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若き国王は敵国の聖女に恋をする

作者: ヤスゾー

 そこの旅のお方。

 もしかして、この辺は初めて? 案内するよ。

 あなたは甘いものがお好き?

 それとも、辛いものがお好き?

 いや、これが重要なのよ。

 甘いものが好きなら、「甘国」へ行った方がいいよ。あそこは食後のデザートは義務化しているし、美味しいお菓子屋さんがたくさん並んでいるから。

 辛いものが好きななら、どうぞ「辛国」へ。甘いものは基本厳禁。ありとあらゆるスパイスが揃っていて、あなたの舌を刺激してくるよ。

 この辺は、「甘国」と「辛国」の二国が勢力を二分していてね。食事の好みが違いすぎるせいで、この二つの国は仲が悪いのよ。お互い、相手を潰そうとしている状態。怖いね~。

 でも、二つの国には一つだけ共通点があるの。

 魔法よ。

 王族のみ、魔法が使えるんだって。すごいね~。

 王たる人間は、その中で最も強い魔法の力を持っていてね。後継者も魔法の力の強弱によって決めているわけ。女であろうと、末っ子であろうと、愛人の子であろうと関係な~い。魔法の力が強い人間が、次の王。

 後継者に選ばれた人間は「聖人」または「聖女」として、人々の期待を集める事になるの。名誉なことなのよ、本当に。

 現在、辛国の国王はお若く、非常~に強い魔法の力の持ち主らしくてね。まだ独身だから、若い娘達がソワソワしているよ。

 対して、甘国の国王は年をとり、良い後継者に恵まれていない状態。必死も必死よ。辛国の王が優秀だから、こっちも優秀な後継者を立てなくちゃけない。

 さ~て、旅のお方。

 どちらの国に行くか、決めた?



 ▲▽▲▽▲▽


「あ、ハバネロ! ついに、甘国の後継者が現れたみたい」


 辛国国王の執務室。

 部屋の中央奥には、辛国のシンボルである唐辛子の形をした大きな像が鎮座している。その隣にある高級デスクに座っていた男が突然、立ち上がった。


「本当ですか!?」


 男の言葉を聞き、唐辛子像の前で、財務報告していたハバネロ大臣が驚きの声をあげた。

 ハバネロは顎ひげを生やした中年男性だ。首から、唐辛子を形どったネックレスをぶら下げている。


「うん、僕の魔法の力は強いからね。魔法の力を持っている人間は、すぐにわかるんだよ。……これは、けっこう強い魔法の力だよ。でも、近くじゃない。甘国で間違いないと思う」

「流石でございます。エピシ国王陛下」


 ハバネロが頭を垂れた相手は、エピシ国王。年は20歳前後といったところだろう。燃えるような赤い髪を一つに縛っている。羽織っている赤いマントは、ベルベット生地の上質なものであった。

 今まで目を通していた書類を全て床に放り投げ、国王は何枚か地図を広げ始めた。

 文句も言わず、ハバネロは散らばった書類を拾う。


「しかし、タイミングが悪いですね」

「なにが?」


 国王は地図とにらめっこしている。

 魔法を使って、どこに後継者がいるのか、探し当てようとしているのだ。


「今、あなた様のお力もあって、辛国は勢いづいています。また、甘国の国王がお年な事もあって、民がこちらに流れ始めている。まさに、甘国を乗っ取る最高のチャンス! ……なのに、甘国の後継者が現れてしまったら……」


 ハバネロは想像しただけで、ゾッとした。

 甘国の民は、一気に活気づくだろう。

 せっかく弱っている甘国を、侵略しよう企んでいたのに……!


「大丈夫。まだ僕しか気づいていないと思うよ。僕が知る限り、甘国の王族に魔法の力を探知できる人間はいないから」

「いかがします?」

「……見て」


 国王は、地図の一枚を指した。

 それは、甘国にある山間部の小さな町の地図だ。中央には修道院がある。孤児院も兼ねているようだ。


「どうも後継者は、ここにいるみたい」

「え……?」


 ハバネロは首を傾げた。

 魔法を持つ人間は王族のみのはずだ。

 なぜ、修道院に?


