頂きたいものがございます
ジリジリと男がこちらへ迫り来る。
ゆっくりと後ずさる私のヒールが板張りの床に当たり、カツンと乾いた音を立てた。
「──おらぁっ!」
「いやぁぁああっ!」
ニタリと嫌な笑みを浮かべつつ襲いかかってきた破落戸に相対し、私は震える手を強く握り込んだ。意識してフッと短く息を吐き、飛んできた拳は身体を捩って躱す。初手から顔を狙ってくるあたりがなんとも悪質だ。
私の後ろで悲鳴を上げ蹲る侍女のジェンをかばいつつ、すり足で音を立てないよう意識して右足をそっと後ろへ引いた。今日は夜会用のドレスを着ているから、このたっぷりドレープの寄ったスカートの中で私がどんな動きをしようともきっと気付かれはしないだろう。
僅かに腰を落とし、体幹を意識して──
「おうおう、なんだよその反抗的な目はぁ? ふはっ、気の強ぇ女は嫌いじゃないぜ! そういうのを躾けて従順にさせる時間が一番楽しいからなぁ!」
男がぎゃははと下品に笑い、嫌らしく舌なめずりをしたその瞬間。
──今だ!
私はドレスの生地を膝で押し上げ、そのまま正面の男へ向かって硬い靴の底を蹴り出した。
「ふっ!!」
「ぐぼァっっっ!」
「──お嬢様ぁっ!」
「ジェン、大丈夫? 怪我はない?」
股間を押さえながら床に崩れ落ちた男はひとまず放置して、私は後ろへ振り返った。怯えて小さくなっているジェンは大きな目からぽろぽろと涙を流して震えてはいるものの、怪我などはなさそうである。
「……良かった」
「良くありませんっ!! お嬢様がっ、お嬢様が──!」
「大丈夫、大丈夫よ。こういう時のために、お兄様に護身術も習っていたのだから」
すがりつくジェンの肩をさすって宥めてから、さてどうしたものかと考える。
夜会の途中、化粧直しで会場を出た私を侍女のジェン共々攫ってきたのは、おそらく我が家の敵対派閥の貴族家だろう。この夜会で王太子殿下の婚約者が発表されると聞いたから、焦った誰かが事を急いだのか。
勘違いでこんな目に遭わされるなんて本当に迷惑な話だ。無事に戻れたならば、原因のひとつでもある殿下には何か詫びの品でも強請ってやろうかと思う。
「このまま助けを待つか……それともすぐに脱出すべきかしら」
「お嬢様……!」
今私たちがいるのは狭くて雑多な小屋のようだが、攫われてからの時間を考えると然程会場から距離も離れていないだろう。ここがどこなのか、周囲にはまだこの男の仲間がいたりするのだろうか。
考えを巡らせつつ、部屋からの脱出口を確認しようとドアへ向けて歩みを進めたその刹那。
「ひゃぁぁああ!!」
「──っ、ジェン!」
振り向いた私の目に映ったのは、先ほどまで泡を吹いて痙攣していたはずの男が脂汗を流しつつもいやらしい笑みを浮かべ、ジェンの首に腕を回して拘束している姿であった。
お兄様は確かに言っていた。万が一の為に護身術は教えるけれど、決して戦おうとしてはいけないよと。まずは何よりも逃げる事。どんなに鍛えていたとしても、結局女性の筋力では男性に敵わないのだからと。
たまたま上手く蹴りを当てられたからとて、油断してはいけなかったのだ。拘束しておくとか──そもそも自分より体格のいい男を拘束しておく方法など知りもしないけれど──相手が倒れた時点で迷わず逃げるべきだったのかもしれない。
私は迂闊な自分を呪い、唇を噛む。じわりと血の味が滲むが、ここで私が諦めるわけにはいかない。
だってジェンはか弱くて、怖がりで、戦う術を持っていないのだ。私が守らずして誰が守れるというのだろう。
「その子を離しなさいっ! 貴方の狙いは私の方でしょう!」
「ふっ……お嬢さんは随分とお転婆なようだからな……やっぱり女の子はこんな風にか弱く泣いている方が可愛らしいし、モテるんじゃねえかい?」
破落戸は震えるジェンの首筋をべろりと舐め、わざとらしく片手を彼女の身体に這わせた。
