表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青い少女達の藻掻く先  作者: 小屋隅 南斎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/58

第34話

 アコーディオン門扉は開け放たれており、その前には二人の門衛が立っていた。二人ともレザージャケットを着ていることからして、『角玄会』のメンバーであることが窺えた。拳銃の携帯も確認出来る。うっかりアジトに近づいた者が誰しも逃げ出すような人相の悪さは、門衛の人選としては最適だろう。首元にはティーシャツからはみ出た刺青が見えていた。二人は遠目ながら近づいてくる学生達に気が付くと、睨むように視線を投げた。それでも碧達は足を止める事なく、怯まずに駆け抜けていく。門衛の手が拳銃に伸ばされたのに先んじて、碧は走りながら密かに閃光手榴弾のピンを抜き、門目掛けて投げつけた。二人の立つ奥、なるべく直接当たらない場所を狙う。そして、顔を伏せて耳を塞いだ。口を開き、思い切り目を瞑る。

 心の中で数を数えたあと、碧はそろりと目を開いた。顔をあげた先には、『角玄会』の門衛を羽交い絞めにしている水面の姿があった。碧よりも先に、既に行動を起こしていたらしい。腕の中の相手が気を失っていることを確認すると、水面は地面に倒れている仲間の横へ雑に寝かせた。仲良く並べられた二つの身体。二人とも閃光手榴弾によって見当識失調に陥っている数秒の間に、水面が技をかけて意識を落としたのだろう。閃光手榴弾が爆発したあとすぐに行動出来る瞬発力、隙を逃さない用心深さ、そして閃光手榴弾を使用していたとはいえ、戦い慣れした相手まですぐに距離を詰め先手を取れる身体能力。ここでも水面は相変わらず強さを発揮していた。

 とりあえず門衛は無事に無傷で対処したが、水面も碧も気を引き締めたまま、警戒するように辺りへ視線を投げていた。これだけの音と光が発生すれば、建物の中にいた『角玄会』のメンバー達も当然敵襲に気が付いただろう。その証拠に、すぐに扉を開ける音や足音、武器を打ち付けるような金属音が聞こえてきた。それも一つや二つではない。あっという間に門の奥にはレザージャケットの人間が囲うように蝟集していた。見える範囲で三、四十人程度だろうか。手には銃やバット、ナイフや刀、鉄棒などを持って各々武装している。どの顔も血に飢えているように好戦的で、驚く様子も怯える様子もない。方方と揉めている組織のため、このような事態にも慣れたものなのだろう。

 銃を手にした『角玄会』の少女が、真っ直ぐとこちらへ銃口を突き付け、問答無用で引き金を引こうとしていた。襲撃者にはいつもこのように対応しているのだろう。しかし完全に引かれる前に、「待て」と仲間の中から声が掛かった。引き金から指を離し、銃を手にした少女は不満気に声の方へと顔を向けた。その先、『角玄会』の群集の中から一歩前に進み出た少女は、やはり他同様にレザージャケットを着用していた。

「アオイ。……何か用?」

 碧の見たことのある顔だった。昨日、『お願い』をしてきた人物だ。高圧的な態度は変わっていない。

「……」

 碧は目の前の小賢しそうに歪んだ顔を前にして、一度口を閉じた。彼女は、碧が水面を連れてきたと思っている。約束通りに水面の身柄を引き渡すと見越して、殺すのを止めさせたのだろう。碧を目の前で殺された水面が『角玄会』に入るのを拒絶し暴れてしまっては元も子もないと判断したらしい。横の水面は口を出さなかったが、碧をじっと見守っている気配が伝わってきた。『角玄会』の集った面々、そして水面の視線を一身に浴びながら、碧は重い口を開き、小さく息を吸った。

「そんなわけないだろ」

 澄み渡る青空の下、はっきりと言葉を響かせる。無感情に——しかしその眼差しの冷たさと、その奥に宿る炎は隠し切れていなかった。

「あんたらに用なんてねえよ」

 吐き出された言葉を耳にした瞬間、目の前の顔が怒りに染まった。碧に協力する気がないことを理解したらしい。口紅を塗りたくった唇が、裂けかねない程大きく開かれた。

「役に立たないゴミ以下の無能が。予定を早めるぞ、こいつは殺していい!」

 その言葉を合図に、一度下げられた銃が再び碧へと構えられた。一挺、二挺、三挺……先程よりも多くなった銃口が、碧に向けて黒い円を覗かせていた。碧はそれらへ臆することなく対峙した。同時に碧の視界の隅で、飛び出るように影が動いた。

