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青い少女達の藻掻く先  作者: 小屋隅 南斎


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第33話

「……よし」

 隣の水面が、小声で意気込んだ声をあげた。碧の耳にも届いていたが、碧は手を止めることなく自身の作業を続けた。手当たり次第に開けていた箱から閃光手榴弾を見つけ出すと、碧はそれを素早く隅へと移動させた。

「準備出来た。そっちは?」

 水面はそう言って碧を振り返った。照明が点かないため、室内は陽射しが差し込んでいる場所以外は薄暗かった。水面は窓からの明かりを頼りに部屋の隅へと顔を向けた。碧はまだ空いていないまま残っているいくつかの箱を、ぶち破る勢いで開け進めていた。

「もうちょっと。一応全部確認しておきたいから」

「了解」

 水面は返事をした後、自身が箱から見つけた拳銃を一挺、セーラー服のポケットへ雑に突っ込んだ。そして警戒するように、部屋の入口へと顔を向けた。壊れている扉の向こうから光が差し込んで、舞い散る埃がキラキラと輝いている。建物に近づく気配や音はなく、辺りは静寂に包まれていた。

 二人は『角玄会』のアジトの近くにあった、使われていない廃屋へ身を潜めていた。昨日林檎が立てた計画通り、碧は母親を連れて水面と合流し、林檎の家へと向かった。道中でつけてきていた『角玄会』の者達は水面が気絶させて撒き、無事に母親を林檎の元へと送り届けた。その際林檎は、『角玄会』と敵対している複数の組織の名前と所在、制服の特徴などの情報、さらにはどこから入手したのか本日の『角玄会』の予定などを碧達へ共有した。そして航空写真の載った雑誌を見せながら、特定したらしいアジトの場所を教えてくれた。写っていた倉庫と思われる建物の外観の情報も手に入れ、水面と碧は林檎の家を後にした。その次は計画通り、『角玄会』と敵対している組織達を周り、『角玄会』の襲撃と思わせるような細工をしておいた。相手に気付かれないよう水面が接近し、後ろから羽交い絞めにして急所を狙い意識を落とす。流れるように相手を失神させる様子を隠れつつ見守っていた碧は、やはり水面は規格外だなと改めて認識した。その後は航空写真で確認した『角玄会』のアジトへ向かい、フェンスをよじ登って中へと侵入した。林檎から伝えられていた監視カメラの死角の情報が役に立ち、幸い見つかることはなかった。メンバーと鉢合わせしないよう気を付けながら倉庫へと向かい、中に積まれていた頑丈そうな箱を運び出した。二度程往復して回収すると、それをアジトから少し離れた場所にある廃屋へと運び込んだ。狙い通り、箱の中には銃や弾、手榴弾、閃光手榴弾などの武器が収められていた。使えそうなものを拝借しつつ、二人は突入前の最後の準備を進めていたのだった。

「よし、全部確認終わったよ。閃光弾はこれで全部だ」

 隅に分けておいた三つの閃光手榴弾を、中央へと並べる。

「何度も使えるもんじゃないし、これだけあれば充分か」

 水面はそう言って、その内の一つを手に取った。「残りはアオイが持っててくれ」という言葉に碧は頷き、場に残った二つを拾い上げた。

「林檎が言うには、そろそろ『角玄会』のトップがアジトを空ける時間だよな」

 水面は割れた窓ガラスから空を見上げてそう言った。太陽は母親を連れていた時とは違い、その身を天へと高く上げている。林檎曰く『角玄会』のトップは昼から会談の予定があるらしく、この時間からアジトを発つらしい。トップだけあって手腕も頭脳もありそうだということで、いない間を狙って突撃することに決めたのだ。会談に参加するのなら碧や碧の母親に構う暇もないだろう。トップが何も知らない間に事が起こり、そして終わるのが理想である。淡々とそのように説明をする林檎の顔を思い起こし、碧は手を止めて眉尻を下げた。

「林檎ちゃん……大丈夫かな」

 母親を連れて会った時、林檎は顔面蒼白だった。病人のような白さに碧は驚いて体調を心配したが、本人は「気のせいです」の一点張りだった。そんな訳がない。彼女は頑なに認めなかったが、後程水面に訊いたところどうやら彼女は身体があまり丈夫ではないらしい。一夜にしてとは思えない程の情報を提供してくれたことを思うと、昨夜はあまり寝られていないのだろう。

