第11話:プライド
街を求めて彷徨っていると、梓ちゃんが声を発した。
「レーダースキャンパターンに敵と思われる反応が五体あります! 方向はあっちです!」
梓ちゃんが指差した。
その言葉を聞いて、あたしたちは身構える。今のところ武器を持っているのはあたしだけなので、とりあえず剣を抜刀する。
梓ちゃんと周囲の様子を交互に見る。
「こっちに向かってきます!」
「向こうも索敵レーダーがあるのかもしれませんわね?」
「こっちよりも性能いいのを持っているんやろか?」
「……いえ、こちらが気づいたと同じくらいに動き始めたので、敵が索敵レーダーを持っていたとしても同じ200mのタイプでしょう」
「敵が五体でしたら、梓さんと恭子さんが二人に一体を相手にして貰って、わたくしたち四人は残りの四体を倒すのが良さそうですわね」
「なんでや?」
「梓さんは大事な索敵担当になりましたし、恭子さんは重装アーマーなので移動が少しだけ遅いからですわ。戦闘能力で考えた結果ですわね」
「あたいも一人で戦えるぞ!」
その台詞を言いくるめるかのように、綾乃ちゃんが上手い言い方をする。
「そうですわね。それでしたら梓さんを守って下さい」
「おう! わかった!」
任せろと言わんばかりに胸をドンと叩く。まあ結局やることが同じということに気付いていないようなので、あえて言わなくてもいいよね。
「ほないくで!」
佳那子ちゃんが走り出すと、あたしも他のみんなも一斉に走り出した。
どんどん敵との距離が近くなっていく。敵の姿が見えてきて、どうやらムカデのようなロボットである。
「……虫ばかりで気持ち悪いですわね……」
綾乃ちゃんがそう呟いた。綾乃お嬢様に虫はご縁がないのであろう。そしてそのまま戦闘が開始された。
梓ちゃんと恭子ちゃん以外はそれぞれ一体ずつ担当するも、敵の胴体が長いのでお互いに担当した敵が他の子の邪魔になることがたまにある。
あたしはそんな長い胴体は斬ってしまえ! そう思い、胴体の真ん中に片手剣を振りかざした。
ムカデ型のロボットの胴体は綺麗な断面でスッパリと斬れた。
「やった!」
そう思ったのも束の間。ムカデは斬られつつも動いている。頭部の方も尻尾の方も。実際のムカデ並みにしぶとい生命力。いや機械力?
その様子を近くで戦っていた綾乃ちゃんが見ていたようで、倒し方を提案してきた。
「横から斬ると節々がそれぞれに分かれて、動けるのかもしれませんわね。花鈴さん、縦方向に斬ってみて下さい」
綾乃ちゃん……余裕でヒット・アンド・ウェーしながら、こっちも見てるよ。まあ周囲に気を配れるというのは素晴らしいことだが。
言われたとおりにあたしは敵の正面から迎え撃つ。
「えええい!」
縦方向に真ん中を斬ろうとしたが、僅かに避けられた。だが充分ダメージは通った。敵の頭といくつかの節々で分かれた身体を切り裂いた。だが後ろの方で無事な部分が切り離され、再び襲いかかる。
「ええ~? なんかずるい!」
だが綾乃ちゃんの助言のお蔭で、いくつかの部位はまとめて倒すことができた。尻尾部分も同じように攻撃して撃破し、残りの独立して攻撃してくる部分も倒した。
「ふぅ~」
一呼吸して辺りを見渡す。綾乃ちゃんが指示してくる。
「真夕さんを手伝ってあげて!」
隣で戦っていた綾乃ちゃんを手伝おうとしたら、先に言われた。まあ確かに綾乃ちゃんも佳那子ちゃんも攻撃に向いているスキルを持っている。『異世界知識』という非戦闘スキルの真夕ちゃんを手伝う方がベストであろう。さっそく乱戦の中で真夕ちゃんを探す。
「いた」
真夕ちゃんの方に向かう。
「お待たせ」
そう言うと敵の方に視線を向ける。少しはダメージを与えているが、戦術的にこれといった決定打がないためにまだ時間はかかりそうである。
先ほどと同じように正面から斬りつける。真夕ちゃんは側面からだが、あたしのように切り離してしまわない分、それぞれの部分にダメージを与えている。
そして真夕ちゃん担当の敵も倒し終えた。