 発砲音は一回だけで、放たれた弾は碧の横を流れていった。碧が瞬き一つした間に、銃を構えていた右の二人は体勢を崩して地面へ落ちていくところだったし、左で銃を向けていた者は横からタックルをかまされて吹っ飛ぶところだった。硝煙が昇っているところからして、発砲したのは水面に突き飛ばされている少女のようだった。彼女はそのままコンクリートへ身体を打ち付け、倒れ込んだ勢いに乗って水面がその上に馬乗りになった。流れるように手首を捻り、銃を奪い取る。恐らく水面は右の二人を同時に押し倒して対処し、残る左の銃は発砲を止めるのは間に合わないと判断して弾の軌道を逸らすことに専念したようだ。瞬きの間に倒された三人の仲間を、『角玄会』のメンバー達は呆然と見下ろしていた。何が起こったのか、頭が追いついていないのだろう。水面は馬乗りになった相手へ、重い拳を振り下ろした。相手は脳を揺らされて一発で気を失ったようで、そのまま動くことなくくたりと地面に寝てしまった。

 水面の背後で、金属バットが振り上がった。水面は視線だけを横に投げ、即座に腰を浮かせた。腹筋の力を存分に使い、前へとバネのように押し出る。目標のいなくなった場所へ、金属バットは止まることなく落下していった。その先は伸びている仲間の腹だ。内臓が破裂したのではないかという程バットが勢い良く食い込み、鈍い音を散らした。水面は常人離れした動きで身体を捻り、自分が先程までいた場所へと手を突き出していた。叩きつけられた金属バットへ、引っ込められる前に上から掴み掛かる。そのまま自らの方へ引き、バットを掴んでいた巨体へとしなやかに迫った。懐に入る途中、自身へと振られた拳を頭を振って避ける。お見舞いとばかりに、近づいた相手の顎へと思い切り拳を突き上げた。先程の者同様、脳を揺らして失神させる。水面の前の巨体は、あっさりとその身を崩した。続けざまに横から振り下ろされた鉄棒を、水面は休むことなく後ろへ身体を引いて避けた。それを待っていたかのように、反対側から弧を描いた軌道で刀が迫る。水面は即座にしゃがみ、その軌道上から身体を逃がした。すぐに攻撃に転じ、相手の重心の乗った足首を掴み、立ち上がるのと同時に引き抜く。体勢を崩した相手にさらに蹴りを入れて倒すと、隙を突いて刀を奪い取った。水面は奪った刀を構え、ピタリと動きを止めた。相手は倒れそうになる焦りか武器を奪われた腹いせか、反射的に水面へ掴み掛かるように手を伸ばした。その先の刀へ触れた時、彼女の腕は一直線にパクリと割れた。遅れて血が溢れて流れていく。水面が刀に勢いをつけていたら、彼女の腕は二つに断たれていただろう。水面はそのまま刀を少女の方へ放った。少女は慌てて刀を避けるように身体を寄せ、水面は倒れていくその肩を勢いに沿って押し出した。少女は自らの武器と一緒に地面へと倒れていった。

 『角玄会』の集団から一歩前へと出ていた少女は、その様子を静観していた。度重なる攻撃の手により水面の気が逸れる時を待っていたらしく、彼女は密かに拳銃を取り出した。そして離れた水面の背中へ向けて、静かに狙いを定めて突き付けた。刀と共にコンクリートに投げ出された少女、それを見下ろす水面からは死角となっていた。しかし音や気配から銃口を向けられたことは水面も察しているようだった。水面は動きを止めると、鋭い視線を後ろへ向かって投げつけた。

「流石、ボスが欲しがるだけあるね」

 水面へ銃を向けたまま、少女はそう言って愉快そうに笑みを浮かべた。周りも少女の行動に合わせて、攻撃の手を止めていく。

「でも、お前の負けだ。相手が大人数で銃も持っているってことくらい、乗り込む前に想像出来なかったの? 動けはするけど頭は回らないタイプか」

 少女は饒舌にそう言うと、鼻で笑った。

「取引しよう。もしお前が『角玄会』で充分な働きをするのなら、命までは取らないでおいてやる」

 もともと『角玄会』は碧を使って水面を手に入れようとしていた。『角玄会』の行動は一貫していて、乗り込まれた今でも水面を欲しているらしい。乗り込まれたことにより、むしろ捕まえに行く手間が省けたくらいに思っているのかもしれない。

「『お前の負け』? 本気で言ってるのか?」

 水面は顔を前に向けたまま、背中の向こうの少女へと声を張り上げた。

「その取引、断るよ。そもそも、取引にすらなってない」

 先程碧へ向けられた三挺の銃を水面が一人で対処していったのを、彼女は見ていなかったのだろうか。碧はそんなことを思いながら、影でポケットへと手を突っ込んだ。全員水面にばかり注目していて、碧の動きに誰も気が付いていない。取り出した閃光手榴弾のピンを背中で抜くと、前方の集団の頭上へ思い切り投げつけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