「ひっ……ぃゃ……っ! おじょ、お嬢様……」
「この……卑怯者──!!」
狙いは確実に私だというのに、侍女を人質に取る狼藉にカッと頭に血が上る。
こうなったら刺し違えてでもと覚悟して腰を低くした私の背後でギィっと音が鳴る。はっとして振り返ろうとしたその瞬間、頭に激しい痛みが襲い、身体が浮くような衝撃に見舞われた。私の長い髪をわし掴みにして、ぐいっと持ち上げられたのだ。
「うっ──!」
「──てめぇはいつまでちんたら遊んでやがる。女二人くらいさっさと大人しくさせやがれ」
「親方! すっ、すいやせん。その女随分イキが良くて……」
「女の黙らせ方なんて大昔からずっと変わってねぇんだよ。さっさと服でも剥いて可愛がってやんな」
ギリギリと引っ張られる髪の毛がぶちぶちと切れる音がする。痛みと恐怖に涙が滲んだけれど、強く瞬きをして誤魔化した。巻き込んでしまったジェンだけでも守らねばならない。
私は右手で自分のスカートを勢いよくめくると、太ももに固定したホルダーから小さなナイフを抜き取った。
そのままの勢いで掴まれた髪の毛をざくりと切り落とし、自由になった身体を振って男の鳩尾を狙い肘を突き込んだ。
「うぐぅっ」
今度こそ油断はしない。腹を押さえて身体を折った男の鼻の下あたりをねらって拳を裏向きにして叩き込み、その衝撃で今度は仰け反った男の足の甲に靴のヒールをねじ込んだ。
「ぐぁっ……!」
「ジェン!」
ご丁寧にも私に背を向けたままジェンの服のボタンを外そうとしていたらしい破落戸には、背後から首に片腕を巻き付けもう一方の手で十字になるようしっかり固定し、全体重をかけてやる。しばらく待つと崩れ落ちるようにして男は気絶したようだった。
「さあ、ジェン立って! 逃げるわよ!」
もうこんなところにはいたくない。また男たちが目を覚ましたり、仲間が来たら最悪だ。
はらはらと涙を流すジェンの腕を引き扉へ向かおうとした、その時。
バン! と激しく音を立て、その扉が大きく開かれた。
ああやはりまだ仲間がいたのかと絶望感を覚えたが、片手に持ったままの護身ナイフをもう一度握り直す。
さっきはなんとか不意を打って制圧できたけれど、直接対面してではどう考えても私の分が悪い。胸の内はひやりと冷たいのに、握った手のひらが酷く熱かった。
「フランセット嬢、ご無事で──!」
大きな声を上げながら駆け込んできたのは小汚い破落戸の仲間ではなく、近衛の制服をかっちりと身に纏った長身の騎士だ。
短く切りそろえられたアッシュブロンドの髪に鋭い紺碧の瞳。いつも飄々とした様子を崩さない彼が珍しく額に汗をかき、息を乱している。
「ジスラン様……」
ジスラン・ベレット。王太子殿下直属の近衛騎士である。
ジェンの肩を抱き支えていた腕の力がかくんと抜けた。ジスラン様が来てくれたなら、もう大丈夫。私たちは助かったのだ。
「お嬢様……っ! わた、わたし……!」
「ええ、ジェン、もう大丈夫よ。ジスラン様が助けに来て下さったのだから」
「ふぇぇぇえええん」
本格的に泣き出してしまったジェンの背中を優しくさする。茫然としているジスラン様に目線をやると、はっとしたように扉の外へ声をかけている。
扉の外からもうひとり入って来たのは、こちらも見慣れた近衛騎士であった。
「ジェン、貴女は先に戻って、出来ればうちの誰かを見付けて声をかけてきてくれる? こちらの騎士様に案内して貰いなさい」
「おじょ、お嬢様はぁ……」
「私はジスラン様に事情をお話ししてから行くわ。大丈夫よ、すぐに追いかけるから」
「わかりましたぁぁ」
騎士に黙礼しジェンを連れて行ってもらう。
その間にもジスラン様は無言のまま、床に転がる破落戸たちを拘束していてくれたようだった。これでもう、彼らがたとえ目覚めても大丈夫だろう。
「ジスラン様、来て下さってありがとうございます。殿下のご指示で……?」
