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青い少女達の藻掻く先  作者: 小屋隅 南斎


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第41話

(……ん?)

 碧は顔を強張らせた。なんだか誤解をされている気がする。それも、かなり致命的な。

「お前のことはずっと監視していたつもりだったんだがな」

(あれ、こいつら……桜卯姫月を知らないのか?)

 監視をしていたのなら、姫月に接触したところも見られていたはずだ。彼女は学校では財団のお嬢様として超がつく程の有名人だが、ひとたび学校の外に出ればあまり名は知られていないのかもしれない。

「ちょ、ちょっと待て。私は財団には関係ない。写真を送れるような隙もなかっただろ」

 厄介なことになりそうな匂いを嗅ぎ付け、碧は男に訊かれる前に先立って否定した。こちらの言い分を素直に聞くとも思えないが、誤解をそのままにするのもまずい。

「あんたら、たぶん今も財団に監視されてるぞ。私に構っている暇はないんじゃないのか」

「それはお前を殺した後で考えればいい」

 男はそう言うと、碧を捕らえている部下へと視線を投げた。訊くまでもない、殺せという合図だろう。男の後ろで指示を仰いで待っていた少女が、堪らずといった様子で口を開いた。

「ボス。い……いいんですか。財団の要求に背く形になりますが」

 『これ以上一般人に手を出すような行為を続ける場合、武器や食糧の確保は難しくなるだろう』。財団からの電報には、そう記載があったと報告されていた。財団は金銭的な圧力に長けている組織であり、要は『学生に手を出せば武器や食糧の提供を止める』と脅しを掛けているということになる。

「適当に良い訳を考えとけ」

「しかし、こいつが財団と繋がっている者ではなかった場合……こいつを殺すところも目撃されることになります。証拠を撮られていたら厄介なことに……」

「……」

 男は眉根を寄せた。『角玄会』の敵は今や元々の敵対勢力に加え、『隠地組』、そして財団とあまりにも多くなってしまった。その分行動を制限される要素も膨れ上がり、考えなければならないことが山の様に増えたようだった。

「……チッ。『隠地組』さえ裏切らなきゃ、こんなことには……」

 男は舌打ちを零し、憎々し気にそう吐き捨てた。『隠地組』はこの国でも有数の大きな勢力である、傘下の行動を揉み消したり、財団に圧を掛けることなど造作も無いのだろう。しかし今となっては『隠地組』の力を借りることは出来ない。

「財団はなぜこのタイミングで圧力を掛けてきたんだ? 『隠地組』もやけにあっさり手を切りやがって……ん?」

 碧の背後、門の方からバタバタと足音がきこえてきた。男や『角玄会』のメンバーの反応からして、『角玄会』の増援ではないらしい。全員警戒心を露にして、碧の背後を睨みつけていた。碧は銃を突き付けられがっしりと捕らわれているため、振り返って足音の正体を確認することは叶わなかった。足音はどんどんと大きくなっていった。段々と近づいてきている。そして、碧の背後で足音は止んだ。

「んもう、水臭いじゃない! なんで教えてくれなかったの!」

 場違い感のある、不満気な声が響いた。よく通る高い声は、碧の聞き覚えのある声だった。

「——アコ!?」

 碧は背後を見る事が出来ないながらも、声の主を確信した。アーケードで毎日のようにきいていたのだ、聞き違えるわけがない。碧の視界内では男も『角玄会』のメンバー達も新たに登場した人物像に意表を突かれたような顔をしていた。複数の足音だったということは、愛湖以外にもアーケードで集うようになったメンバー達が皆揃っているのだろう。

「アオイ? なんでアコ達も誘ってくれなかったのよ!」

 ぷんぷんとしているのが声の調子から伝わった。愛湖からは碧の姿は『角玄会』の者の背中で隠れていて、拳銃を突き付けられているのが見えていないのだろう。声を頼りに愛湖はきょろきょろと碧の姿を探し始めたようで、声が僅かに左右に振れた。

「アオイの危機ならアコ達だって一緒に——、……え?」

 愛湖の言葉は途中で途切れ、その先が続けられることはなかった。それから僅かに間を置いた後、愛湖は焦りを滲ませて、震えた声を放った。

「ミ……ミナモ? 大丈夫……?」

 倒れている水面に気付いたのだろう。不安気な問いかけに、水面からの返事はなかった。

「……お仲間か」

 舌打ちと共に、男の小さい呟きが聞こえてきた。今の『角玄会』は財団から学生に手を出すなと通達を受けている状態だ。本来ならば乗り込んできた時点で銃をぶっ放しているのだろうが、いつ証拠の写真を撮られるか分からない今、迂闊に殺すことが出来ないでいるようだった。

「……許せない……」

 後ろから小さな声が聞こえてきた。震えているのは怖さや不安からではなく、怒りからだ。

「許せない! ミナモとアオイに何してくれてんの!」

 愛湖の語気の強い叫び声が、広い敷地内に木霊した。

「皆! こいつらコテンパンにするよ! ミナモがやられた分、きっちりやり返してやるんだから!」

 愛湖の憤慨するような叫びに、複数の雄叫びが続いた。そして数多の足音が鳴り響く。どうやら愛湖達が突撃し始めたようだった。

「動くな」

 男は銃口を、横たわる水面の胸部へと向けた。意気揚々と突撃しようとしていた足音が、ピタリと止む。同時に愛湖に続こうとした仲間達が、碧に銃口が当てられていることに気が付いたようだった。碧の視界に、毛先の逆立つツーサイドアップの白い頭が映り込んだ。彼女は碧へ僅かに振り向くと、心配そうに眉尻を下げた。

「ガキ共が遊びに来るところじゃねえ。こいつらの命が惜しければ出て行け」

 男はドスの効いた低い声で威圧した。辺りは一気に静まり返る。捕らえられたままの碧は、『角玄会』の者達を順に見渡した。……今、『角玄会』は難しい選択を迫られているはずだ。いつも通りに銃で撃ち抜いて終わり、とはいかなくなった。この場にいる学生達を殺すならば財団と敵対することを決断しなければいけないし、逆に言えば財団と関係を保つのならば少女達を見逃さなければいけなくなる。学生達に襲撃されてむざむざと見逃すなど、組織としてメンツが潰れるどころの話ではないだろう。組織にとって耐えがたい屈辱であろうが、だからといって財団と敵対するのも相当なリスクがあることは理解しているはずだ。財団は武力はゼロに等しいが、有り余る財力で様々な組織に顔が利く。影響力で言えば、この国で一、二を争うと言っても過言ではない。抗争には武器や食糧が必須である、『角玄会』といえど財団の影響力を無視することは出来ない。『隠地組』と手が切れた今、これ以上戦力に影響が出ることは避けたいはずだ。

「ガキ? 遊びに来た? そんなわけないじゃない……!」

 愛湖が、噛み付かんばかりに唸る。

「アコ達は仲間と一緒に戦いに来たんだよ! ——仲間を助けるのに、学生とか組織とか、そんなの関係ないんだから!」

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