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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ウツロイミント epipode0

作者: ウツロイ ミント

あの日はよく晴れた夏のことだった。

「フレーっ!!フレーっ!!ヤマト!!」「ったく……この学校は一回戦は全生徒参加で野球応援で辛いよな。」「暑い……帰りたい……」

さまざまな声がスタンド席から聞こえる中、

「「カキーンッ!!」」

真昼に響いた爽快感のある金属音が鳴り、その音はそれら今までのすべての意見をものともせず、観客席から一つの大きな歓声を作り上げた。

金属と衝突した丸くしなやかな球体はどんどん遠くへと飛んでいき、次第に遥か遠くの高山に吸い込まれるように完全にその形を見失った。

「おい鈴木!!山にボールが入っていったぞ!!探してこいっ!!」

「はいっ!!」

言われるままに、声援が鳴り響くベンチから腰を上げ、スタンド出口を後にし、球体の行き場を探るべく山の中へと足を踏み出した。


と、山に踏み込んだは良いものの、この広大な視界の悪い山の中ですごく小さなボールを見つけるなんて至難の業だ。

流石にすぐに戻るのはまずいと思い、気持ち程度に30分ほど山を散策してから監督に、「見つかりませんでした。」とでも報告しておけば良いだろう。

そんな考えでひとまず気休め程度に「ボールを探しますか。」と適当に宣言したのち、ボールを探しに山を登ることした。


この山は日頃のトレーニングメニューに入っている程度には最低限歩けるぐらいの獣道ができているので近くにあった木に手をかけながら徐に登っていると、普段は絶対に見かけないような奇妙なモノを見つけた。

目視で20m程の距離にある木の上の木陰に黒と緑を足したような色をしたスライム状でドロドロとした何かがそこに佇んでいた。

その上、スライム状をしているのにも関わらず、木の上から本来ならぽつぽつと落ちてきそうな見た目を醸し出しているのに、それは一切地面に垂れてこないのである。

知的好奇心を感じた僕はもう少しそれのいる木に近づいてみることにした。



木に近づき5mほどの距離にたどり着いた時、僕の足音に気付いたのか、それは今まで木の上に乗っかっていたのだが、急に木を軸にして体の位置を180度反転させて木の枝にしがみついているかのようにそれはぐるりと位置を変えた。

「えっ!?」

それをみた僕は思わず驚嘆の声を上げ、驚きのあまり背後に少し後ずさった結果地面から生えている木の根に躓き、転んでしまった。

今まではそれのいる木の下部分から見上げているだけで全貌が見えていなかったのだが、ぐるりと木を周ったスライム状のそれには琥珀色をしており、ギョロリと獲物を見つめるかのような大きな一つ目の目玉とケタケタと笑うかのようなギラリとした口がついており、なんとも奇々怪界な生物?がそこにはいた。

僕はすぐに逃げようとしたが、転んだ際に変に足を挫いたのか思うように足が動かなくなっており多量の血が流れ出ていた。、誰か助けを呼ぼうにも、本当の恐怖を感じた時に口から声が出ない。という話は本当だったようでいくら、助けを呼ぼうと声を絞り出そうとしてもかすかなうめき声のようなものしか口からは出ていかなかった。



