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第二章 ニューライフ 03

 スタンピードとは、大量の魔物が一斉に暴走を始める現象……いや、厄災のこと。


 様々な状況が考えられるが、原因は概ね同じ。


 ダンジョン内に魔力爆発が起き、それに巻き込まれた最奥にいるダンジョン最強の魔物、すなわちラスボスが狂魔物化してしまう。


 狂魔物化したラスボスはありとあらゆる存在を殺す。それだけではなく、ダンジョンそのものを破壊し始める。


 ダンジョン内に存在する魔物が助かる方法は、地上に出てくる以外にない。


 そして、地上に逃げ出して来た大量の魔物は、生き延びること以外に何も考えていない。


 逃げる進路上にいるありとあらゆる生き物に襲いかかり、引き裂いていく。


 大量の魔物が、命がけで襲いかかってくるのだ。


 ダンジョン内での戦闘と同じに考えていたら、一瞬で命を落とすことになる。


 中規模のダンジョンでも魔物の数は数千は下らない。


 町の1つや2つ簡単に飲み込みすり潰してしまえる数だ。


 軍が動けば討伐は可能だが、民間での対応は難しいだろう。


 冒険者達が集まって対応しようとしているが、気と魔力を見る限り彼らでは力不足だ。


 仮にスタンピードを乗り切ったとしても、その後にはさらなる災厄が待ち構えている。


 ダンジョンを破壊し尽くしたラスボスが地上に出てくる。


 そうなれば、スタンピードが可愛くなるくらいの厄災がもたらされることになる。


 地上にはダンジョン以上に破壊できる生き物も建造物も大量にある。


 すぐにでも襲いかかってくるだろう。


 狂魔物化したラスボスは以前とは桁違いの魔力と力を持っている。


 しかも、死ぬことをまったく恐れてはいない。


 切られようが殴られようが、まったく怯まず止まることなく破壊と殺戮を繰り返し続ける。


 唯一止める方法は滅ぼすことだ。


 つまり、狂魔物化したラスボスから助かりたければ斃す以外に方法がない。


 ちなみに、スタンピードを討伐した軍隊であっても、狂魔物化したラスボスを斃すことは不可能である。


 威力の小さな攻撃では、ダメージが通らないからである。


 狂魔物化したラスボスを超える戦闘力を持つ個体をぶつける以外に斃す方法がない。


 セレントスの住人が今できる最善の方法は、幸運を祈りながら固まることなく、四方に向かって一斉に逃げ出すことである。


 スタンピードに巻き込まれず、ラスボスの目を逃れられた幸運な者ならば助かることができるだろう。


 それでも、大多数の者は命を落とすことになるだろうが。


 もちろん、ライゼはそんな状況を座視するつもりはない。


 乳幼児という制約は受けるが、魔法は使える。


 手がないわけではない。


 バレなければいいのだ。


 アルラは家を出る時、隣の家のコレット=バッシュに姉のランと一緒にライゼを預けてくれた。


 コレットには一歳になるマリー=バッシュという娘がいて、一つ年上の姉ランと遊び初めた。


 ライゼが寝たフリをすると、ベッドに寝かしてくれたので魔法を使って幻影を残すとすぐに家を抜け出す。


 魔術師として冒険者をやっていた母がいれば魔力探知で疑われただろう。だが、コレットは一般人だ。そこまで用心する必要はない。


 とは言っても、乳幼児なのには違いない。見つからないようにする必要はある。


 不可視化の魔法を使った上で、飛翔魔法を使う。


 本来ならば魔闘気を纏うので使うことはない。


 速度、反応、静粛性あらゆる面で魔闘気に劣る。いわば下位互換の性能しかない。


 だが、乳幼児の肉体では魔闘気に耐えられない。


 今はこの状態で対応するしかない。


 姿を消して家の外に出ると、気を探る。


 魔力の流れから、ダンジョンの位置はある程度把握できるが、さらに詳しい状況を掴みたい。


 上空から気を探りながら確認すると、町の状況が容易く把握できた。


