長生きしたい!
「ねえ」
「なによ」
「長生き、したくない?」
「……………………は????」
「いや、誰だって長生きしたいでしょ?」
「は? や、ちょ、意味不明なんですけど」
「ええ……きみ希死念慮待ち? もっと人生に希望持ったほうがいいよ。若いんだからさ」
「見た感じキミのが明らか年下でしょ ……じゃなくて! 私とキミ、今日この場が初対面よね?」
「まあ、そうだね」
「それで、最初の話題がそれ??」
「初対面なら普遍的な話から始めた方が相手も乗りやすいって魔法の先生が言ってたから」
「普遍のレベルが人類単位なんですけど」
「どうせなら広い方がいいかなって……」
「広すぎるわよ!!!!」
「ごめん………」
「……で、話戻すけど。長生きしたいよね?」
「コイツ……さも何でもないような顔して…………まあ、そうね。死にたくはないわ。怖いもの」
「じゃあさ、きみはどれくらい生きたいとかある? 具体的な年数で」
「え……うーん……まあ、人並みに100年くらい?」
「人並みではないね。この国の平均寿命は現時点で60を切ってるよ」
「急に冷静にならないでよ。あと平均寿命は産後直ぐ死ぬ赤ちゃんが多ければ多いほど少なくなるから実際の寿命はもう少し長いわよ」
「急に冷静なコメントだなぁ」
「うっさ。……てか、キミ平均寿命なんてよく知ってるわね。魔法の先生ってのから薄々察してたけど、もしかして結構いいとこの学生?」
「ああうん、『学園』の」
「おお。じゃあキミ冒険者志望なんだ」
「そうとも。ダンジョンで一山当てて大富豪になるんだ」
「わあすごい。とても長生きしようとしてる人の思考回路とは思えない短絡さ」
「ちょっと短絡なくらいが長く生きるコツだって魔法の先生が言ってた」
「誰なのよその魔法の先生。あと多分その短絡さは一山当たる前にダンジョンで死ぬわね」
「うーん、まあ、それなら別にいいよ。どうせ普通に生きても高々6,70年なんだから、18の今死んでもたいして変わんないさ」
「淡白すぎない? というか、6,70生きたらそこそこ長く生きられてるじゃない」
「いいや、全然足りないね。僕は本当に長生きしたいんだ。具体的に言うと1000年は生きたい」
「無理でしょ」
「でもないんだなあ、これが」
「何その顔腹立つ。凹ましていい?」
「(さらにふざけた顔)」
「……だめ、これ以上この話すると頭の血管が捩じ切れちゃいそう」
「そっか。ならもっと楽しい、夢の話をしよう。ほら、きみも長生きしたいだろ? 本当に100年ぽっちでいいの? 夢はでっかく、さ」
「根は深く、が抜けてるけど…………まあ、そりゃ可能なら1000年くらい行きたいわ。でも、そんなのができるのってごく一部の大魔法使いとかだけじゃない」
「そうだね。だから僕は冒険者目指してる」
「……まさか、ダンジョン制覇を目指してるの?」
「That's right!」
「発音は85点ってとこね」
「微妙…………と、話を戻さなきゃ。きみだって、この世界で生きてるなら知ってるだろ? ダンジョンでレベルを上げれば上がるほど、冒険者は人智を超えた力を手に入れられる」
「ええ、もちろん知ってるわ。実際、『学園』の創設者はレベル最大まで行ったダンジョン制覇者なんでしょ」
「そう。そして記録上の最高齢でもある」
「へえそうなんだ。いくつ?」
「1732」
「……マ?」
「記録上はね。本人は数えてないから確証ないって言ってたけど」
「…………」
「お、もしかして、夢広がってる?」
「まあ、さすがに。…………ねえ。キミは、本当にダンジョン制覇目指してるんだよね?」
「もちろん。今の『学園』で僕ほどガチな男はいないといっていいね」
「なるほど…………なんでキミがこの話題を出したのか、何となく分かったわ」
「……へえ、それなら───」
「いいわよ、分かった。キミの仲間になってあげる。長生き、したいんだもんね?」
「そう! だからこんな刑務所に捕まってられないってわけ!! 早く脱獄して、ダンジョンに潜らなくっちゃ!」
「反省の色ないのがサイコパスみたいでなんか怖い」
「それきみが言うんだ」
「それを言われると痛いわね。……じゃあ、看守とかとの戦いの方は任せたわよ。さっきまでの話って、つまりは自分は強いアピールでしょ?」
「イェース! ずっとレベル詐称してたからみんな騙されてるけど、僕は並の冒険者なら完封できる自信があるよ!」
「あらよかった。さすが名門校所属」
「もっと褒めて」
「図に乗るなよクソガキ」
「そ、そっちもまだ20歳くらいのくせに……」
「うるさい。…………はあ、穴掘ってる時に急に話しかけられた時はビビったけど、仲間が増えてよかったわ…………」
「まあ僕としても、壁から岩の溶ける音がして大分びっくりしたわけですが」
「……魔法で密かに移動してたのにそれを聞き分ける耳にもびっくりだし、それで壁が空洞になってると確信して直ぐに壁に穴を開けてくる判断力もすごいわ」
「プロ、ですからね……」
「まだ見習いでしょ」
「自認だけはプロ」
「まあ確かに冒険者に公式の資格とかはないけども……」
そして、二人でしばらく掘り進めた頃。
「…………そういえばキミ、最初から交渉が目的だったのよね? キミからは力を、私からは知恵をっていう。なら、こんな回りくどい話題じゃなくてよかったんじゃないの?」
「いや、それは先生の教えが」
「そこは本当なんかーい」
おわり
因みにダンジョン内は国権の外なのでそこにいる限り再逮捕の心配はない模様