へ向けた言葉だったのかもしれない。

「使えないクズはあんたでしょ! なんで大事な仲間を殺すわけ!?」

 愛湖が吠え、噛み付く勢いで食って掛かる。

「『角玄会』の子達は皆、あんたに尽くしてくれてるのに! こんな好き放題出来たのも、皆があんたについてきてくれたお陰でしょ? なのにこんなあっさり殺しちゃうなんてひどすぎ! サイテー! 信じらんない!」

 愛湖は怒りのまま喚き散らし、頬を大きく膨らませた。

「人の命をなんだと思ってんのよ!」

「……資源だ。金を生み出す資源。使えないのを切るのは当然だ」

 引き金に掛かった太い指が、僅かに動いた。……大丈夫。『角玄会』は学生を殺せない。……はずだ。男は遠い目をして、独り言のように語り始めた。

「『隠地組』は、俺らとは全く違う形で資源を活用するのが上手い組織だった。上手く資源達を飼い慣らし、適量以上に飴を与え、利益を生み出す環境を維持するのに長けていた。そしてその範囲を徐々に拡大させていき、大きな敵を作らず衝突を避けるのにも長けていた。俺らは奴らの懐に入り、勢力を拡大しきった所で首座を奪う予定だった。『隠地組』が辺りを一掃して勢力を拡大すればするほど、俺らが天辺を奪った時に支配下になる資源も増える。俺らは『隠地組』が大きくなっていくのを助け、信頼を積み重ねていった。その傘下に入りさえすれば、トップが約束されているようなものだった。『隠地組』の弱みはわかっている、あとは武力を整えて時を待つだけだった」

 男は視線を碧へと向け、憎しみを込めて睨み付けた。

「それを、お前が全てひっくり返した。……こんなに無能な奴だったとはな」

「……それ、あんたの思い通りにならない奴を『無能』って言ってるだけじゃん!」

 愛湖は相変わらず相手の威圧も銃口も見えていないかのように、いつもと変わらず盛んに吠えた。彼女は感情に忠実で、何より真っ直ぐだ。碧一人では男の言葉に心が乱されていたかもしれないが、愛湖なら当たり前だと言わんばかりに否定し、怒りの言葉を口にする。……今の碧にとって、それが何よりも救われた。

「アオイはお母さんや皆のためにあんたたちに立ち向かった、超信頼できる仲間なんだから! 酷く言う事、禁止なんだからね!」

 愛湖はそう叫ぶと同時に、足を踏み出した。男へと距離を詰めて迫ろうとする。愛湖はあの水面すら凌駕する程の腕力の持ち主だ。彼女はその力で、男を殴り倒そうとしたようだった。男はイライラとした様子を隠そうともしていなかったが、しかし冷静さは失っていないようだった。銃の先が、碧を逸れて横へと移動する。狙うは、愛湖の胸部だ。

「……! アコ!」

 碧は身を乗り出した愛湖へと手を伸ばし、自分の方へと我武者羅に引っ張った。耳を劈くような銃声が鳴る。力の限り引いた手は、愛湖の身体を引き寄せた。遅れて後方から音が聞こえてきた。着弾した音だろう。……愛湖には当たらなかったようだ。

「……っ、びっくりした~」

 愛湖は顔を青くして、自身の身体を見下ろした。それから怒りに染まった顔をあげると、目の前の男へと叫び出す。

「状況わかってる!? アコのこと殺したら、財団と『隠地組』に潰されちゃうんだよ!」

「……構わん。一人くらい殺したところで、馬鹿が突っ込んできたと言えばいい」

 男は吐き捨てるように言い、硝煙の昇る銃口を再び愛湖の頭へと向けた。流石の愛湖も息を呑み、勢いを消した。碧は愛湖を守るように一歩出て、腕を愛湖の前へと伸ばした。

「アコは死ぬとわかっていて突っ込むような奴じゃないよ。私を始めとして、ここにいる皆が証言する。あんたの嘘はすぐにバレる」

 碧は周りを見渡した。あちらこちらで『角玄会』のメンバーと水面の仲間が交戦している。こちらは数は圧倒的に不利だが、腕の立つ者ばかりが揃っている。誰一人倒れることなく、『角玄会』のメンバー達と渡り合っていた。対して『角玄会』の者達は、怪我を負わせることは出来るが殺すことは出来ない。普段すぐに銃を取り出している分、このような戦い方に慣れていないように見受けられた。無限に思われる『角玄会』の組織員達は、段々と地に伏してその数の終わりが見えてきている。

「……もう諦めなよ。財力で顔が利く財団と他組織に影響力の強い『隠地組』に敵に回られたら終わりだ。大人しく今までの所業を認めた方がいい。そして臓器売買のために捕らえた人達を帰して、各所に監禁している人達を解放して、薬の販売や人身売買を止めて——『角玄会』を解散させるんだ。武力だけならまだ対抗する余地はあるだろ、後は行方をくらませれば命だけは助かるはずだ」

 碧の諭すような言葉に対し、男は思い切り眉を顰めた。

「……何を言っているんだ?」

 燻っていた硝煙は消え始めていて、遮るもののない視界では男の顔が良く見えた。サングラス越しに鋭く睨む目は、悲観の色が全くなかった。

「お前は状況を見誤っている。そもそも急にガキの味方をし出した財団も、大人しく財団の圧力に屈した『隠地組』も、どうも様子がおかしい。普段の傾向と違い過ぎる、何か絡繰りがあるに違いない。俺らがすることは今回の二組織の行動の裏を探り、それを使って買収することだ。金を作って時を待ち、財団と『隠地組』が一番バラされたくないタイミングで今回の真相と金を叩きつける。損得くらい計算できない奴らじゃあないだろ」

 ……この期に及んで、まだそんなことを言うのか。碧は心の底から呆れ果てた。

「お前らの死体さえ出なければ、財団は俺らが要求に背いたとは断言出来ねえ。暫く飼った後に臓器を売るでもいい、どっかの金持ちに身体ごと買わせるでもいい。……財団と『隠地組』を買い上げるには高くつくだろうからな。お前らできっちり落とし前を付けてもらわねえと」

 嘲笑交じりに話す男の前で、碧は拳を握り締めた。

(……コイツには、何を言っても無駄だ)

 碧の母親のことだって、資源の一つとしか見ていなかったのだろう。碧や水面、愛湖達に対しても同じだ。命を金を得るためのただの道具だと思っている。碧にとってこれ以上ない程大切な人々は、この男の前では金の卵を産む鶏にしか見えていないのだ。

 碧は男を真正面から睨みつけた。震える拳を、きつく結ぶ。

(『角玄会』は……滅びるべきだ)

 大切な人達を守りたいのなら。目の前の男を、刺し違えてでも倒すべきだ。彼の考えが変わることは、恐らくこの先も永遠にない。誰かを犠牲にし続け、金を作り続ける。

 今の碧の手には武器はない。相手の手には、拳銃が握られている。……それでも。

 碧が覚悟を持って、男に近づこうと一歩を踏み出す——その時だった。

「アオイッ!」

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