しかし、何故かギョロリとした目玉から視線を話すことが出来ず、空いた口が塞がらない状態でひたすらそれの目を見つめ続けていた。

すると、僕が動かない様子に気付いたのか、それはスルスルと中心にそって回転しながら木を降りつつ、歪な口を動かし、


「縺翫∪縺医%繧上¥縺ェ縺?シ」

今まで聞いたことのないような未知の言語で話しかけてきた

「………ッ!!」

僕はいくら声を振り絞ろうとしても微量な音しか出ず、ついにそれは目の前に現れ、あろうことが僕の頭に向かってスライム状の体を伸ばして僕に触れてきた。


すると、奇妙な事に先程まで血が流れ出ていたはずなのに、その片鱗は一切なく、その上変に挫いて動かなかったはずの足が動き始めたのである。

俺はそっとその場を立ち去ろうとすると

「オマエ……ニゲ……ナイノ?」

ふと振り返ると、スライム状をした黒緑色をした一つ目と歯が特徴的な生物が俺に語りかけているかのようだった。

「俺のこと?」

「ソウダ」

俺が問いかけるとそいつは返答をしたのだ。きっと俺の聞き間違いではなかったようだ。

「別に……なんか面白そうなやつがいんな。って興味を持って……近づいたんだよな。それで逃げるってどんな神経してんだよ。台風の日に川でも見にきた子供かよ。」

「ボク……ムズカシイコト……ワカラン」

そいつはぐるぐると一つ目を回してわからないという事を表現しているのだろうか。


「要するにいうと、お前を見に来てやったんだから逃げる必要ねぇだろ。用事が終わったから俺は帰るわ。じゃあな。」

そう言ってから俺はあまり通ったことのない獣道を辿って下へと降りていった。




家へと帰り、まずは体が泥で汚れてしまったので風呂に入る事にしよう。


浴槽に浸かりながら、今日の出来事を振り返ってみる。

「そういえば今日は奇妙なことがあったなぁ。山の中でいろいろなことがあったり。体が泥だらけになっていたり。」そんなことを考えながら風呂から出る。

あっ!?そういえば……泥を落とす事を優先しすぎて、着替えの用意をするのを忘れていた。

体を拭いた俺は服を着るためにクローゼットのある俺の部屋にいくと驚くべきモノがいた。

スライム状のそいつが俺の部屋に我が物顔のようにのさばっていた。

俺を見つけるとそいつは機会音が混ざったかのようななんとも奇怪な声で

「オカエリ」

そう発言したそいつはでろーんとスライム状の体を広げて部屋のスペースを占領していく。

「おいおい……俺ん家はペット禁止なんだけどな。」

「ペット……?」

「あぁ……家で飼っている動物。家族みたいなもんだな。」

「カゾク!」

どうやらそいつは家族の意味を理解してないようだ。

「家族っていうのは……例え離れ離れになったとしても強い絆で繋がれてる素晴らしい存在だ。」

そいつはそれを聞くと、大きな瞳を閉じ、口角を上げてニヤニヤとした表情を見せた。



はぁ……何だかこいつは家族って言葉を気にいっちまってるようだったけどどうするか……流石にあんな事を言った後にこのまま外に帰すのはかわいそうか。俺になついてついてきちまったようなものだからな。

そう思い、俺はクローゼットの中の服を全て取り出しソイツに

「ここん中だけならお前を住まわせてやっても良いぞ。そのかわり静かにしてろよな。」

「カゾク?」

そう聞いてきたので俺は首を縦に振ると喜んだようにクローゼットの中へと入っていった。

「ご飯よ〜!!」

下のリビングから母の声が聞こえてきた。

「今行く!!」と返事をし、ソイツにはここから出るなよとだけ言い残し階段を降りていった。


食事が終わり、そういえばアイツの餌が何なのか分からなかったことが気になり始めた。

やっぱりこっそり飼うにしても餌がわからないのは問題だよな。

とりあえず、冷蔵庫にある食べ物を片っ端から少しずつ持ち出し、ソイツに与えてみる事にした。

結果だけを先に伝えよう。そいつは全部食べた。

俺はハンバーグの余りや、チーズ、レタス、氷など様々な食べ物を持ってきたはずだが全部食べた。

ソイツに与えてはいけないものがあったかはわからないが、ソイツは「ウマイ……ウマイ」と言っていたので止めることはしなかった。


何か忘れているような気がするがとりあえず今日は眠る事にした。


「ニュースの時間です。昨日、〇〇学園の女子生徒が何者かに刃物で襲われたようです。」

次の日の朝、リビングでテレビをつけながら母親と朝食を食べていると、朝からショッキングなニュースが流れ始めた。

「朝からきみの悪いニュースを流すわね。」

「そうだな。」

「あら?ちょっと昨日と印象変わった?何だか懐かしい感じがするのだけど。」

「前と変わんないだろ。」

「そっか。気のせいよね。」

「次のニュースです。本国と隣国の戦争状態ですが、今も戦況は硬直状態が続いています。国の研究チームは新たな兵器の実験を開始しているそうで」

「今日も物騒ね。でも、あの人だけじゃなくてあなたも連れていかれたら私……もう辛すぎて何かを起こしちゃうかも……あなたが連れていかれないでくれて本当に良かったわ。」