「え、ええ、それは。この事態もこちらに原因がありますので……」
「まあ、そうでしょうね。殿下も私を隠れ蓑になど使わず、さっさと覚悟をお決めになってくださればよかったのに」
私と王太子殿下は所謂幼馴染の関係だ。ある程度の年齢になると、高位貴族家の子息令嬢のうち年齢と相性の合うものが学友として選ばれる。私は公爵家の生まれで年齢も一緒であることから、五歳の頃から城に上がって共に勉強したり遊んだりするようになっていた。
殿下は優しく穏やかな性格で、決して声を荒らげたり不機嫌を態度に出したりはしない。そんな物腰柔らかな彼は、城中の皆から好意的に評価されていた。私も殿下を尊敬しているし、良い王になってくれるのではないかと期待もしている。けれど、本当にただそれだけだ。
学友として選ばれたのはやはり子息が多く令嬢は私ひとりだったため、周囲はそのうち私を殿下の婚約者候補だとして見るようになっていた。しかし私たちの中に男女間の愛情などは一切なく、これからもそうだと断言できる。なぜなら私は、殿下のように細身で繊細そうな美形が全く好みではないからだ。ちなみに殿下の方も私のように気が強くお転婆な女性よりも、か弱く華奢で守ってあげたくなるような女性がお好みである。事実、殿下はまさにそのようなお相手を己の伴侶に選ばれ、今回の夜会で正式に発表することになっていた。
ただそのお相手というのが伯爵家の令嬢であり、王家に嫁ぐには少々爵位が低かった。また年齢も殿下より五歳ほど若く、発表までに時間が必要だったのだ。
私は早いうちから彼女を紹介され、その聡明さと努力を惜しまぬ姿勢から、未来の王妃たる人物であると文句なく認めていた。そもそも国王陛下が認めた婚約者であり、私などがどうこう言う話でもないのだけれど。
しかし、早々に彼女が殿下の婚約者であると発表すれば、きっと周囲の者は容赦なく批判や攻撃を行うだろう。未来の王妃の座を虎視眈々と狙う家や、美しい容姿をしている殿下の寵愛を望む令嬢たちは想像以上に多いのだから。
そんな周囲からの攻撃を、控え目な性格の彼女が耐えられるとは思えない。だからせめて彼女の教育が終わるまでの数年間は、強く逞しい君が彼女の盾になっては貰えないだろうか──と、私は頼まれていたのだった。
「フランセット嬢……その、御髪は……」
「ああ、先ほどこの破落戸に掴まれて……。逃げ出す為に、自ら切り落としてしまったのです」
「そんな──!」
「良いのです、どうせ私は今や『殿下に振られた公爵令嬢』でしょう。ろくな縁談など来ないでしょうし、なんならこのまま修道院に入ってもいいですしね」
我が家には跡取りとして申し分ない兄がいる。私も本来は家の利益になる縁談を受けるつもりでいたけれど、殿下に「お願い」された時点でその道はほとんど潰えていた。別に結婚に夢を見ていたわけでもなし、それならば数年の間だけでも好いた人を近くで見ていられる状況を楽しもうと思い受け入れたのだ。
「だからこんなことになる前にしっかりなさいませと、殿下には再三申し上げておりましたのに……!」
「ええ、ジスラン様には本当にお気遣いいただいて、心から感謝しておりますわ」
「フランセット嬢は、それで、良いのですか……? 貴女は何ひとつ悪いことをしていないのに、こんな、こんなこと……!」
ジスラン様は怒りとも悲しみともつかない表情で拳をぎゅっと握りしめた。このままではフランセット嬢の瑕疵になる、こんなやり方は間違っているのではないかと、ジスラン様は幾度も殿下を諫めてくれていた。近衛騎士という立場において、本来はそのようなことを口にしていいわけがないのにもかかわらずだ。
殿下は穏やかでお優しい方だから、そんな風に言われても怒ったりはしない。その代わり、何の対処もして下さらなかったけれど。
