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交差点の灯火  作者: 霞真れい
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自覚なしの習慣

いつも読んでいただきそして応援をくださり誠にありがとうございます。感想やコメントも大歓迎です。


やっと中間テストが終わりました。大変お待たせいたしました。これからも更新し続けますので、応援のほどよろしくお願いいたします!

 食卓を囲んで朝ごはんを満喫している琴絵(ことえ)里紗(りさ)はテレビを見ながら、優雅な時間を過ごしていた。すると里紗(りさ)は黒髪の少女の名前を呼んだ。


結凪(ゆうなぎ)


「どうしたの? 夜途(よみち)さん」


「今日暇?」


「暇っちゃ暇だけど……」


「なんだよその言い方、ダメだったら全然いいよ」


 口元を少々ゆがませて、不確定な語気に苛立ちを募らせる一方で、里紗(りさ)はトーストをかじりながら、彼女に冷たく言い放った。


「私だけ? (ゆう)は?」


「あいつね……何回も起こしてやったんだが、なかなか起きれなくて、病気でもしたのかなって聞いたら、ただ寝たいとだけ返された。三人で遊ぶ予定が砕かれたから、二人だけのデートになっちゃった」


(ゆう)らしいな……」


「おとといのせいじゃない?」


「ああ、あれか、変な姿勢で寝ちゃったから?」


「うん、たぶんそうじゃない?」


 ついこの間の出来事を蒸し返されたように琴絵(ことえ)は眉間を指でもみほぐして、体中所々の記憶が強制的に蘇られて、気のせいなのがいささかにしびれてきた。オレンジジュースを口につけることで気持ちを紛らわす。


「大丈夫かな……まだ痛んでいるか、サロ○パスとか買っとくか」


「なんだそれ」


「筋肉痛に良いもの、貼れるやつ」


「へぇ……」


「家に帰るついでに買おうか」


「家に帰るついでにって……一緒にデータしてくれるってこと?」


 その霧に覆われている返答から勘案して、最も自分に有利な結論を至る里紗(りさ)はぱっと目を輝かせた。だがその同時に、ただの勘違いにすぎないのではと杞憂し、浮かれないように慎重に問う。


「うん」


「嫌かと思った……意外とすんなり受けてくれたなんて夢にも思わなかった」


「ひどい言われようだな、オタク女子とはいえ、一応秋葉原とかに出て買い物くらいはあるよ」


「いいや、そういう意味じゃなくて……デート自体が嫌いかなっと」


「うん? なんと?」


 彼女はこの言葉の真意をくみ取られず、最後の部分を聞き逃してしまい小首を傾げる。そんな彼女に対し、何でもないよと雑な誤魔化し方で諭しつつ、出がけに向けて準備をしている。


 どこへ連れていかれるのも知らず、ただただあふれんばかりの期待を胸に宿らせて、カバンに必要だけなものを押し込んだ。どうして自分がそこまでやる気満々になったのかは思い当たらないが、友達に誘われて単純に嬉しかったんだろう。


 もういいかと玄関から伝わる里紗(りさ)の声だった。妙に落ち着きのない声色に聞こえてくる。琴絵(ことえ)はぴたぴたぴたと荒い足音をならせて靴を履く。


 その光景を脳内に刻んで、不器用な家政婦さんがバタバタしているのを彷彿とさせて、少し滑稽のように見える。


 二人は足を揃って電車に乗り、一時間ほど目的地に到着した。その途中オチのない会話を繰り広げ、どうでもいい話だけで盛り上げて、気分絶好調の二人を見ると実に微笑ましい光景だ。


 そして彼女たちが着いた場所は……そう、遊園地なのだ。


「え? 遊園地?」


 いつも自分の世界におぼれたい琴絵(ことえ)でも耳にしたことがある。デートの聖地といえば遊園地。これはほぼ鉄板中の鉄板だ。しかし、目の前にいるこの悪魔ごときが風情などを熟知しているとは予想外のことだ。


「ふむ」


 見ての通り遊園地だと頷いた里紗(りさ)は平気たる口調で返す。この場所は人間がよく来るやつなんだろうと下調べした彼女はきりっとした顔を見せる。きっと喜んでもらえるはずと公園広場にある噴水のような自信があふれかえっていた。


「思いっきり楽しんちゃうタイプ?」


「その通りだ。この勝負、勝ち取らせてもらうぞ」


「望むところだ、受けてたとう。ってなんでこうなった?」


 何の勝負だかまったく知らされていないが、闘争心が燃え盛んだ琴絵(ことえ)はこの挑戦状を受け取った。負けんよと両手を体の前にぐういっと伸ばして、まるでプールに飛び込む前の、あの欠かせないウォーミングアップのようだ。


「じゃ入ろっか」


「ええ」


 彼女は自然と里紗(りさ)の右手を繋ぎ、歩みを進もうとしているが、向こうは動じなかった。足元から根が生えたように。


 問答無用に手を握られた里紗(りさ)の心に波紋が広がり、一つ一つの影響を与え合い、大きな反動を巻き起こす。元通りの様子を戻すのにかなり時間がかかり、それだけあって動揺が半端ではなかった。


