第14話:ナグモ少尉
「君たちがマークの言っていた子たちか? 確かに変わった格好をしているな?」
マーク? 誰のことだろう? それはともかく事情を話す。別世界から来たということは伏せておき。
「あの、私たち機械の敵に襲われて、迷ってしまったんです」
真夕ちゃんがそう言ったところで、あたしは「あ!」と問題点に気付いた。『機械』という言葉がこの世界にはあるのだろうか?
だがその心配はいらなかった。
「機械? ああ、あのロボットどもね。それは災難だったな? でも君たちのその機械はなに?」
「え? ええっと……」
「防具ですわ」
平然とした顔で、綾乃ちゃんが真夕ちゃんをフォローするように口を挟む。
「え、ええ、防具ですよ」
「ふーん? 変わった鎧だな?」
物珍しそうにあたしたちをじろじろ見る。あたしたちはスカートが短いのを思い出し、さっと隠す。
「ああ、すまんすまん。悪気はなかった。つい鎧が珍しくて」
相手が罪悪感を感じたと思われるところに、お願いをする。
「あの、ここは街ですか? 街でしたら私たちも住みたいのですが……」
そういうと、その男性は暗い表情になった。
「街か……そうだな……もしかしたら人類最後の街かもしれない」
「人類最後の街?」
「ああ、そうだ。十年前くらいに、あの忌々しいロボットたちが現われた。そして人類を……いや獣や魔物も含むすべての生命を虐殺し始めた。俺たちはもちろん戦ったのだが、一体を相手にするだけでも大変だ。なにしろ武器で物理的に攻撃してもあまり効かないし、魔法も物理的である土魔法か氷魔法ぐらいしか対処法がない。それもせいぜい関節部分など機械が剝き出しになっているところにダメージを与えるのが精一杯だ」
一応、剣と魔法の世界のファンタジーらしい。ひょっとしてあたし達も魔法が使えたりする?
そんなことを考えていたら、その男性が自己紹介をしてきた。
「ああ、俺の名前をまだ言ってなかったな。俺の名前はイアン・ナグモだ。階級は少尉。よろしく」
その言葉を聞いてみんなが目を見開き聞き返す?
「「「ナグモ?」」」
イアンはギョッとした顔をする。お構いなしに図々しくあたしは聞いてみる。
「あの! ナグモさんって日本人だったりする?」
「馬鹿! 花鈴!」
佳那子ちゃんに余計なことを聞いたので怒られた。だがナグモさんは気にもせず答える。
「日本人を知っているのか? なんでも俺のご先祖様が日本人らしいんだが」
「あたしたちも日本人なんです!」
「まさか! 本当に日本人って民族がいるなんて!」
「他に日本人の方はいらっしゃらないのですか?」
「ああ、俺が先祖代々から聞いた話しでは、俺の血筋だけが日本人らしい」
「だから、ナグモって名前なんやな」
「ナグモって日本人の名前なのか?」
「そうですわ」
「……そうか」
どことなくナグモさんが嬉しそうにしている。まあ自分の血筋と同じ日本人に会えるとは思っていなかったのであろう。
「とりあえず君たちのことをもっと聞かせて貰えないか?」
「はい。その代わりと言っては何ですが、さきほどお願いした通りに街に住まわせて頂きたいのですが……」
「ああ、それは構わない。人が増えるのは喜ばしいことだ」
「……」
梓ちゃんが何故か気に病んでいるように見える。あたしは楽観的にその時は『疲れたのかな?』とだけしか思わなかった。
「じゃあ案内するからついて来てくれ。会議室で話をしよう」
「はい」
真夕ちゃんが代表して答える。こんな時、学級委員長は頼もしい。
あたしたちは、ナグモさんについて行く。
歩いていると鉄くずの壁には似合わない、中世ヨーロッパ的な煉瓦造りの建物が並んでいた。歩いていると住民がやたらと見てくる。まあ物珍しい恰好なのであろう。女性は露出が少ない恰好をしているが、あたしたちと来たらどうなの? まるで露出狂だよ。