 強い気や魔力を持った人間は、ほとんど一つの建物にいる。


 通りにはほとんど人影がなく、建物内から気を感じる。


 どうやら避難は始まってはいないが、なんらかの警告は受けているらしい。


 町から北に意識を向けると、秒単位で魔力が強化され続けている場所が存在している。


 そこがスタンピードを起こそうとしているダンジョンで間違いなさそうだ。


 そこから町の方へと移動してきている人の気を複数感じる。


 ライゼはそちらへ向けて飛翔魔法を使い移動する。


 移動目標はダンジョンだが、移動している気の持ち主たちとすれ違うコースを取った。


 上空を移動しながら目視で確認すると、冒険者のパーティであった。


 全部で7人。


 剣士が一人、僧侶が二人、魔法使いが二人、盗賊が二人。


 構成的に二組のパーティが協力してダンジョンの調査に赴派遣されたのだろう。


 だが、彼らではスタンピード寸前のダンジョンに対応できるはずもなく、虚しく逃げ帰ってきた。そんな所だろう。


 特に有益な情報を得られそうもないので、ライゼはすれ違うだけにしてそのままダンジョンに向かう。


 ダンジョン近くに気を感じる。どうやら誰かが戦っている。


 逃げてきたパーティの構成を見るに、もう一人剣士がいるはずなので、一人残って魔物と戦っているのだろう。


 目視できるところまで近づくと、3匹のコボルトと戦っているのが視えた。


 背後からダガーウルフが忍び寄っているのが確認できた。


 牙で仕留めるよりも、肩から生えた鋭いナイフ状の角で敵を切り裂くことを得意とする魔物だ。


 攻撃のさいに一切止まることがないので、パーティを組んだ冒険者でも手こずるはずだ。


『ライトニング』


 ライゼは短縮詠唱を使い、ダガーウルフを仕留める。


 無詠唱でないのは、戦っている剣士に聞かせるためだ。


 剣士は三匹のコボルトを相手に、防戦一方だったが、一匹に集中して攻勢に転じる。


 それに呼吸を合わせて、ライゼは他の二匹に対して風魔法の衝撃波を当てる。


 圧縮された空気を当てられたコボルト二匹は、軽々と後ろに吹き飛ばされた。


 剣士は襲いかかったコボルトを確実に仕留めた後、転がった二匹を追い、それを立て続けに仕留める。


 その間に、ライゼは土魔法を使ってダンジョンの入り口を塞いだ。


 もちろん、これは一時的なものだ。


 この程度で抑え込めるほどスタンピードは生易しいものではない。


 だが、それでも時間を稼ぐことはできる。


 今はそれで十分であった。


「くる途中、冒険者のパーティとすれ違った。君の仲間か?」


 ライゼが声をかけると、剣士は声の聞こえた方を向いたが、姿を捉えられず周囲を見回している。


「ああそうだ。あんた、魔法使いか? 助かった。それより、姿を見せてくれよ?」


 魔法で姿を隠しているのは分かったようだ。ただ、気を隠しているわけではないので、探れば位置の特定は可能だが、その手の技は身につけていないようである。


「訳あってそれはできない。それより、名を聞いておこう。俺の名はライゼ。ライゼ=フェイだ」


 あっさりと断ると、自分の名を告げる。


 この先やるべきことを考えると、最低限の信頼関係を築いておくことは必要である。


「妙に子供っぽい声してっから、女かと思ったぜ。男たぁねぇ。まぁいい。俺はクルス=クロウ、剣士として冒険者をやってる。あんたがすれ違ったパーティの一つ、バッドウイングのメンバーだ」


 クルスは簡単に自分の情報を渡してきた。


「あんたが残ったのは、仲間を逃がすためか?」


 恐らくそれだけではないだろうと推測しながら、ライゼが尋ねると。


「ああ、そんな所だ。で、あんたの方は、なんでこんな所に来たんだ? しかも一人で」


 肯定した上で、クルスも質問をしてくる。


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