 そんな彼女を見かねて、具合でも悪いのかと尋ねてきた琴絵(ことえ)はこっそりと顔を覗き込む。


「どうした? 入りたいんじゃなかった?」


「いや、その……何というか、これ」


 つながれた手をそのまま彼女の目の前で差し出す。それでも理解しておらず質問を質問で返す。


「それがどうした?」


「手、繋ぐ必要ある? 普通に肩を並べばいいじゃん」


「え?」


「え?」


 二人とも打ち合わせることもなく、その反応はさも完コピしているかのようなクオリティーさだ。表情や声音も恐ろしいほどほぼ一緒だ。


 お湯を沸かすと同様に徐々にブクブクと沸騰していき、湯気も立ち回った頃、彼女はやっと事態の深刻さを思い知った。


 やってしまった!! 普段(ゆう)にそうされたから感覚がもう麻痺しちゃったと心の叫びを続ける。しかしここで、いきなり手を引っ込めたら、絶対に変だと感づかれてしまうので、琴絵(ことえ)はさっきと比べてより力を入れて、ぎゅっと握りしめた。


「大丈夫? 顔赤いぞ、アイス買おうか?」


「だ、だいじょうぶ。夜途(よみち)さんがあちこち歩き回るから、はぐれないように握ってあげたんだ」


「そう?」


 語尾にはかすかな震えがあった。苦し紛れの言い訳だと知っても里紗(りさ)はそれを暴き出すことなく、ただただ口元を緩ませて、静かに彼女の横顔を見据える。下を向いているばかりの琴絵(ことえ)は左手を緩ませる。


「嫌だったらすぐ離すっ」


「いや、嫌じゃない。この方がいい」


 スッと抜かれそうな手をしかりっと握り返した里紗(りさ)は鼻先を触る。


「じゃ、か、勝手にしろ……」


「うん、勝手にするね。私すぐどっか行っちゃうからねー」


 はっきりとした態度で里紗(りさ)の言葉を切り捨て、目を背ける。羞恥心に飲み込まれた琴絵(ことえ)があたふたになり、なんだか愛らしいなという感情がしみじみと湧いてくる。


 場を和ませてから、里紗(りさ)は彼女をリードし走り出した。


「早く早く! こっち!」


「わかったよ、テンション上がりすぎっ」


 初手からはジェットコースターなのだ。


 こんなにも唐突で泡を食らった琴絵(ことえ)の額には冷や汗が滲み始める。苦手というわけではないが、ただ一つ、朝ごはんを一気に吐いてしまう可能性もなくもないのだ。


 しかし今更となって後戻りなんてできない。奥歯を食いしばって行くしかないのだ。


 次は、彼女たちの番。よりによって一番前の席というラッキーチャンスが訪れた。席に着く瞬間、身震いがする。深く息を吐きながら、ジェットコースターが動き始めた。


 すぐにクライマックスのところに達し、不意に里紗(りさ)の顔に目をやると、彼女は両目を大きくして、何もひるまずに直面から襲い掛かってくる強風をしのぐ、それ以外顔の変化はなしだ。


 よくそんな顔でいられるよなと刺激を受けた琴絵(ことえ)はあえて目をつぶって、他の客たちの絶叫と当たりの強い風の音を感じながら、この時間を耐え抜いた。


 地面につくや否や、里紗(りさ)はすぐさま琴絵(ことえ)にひっついて、肩を寄せ合う。


「すっきり!」


「え? 強がってないの? 声なんて出してないからてっきり怖がっているかと思った」


「違うよ、一度やってみたかった。目をフル全開して叫び声を押し殺すこと」


「シュールだな……でもよかったね、やりたいことリストのそのうちの一つを叶えて」


「うん! でも不思議だな、結凪(ゆうなぎ)は目を閉じるんだ」


「風当たりが強くて、目玉が飛び出そうくらいよ」


 乱れた心拍数をなだめるため、水分補給をする琴絵(ことえ)は、頑是ない笑顔を咲かせて早く次行こうとせがむ里紗(りさ)を凝視する。


 彼女は、はいはいと考えるのが面倒がっているのかいつもの対応であしらう。


 次に彼女たちが向けているアトラクションはバイキングだ。実体を目にした里紗(りさ)は更なるあばれっぶりを晒して、暴走しそうになるところだった。まるで手綱を外した馬のようにやりたい放題だ。


 彼女はわくわくする気持ちを忘れずに列を並んでいる。ここで琴絵(ことえ)はとあることに気づいてしまったのだ。またしても白羽の矢が立てられて、一番前の席を迎える流れが来た。


 前後に強烈に揺さぶられて、最高到達点に来るたびにはっと息を吞む。ぐんと空を羽ばたきそうな勢いで前方に揺さぶられて、日常で溜まった悩みなどがその流れに乗るかままに空中に消え散っていた。


 快適だと思いつつ、里紗(りさ)も同じく楽しんでいるようだ。すげーと繰り返しながら満面の笑みを浮かべた。


「人間より楽しそうだな、夜途(よみち)さんは!」


 途中でも里紗(りさ)のリアクションが気になり、ノリで話しかけた。彼女はぎゅっと顔を引き締めて、さも冷水をぶっかけられる寸前のようだ。


「そういうの好きだよ、浮遊感がたまらねぇ!」


「いや……悪魔って飛べるんじゃなかったっけ?」


「うん、飛べるよ、でもこれとそれとは別の話!」


「本当に飛べるのかよ! 適当に言っただけなのにっ」


 アトラクションの上でも、余裕に会話を交わせるぐらい思い存分堪能している二人は視線を交わしながら、互いの表情を確認してから、目線を前に向き直させる。

読んでいただきありがとうございます。次回も楽しみにしていただけると幸いです。



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