「いいのです、ジスラン様。いち臣下として、殿下のお望みの通りに務めを果たせたのであれば十分でしょう。我が家の利になる婚姻は難しくなってしまいましたけれど、両親も事情については十分理解してくれておりますから。それよりも……この数年間、ジスラン様の近くで過ごせたことを、私は幸せに思っております」
最後だと思えば、随分思い切った言葉も口に出せるものだと思う。
そう、私はジスラン様が好きだった。
いつも殿下の後ろに立ち、凛々しい顔で護衛の任務に就いている彼に惹かれていたのだ。
最初はその逞しい身体やきりっとしたお顔立ちが素敵だと思った。ただ見ているだけで眼福だわなどと、舞台役者を応援するような気持ちだったのだけれど。私が王太子殿下の婚約者候補などと噂され、令嬢たちに悪口を言われたり茶会で嫌がらせをされたりするようになり。我が家を邪魔に思う家門からは洒落にならないような毒物が送られて来たり、誘拐騒ぎだって今日以前にも未遂は幾度もあったのだ。そんな状況は良くないと、対処すべきだと諫言してくれたのはこのジスラン様だけだった。
私を思い、必死で殿下を諭してくれるその姿が本当に嬉しかったのだ。
「ならば……」
「え?」
「それならば、私が貰ってもいいでしょうか?」
その紺碧の瞳を真っすぐこちらへ向けたジスラン様が、一歩前へと進み出た。
ジスラン様の大きな手が私の右手をそっと取り、手のひらから小さなナイフを抜き取ってくれた。どうにも恐怖が勝ってしまって、強く握った手がこわばり開かなくなってしまっていたのだ。
「私は、貴女のことがずっと好きだった」
「……ジスラン様」
「けれど、私では身分が足りないから」
ジスラン様は子爵家の出身だったはずだ。そこから王太子の近衛に選ばれるなんて、本当に努力して実力を付けたからこその功績だろうと思う。
「諦めようと、思っていたのです」
「そんな……」
確かに公爵家の令嬢を娶るのに、子爵家では少々足りないのも事実である。
けれども。
「でも、貴女が修道院へ行く覚悟がおありだというのなら──私が貰っても、いいのではないかと思うのです」
確かに、私にはもういい嫁ぎ先などないだろう。どこかの後妻か裕福な商人の元などへ嫁ぐくらいならば、殿下付きの優秀な騎士様に嫁いだって許されるのではないだろうか。
「強く逞しく生きる貴女はとても眩しくて、私なんかが触れてはいけない神聖なものだと思っていました」
「そんな、私は……」
「でもこれ以上、誰かのために貴女が傷付けられるのは嫌なんだ」
私の開かれた手に、彼の大きな手が重なって強く握りしめられる。私の指と彼の指が絡まり合って密着し、その大きな手のひらに出来た硬い剣だこの感触までありありと分かるくらいだ。
力強い手とは裏腹に優しく背中を引き寄せられると、私の身体はすっぽりと彼の腕の中に閉じ込められてしまった。小柄なジェンと並ぶと私は高身長で、この性格も相まって生まれる性別を間違えたのではないかしらと自分でも思っていたはずなのに。
ジスラン様はこんなにも大きく逞しく、なんて安心できるのだろう。
「今頃きっと殿下の婚約が発表されているでしょう。これでフランセット嬢のお役目も終了になります。晴れて自由の身になった貴女は……私を選んでくださいますか?」
耳元で囁かれるその声は低く、優しく、そして甘い。
きゃあと可憐に叫び声を上げるより、最後まで戦うことを選ぶ。出来ないと口にする前に、己の責務を果たせるよう全力で挑む。そんな可愛げのない性格だから、誰もが私を「強い女性」だと言った。そう言われ続けるうちに、そうあらねばならぬのだと思うようになった。
今更、寄りかかっても、いいのだろうか。
「私、こんな髪の毛になってしまって……」
「形のいい耳が見えて、とても可愛いです」
ちゅ、と触れたのは彼の唇だ。み、耳に口付けられたのである!
