兵は偽りを厭わず
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ようやくその謎に迫ってきましたね、果たして里紗はどのような反応をするのか、読んでいただければと思います。
ふと止んだガタガタ音がいつから再び響き始めて、里紗は相変わらず何もしゃべらないまま、ゲームで必殺技を使った。琴絵はすぐゲームパッドを手に取り、咄嗟にガードを固めたものの、一瞬にして破られて、負けてしまった。
「ああああ!! なにすんのよ、夜途さん!」
「……」
「駄目じゃないか! ひどい! ずるいなぁ……」
琴絵は目玉が飛び出そうぐらいとびあがった。鳩が豆鉄砲を食ったような顔して小言を並べる。
「……」
「夜途さん、不意打ちは感心しないけど、さっきの蹴りよかったわ」
「意味がわからない」
「え? なんの話? もしかしてさっきの質問? それなら絵を描いてやるか? 私、絵に自信あるんだ。それを見たら夜途さんもきっとわかるはず。ちょっと待っててね、スケッチブックを取りに来る」
琴絵はソファーから立ち上がろうとしたが、裾を引っ張られた異様を感じて、視線を下に移すと里紗が口をつぐんだまま伏し目になる。形のない圧迫感が琴絵に襲い掛かかり、喉に刺さった小骨のようにどこかに引っかかれたようだ。
「あ、夜途さん? どうした? これじゃ取りに行けないよ」
「……」
「見えるか?」
「見ちゃいけないやつなの?」
「もし、私が人間じゃないって言ったらどうする?」
里紗は獲物を前にした獰猛な獣のような低い声で仮説を立てた。向こうにじっと見つめられていた琴絵はその鋭い視線と向き合うなり、底知れぬ恐怖に包み込まれて、その場を離れようとしても、足元に太い根に絡まれたかのように身動きとれなかった。
──なんだ、その唐突な入り方は。
「まさか、冗談はやめてよ……」
「本気だ」
「じゃ、幽霊? でも幽霊ってあんな角生えてないよね」
「幽霊や化け物でもなく、正真正銘の悪魔かな」
「え?」
里紗からの視線を逸らしつつ、言葉に詰まった琴絵は口をパクパクさせる羽目になった。なぜか指先から寒さが伝わり、不意に氷水をかけられた気持ち悪さと伴って、体の芯まで凍りつくような違和感を覚えた。里紗はこんな立ちすくんている琴絵から視線を切って、瞼を閉じる。
里紗はごく平穏な口調でぼそっと呟く。彼女は誰にも本意を見通させないため、複雑な表情を浮かべる。彼女はコップの縁をなぞって、耳に刺さるような音を立てる。琴絵は冷静を取り戻さんがため、自分のコップに水をいれて、一口を飲んでからブクブクと音を立てた。
「私も予想つかなかった。まさか結凪が見えるとは……」
「待て待て、全然わからないんだけど。これコスプレだよね」
「では、聞こうか、他のやつらには見えないだろう、それを気付かなかった?」
「そう言われても……」
彼女は記憶の糸たぐるかのように頭を捻って、それらに関連していることを思い出そうとしてる。ふと彼女は目を見開いて、頭の中に過去を再現する。あれは彼女が担任の先生にタバコを吸っているかと疑われて、説教されたあとの話だ。
────回想タイム────
「結凪さん、大丈夫ですか?」
声をかけてくるのは初日目と同様、琴絵とほんのわずかな会話を交わしてた子だった。自分に消しゴムのかたきを討つに来たのかってちょっと心配していたが、一応これで二度目の接点ということもあって、口角の喜びを隠せなかった。
彼女はその子のこと、「ビビり子」と心の中で名付けたようだ。
──うれしいけど、私に何の用?
「どうしたの? そんな慌てて」
「いや……お節介なのでしょうか?」
琴絵はゆっくりとかぶりを振って、霧のような微笑みをたたえる。
「担任に呼ばれてきたから、何があったのかなって心配してました」
「ありがとう。別に大したことじゃないよ。そんなことより、一つ聞いていい?」
「はい……」
「夜途さんって……」
「夜途さん?」
「ああ、あの怖そうな金髪の子だ」
琴絵ははっと息をのんで、顔を何度も触る。さっきやられたことにまだ根に持っているようだ。
「ああ、あの綺麗な人ですね。それで?」
「その……あの人コスプレ好きなの?」
「金髪だけで、コスプレ好きというわけではないと思うんですけど」
ビビり子は納得しそうにない顔して、頭をかき回し、反応も若干遅れている様子だ。
「違う、髪色の話じゃない。頭のところに……」
「髪質ですか?」
「違う違う、角!」
その子はためらいがちに軽く頭を横に傾けて、不思議そうな表情を表にする。
「やっぱりなんでもない。ごめん」
────回想タイム終了────
──てことは、私だけが見えるの?
「じゃ何しにきた? なにもあげられないのよ」
「ここにいるじゃない?」
まるで路肩にある雑草を踏みつぶすかのように里紗は冷たい視線を向ける。彼女に言われなくとも自分が標的にされたと感づいてしまった琴絵は言葉を失った。はやる心や小鹿のようにぷるぷると震え上がる両足は自分が怯えている証拠だ。
心臓の音もやけにうるさく、呼吸とともに乱れている。それらの音色が鼓膜に焼き付けるかのように耳障りだった。彼女は自分を宥めるように食い込むほど拳を握りしめる。そして無駄な虚勢を張る。
「こんな命、売ってもいい値段付けないよ。それに私、これからイベントをやるんだから、せめてそれをやってからにして」
「一つだけ回避できる方法がある」
「なんか話が嚙み合わないんだけど……」
「私に住む場所をくれたら、その結末は回避できる」
「……」
さも琴絵が見渡す限りの海の真ん中に放り出されて、呆然とした気分になり、ぎこちない振る舞いと共に首をかしげる。彼女はわざとらしく語尾をあげて、ずっと横目で里紗を見る。
「夜途さんって素直じゃないな、私と同居したいなら、直接言えばいいじゃない。こんな回りくどいやり方なんて……」
「何を言ってる! そういうことじゃない!」
「はいはい、わかった。ほら、茶番も終わったから、ゲームに戻ろうぜ。やられたらやり返すわ!」
里紗は地団駄を踏まんばかりの勢いで立ち上がって、駄々をこねている様子。彼女は琴絵の肩を掴んで、前後に揺らす。ただ琴絵はひたすら身を任せて、聞く耳すら持たなかった。
「だから、本当だよ。紛れもなく悪魔なのよ」
「もうわかったんだから、そんなにアピールしなくてもいいって」
「……」
里紗は涙ぐんで唇をかみしめる。それだけで精一杯のようで、視界がどんどん潤ってきて、かすんでいるように見えるが、彼女は真っ直ぐに琴絵に視線を送る。まるで不満を訴えるような目だった。
読んでいただきありがとうございます。次回も楽しみにしていただけると幸いです。




