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神殺しのチャリオット

作者: 霊闇レアン

――昔々、あるところに、子どもに恵まれない貧しい男女がいました。


ある日、男は冒険者の仕事で山奥に行きました。


女がいつものように家事をしていると、男が慌ただしく帰ってきました。


何事かと思えば、男は大事そうに何かを抱えています。


「赤子を拾ったんだ」


男が言いました。


女は驚いてそれを覗き込みます。


そこには、まだ生まれて間もない珠のような赤子がいました。


二人は捨てられた赤子を不憫に思い、自分たちの子どもとして育てることにしました。


「まずは名前を決めましょう」


「男の子だから、そうだな。チャリオットなんてどうだろう」


「素敵な名前。きっと逞しく育ちますわ」


こうしてチャリオットは二人に愛されながらすくすくと育ちました。


チャリオットは幼い頃から大人をあっと驚かせる子どもでした。


村長の家に忍び込んで難解な書物を読んでいたり、職人が気付かない欠点を指摘したり、時には村の外で魔物を狩ったりすることもありました。


次第にチャリオットは皆から神童と呼ばれるようになりました。


その頃から村人たちはチャリオットが都に出る逸材であることを期待し始めます。


「この子は偉大な魔法使いになるに違いない」


「村で初めての魔法使いが出るぞ」


この国では子どもが十歳になると魔法適正の有無を調べます。

適正があれば都で魔法を教わることができるのです。


チャリオットはそんな村人たちの期待を不思議に思い、どうして自分に魔法適正があると思うのか尋ねました。


すると村人は言いました。


「君ほどの才能は神の思し召しに違いない。神のご加護があるのだから、魔法が使えて当然だろう?」


チャリオットはこの言葉の意味がよくわかりませんでした。


ただ、魔法使いを優遇する国の悪政によって村が貧しいことは理解しました。


時は流れてチャリオットが十歳になる誕生日。


村人は皆、愕然としました。


なんとチャリオットに魔法適正はないという結果が出たのです。


当のチャリオットは平然としていましたが、村人たちは何かの間違いじゃないかと都から派遣された魔法使いに詰め寄ります。


何度試しても結果は変わりません。


落胆する村人たちを他所にチャリオットは旅に出ると宣言します。


両親も村人たちも困惑しました。


魔法使いになれなくともチャリオットは村に多大な貢献をしてきたからです。


それでも我が子の意思を尊重するという両親の後押しによって、チャリオットは旅に出ることを許してもらいました。


数日後、チャリオットは、必ず村を貧困から救う方法を見つけてくると言って旅立ちます。


チャリオットの旅は、種族の壁を超えた壮大なものになりました。


お手製の武器で魔獣を討伐し、誰もみたことがない方法で人間の街を魔族から守り、窮地のエルフを救い出し、自家製の酒でドワーフと仲良くなり、その活躍はとどまるところを知りません。