「甘国の王族にトラブルってあった?」


 王の質問に、ハバネロはゆっくりと顎ひげを撫でた。


「確か、15年くらい前に、甘国国王の甥がクーデターを起こそうとしたはずでは? 失敗しましたけど」

「それだ!」


 辛国の国王エピシは、部屋の隅にある本棚を探し始めた。そして、「甘国関連事項」と書かれた書物を取り出してきた。


「確か、そのクーデターについて、書いてあったはずだ」


 今度は、机に広げていた地図を無造作に投げ捨てた。そして、取り出した書物を机の上に置く。

 ハバネロは黙って地図を拾い、一枚一枚綺麗に丸めていった。


「あった」


 エピシは穴が開くほど、書類に目を近づける。


「15年前の報告書にある。……国王の甥サンオン公爵は王位を奪おうとするも、失敗。彼は死刑の宣告を受けた。爵位も土地も剥奪され、一家は離散。彼の3歳になる娘は、修道院送りとなった……この子の事だ」


 エピシは近くにあった羽ペンをとると、ふ~と息を吹きかけた。

 羽ペンは少し光を帯び、デスクの上に浮かぶ。


「しばらく執務は、この羽ペンがやってくれる。魔法の力が切れちゃったら、またかけなくちゃいけない。三か月ごとに修道院に来てほしいな」

「えっ! まさか、この修道院に行くのですか!?」

「もちろん」


 エピシは嬉しそうに、にんまりと笑った。


「ここの修道院は、孤児院も兼ねている。僕は魔法を使って、子供に変身し、中に潜入してくるよ。……後継者の魔法の力が、どれくらい強いのか。後継者だと自覚しているのか。確認しておきたいだろう?」


 それはとても意味のある事であり、同時に危険な任務だ。スパイだとバレたら、甘国の連中に殺されてしまうかもしれない。

 ハバネロ大臣は、彼の無事を祈った。


「わかりました。お気をつけてください、国王エピシ様」

「うん。わかった」


 国王エピシは、不敵に笑みを浮かべる。

 彼に恐怖の色はなく、逆に慢心の笑みで満ちていた。




「今日からみなさんと暮らすことになります。エピシ君です。皆さん、仲良くしましょうね」

「はーい!!」


 ある山間部の小さな町に、その修道院はあった。

 甘国の修道院らしく、礼拝堂にはシュガーポットの像が設置され、修道女達は皆シュガーポットのロザリオを首から下げていた。

 そんな修道女達と親を亡くした数十人の子供達が、修道院で一緒に暮らしている。

 魔法を使い、子供に化けたエピシ国王は、見事に修道院に潜り込むことに成功した。

 その姿は短い赤毛に、大きな瞳。みそぼらしい衣服。どこから見ても、五歳の子供だ。辛国の国王には見えない。


(違う、この人じゃない。あの子でもない)


 大きな瞳をキョロキョロさせ、シスター達や子供達を見ていく。

 エピシの目的は、元公爵令嬢である聖女だ。

 強い魔法の力は感じるのに、なかなか見つからない。


「シスター・シュクレ。あなたがこの子の面倒みなさい」


 修道院の院長が、一人の若い修道女を指名した。


「はい、院長様」

(……っ!)


 エピシは思わず、歓喜の声をあげそうになった。

 見つけた。

 このシスターだ!

 魔法の力を、彼女から感じる。


「私はシュクレ。シスター・シュクレよ。エピシ、よろしくね」

「……う、うん」


 エピシは拍子抜けしてしまった。

 聖女だと思われるシスターは、特に美人というわけでもなかった。秀才にも見えないし、元公爵令嬢にも見えない。どこにでもいるような、普通の修道女だ。


「部屋はもう見た? これから礼拝堂や運動場も見て回りましょう。ここは小さいけど、図書館もあるのよ」


 そう言って、エピシの手を握る。

 これほど近づいても、この修道女はエピシの魔法の力に気づいている様子はない。おそらく、本人ですら自分が魔法使いだとは自覚してないだろう。


(何だ、つまらない。これじゃあ、普通の人間と変わらないよ)


 エピシは落胆した。

 これでは張り合いがない。潜入するまでもなかった。


(でも……)


 すぐに、エピシは己の考えを撤回した。


(この子から強い魔法の力は感じるのは、確かだ。今のうちに始末した方が、今後の為かもしれないね)

「あら」

「……!」


 シスター・シュクレが少し声を上げたので、エピシの胸は跳ね上がった。


(僕の考えている事がバレたのか!?)


