言葉に表せない錯覚
いつも読んでいただきそして応援をくださり誠にありがとうございます。感想やコメントも大歓迎です。
今回、琴絵も何かやらかしてしまったようだが、一体どのようなミスをおかしたのでしょうか……読んでいただければと思います。
里紗が琴絵と同居になったその日の次は週末ということで、二人はまた他のゲームに手を出した。今度はチームワークが重視される協力系だ。里紗と一緒にゲーム三昧で過ごすの段々慣れてきた琴絵はなんだか今までポカンと空いてた心の穴を埋められた気分となった。
幸せな週末がもうすぐ終わり、明日が月曜日なのだ。すると里紗はやさぐれ気味の声をあげる。
「ああ、素晴らしい週末が終わり、再び地獄の月曜が始まる……」
「なんだよその消極的な発言、夜途さんは学校嫌いなの?」
「むしろ好きだが、天気だよ、天気」
里紗はソファーで横になって気持ちよさそうな欠伸をする。彼女は気だるそうに頬杖をついてぶらんと手を下げる。まるでしっかりと座るのも億劫になり、両足を琴絵の太ももに置く。見るに堪えなくなった琴絵は無情にも里紗の両足をぺちんと叩いて、どかせた。
「確かに、天気予報によると雨らしいけど、それが何?」
「雨だからこそよ」
「ひょっとして水苦手?」
「そんなわけないだろう、水苦手だったら、お風呂なんて入れねぇわ」
「そっか」
琴絵はどうでもいいかのような白けた口調で返答した。彼女がちょっとずつぶらぶらしてこめかみを揉んで、徐々に遠ざかっていく意識を呼び戻そうとする。だが里紗は物足りない感じのようで、ひっきりなしに琴絵に話しかける。
「な、結凪、ゲーム続くか?」
「まだやんの? すごいな夜途さん。もう二日半も連続で遊んでたよね」
「え、そんなに?」
「夜途さんって不思議だね。若いっていいよね。私はもう寝るよ、明日早起きしないと……」
「同じ年だろう、そんなに差がつくもんじゃねぇし。こんな中途半端なところでいいの? もう少しでラスボスだよ」
相変わらず変なところに煽って、妙なタイミングで張り合ってる里紗は有頂天になる。こうなると後に引けないなと判断した琴絵だが、いつから時機を窺う眠気が襲い掛かってきて、さも自分がスポンジになって水を吸収するにつれ、じっくりと眠りに落ちそうなのだ。
あれは海の底に引きつられたように重く、意識がどんどん薄くなってくる。
彼女は無意識に里紗の方に寄せて、肩が完全にくっついた状態になった。頭まで乗せちゃいそうなぎりぎりなところまで来た。彼女は意識朦朧とした状態にさまよい、辛うじて口を開いた。
「あれはね、今の私たちの戦力じゃ勝てないよ、論外論外。だから精気を養ってからいくの、ほら明日は特別任務あるだろう、そこでレア装備とか拾って……だから一旦切るわ」
「じゃ、私続くね」
「本当に疲れないの?」
「うん、疲れとか感じられないから」
「いいな……」
睡魔にゴリ押しつぶされた琴絵は最後の意識で絞り出した一言で終わり、パタンと里紗の太ももに倒れていき、深い眠りにつき始めた。驚異的な速さに瞠目する里紗はその無防備で幸せそうな寝顔に目をやる。
「寝入り早いな、人間ってそういう生き物なのかな。しかも、なんで私膝の上に寝てんの……あまりにも自然すぎて気づけなかったわ。どうしよう……ベッドに放り込んだ方がいいかな」
里紗は琴絵を起こそうとしたが、流石に熟睡してる人のいい夢をむやみに邪魔するのは気の毒なので、そっとしておくことにした。彼女は再び好奇心に駆り立てられて、そのスヤスヤと寝ている寝顔に目を凝らす。
その横顔を触れたくて、手前まで来たがブレーキをかけたかのように手をひっこめた。里紗はわずかに険しい表情でぎゅっと唇をかみしめる。彼女はやんわりと首を横に振って、苦し紛れの微笑みをたたえた。