「その話は……」

「えぇ……ごめんなさい。やめておくわね。」

そんな何気ない会話を挟みながら僕たちは食事を食べた。

「次のニュースです一昨日とある研究所からとある生物が脱走したそうです。その生物の特徴は大きなひと……」

「「プチっ!!」」

「もう食べ終わったんだし、テレビ消しても良いでしょ。そんなものばかり見てると学校に遅れるわよ。準備しなさい。」

「はぁい!!」

そう言って俺は鞄を背負い家を出ようとすると、母に

「それ、中学のバッグじゃない?」と指摘された。

「あっ!?そういえば気づかなかった……」

「大丈夫?疲れてるんじゃない?今日は休む?」

「いや、行ってくるよ。」

そんな俺自身でも何故そんなことをしたのかわからないアホみたいな行動をしてから学校へと向かった。


「「キーンコーンカーンコーンッ!!!」」

「おい!!鈴木っ!!お前あの後何をしてたんだ!!」

学校で授業が終わり、放課後になってすぐに僕は職員室に呼び出された。

そこで僕は50代くらいの少しふくよかな体型をした野球部顧問の教員に怒声を浴びせられた。

あっ!!そういえば思い出した。昨日は確か野球場にいたにも関わらず勝手に帰ってしまったんだ……

昨日はいろいろなことがあったからきっと記憶が不確かな状態でいろいろな事をわすれてしまっていたんだろう。

「すみませんでしたっ!!」

「お前が何かあったのかと心配で試合後に全員で探しにいこうかと思ったぞ!!お前の親に連絡をして自宅にいるとのことだったからその必要はなくなったが、」

「すみませんでした!!」

とりあえず、この場をやり過ごすために適当に謝っておくか。

「お前、本当に大丈夫か。いつもの鈴木ならそんな勝手なことをするように思えん。何かあったのなら遠慮なく言えよ。」

「いえ、特に何もありませんっ!!」

「なら良いんだが……それで昨日は何かあったのか?」

昨日は……えっと……

「すみません。ちょっと何かがあって忘れてたんだと思いますが、何かは思い出せません……」

「そうか……お前がそんなこと言うなんてな。わかった。今日ははやく帰って休め。何なら病院に行ってきなさい。じゃあまた明日な。」

「あっ!!はい。ありがとうございました!!失礼します。」

そんな事を言って俺は職員室を後にした。

無論、病院なんか行くはずもない



家に帰り、瞬足で部屋のデスクの前に来た俺は早速PCを開き俺の配信画面を開いた。

今日は親が仕事で夜遅くまで帰ってこない。それならば少し長めにやりたかった配信ができる!!

そう思って配信の設定を管理しているファイルを覗いてみると……

あれ!?前まであったはずのデータが消えてしまっていて身に覚えのないデータが増えている。

と……とりあえず適当に設定だけ整えて、ゲーム配信でもするか……

そう思い、少し古めだが前から配信をしたいと思っていたとあるゲームソフトを取り出し配信を始めた。

「皆さんこんちゃす!!ウツロイミントです!!」

そんないつもの感じで配信は始まった。

しばらくすると少々疑問なことが起こった。

おや……以前は同接数が多くても5人ほどだったのが25人ほどに増えている……

何か炎上するようなことでもしてしまったのか……と不安になっていたが、

リスナーさんはしっかりと配信の挨拶をしてくださりそんな考えは杞憂に配信は始まった。

「それじゃ、今回の配信を終わります。お疲れ様です。」

配信は無事に終了したが、少々気になるコメントを見つけた。

「前もこのゲームやってなかったっけ?」

「前と同じミスしててわろた」

このようなコメントが数件見られたのだ。しかし、俺の記憶にそんな配信をした記憶はない。

そう思い、自身の配信の履歴を見てみると、数件ほど心当たりのないアーカイブが見られたのだ。その中にはもちろん、今日プレイしたゲームもあった。

あれ……こんなたくさん配信してたっけ……それにチャンネル登録者もこんなに増えてる……

思い当たりのない記憶に混乱しながらも、お腹が空いてきたため、今日は母がいないため自分で夕食を買いに行こうと階段を駆け出しながら降りようとした。

「うわっ!?」

階段を降りようとした時に思いっきり足を踏み外し、「ガタッガタッ!!」と勢いよく階段から崩れ落ち、最後に盛大に頭を地面にぶつけた。



ふと、頭が心配になり、怪我をしてないか頭を触ると、しっとりと粘り気のある感覚があった。

あれ……頭から赤い液体が……

それを自分の血だと自覚するのにはそれほど時間は掛からなかった。

あ……すごく血が出てる。何だか、少しずつ視界に霧がかかってゆく。そんな不安定でゆらゆらとした感覚に包まれた、、

もしかして俺って……そう思いながら、瞼の下がらない眼でただぼーっと天井を見ていると、一気に黒緑色に視界が塗りつぶされ意識を失った……



数時間が私は廊下に寝転がった状態で目が覚めた。

あれ……こんなところで寝ちゃってたっけ?