 魔法の力を自覚していないとは言え、魔法使い。心の中くらい読めても不思議ではない。

 しかし、動揺しているエピシとは反対に、シスターは「ふふふ」と笑いかけた。


「エピシの手は温かいのね。とても気持ちがいいわ」

「……え」


 優しくふんわりと笑うシスターに、エピシの胸は少し疼いた。

 奇妙な感覚だった。




 シスター・シュクレは、とにかく優しかった。

 ある日、甘いクッキーがおやつに出た。普段、エピシは甘いものを食べない。辛国は基本、甘いものは禁止されているからだ。頑張って食べてみたものの、体と心が受け付けず、吐いてしまった。

 そこに、シュクレが真っ先に駆け付け、エピシの背中をさすってくれた。


「吐いちゃったの? 大丈夫?」

「……」

「苦しいね。つらいよね。大丈夫、大丈夫。楽になるまで、そばにいるからね」


 子供のころ、強力な魔法が使えると判明してから、エピシは厳しい教育を受けた。親に会うことは許されず、大人から優しくされた経験がなかった。

 そんなエピシにとって、これは衝撃的な出来事だった。


「シュ、シュクレ……」

「うん?」

「うっ……うっ……」


 シュクレの柔らかい笑顔を見ると、エピシの心がほどけた。

 エピシは国王であることも忘れ、聖女のことも忘れ、彼女の腕の中に飛び込んだ。そして、子供らしく、嗚咽をあげたのだった。


 また、違う日には、エピシは孤児院の廊下に設置されていたシュガーポットの像を壊してしまった事があった。

 子供の時、子供らしい遊びをしていないエピシにとって、孤児院での生活は新鮮で面白かった。

 特に、ボール遊びを好み、廊下で投げていたところ、思いっきりシュガーポットの像を壊してしまったのだ。


「何の音!?」


 陶器の割れる音に、シュクレが飛び出してきた。

 怒られる!

