第一章 魔帝転生 06
ライゼンの全力を受け止めることができる武器があるということは、ライゼンが全力で戦うことが可能だということだからだ。
その意味を知れば、魔剣ヌルがいかに恐ろしい魔剣になりうるのかを容易に察することができる。
もちろん、魔王たち全員にとって、そのことは自明の理であった。
であるからこそ、5人の魔王は例外なく、ライゼンの言葉の意味を感動を持って受け止めることができた。
そう。
魔王たちは5人がかりであったとしても、ついにライゼンの全力に一瞬手が届いたのだから。
そんな中、ライゼンの身に異変が起き始める。
体のあちこちに黒く丸い穴が出現し始める。
初めは小さく、少なかったが、徐々に大きくそして増え始める。
「どうやら、寿命がきたようだ。君たちの成長をみることができてよかった。最後に、私からの手向けだ……普通は逆かな? でもまぁ、受け取ってくれ。高みというものを見せてやろう」
言い終えた瞬間、5人の魔王の意識が刈り取られる。
何が起こったのか見ることが出来なかった。
誰一人として。
それも当然で、ライゼンは光速で動いた。
視えた時にはもうすでにいるのだから、その瞬間意識はなくなっている。
相対性効果により、無限の質量を有する攻撃は、当たればありとあらゆる物質を原子に返す。
かすめるだけでも、圧縮された大気によって似たようなことになる。
ライゼンはそれを魔剣ヌルの打ち込みで相殺する。
派生する衝撃の方向をコントロールすることによって、魔剣達へのダメージを完璧に管理してのけた。
意識を刈り取られた魔王たちが、きれいな球状にえぐられた地表へと落下していく。
かつて砂漠があった場所に。
地上三千メートルからの自由落下。
でも、魔王ならば大した問題にはならない。
自分たちの身に何が起きたのか、検証するのは意識が戻ってからの話だ。
それから正解へとたどり着くことができるのかどうかは……正直、ライゼンにとってはどうでもいいことであった。
「そろそろか……。これで転生できる。ようやく、好きに生きられるか……楽しみ……」
独り言を言っていたライゼンであったが、最後まで言い切る前に、その体は黒い球体に飲み込まれて消滅した。
第一章 魔帝引退 < 了 >