「おまえ……だいじょぶか?」

階段の方から声がしたので見上げてみると、緑色をしたどろっとした生き物が私を見ていた。

「心配してくれてありがと。」

「なぁ……おまえ。ウツロイミントってなに?」

緑色の生き物がそんなことを聞いてきたので

「私のネットで活動する上の名前。ペンネームみたいなものって言えばわかるかな?」

「はいしんもぺんねーむもわからない……」

「配信っていうのはyouube!!っていう配信アプリで行う世界の人といつでもお話しできるものだよ。ただ……配信は定期的にやらなきゃ視聴者が離れていっちゃうから最低でも週に1回以上はやらないと……」

「そうなのか……しちょうしゃ……たくさんのひとにみられるのがよいのか」

「そうだね……ペンネームは……あれだ!!親がつけた名前じゃなくて私が私で決めた名前!!この名前で私はいつか大物になるの!!

「そうか……にししっ」

そういうと、その生き物はどろっとした体の両端を口元に当てて口を隠すかのようにひっそりと笑い出した。

「変かな?」

「すずき……いやウツロイミントのもくひょうをおうえんする!!」

「そっか!!ありがとう。」

それで……私は何をしにきたんだっけ……

ふと時計を見ると時刻は7時半を回っていた。

あっ!!夕食を食べるんだ!!そう思いリビングに向かったがそこに食事は用意されていなく、そこには書き置きがあり、「今日は帰りが遅くなるからこれで何か買って食べてbyあなたの母より」

と書いてあり、その書き置きの下には千円札が置いてあった。

千円札はちょっと多いかな……そうだ!!