 幼少時、辛国ではよく怒られた。下手すれば、殴られた。

 思わず、身を縮めたが、エピシに与えられたのは拳ではなく、温かい優しい手だった。


「どこか痛くない? けがは?」

「……う、うん。へいき」

「そう、良かった」


 その後、エピシはしっかりと怒られた。

 が、最初に自分の身の安全を確認してくれた事が嬉しくて、嫌な気分にはならなかった。


 そんなことが毎日続き、エピシの心境は「見張る」から「見ていたい」にだんだん変化していった。

 もっと笑ってほしい。

 もっとお話もしたい。

 もっともっと、そばにいたい。


 もはや、エピシにとって、シュクレはなくてはならない存在になっていた……。




 一年後。

 山間部の夜は冷える。

 その代わり、空は光に満ちた月に照らされ、その周りに星空が散りばめられていた。その美しさは、都会育ちの人間達であれば心を奪われるほどだ。

 そこに、40代くらいの男が訪れた。

 首から唐辛子のネックレスをぶら下げている。

 辛国のハバネロ大臣である。

 彼は、修道院の裏に回ると、人を待つ事にした。

 もちろん、待ち人はエピシ国王だ。

 大臣は国王の言いつけ通り、三か月ごとに修道院に寄るようにしていた。


「エピシ国王」

「ハバネロ」


 修道院の裏口近くにある大きな岩の上に、エピシは座っていた。

 子供の姿ではなく、大人の姿だ。


「久しぶりだね」


 妖艶な笑みを向けると、エピシは岩の上から飛び降りた。

 ハバネロは恭しく一礼する。


「はい。三か月ぶりです」

「そうか。……あ、羽ペン、もらうよ」


 エピシはハバネロから羽ペンを受け取った。

 すぐに、エピシはペンに息を吹きかける。光を失っていた羽ペンがみるみる輝き始めた。

 そのペンを受け取ると、ハバネロは聖女の様子を尋ねた。


「どうでしょう? 聖女の様子は?」

「何の変化もないよ。相変わらず、優しいよ」

「まだ本人は自覚してないと?」

「うん。最近、笑顔がますます綺麗になってね。あの笑顔を見ると、心がフワフワするんだ」

「エピシ様」


 ハバネロは一歩前に出て、進言した。


「辛国へお戻りになってください」

「なんで!?」

「なんで!? じゃないでしょう!」


 ハバネロはため息をついた。

 聖女の報告に「優しい」だの、「綺麗になった」だの、そんな内容は要らないのだ。ましてや、「心がフワフワする」って。


「あなたね、好きなんですか!? シスター・シュクレが!」

「な、な、なっ……!」


 ものすごく分かりやすい動揺。

 エピシの顔は唐辛子のように真っ赤だ。


「そ、そ、そんな事ないもん!! す、す、す、好きじゃないもん!」


 その時、ハバネロは思った。


(あ、ダメだ。これは「大好き」だ)


 ハバネロは頭を抱えた。

 そして、後悔した。

 こうなるなら、修道院に国王を送り込むべきではなかった。


「ハバネロ、そんな事、誰にも言わないでよ! 内緒だよ!」

「言うわけないでしょう! どんな顔をして、大臣達や民に報告するんですか!?」


 辛国の国王が、甘国の聖女に恋をしました。

 言えるわけがない。

 いや、言ったところで誰も信じないだろう。

 そこに。


「誰かいるの?」


 裏口の扉が開き、一人の修道女が出てきた。

 シュクレだ。


「……あ」


 気が付いた時には、もう遅い。

 エピシが子供の姿に戻る時間はなく。


「……」

「……」


 二人の目が合った。

 満天の星空の下、月が煌々と照らす中、辛国の国王と甘国の聖女は出会ってしまった。

 一瞬、時が止まったのかと、ハバネロは思った。

 それだけ二人は、しばらく見つめ合っていたのだ。

 最初に口を開いたのは、シュクレだった。


「エピシ……? エピシなの?」


 エピシもハバネロも目を見開いた。

 驚いた。

 普通は気付かないものだ。

 これが聖女の力なのか。


「……あ、シュ、シュクレ……あのね、これはね」


 慌てて弁明をしようとするエピシ。

 しかし、シュクレの言葉は意外なものだった。


「まあ! こんなに大きくなっちゃって!」

「え」

「さっきまで、こんなに小さかったじゃない! 子供の成長は、人それぞれって言うけれど、こんな事もあるのね」


(あるわけないだろう!)


 ハバネロは心で突っ込んだ。

 と、同時に聖女の器の大きさに度肝を抜かれる。


(……これが凡人ではない。聖女たる所以か)


「そ、そうなの。いつの間にか、こんなに大きくなっちゃって。えへへ」


 エピシは笑って誤魔化した。


「でも、こんな時間に修道院の外に出るのは感心しないわ。部屋に戻りなさい」

「はーい」

「ねえ、エピシ。あの男性は誰?」


 シスター・シュクレはハバネロを一瞥する。

 辛国の人間だとバレてはまずい。 

 ハバネロは背を向け、わざとらしいまでに口笛を吹いてみた。


「知らなーい」


 エピシの笑顔にシュクレはこれ以上、ハバネロを気にしなかった。

 そのまま、エピシは修道院の中へと入ってしまったのである。


「……」


 一人取り残されたハバネロ。

 エピシが大人の姿で修道院に入っていったのが気になる。

 子供の姿のままだから良かったのに、あの姿で果たしてうまくやっていけるのか……?