あたしたちは周囲の視線に恥ずかしくなりつつ、隠れるようにナグモさんについて行く。まあ隠れるようにと言っても、仲間を壁に使おうという魂胆であるが……。
しばらく行くと、住民が途切れた。
「ここからは軍部だ。一般市民は入れない所だ」
なるほど。関係者以外立ち入り禁止か。あたしはほっとしてスカートから手を放す。まあ軍部にも当然人はいるのだが、住民の多さと比べたら大したことないので、感覚がバグったのかもしれない。
軍部敷地を見回すと、男女比はそんなに変わらないように見える。日本の自衛隊とかだと男性がほとんどを占めているイメージだが、ここでは女性も貴重な戦力らしい。
まあ剣で戦うなら力がある男性が有利かもしれないけれども、魔法もある世界なので女性でも戦えるのであろう。
ナグモさんに招かれて大きな建物に入る。その形はお城であった。どうやらこの街は城下町らしい。城があるなら、この世界では余程大きな街であろう。
中に入ると広間があり、そして左右に弧を描くように階段がある。その階段の左側を上がっていく。まあどちらの階段を使っても、入る部屋は正面の扉の部屋らしいので、特に意味はない。
扉を開けるとダンスホールのようになっている。平和な頃はここで王族や貴族の人が社交ダンスでもやっていたのかな? と想像した。
ナグモさんは更にそのまま真っ直ぐに奥へと進んで行き、突き当りの扉を開いた。三十畳くらいの部屋があり、そこに長テーブルと椅子が並べられている。長テーブルは正方形に配置されており、それぞれのテーブルには椅子がいくつか置いてあった。
「好きな所に座ってくれ」
そう言うとナグモさんは上座に座った。あたしたちは三人ずつに左右に分かれて座った。当たり前であるが下座のテーブルには座らない。ナグモさんからパンツが見えてしまうからだ。
「さてと、おまえさんたちは日本から来た。つまり別世界から来たという認識でいいか?」
あたしたちはそれぞれ顔を見つめ合う。ナグモさんが別世界を信じているのに驚きだ。
「ええ、そうですわ。私たちはこの世界とは別の世界から来て、どうしていいのか分からずにいます」
「おまえさんたちのその装備は鎧じゃないな? 本当はなんだ?」
ナグモさんの眼光が鋭く光る。その圧に梓ちゃんが狼狽える。
真夕ちゃんはふぅっっと息を吐き出し諦めた感じで肩を落とした。
「……内密にお願いできますか?」
「俺に出来る範囲でならな」
「私たちは元の世界の日本で死にました。そしてこちらの世界にメカ少女として、転生してきたのです」
ナグモさんが立ち上がり、椅子はがたんと音を立てて倒れた。
「……おまえたちも機械……いや、ロボットなのか?」
「ああ、そうだよ。でも、あんたらに危害を加えるつもりはねえ。どっちかっつーとその敵のロボット共と戦っているよ」
恭子ちゃんも口出ししてきた。確かに危害を加えないということを明確に伝えておくべきだろう。
「戦っている? たかが六人でか?」
「こっちもメカ少女だからパワーはあるからな」
ドヤ顔である。ナグモさんは驚きを隠せない顔をしている。
「……こちらから助力をしたら、この世界を救うことは可能か?」
みんなで顔を合わせる。そして、ナグモさんの方に全員で向き、一言。
「「「もちろん!」」」
この言葉は道中の敵と戦った感触で、自信を持っていった言葉だ。実際のところ、現時点で一人二体は同時に相手にできるであろう。今後のパワーアップ分を考えれば、世界を救うということも不可能ではないはずだ。
話まとまりそうになったところで、外から警鐘の音が鳴り響く。




