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第二章 ニューライフ 02

 そういった状況を踏まえて、トレーニングの方法を見直すことにしたのだ。


 生後5ヶ月が経ち、気をある程度練ることができたことで、親に歩き回る姿を見せたのである。


 これで、体を鍛えるための条件が一つ整った。


 ただ、歩き回れるようになったことで、姉のランが何かとかまってくるようになった。


 なにかとやんちゃな姉なので、動き回るライゼが新しいおもちゃか何かのように感じたのかも知れない。


 体を鍛えることはもちろんだが、今の自分の置かれている状況を正確に把握する必要があった。


 あまり広くもない家の中は、もうほとんど調べ尽くしている。


 書物のたぐいは殆ど無く、商売に関する物と日常生活のための雑貨がほとんどを占めている。


 後はロングソードと魔術師の杖が、収納の奥で埃を被っているのを見つけた。


 父親のリビンは冒険者時代に剣士をやっていたらしいことをライゼは知る。


 さらに家の中で帳簿を見つけた。


 どうやら、冒険者との取引で商いをやっているらしい。


 あまり高額の取引はなく、ほとんど利益はあがっていない。


 切り詰めれば、かろうじて親子四人で生活することができる、そんな程度の利益だろうか。


 ただ、この状況だと、何かトラブルに巻き込まれれば一変に破綻することになりそうだとライゼは判断した。


 改善する必要はあるだろうが、もう少し成長してからの話だ。


 赤ん坊にできることは、あまりに少ない。


 とりあえず、家の中で確認することができたのはこのくらいだった。


 歩けることができるようになったことを両親に確認させたので、親の目を盗んで外に出てみる。


 10メートルほどの距離を置いて、家が点在している。


 どうやら街の中にある一軒家に、ライゼの家族は暮らしているらしい。


 周囲には商店のような建物は見当たらないので、この区画は一般民の生活の場となっているようだ。


 ということは、父親の仕事場は他の区画にあるのだろうと思われる。


 平屋の自宅の周囲にはそれなりに広い庭があり、丁寧に管理された菜園がある。


 何種類かの野菜が栽培されているようだが、ライゼは野菜に詳しくはないので、芋とか白菜くらいしかわからない。


 興味のない菜園はほっといて、自宅の周囲を一周したところで、隣の家から出てきた女性に見つかってしまう。


「あらあら、まぁまぁどうしましょ。ライゼちゃん、あぶないでちゅよー」


 赤ちゃん言葉で駆け寄ってきた女性は良く知っている。


 コレット=バッシュと言って何かと家に遊びにくる。


 彼女には一歳になったばかりの娘がいて、よちよち歩きまわっている。


 逃げ出すわけにもいかず、ライゼは大人しくコレットに抱き上げられる。


 やはり、自分一人で色々と歩き回るのは難しいようだ。


 隠蔽の魔法と飛翔の魔法を重ねることで、好きに移動できる可能性はあるが、母のアルラは元魔術師の冒険者だ。


 そんな魔法を使えば、感知されてしまいかねない。


 そうならない可能性もあるが、リスクがある以上避けることにする。


 いくらライゼであっても、家族に気味悪がられるようなリスクは犯したくない。


 初めての冒険を中断させられ自宅内に連行されたライゼは、めでたくそのままアルラに引き渡されたのであった。


 しばらくは自由な探索はあきらめ、母親におぶされて買い出しに出る時に得られる情報で我慢することにする。


 町中での会話から、今暮らしている街が、セレントスという名前の町であることがわかる。


 中央に大通があり、東西に抜けている。


 その通りにはいくつもの商店や宿屋、そして冒険者ギルドがあるらしい。


 冒険者ギルドに立ち寄ったことはないが、冒険者らしき人物から声を掛けられアルラが立ち話をすることがあった。


 その会話の中で、アルラがどういった冒険者だったのかある程度把握することができた。


 どうやら父のリビンと母のアルラは5人組のパーティにいて、そこで結ばれたらしい。


 パーティ構成は剣士、盗賊、魔術師、僧侶、弓使いだったらしい。バランス型の構成だ。


 盗賊を仲間に入れていることからも想像できる通り、ダンジョンを中心に活躍していたパーティのようだ。


 パーティ名は『湖月』。今一迫力に欠ける名前である。


 普通はいかにも強そうな名前を付けそうなものだが、父のリビン以外は女性で構成されていたことから、これに決定されたらしい。おそらく、リビンの意見など無視されたのであろう。


 アルラにくっついていれば、家族に関する情報だけは少しずつ集まってくる。


 それ以外は今の所あきらめるしかなさそうだ。


 なにをするにしても、赤ん坊ではどうしようもない。


 それにしても、苦痛なのは退屈なことだ。


 一日の殆どを寝て過ごして、起きている時は体を動かす訓練をするにしても限定的なのですぐに終わってしまう。


 気を練る訓練は普段の暮らしの中で意識せずにやれるようにしているので、暇つぶしにはまったくならない。


 姉のランのおままごとにつきあわされるが、ほとんどお人形替わりなので特にすることはない。


 そもそも、おままごとで何をすればいいのかも良くわからない。


 なので、退屈な時間であった。


 そんな日常が繰り返される。


 総じて退屈ではあるが、嫌いではない。


 家族と一緒に無事に暮らせるというのは良いのもである。


 ただ、かつての人生でもそうであったが、平穏というのは突然に失われるものだ。


 その予兆をライゼは感じ取っていた。


 自然界に存在している魔力の流れが乱れている。


 それだけならば特にどうということはない。


 魔力というエネルギーは基本がカオスである。


 安定している方がむしろめずらしい。


 人間界では魔界の数千分の一という魔力濃度であるため、魔力の偏りが顕在化しないだけだ。


 偏りが幾分大きいということに過ぎない。


 一番重要なのは、空気。


 言い方を変えたら肌感。


 空気が妙にひりついて感じられる。


 かつて魔界で感じたことのある独特な感覚であった。


 だから、ライゼは何が起きようとしているのかほぼ確信できていた。


 結論から言うと、近くで魔物達によるスタンピードが起きようとしている。その予兆だ。


 得られる情報は極めて制限されているが、それでも確信できるだけの根拠もある。


 まず、フェイ一家が暮らすセレントスの町だが、近くにダンジョンが存在していること。


 ダンジョンはスタンピードの発生源となる。


 次に鳥たちが姿を消している。


 鳥は危険を敏感に感じ取るこのとできる生き物だ。


 ライゼが感じている危険を同じように感知して逃げたのだろう。


 そして、冒険者達の動き。


 強い気を放つ冒険者は、直接見なくてもどこにいるのかすぐに分かる。


 それが一箇所に集まっている。


 今までこんなことはなかった。


 パーティ単位でしか行動しない冒険者が、長時間一箇所に留まっている。


 間違いない。


 何か大きな危機が迫っており、それに対処するために話し合っているのだろう。


 そして、決定的な根拠となったのは、アルラが呼び出されたことだ。


 向かった先は、他の冒険者達が集う場所。


 引退したアルラを呼び出すということは、よっぽどのことだ。


 出ていく前、アルラは棚の奥に仕舞い込んでいた魔術師の杖を引っ張り出していった。


 そんなことをする理由はもう一つしかない。


 危険……魔物との戦いを想定してのこと。


 これで、スタンピードが発生する可能性は極めて高まってきた。


 というよりも、その時期は何時になるのかということを心配するべきだろう。


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