「え、と、こんな乱暴で可愛げもなくて」
「いつも強くあろうとする貴女は素敵です」
でも、と彼は続けた。
「これからは私も一緒に戦わせては貰えませんか」
「一緒に、ですか?」
「ええ、貴女の横で。私も貴女と共にいて、貴女を守りたいのです」
彼は王太子殿下の近衛騎士であり、言わずもがな優秀な実力者だ。私の付け焼刃な護身術などとはそもそもレベルが違う。
それなのに、彼は共に戦うと言ってくれるのか。
私など、奥に引っ込んで隠れていた方がよほど邪魔にならないし、その方が楽だと分かっているはずなのに。
「ならば、私も。私もジスラン様を守りたいと思います」
筋力では敵わなくとも、私にしか使えない力だってきっとあるだろう。
この方を守るためならば、私はもっとずっと、強くなれると思うのだ。
「──詫びの品」
「え?」
「殿下には、これまで散々迷惑を掛けられましたから。詫びの品として何をいただこうかしらと考えていたのですけれど」
突然そんなことを言い出した私に、ジスラン様は少し不思議そうな顔をしている。この方の紺碧の瞳は近くで見ると、銀色に瞬く星のような光彩が散っているのだなと初めて知った。
「私たちの結婚の許可を、いただくことに致しますわ」
悪戯っぽく笑って見せれば、ジスラン様も理解したのか顔面に喜色が浮かんだ。
直属の部下の結婚だ。今回の事件は私の体裁もあるから公には出来ないかもしれないけれど、何か良きようにジスラン様の功績として与えて貰えば形はどうにか整うだろう。
花盛りの時期を何年も捧げたのだから、最後に欲しいものくらい強請っても罰は当たるまい。
「貴女のそういう強かなところに、私はどうしたって惹かれてしまうんです」
「そう言っていただけたなら、頑張って来た甲斐もありますね」
「──けれどこれからは、頑張らない貴女の弱い姿も、見せて下さいませんか?」
暴漢に襲われても、高いところから落ちたとしても。私が可愛らしくきゃあと叫ぶ日はやっぱり一生こないだろうけれど。
少し離れていた身体を再び寄せて、ジスラン様の腰にぎゅっと手を回す。
厚い胸板に逞しい腕、ちょっとだけ早い鼓動がドクドクと響く。
「気が抜けたら、膝が震えてきてしまいましたの。ジスラン様、抱き上げて運んで下さいます……?」
ジェンを見習い上目遣いでそう伝えれば、ジスラン様は驚きに目を見開いた後かぁっと頬を赤くした。
「絶っっ対に、そんな姿は私以外に見せないで下さいね!? 普段とのギャップが激しすぎて、全員やられてしまいますから……!」
「あら、私ったら弱くても勝ってしまうのかしら」
ジスラン様は少し困ったように笑いながらも、私を軽々と横抱きにしてくれた。
くすくすと笑う私の身体が小さく揺れる。それでも絶対に落とされたりしないと安心して身を任せていられるのは、相手がジスラン様だからだろう。
「貴方が共に戦ってくれるのならば、私はドラゴンだって怖くない気がするわ」
「──どうか、仕掛けに行くのはやめてくださいね」
「ふふっ、ええ。向こうから来たら、一緒に迎え撃ちましょうね」