一抹の悲痛が顔の上をよぎって、彼女の知らぬ間にそのもどかしい感情が無秩序に膨らみあがった。里紗は歯ぎしりして、ぐちゃぐちゃになった糸のような情緒を十把一絡げに押し入りの奥にぶちこんだ。
「似ているが、まったく似てなかった……」
と意味深な感想を淡々と述べて、わずかに開いた口を一文字にしっかりと結んだ。目の奥に据えているのは行き場のない寂しさと懐古の念が透けている。彼女は自分の両手をじっと見下ろしていたが、しばらく経つと、元通りに返って、疲れた目をしょぼつかせる。
「あ~あ、やっぱいいわ、今はゲームに集中しとこう」
こうして里紗は不眠不休にゲームに打ち込んで、朝までやりこんでいた。時折、安らかに寝ている琴絵の状況を見たり、死んだかのような寝顔をしていので、息がしているかどうか、わざわざ耳を寄せて、寝息を確認する。
そして、外も徐々に明るくなって朝がやってきた。琴絵はうなり声をあげて、猫のようにびょんーと体を伸ばして目をこする。起きたばかりに里紗の顔がばっちりと視界に入った。
「うむ……」
よくこの体勢で朝までゲームをやったねと琴絵は感心しつつ、スマホをちょこっといじり始めた。
「ようやく起きてくれたか?」
「うん……夜途さんおはよう」
「おはよう、ならさっさと私からどいてくれない? 足が痺れた」
里紗はしかめっ面して、歯がゆくてたまらない様子だが確実に口調が緩まっている。まるで街で鳩やらスズメやらを見た際、ずっと追いかけたいという好奇心を引き上げられて、そわそわしながら忍び足抜き足差し足で尾行するかのような謹慎さだ。
「何の話?」
「膝枕、それで痺れた、感覚がなくなった、どう賠償してくれの?」
「え? なななななに! なんでこうなった、たしかに枕を持ってきたんだが……」
「錯覚なんじゃない? なんか人間ってうとうとしているとああいう感じになっちゃうらしいよ。ポカーンって」
慌てて里紗と距離の置いた琴絵は両眉を寄せる。何かを話そうとしたがすぐに途切れ途切れになり、話しているうちに声も著しく小さくなる。里紗とのアイコンタクトもなるべく避けるばかりだ。
「ごめん、夜途さん、起こしてくれても……」
「そんなスヤスヤの寝顔を見たら、起こす気なんてねぇわよ。次から起こしてやるよ」
「ああ……あれ? 本当に雨だな」
「お、本当だ」
里紗は不機嫌に舌打ちする、胸騒ぎのようなイライラが腹の底から湧き上がって、焦燥感が募る一方だ。琴絵は彼女の愚痴を聞きながら素早く着替えてカバンに授業用のものをぞんざいに突っ込んで、手慣れた手つきで髪をとかす。
「こうなったら、滅入っちゃうわ。学校に行かない」
「は? 何言ってるの、夜途さん」
「どうせ、一回や二回ぐらいどうでもいいだろう、私の能力でぱぱっと記憶操作すらできるから、平気」
「いいな……まぁ私はもういくよ」
「朝ごはんは? 食べないの?」
琴絵はチラッとスマホに表示された時間を見る、そろそろかと言わんばかりに靴を履いて、玄関で些末なことを済ませて、青い傘を腕に掛けて出かけしようとする。
「食べない派なの、じゃ行ってくる」
「いってらっしゃい~」
静まり返った部屋と外の景色がそぐわないほど苛立ちを感じさせる。凄まじい響きを立てて、その煩わしい雨音がすべての悩み事をかき消すかのように延々と降り続ける。里紗は我を忘れるほど窓の景色を食い入るように見つめる。
「なんか今日、事件の予感……」
彼女は静かに深い息を吐き出し、ソファーにもたれる。
読んでいただきありがとうございます。次回も楽しみにしていただけると幸いです。