「大丈夫だろうとは思うけど、あいつの悪い所は強がって無理をするところなんだよなあ」

 水面は苦い顔でそう言った後、スニーカーの紐を解き始めた。力を入れて引っ張ると、再びきつく結んでいく。水面と碧は普段学校で着ているセーラー服を纏っているが、靴はローファーではなく動きやすいスニーカーを履いていた。セーラー服を着ているのは林檎の案だ。『学生』というのが一目で分かる服装の方がいい、と彼女は言っていた。その深意は分からないが、普段着慣れている服はこんな時でも平常心を保つのに一役買ってくれていた。

「倒れたりしたら、母さんだと足が悪くて抱きかかえることが出来ないからな。心配だ」

「いや、あいつは強がりではあるけど、失態を晒すような奴じゃない。対策はしてるだろうし、計画に影響が出るようなことにまではならないだろう」

 水面は両方の靴紐を結び終えると立ち上がり、爪先を交互に床へ打ち付けた。軽く足首を回して、身体を大きく捻る。

「それより、目の前に集中しようぜ。あたし達、あの『角玄会』へ突撃するんだ」

 言葉とは裏腹に、なんだかその顔はわくわくとした興奮に満ちていた。輝く瞳、上がる口角。

「アオイを殴り続けた恨み——ぜってーボコボコにしてやる」

 水面は不遜に笑った。負けを知らない彼女には、やはり怖いものなんてないのではないかと碧は思った。

「……あいつらは人の命をなんとも思っていない。『ACDA』や『陸路』とも格が違う。気を引き締めて行こう。じゃなきゃ、殺される」

 碧は高揚する水面を、冷静に戒めた。彼女の真っ直ぐさは恐れに負けずに突き進む力を持っているが、今回ばかりはいつもとは状況が異なる。相手は悪名高く影響力もある『角玄会』だ。水面にとっては少し慎重にいくくらいが丁度いいだろう。出端を挫かれた水面は気分を害するだろうかと、碧は水面の顔を窺った。しかし、彼女は強気な笑みを湛えたままだった。

「不安な気持ちは分かるけどな」

 水面は穏やかにそう言って、碧の顔を正面から見つめた。

「あたしもアオイも死なない。だから大丈夫だ」

 入口から差す陽の光が、彼女を後ろから淡く照らしていた。水面の言葉の根拠は、己の強さへの絶対の自信だけなのだろう。それでも炎を宿し揺るがない信念に輝く瞳、希望を信じて笑みを浮かべる口元を前にすると、彼女の言葉が現実になるような気がしてくるから不思議だ。まるで魔法の呪文のように、碧の心の奥へストンと落ちて、溶けていった。じわじわと胸に広がり満ちていって、焦りと不安が消えていく。

「……」

 碧は左側のポケットへ閃光手榴弾を一つ突っ込んだ。反対側のポケットには既に拳銃が入っており、ずしりとスカートの重さが増したように感じた。最後に残った閃光手榴弾を左手に持ち直し、固く冷たい塊を握り締めた。覚悟を滲ませた顔を、水面へとあげる。

「……生きて母さんや林檎ちゃんにまた会おう」

「当たり前だ」

 水面の力強い凛とした声が響いた。交わる視線は、まるで歴戦の戦友に向けられたもののようだった。その言葉と同時に、水面を後ろから照らしていた陽の光が何かによって遮られた。一瞬、視界が闇に包まれる。損壊した扉の向こうに見えたのは、通り過ぎていく高級車のボディだった。贅沢が難しい今、高級車を乗り回すような人間は限られている。恐らく今通り過ぎたのが、『角玄会』のトップが乗っている車だろう。黒く光る艶やかな身は一瞬で過ぎ去り、僅かにきこえてきた車の走る音もすぐに遠くなっていった。

「行こう!」

 水面の高らかな声を合図に、二人は廃屋を飛び出した。先程忍び込んだアジトへ向かって、今度は姿を隠すことなく堂々と走っていく。頭上には澄み渡る深い青空が広がっていた。高く昇った太陽が、走るセーラー服の少女達を舞台の主役のように照らしている。亀裂の入った道路をスニーカーで蹴り上げ、風を切って駆け抜ける。フェンス越しに巨大な敷地が見えてきて、碧はそちらへと顔をあげた。いくつもの建物が聳える拠点、『角玄会』のアジトだ。航空写真で全容を把握している二人は、迷わず門へと向かって駆けていった。

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