チャリオットは旅の途中で仲間もたくさん増えました。

人間の魔法使い、エルフのお姫様、ドワーフの鍛治職人、旅に同行はしなくとも行く先々で協力してくれる人たち。


皆チャリオットの心優しい行いに感化されたのです。


仲間と旅する中でチャリオットは故郷の国がどれほど巨大で、どれほどの悪政を敷いているか理解を深めていきました。


早くどうにかしたいと思うチャリオットですが、それには力が足りません。


魔法を使えず、武術の心得もないチャリオットは考えました。


かつて神童と謳われた知識と、旅の中で得た経験を振り絞って考え続けました。


そんなある日、チャリオットたちはとある遺跡を訪れました。


幾つもの罠を乗り越えて最深部まで辿り着きます。

チャリオットは古代遺物を手に入れました。


古代遺物は失われた技術で出来ていました。

なんと魔法を必要としない動力源を持つのです。


チャリオットは歓喜しました。

これならば魔法が使えずとも大国に対抗する力を用意できると考えたからです。


チャリオットは仲間と協力して古代遺物の構造を暴きます。

近頃では叡智とまで呼ばれる知識と知恵を惜しみなく披露しました。


苦労の甲斐あって、仲間のドワーフが古代遺物の再現に成功します。

これをチャリオットが考案した兵器に埋め込むことで、魔法に対抗し得ると仲間たちは確信しました。


「ところでこの兵器はなんて言うんだい?」


仲間の一人が言います。


チャリオットはニヤリと笑いながら答えました。


「こいつは戦車。文明が誇る陸戦最強の兵器さ」


チャリオットはこれまで旅で出会った人々に協力を呼びかけました。

皆、喜んで力を貸してくれます。


多くの人間たちが資源を確保し、ドワーフたちが戦車を作り、エルフが膨大な物流を支援しました。


月日は流れ、とうとう戦力が整いました。


チャリオットたちは長きにわたる悪政に終止符を打ちに出発します。


久しぶりの故郷は酷く荒れていました。

土地は痩せ、建物はボロボロ、人々の顔は絶望に満ちています。


チャリオットはより決意を固めて都へと向かいました。


轟音を響かせながらチャリオットたちは都へと迫ります。


隊列を組んだ戦車は砂埃を巻き上げ、まるで巨大な魔獣が駆けているかのようでした。


しかし、魔法使いたちは慌てませんでした。


チャリオットたちの襲撃を事前に知っていたからです。


叛旗を翻そうとしている者がいる、そんな噂は都にも届いていました。

魔法使いたちは面倒だと思いながらも待ち受ける準備をしていたのです。


「大きな影が八つ。それと数百の凡愚か。その程度で何ができる」


魔法使いたちの長がせせ笑います。

釣られて他の魔法使いたちも笑います。


「見たことのない獣を連れているが、我々の敵ではないわ」


魔法使いたちには、これまで多くの戦で勝利してきた誇りがあります。


騎馬兵ですら近付くことを許さずに屠る攻撃魔法。

弓兵の攻撃をなんなく防ぐ防御魔法。


僅か数十の魔法使いが数千の兵士を撃ち破ったこともあるほどです。


そんな魔法使いたちにとっては、チャリオットたちの襲撃も数ある戦のひとつでしかありませんでした。


戦端が開かれるまではーー


チャリオットたちが城壁に辿り着くと、そこには魔法使いたちが待ち構えていました。


チャリオットは魔法使いたちに悪政を止めるよう言いました。


しかし、魔法使いたちはそれを嘲笑います。


「神の寵愛を受ける我らの糧になれるのだから、民も光栄だろう」


「魔法を使えぬ凡愚がほざきよる」


「こそこそ準備しておったようじゃが、その叛意へし折ってくれるわ」


そして、魔法使いの一人が攻撃魔法を放ちました。


チャリオットはそれを躱すと、首を振り、眉間に皺を寄せながら戦車に乗り込みます。


戦いの火蓋が切って落とされました。


魔法使いたちが一斉にチャリオットたちへと攻撃魔法を撃ち込みます。


燃え盛る火球が次々に戦車を襲い、土煙が舞い上がりました。


魔法使いたちは攻撃の手を緩めません。

これまでの戦争も全て完膚なきまでに相手を叩きのめすことで確実な勝利を掴んできたからです。


魔法の絶大な力を、神の偉大さを示すことで魔法使いたちは今日まで国を支配していました。


「口程にもないわ」


「アーゼウス様のご加護には敵わぬ」


ただの一度も反撃がなかったので、魔法使いたちは勝利を確信しました。


地面を抉るほどの波状攻撃が止み、徐々に土煙が晴れていきます。


そこには微動だにしない戦車が五両ありました。


魔法使いたちは戦車が形を保っていることに驚きます。


戦場が静まりかけた時、五両の戦車が一斉に動き出しました。

抉れた地面をものともせず這い上がってきます。


魔法使いたちに動揺が走りますが、すぐに立て直して攻撃体勢に移ります。


次の瞬間、轟音とともに城壁が爆発しました。


魔法使いたちは一斉に背後を振り返ります。


先程まであったはずの城壁や城門が瓦礫へと変貌していました。


遅れて魔法使いたちは味方の数が減っていることに気が付きます。


「ま、まさか……あの獣が?」


「今まで破られたことのない城壁が……」


「何人か巻き込まれておる!」


状況を理解した魔法使いたちが慌てふためきます。


魔法使いの一人があることに気が付き、さらなる混乱を引き起こしました。


「あの獣は八体いたはずだ。……残りの三体はどこに消えた?」


「前衛として消し飛んだのではないか?!」


「悔しいが残りがピンピンしておるのにそれはなかろう!」


そんな魔法使いたちを無慈悲な砲撃が襲います。


断続的に降り注ぐ砲弾に魔法使いたちは体勢を整えることもできずに散り散りになります。


魔法使いたちが都に引き返そうとすると、やや離れた位置から轟音が響きます。


魔法使いたちの目には、まさに今逃げ込もうとしていた城壁の向こう側が見えていました。


さらに三両の戦車と数百名の人影も見えました。


「やられた!」


「初めから狙いは都じゃったか!」


逃げ惑う魔法使いへの追撃は止みません。


それから、戦いはあっという間に終わりました。


五両の戦車が魔法使いたちを蹂躙し尽くし、三両の戦車は王城まで一直線に進んだのです。


易々と王城に辿り着いたチャリオットたちは既に戦意なき兵士を退け、王を捕えることに成功しました。


チャリオットはようやく、国の悪政を断つことができたのです。


この電撃戦は王都を始め世界中で語り継がれました。


チャリオットが伝説になってから世界は急激に変わりました。


かつての神への信仰は薄れ、今ではアーゼウスの名を知る者もいなくなりました。


魔法は体系化され、各地の学校で魔法を学ぶことができるようになったからです。


微量の魔力でも操れる魔法が数多く編み出され、今や魔法は人々にとって欠かせない存在になりました。


「――めでたし、めでたし」


白髪の老人が本を閉じる。


老人の前では数人の子どもが目を輝かせていた。


そのうち一人の男の子が頬を膨らませて言う。


「こうしてチャリオットのおかげで世界は平和になりました、が抜けてるよ爺さん!」


別の男の子がそれに答えます。


「はは、なんでだかいつもなんだよ。面白いからいーじゃん」


「ふーん、そうなんだ。ま、いっか」


その隣にいる女の子が老人の背後を指差しながら言う。


「お爺ちゃん迎えの人来たよー」


皆の視線の先で、老婆と若い娘がこちらに向けて手を振っている。


老人は苦笑いしながら杖を片手に立ち上がる。


子どもたちは老人が二人の元へ着く前に、次の遊びへと駆け出した。



――神殺しのチャリオット 完

友人が食事中に呟いた「神殺しのチャリオット」があまりにもラノベタイトルすぎると盛り上がったので筆を執った作品です。


私なりの解釈で書いてみましたが、いかがだったでしょうか。


少しでも面白かった、作中作の本編が読みたい、と思ったら下の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎から作品を応援していただけると嬉しいです。


きっと友人も喜びます。

よろしくお願いいたします。


ご精読ありがとうございました。

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