勉強中2
・・・・カチカチカチ。
深夜に勉強中の彼は無意識にシャープペンをノックしていた。集中力に欠けるタイプなのでヘッドホンをつけて音楽を聴きながら勉強していた。時々リズミカルに体を小刻みに動かしながら。
今しているのは国家試験の勉強。これに合格すれば確実に昇進が狙える。給料もアップ。
なので今回はわりと本気だった。
「ん?」
何か聞こえてくる。彼は耳からヘッドホンを外した。玄関の方を見る。・・・気のせいか。
またテキストに視線を戻す。マークシート問題を塗りつぶしつつ、シャーペンをカチカチ。
「あ?」ヘッドホンを外し、再び玄関を見る。やっぱり何か聞こえる。シャーペンをカチカチしながら
耳を澄ませる。
そのときだった。ちょっと強めにトントントン、とドアをたたくような音がした。
彼は思わず立ち上がり、シャーペンを手に持ったまま玄関へ向かう。玄関へ向かう途中も無意識にシャーペンをカチカチと鳴らしながら。
(うちじゃない)トントンという音は聞こえる。だが、うちの玄関ではない。
どうも隣のようだ。隣の家主は不在なのか、ドアを叩く音に対して反応が無い。
シャーペンをカチカチと鳴らしながら、玄関に降りてサンダルに履き替え、しばらくドアの前に立って
様子をうかがう。
トントントントン、まただ。この訪問者もなかなかしつこい。
彼はカチカチカチカチと強めにシャーペンを鳴らす。 トントントントン。
さっきより叩く音が強くなった気がする。それでも応答する気配はない。
いないのではないか。それとも居留守か?
カチカチカチ、トントントントン。なかなか諦めないな、この相手。
隣の家主の顔を思い浮かべてみた。たまに見かけるくらいで、何の情報もないのでなんともいえないのだが・・・外見だけで判断するなら、オールバックで、背が高くがっしりしており、眼光が鋭く、控えめに言っても・・・もうマフィアだった。
カチカチカチカチカチカチ、トントントントントントントン。
もしかして借金取りか? となると居留守かな? そのうち、おらー!開けろや、コラァ!とか
怒鳴り声が聞こえてくるのだろうか?
しかし、何も聞こえてこない。相変わらず聞こえるのはドアを叩きまくる音だけ。
なんだか緊張してきたぞ。 シャーペンを握る手が汗ばむ。 カチカチカチ、トントントン。
カチカチカチカチ、トントントントン、 カチカチカチ、トントントントン、カチカチカチ、トントントン、カチカチカチカチ、 カチカチカチカチ、、、、、カチッ
するり、ポトッ。 出しすぎたシャーペンの芯が床に落ちた。
ドォオオオオン!!!!!
その時だった。ものすごく大きな音が響き渡り、なにかが勢いよく倒れる音がした。
彼はその場で飛び上がった。一瞬、<発砲>の2文字が頭に浮かびあがる。息を呑み、硬直する。
・・・胸がドキドキしている。今、外に出たらとてつもなく危ない気がする。
落ち着け、落ち着け、ドアの外に耳をそばだてる。
数分、立った気がするが、二発目が撃たれる様子はない。あたりは静寂に包まれている。
(どうしよう、警察呼んだ方が良いのかな。いや、救急車か。)
そのときだった。
「あらまぁー」甲高い声と共に聴き慣れた声が外から聞こえてきた。
大家のおばさんの声だった。と同時に「えええ」というか細く困惑したような男の声がした。
(大家さん!)彼は思わずドアを開け、外に飛び出した。
飛び出した彼は言葉を失った。
目の前に異様な光景が広がっていたからだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
すっかり外れた隣の部屋のドアが内側に向かって倒れている。
そして倒れたドアを挟んだ向こう側に、大家のおばさんと、、、、、、隣の家主の男性が並んで呆然と立ち尽くしていた。
彼は、おそるおそる口を開く。
「・・・・・え、なんすか、これ。」
すると二人は僕を見ながら、同時に叫ぶのであった。
『こっちが聞きたいわ!!!!』
完