「どろどろさん!!」

そう言って先ほどの生き物に声をかけた。

「私のことを心配してもらったみたいだし、一緒に何か食べに行かない?」

そう問いかけると、その生き物は「にししっ!!」と笑い

「いいのか?いくいくっ!!」

と喜んで私の肩に飛びついてきた。

あれ?思ってたりより重くないなぁ。これならこのままでも大丈夫かな。そう言って私たちは家を出た。



「えっと……誰か食べたいものあるかな?」

ファミレスについた私はどろどろさんに聞くと、

「なんでもよい。」と返ってきた。

「じゃあ、私の好きなものを頼むね。それを一緒に食べようか。」

私は普段そんなに食べないので頼む機会がなかった大盛りハンバーグランチ980円を頼むことにした。

「どろどろさんはどこから来たの?」

「たてもの?」

「建物ってどこなの?誰かのお家とか?」

「うん……そこでうまれた。」

「そうなんだ。」

「お待たせいたしました。大盛りハンバーグランチでございます。」

「そんなこと言ってたら来たね。食べようか。」

私はハンバーグを半分に分けてどろどろさんにあげた。

するとニコッとした笑顔を浮かべ、両手でほおを抑えるような仕草をした。

お話もできるし結構人みたいなところもあるんだなぁ……

あとは、私の苦手な人参や豆をどろどろさんにあげたものの、ハンバーグほど喜んでいる様子は見えなかった。

ハンバーグを食べ終わった時に、ふと便意がしてきた。

「ちょっとトイレ行ってくるね。」

そう言って私は席をたちどろどろさんを置いてお手洗いに向かった。

トイレに入ると、少しだけ混んでいて、個室が二つ閉まっていて、個室トイレの前ではスーツを着た男性が何やら電話をしているようだった。

「はい……No239をみつけました。はい……何者かと一緒にいるようです。はい……捕獲しなくてもよろしいので……はい。わかりました。」

そう言ってスーツの男性はトイレから出ていった。

何だったんだろう。アニメみたいな事を言っている人もいるんだなぁ。と思い、個室が空いたのでそこで用を足した。


戻ってみるとどろどろさんが手を振って出迎えてくれた。

「かえるのか?」

「うん。帰ろっか。」

「ここのまち……あまりしらないからさんぽしていい?」

「うん!!夜の街なんて普段出歩かないからしよっか!!」

「やった!」

そう言って「にししっ!!」と笑ったどろどろさんは再び私の肩へと乗ってきた。

「散歩って言ったのに私が歩くじゃん。」

「にししっ!!いこういこう!!」

そんな会話をしつつ会計をして店を出た。


店を出て近くにあった公園の方向へとりあえず歩き出した。

「ここはね。昔お父さんとキャッチボールした公園なんだ。懐かしいなぁ……お父さんはいなくなっちゃってお母さんは結構忙しいんだけど、私が有名になって楽させてあげなきゃ……」

「そうか……かぞくがいなく……」

「そんな辛そうな顔しないでよ。いつまでも過去はひきづらないって決めてるの!!」

「つよいな。ウツロイミントは。」

「ありがとう。じゃあ、そろそろ休憩やめようか。」

そう言ってベンチから私が立ち上がったと同時に背後から

「「バンッ!!バンッ!!」」

と大きな音が鳴り響いたと同時に胸元と顔の右側部分に強い衝撃を受けた。

あれ……力が……

「「ドタッ……」」

私はその場で膝から崩れ落ち、徐々に瞼が降りていった。

「おいっ!!だいじょぶか?なんとかしなきゃ……でもこの傷の具合じゃ……」

「おいっ!!No239この子を助けろ!!いや、助けてください!!」

「あぁ……そうしたいが……そしたらウツロイミントが……」

「いや、人の命の方が大事だ!!頼む!!」

「あぁ……ごめん……ごめ」

そんな声がうっすら聞こえつつ全身が何か暖かいものに包まれる感覚を感じつつ深い眠りについた……







ウツロイミント……君は……こんな事を経験してきたのか……

私は……この子の夢を……家族の絆を……

「No239……すまなかった。もしかしたら、お前が何か危険な事をしでかすかもと上も判断を急いでしまった。」

「いや……俺のことはひとまず良い。それよりウツロイミントは助かるんだろうな。」

「すまない……今はなんとも言えない。少なくとも即死に近い状態だった時に無理矢理お前が細胞を新たに作り補強をした。そんな状態を想定した実験は今までやったことはなかったから無事生還できるという保証はない……」

「じゃあ!!あの子は!!」

「今は生きている……ただいつ目覚めるかわからない……」

「そうか……あっ!!配信!!あの子は夢があるんだ!!その夢が僕のやったことのせいで壊れてしまう。あの子の夢を繋げなきゃ……」

そう思い。まずは今まで細胞を新たに作り出すために記録したデータを思い出し、彼の体そっくりに肉体を作り替える!!

「おい!!お前それは!!!クッソ!!みるみるうちに姿が!!」

ものの5分もたたずに私の体はあの子……ウツロイミントのような体へと変化していった。

ただ……

右目と胸元の傷は………

「お前……その姿は……」

「あぁ……最後に記録したのがあの子が怪我をした状態だったからこの姿でしか彼の姿を再現することができなかった。」



「一体何を考えているんだ!!」

「後は、俺の中にある不要な私に関係する記憶を………」

「まさか……お前……あの子に成り代わる気か?」

「あぁ……彼には果たさなければならない……継続しなければいけない夢がある!!それに、あんなに優しくしてくれている彼の母を悲しませるわけにはいかない!!」

そう言って俺は微かに震えながらポッカリと開いた胸元に腕を叩く。


「そうか……彼のためか……研究所の内容に苛立ちを覚えるほど優しい自我を持っているお前がそこまで肩入れするとは………あぁ、わかった。

彼やお前の幸福を奪ったのは命令があったとは言え全て俺が悪いんだ……俺も無理にでも何とか言って上の連中を説得してみせる。」

「ありがとう。それじゃあ俺に関する記憶のみを消しつつ、彼の記憶を全て残すように調整してっと……」


「ちょっと待て……その姿のまま外に出すの流石にまずい。胸元は服で隠せば良いし後頭部は髪で隠せるとして右目付近の損傷がひどくて、これはとてもじゃないが人前には出せん……そうだな。」

そういうと、スーツの男は髪をワックスで固め右側付近に寄せ、左の方はヘアピンで髪をとめた。

「ひとまずはこれで右目の方は隠せるだろう……あの子のことは何とか上に伝えておくから。後はお前に任せることにする。車で彼の家の前まで送るから、それまでにお前としての最後の準備をしておけ。」

