猫を被る
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──えっと。言い訳とかは考えておこう。どうせしばかれるなら、まともな理由を絞り出した方がいい。
と琴絵は開き直り、腹に力を入れて平静をよそうとするが、馬脚を露すのか心配で小刻みに震えている。彼女はチラチラと自分の家の扉を視線を送りながら、不安定な手をすり合わせる。
がチャーの音と共に玄関のドアが開いた。里紗はちゃちゃっと中を入り、冷蔵庫を開く。そのうち、琴絵は彼女の家をじろじろと目を凝らす。一番不思議に思える点は部屋中はがらがらの状態だ。たったの三つの箱が真ん中に置かれていることに、さりげなく里紗に問いかける。
「どうして夜途さんの部屋って、こんなにもすっからかんなの? 引っ越しとか?」
「まぁ、そんなもんぐらいかな」
「えー、そうなんだ。ところが荷物少ないね」
「そう? 普通じゃない? 不要なものは事前に捨てておいたから」
里紗も琴絵と一緒にあの箱たちに視線を投げる。彼女は形容しがたい妙な表情を浮かべているが、考え事に集中していたのか、茫然としたのか、それが複雑にまじりあったかのように読み切れない顔だ。
──いや……大体引っ越しって、何十箱もあるよな。それに比べてたったの三つしかないよ。あまりにも少なすぎる。
「まぁ、荷物が少ない分、楽になるからね」
「……うん」
いまいちな反応に琴絵は少ししっくりしない感を覚えたものの、その疑念を口に出さないことにした。里紗は彼女の言いよどんだ表情を捉えたが、それを視界に入れようとしないふりして、彼女を呼んだ。
「そんなことより、ほら、スイーツ」
「おおおお!」
まるでさっきのことを全部忘れていたかのように琴絵は気ままの表情に切り替え、豊かな感情を見せる。さも他のものが眼中に入らないように、里紗の手のひらに乗せている高級そうなパッケージしてるスイーツをじっと見つめる。
「これ、結凪の家で食べな」
「ありがとう……なんかごめんね」
「気にすんな、お詫びの気持ちも含めている。まぁあんな面白いシーン見せられたから、超釣り合ってるわ」
こんなコロコロと変わる琴絵を見たら、なんだかちょっかいかけたくなってきた里紗は飽きずにネタを持ち出した。子供のような悪ふざけな笑みが彼女の頬を掠める。それを見出した琴絵は不満げににらみつける。
「おい」
「って、結凪は何号室なの?」
「え?」
「いや、二階って言ったんだろう。持っていくよ」
「いや……一人でも大丈夫」
咄嗟に琴絵は背を向けて目を泳がせる。みるみるうちに胡散臭くなっても、この芝居を演じ切るつもりだと豆腐のような硬さの意思を見せる。里紗はすぐに手に持っているスイーツをさして、訝しげに目を見開いた。
「何言ってんの? ゲーム遊びたいって言ったはずよ。これはもうあげたんだから」
「家がめっちゃ散乱してるから、見られたら絶対びっくりするよ。今ままで作り上げたイメージが崩れてしまう」
里紗はそんなのどうだっていいよと涼しい顔して、その場で体を左右に揺らしたりする。彼女は気乗りしない様子で肩をすくめる。そして両手をポケットに入れて、単調な声で話す。
「笑わないから、安心しろ」
──こりゃ、どうあがいても無駄みたい……
「わかったよ。ドン引きするなよ」
「大丈夫だ。なんとか予想がついたんで、ってなんでここで立ち留まるんだ?」
「それは私の家だから。ここ。初めまして隣人さん……」
琴絵は会釈しながらなれなれしく里紗に挨拶して、ゆるっと鍵を持ち出す。彼女は肩をすりながら辺りを見回して、過剰に唾を飲み込む。そんなおどおどしてる様子が里紗の視界に入って、彼女は意図的に鼻を鳴らせる。
「うん?」
「だから、ここ」
「ほお……お前か。じゃ、中を入ってから話をしようぜ。ゆっくりと」
──あ、終わった。しばかれる前にちゃんとスイーツ食べたいな。土下座したらいけそう。
「あれはただの間違いだよ」
「無駄口叩くな、早く開けろ」
里紗は顔を上に向けて、ばかにしたように首を横に振る。冷たい視線を浴びさせられることが耐えられなくなった琴絵は鍵を開けることを余儀なくされた。彼女は拳を握りそうなになる手を緩める。
「あ、はい」
従順に返答を出した琴絵は大人しく里紗を自分の家に入らせた。こうして緊張感が走った弁解大会が始まる。ただしこれは弁明が通らなさそうなものだ。険しい顔をしてる琴絵は俯くばかりだ。里紗は依然として目を伏せたまま、彼女の話を聞く。
「だから、あれは目覚まし時計に言ったのよ。決して、夜途さんに向かって放った言葉じゃない!」
「ふん……壁もへこんでいるしね。噓じゃないようだな」
里紗はふいと琴絵の後ろの壁に目をやる。笑い出そうのを、全身の力で奥歯で嚙み締める。何度か吹き出そうになるが、幸い咳払いでからがら誤魔化せた。彼女の言葉に耳を疑った琴絵は振り向くと、確かに壁の一部がへこんでいるようだ。
「ウソ! 本当だ……穴とかもてきそうだ」
彼女はあの損傷を受けた壁をひたすら触る。ふさぎ込んでいるだと思われているが表情もまたがらりと変わった。琴絵は歯軋りのを心の奥に押さえ込んで鼻筋にしわを寄せて、わずかな嫌悪をあらわにする。
「あんなの捨てていればよかったのに……分際のくせいに」
「いや、自分で投げたじゃない? 何時計のせいにするんだ。ていうか何いまの」
「家にいると素が出るのよ。口が悪くなるってこと、すまなかったな」
「逆にいいじゃん、この方がいい」
琴絵の豹変っぷりに、笑えずにいられなかった里紗は大きく体を揺さぶって腹を抱えて思いきり笑う。そんな豪快な笑い声に、琴絵もつられて口角を緩ませる。笑いの波は次々と巻き起す。
「それは嫌だよ。一生友達できなくなる、それまではちゃんとしたきれいなイメージを与えなくちゃ……」
「へぇ……じゃ私は?」
「!? なになに? 夜途さんがどうした?」
「……いや、なんでもない。どうやら、あんたあの本をもっと極めた方がいいみたいね」
あまりの鈍感さにやれやれと仕方なさそうな顔した里紗はほろ苦い気持ちが走った。
読んでいただきありがとうございます。次回も楽しみにしていただけると幸いです。




