手が出ないもの
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前回、里紗はようやく自分が人間じゃないことを暴いたが、どうやら琴絵に信じてもらえず、この後は一体どうなるのでしょうか……読んでいただければと思います。
──困ったな……このままじゃ夜途さんは本気で泣き出すよね。でも意外とまれかも、尚更みたいね。
琴絵はいたずらっぽい薄笑いを浮かべて、腕を組みなおす。彼女は鼻を鳴らせながら、気持を入れ替えるために深呼吸して、集中するように顔をしかめる。
「おお怖いね。悪魔って怖いわ、漏らしちゃうところだったわー」
言葉と裏腹に琴絵はその三流芝居でしのぐつもりで、はぐらかすかのようなぼんやりとした言い方で茶を濁そうとする。しかしすぐに、里紗に見破られて、不満を帯びた口調でずばっとツッコミを入れる。
「棒読みじゃん」
「悪かったな、これは限界なのよ。で、夜途さんの荷物先に持って来てもらってもいい」
「本当か!? 本当に住まわせてくれるか?」
先ほど、泣かんばかりの顔を見せた里紗だったが、気持ちの切り替えが早すぎて、琴絵も拍子抜けの表情をする。気分が沈んだように天を仰いで疲労が滲んだ嘆息をする。
「やっぱその狙いか……」
「よかったね結凪、死ななくて」
「おかげさまで」
琴絵は空虚な眼差しを向けて皮肉に言い返した。それにもかかわらず里紗は上機嫌によろしくなと言わんばかりに彼女の両手を強く握った。まるで彼女の周りに花畑でも咲いているかのように顔を輝かせる。
「ていうかなんの原因で引っ越しになった?」
「金がない……食いしん坊だから、大体のお金は食費にぶちこんでいた」
「バカかよ、と言いたいところだが、その気持ちはわかるよ、課金と同様だ」
「課金? まぁよくわからないけど、似た者同士ってことよね」
里紗は子供のように満悦の表情を隠せず、満面の笑みを咲かせて親指を立てる。それにひきかえ、琴絵は苦笑を禁じ得なかったが、自分の情緒も彼女につられて口元がほころびた。
「ほどほどにね、バイトとかやってる?」
「もちろんさ、もしかして結凪も同じか?」
「ああ、やらないと生きていけないからな」
「あんたも大変だな」
里紗は彼女の背中を軽く叩いて、安心させるようになだめるような口調で話す。そこで電流のような暖かさが琴絵のところにシュッと流れてきて、不思議な感じだったが、このような温もりを感じられるのはいつぶりなんだろうと、彼女は自問自答を繰り返してきた。
「そういえば、夜途さん食べる?」
「え? これは結凪のものよ、独り占めの絶好のチャンスよ」
そうは言ったものの、里紗の視線は一度もそのケーキから離したことはなかった。まるで釘付けかのように目を凝らし、唇はわずかに開いて自分の欲しがっているものに傾ける。やむを得ず、唾をのむことに己の欲を抑える。すると琴絵はフォークから視線を外して、里紗のところに戻る。
──顔がバレバレなんだが……実は食べたんじゃないか?
「半分こしよ、どうせ食べきれないんで」
「本当!?」
「うん」
「なんか……ありがとうね」
里紗は申し訳なさそうに頭をかいて照れ笑いし、鼻をこする。そんな彼女を目に映った琴絵は思わず可愛いとぼろっと心の声を漏らしてしまったが、すかさずに咳払いして、里紗に半分切ってたケーキをよこす。
「はい、どうぞ」
「……」
「今度はなに?」
「ねぇ、せっかくだから、一つお得情報を教えてあげる」
「な~に?」
琴絵も空気を読んで、里紗に合わせてノリノリの様子を見せる。彼女はソファーで胡坐かいて太ももに頬杖をつく。ケーキの旨さに浸し、もぐもぐしている里紗を見つめる。すると里紗はフォークをプレートの上に置いて、口元についてるクリームを舐める。
「私と契約しない?」
「まず言っとくが、魔法少女なんてやらない。断じてね」
「なんだよアレ……いきなりそのワードが出てきて、どんな反応をすればいいのよ、まぁとにかくそういうものじゃないんだ」
「じゃ、どんなもの?」
「結凪の命を私に預ければ、何でもかなってあげるよ」
里紗は強気な姿勢を取り、尖塔のように指先を合わせて意味深な笑みをたたえる。暗闇に潜んでいる獣のように目を爛々と光らせる。プンプンと匂わせてくる危険な匂いに琴絵は本能的に体をこわばらせる。
「え? そんなのできるの?」
「ええ、『何でも』いいのよ。そうね、死者を復活させるのも可能だ、なんせ結凪の命を対価としたからね」
「それは目が眩むわね……でもたぶん要らないかも。それこそが命の尊さかな」
琴絵は柔和な眼差しで里紗を見つめ返し、やや苦いのを走ったトーンで今の自分にもっとも相応しい返答を出した。その笑みの裏に隠している情緒に気づているにもかかわらず、これ以上は何も諭さないと徹底する里紗はごくりと頷いた。
「……」
「夜途さんって、本当に悪魔なのか?」
「またこの問題に戻るのかよ、本当だ。でも私、人間大好だし、羨ましいと思ってる」
里紗は琴絵の頭をぽんぽんと撫でて、晴れやかな笑みを浮かべる。子ども扱いされたような気分を味わった琴絵だが、特にムカついたところはないため、そのままじっとしていた。そして彼女はそばに吞気に座っている里紗から視線を切る。
「じゃなんで私の命を欲しがってるの?」
「そりゃそうさ、悪魔なんだから、根っから悪いやつなんだ」
──自称かよ……そんなやついる?
「人間好きって言ったのに、特大ブーメランじゃん」
琴絵は再びフォークでケーキを刺して、口に運ぶ。あまりの美味しさに片眉をあげて、満足げなため息を漏らす。いきなり食べに急ぐ琴絵の姿が目に入って、ほんわかな気持ちを顔の上に漂わせる。
「どうせ時間はまだまだ長いし、互いのことも理解し合おう。急ぐ必要がない」
「勝手にしろ……私はもう食べ終わったんで、再開するよ。今度は負けねぇからな」
「ふうん。どうかな……」
「チートとかはダメよ」
「そんなところで能力使わないよ、たぶん」
こうして二人はまたゲームの世界に夢中して、互いを切磋琢磨し、夜まで遊んでた。
読んでいただきありがとうございます。次回も楽しみにしていただけると幸いです。