「次は?」
あたしは他の四人の方に視線を向ける。佳那子ちゃんはのんびりとしている。綾乃ちゃんも片足を倒した敵の頭の上に置いて、パンパンと手をハタいている。梓ちゃんと恭子ちゃんはまだ戦っている。
「あれ? みんなどうしたの? あと一匹の敵を倒すのを手伝わないの?」
佳那子ちゃんが苦笑する。
「まあ、あれやな」
「……恭子さんのプライドのことも考えると、手出しするわけにも行きませんですしね」
綾乃ちゃんもやれやれといった感じである。
「あはは、一人で倒せるって言っていたから、確かに手伝い辛いですね」
真夕ちゃんも分かっていたようだ。
あたしは梓ちゃんと恭子ちゃんの方に目を向ける。
梓ちゃんが視線で助けてと物語っているのが見えるが、恭子ちゃんが頑張っているので手が出せない。そしてしばらくすると敵を全部倒した。
「お疲れ様~」
「うが~! あたいたちが最後かよ!」
「……花鈴さん、僕と目が合ったのに助けてくれませんでしたね?」
「あははは」
あたしは笑いながら頭をぽりぽりと掻く。一人は助けて欲しいと思い、一人は手を出すなと思っている。どうしろっていうの? 無茶ぶりだよ。
話題を変えるためにさりげなく佳那子ちゃんが楽しげに言う。
「さあ、ドロップアイテムの様子はどうやろうな? うちは……っと。お? ジェネレーターができたな?」
そう言い、アイテムボックスから取り出そうとする。
「あ? あれ? 出せない?」
「ジェネレーターはアーマーと同じでイメージによる装着ですね。アーマーは外側ですが、ジェネレーターは身体の内側をイメージして下さい」
「身体の内側? どこや?」
「えっと……分かりません……とにかくイメージで何とかしてみて下さい」
「ええ~?」
「あたしはレーションと部品だけ!」
「わたくしもハンドガンが出来上がりました」
そういうと綾乃ちゃんはハンドガンを取り出した。金属製のカバーで覆われており、そのカバーにもマウントがある。さっそく右腰に付けている。
「私もハンドガンが出来ました」
同じく右腰に付けている。同じハンドガンなのに、カバーのカラーリングがそれぞれのアーマーの色と同じに作られるというのは不思議であるが……。
「ぼ、僕はレーションと部品、それにリペアキット」
「あたいだけまだ新しい装備が出来ていないのか……」
恭子ちゃんが涙目になっている。まあ80ミリキャノン砲とか大きそうだし、その分必要部品が多いのかもしれない。
綾乃ちゃんがハンドガンを抜き、カートリッジを取り外して中を覗き込む。
「ハンドガンが出来ましたが、弾薬はこのカートリッジの中に入っている分しかないのです? なくなった場合、弾薬はどうなるんですの?」
綾乃ちゃんが疑問を口にした。それに回答できるのは真夕ちゃんのみ。
「弾薬は武器を装備しているとドロップするようになるらしいです。装備をしていない場合には弾薬はドロップしません。なので弾倉が空になってもなるべくアイテムボックスにしまわないようにして下さい」
「わかりましたわ」
そんな話をしていると佳那子ちゃんの声が。
「お? ジェネレーターがはまったみたいや」
今までやってたのか……内部装備は難しそうだ。
「ところで真夕、ジェネレーターってなんや?」
「エネルギー量の最大値が上がるものですね」
「それって力が強くなったり、速度が速くなったりするんか?」
「いえ、力や速度はアクチュエーターですね」
「思っていたのと違う装備か……」
「でも、今後強くなっていくと必ず必要になりますよ? アクチュエーターがアップしたら、必要エネルギー量が増えますし、CPUコアが増えても若干ではありますがエネルギー消費量は増えます」
「そうなんや、まあいずれ必要ならいっか」
相変わらずお気楽な佳那子ちゃんである。
そして、あたしたちは再び今まで向かっていた方向に歩き出す。もちろん方向を覚えていたのは恭子ちゃんだ。意外な才能を感じるが正直助かる。