 不安を残しながらも、山を下りて行った。


 もちろん。

 うまくやっていけるわけがない。


「シスター・シュクレ! ここに成人男性を入れてはいけません!」


 突然のエピシの成長に、修道院は大パニックになった。

 それとは反対に、シュクレはニコニコ笑って対応する。


「嫌ですわ。この子はエピシですよ」

「エピシ!? そんなわけないでしょう! 追い出しなさい!」

「そんな。まだ5歳ですわ」

「こんな5歳がいますか!?」


 元のエピシは、どの修道女達よりも背丈が高く、声はすっかり低くなっている。

 これで「5歳です」と言われても、誰も納得しない。


 結局、エピシは「大人」と判断され、孤児院を出ていく事になってしまった。




 あの日と同じ、肌寒い夜だった。

 残念なのは、あの日とは違い、空が雲に覆われている事だ。

 修道院の裏口の近くにある大きな岩の下で、シスター・シュクレは誰かを待っていた。


「シュクレ」

「あ、エピシ」


 シュクレが振り返ると、そこにはエピシが立っていた。

 孤児院を出てからも、エピシは大臣達の目を盗んで、シュクレに会いに行っていった。

 シュクレもエピシに会う事は、嫌ではなかった。

 当初、エピシは泥棒のように修道院に忍び込んできたので、シュクレの方から日時と場所を決め、出会う事にしていたのだ。


「エピシ。新しい生活はどう? 慣れた?」

「……まあ、あっちが元々、生活していた場所だし……」

「なに?」

「いいや! うん、とてもいい所に住んでいるよ!」

「そう。あまり食べすぎちゃダメよ。あなたはよく吐いていたから」

「嫌だな。僕はもう大人だよ~」

「あら。じゃあ、後片付けが出来るようになったのかしら?」

「うっ! で、出来るように努力しています……」


 仲睦まじく談笑する二人。

 そんな二人を見つめる影が一つあった。


「……」


 ハバネロだ。

 エピシが教会を抜け出し、夜な夜なシュクレに会いに行っている事は知っていた。

 大きな岩の陰から、こっそりと二人の様子を見ている。


「努力しているなんて偉いわ」

「うん。シュクレに見せてあげたいくらい」

「そう。いい子ね」

「えへへへ」


 エピシの嬉しそうな顔を見ていると、ハバネロとしては複雑な気持ちになった。

 最近、エピシの求心力が無くなってきている。辛国に一時の勢いはなく、エピシ自身も凄みが無い。もはや、甘国への侵攻は、「なかったこと」になりつつある。


(ありえないだろう!)


 ハバネロは、心底悔しがった。

 後片付けなんぞ、出来なくても良かった。エピシ国王のカリスマ性が失われるくらいなら、今まで通り、黙って片付いていた方がマシだ。


(こ、このままにはさせないぞ!)


 ハバネロは野心に燃えた。

 そうだ。甘国に「シスター・シュクレは聖女」だと吹聴しよう。そうすれば、甘国はシュクレをここにはいさせないだろう。城へ招き、検査を受けた後、正式に聖女として扱うはずだ。そうなったら、エピシ国王ですら彼女に会うのは難しくなる。


「あのね、シュクレ」


 エピシは指を不自然に動かしながら、顔をチリソース色に染めた。


「僕、君の事、好き。だ~い好き!」

「ありがとう。私も好きよ」

「本当!? じゃあ、僕のお妃さまになってくれる?」

「あら、ボール遊びの次は王様ごっこが好きになったの?」

「え~。僕、本物の王様なのにな……」

「?」


 やるなら今すぐだ。

 今すぐ、二人を引き離さなくてはいけない。

 様々な思索を巡らせ、ハバネロはその場を後にした。



 ▲▽▲▽▲▽


 

 あ~れ、旅のお方。

 何年振りよ。久しぶりじゃない?

 この辺、変わったでしょう?

 辛国と甘国の仲が良くなったのよ~。

 今では、甘国でも辛いものが食べられるし、辛国でもデザートが出てくるのよ。様々な味が楽しめて、民は大喜び。

 え? 一体、何があったのかって?

 甘国に「聖女」が見つかってね~。二つの国は大騒ぎよ。せっかく見つけた「聖女」を甘国の王子が追い出そうとするわ、その隙に辛国は甘国に攻め入ろうとするわ……あ、甘国の「聖女」が辛国の国王をさらっちゃったのには驚いたね~、もうてんやわんやよ。

 ねえ、旅のお方。

 この話、とてもとーても長くなるから。

 辛~いカレーライスでも食べながら、聞いていきな。

 食後には、甘いバニラアイスを付けちゃうよ。



最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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