「あぁ……ありがとう……」



それから数分して彼の家の前へと着いた。

「ここで下ろすが大丈夫か?とりあえず俺の車が見えなくなってから記憶は調整しろよ。」

そう言うと、No239いや……ウツロイミントという人間は助手席から降りていった。

「No239。一応確認しておくが、お前は彼、ウツロイミントとして生きていく。もしも彼の意識が復活したらお前を俺が殺して彼にお前の体を呑ませる。これで本当に良いんだよな。」

「そうだな。悪い役回りだけをさせてしまって本当にすまない。」

「いや、元はと言えば彼がベンチから立ち上がるのを考慮せず銃を打ったのが悪かった。だから全て俺が悪いんだ……っとこんなところで話していては流石に色々と怪しまれちまうかもな。じゃあ、達者でな!!ウツロイミント。」


「ったく……心が痛むな……彼自身にも彼の母親にも……無関係な人にほど酷い影響が及ぶ……そして、俺らみたいな国がバックにいる者は事実がある程度隠蔽される……か……月に雲がかかってきたな。」

そっとエンジンをかけた彼の体には普段より少しだけ力が入っていなかった。



あれ?……家の前で俺何してたんだっけ!!手元にはファミレスのレシートと少し赤い塗料がついた10円玉2枚を所持していた。

あぁ!!そういえば、あのファミレスで食べてたのか……

ぎもんもかいけつしたし、とりあえず、ずっと外にいても体が冷えるだけだ。家の玄関に手をかけ開き帰りの声をかける。

「ただいま!!」

「あんた!!何時だと思ってるの!!心配したわよ!!」

リビングの方からお母さんがとてつもない顔で迫ってきた。

「ごめん。公園で休んでたら時間が経ってたみたいで……」

「それなら良かったわ。もしあなたにも何かあったらなんて考えたら……」

「大丈夫だよ!!それじゃあ僕、この後やることあるから!!」

そう言って私は急いで自室へと戻っていき、PCを起動し、普段とと変わらないように配信を始めた


「皆さんこんにちは!!ウツロイミントと申しますっ!!」

主な登場人物のキャラ設定。


ウツロイミント(鈴木)↓

幼い頃に国からの徴兵で父が戦争に連れ出され生死不明の状態となってしまった。戦争は主に力強い男が徴兵されるため、幼い頃は「私。」などの女性寄りの口調を強いられており、それから戦争が一度落ち着きしばらくしてから男らしい口調の「俺。」社会に出たときのための第一歩として「僕。」と一人称を変えていった。

現在は母と2人で暮らしているがとあることがきっかけで意識不明の状態でとある施設にて療養をされている。


No239(現ウツロイミント)↓

ドロっとしたスライム状の体に大きな一つ目と大きく広がる不気味な姿が特徴。

怪我した部分を体で覆う事で、その人に完全に適合した細胞を作り出すことが出来るが、相手の細胞に適合した細胞を作るために、相手の記憶を奪い取る必要がある。

怪我の程度によって奪い取る記憶の量は上下する。

奪われた記憶は程度によってはふとした瞬間に思い出すことが出来るが、大量に奪い取られた記憶を再び思い出すのは難しい。

ただ、スライム状の姿の時に、No239を全て体内に取り込むとNo239が奪った全ての人の記憶を得ることはできる。

また、No239自身は取り込んだ細胞のデータからその細胞の持ち主にそっくりな姿形に変身することが出来る。

変身した姿は最後に細胞を取り込んだ際の怪我をした姿が反映される。

ちなみにほぼ死体の状態でウツロイミントの細胞をコピーしたため、表情を変えるのは難しい



No239の正体は

国が戦争で負傷した兵を回復させつつ、戦争での恐怖体験の記憶を消し、再び戦場に向かわせるために作り上げられた生物兵器。

博士は国の命令でNo238まで沢山の兵器を作ってきたが全て失敗。

No239は機能こそ完璧だったが、本人に非常に強い自我を持ち、博士の自分の役割に対する話を聞いた時に苛立ちや悲しみなどの感情を感じ研究所を逃亡。排水溝を通り遠くの森へと逃げ込んだものの、体にGPSが埋め込まれている事をNo239は知らない。


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