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交差点の灯火  作者: 霞真れい
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独占欲

いつも読んでいただきそして応援をくださり誠にありがとうございます。感想やコメントも大歓迎です。

 昼休みのとき、どの部活に入るのかをめぐって、頭がすでにいっぱいいっぱいになった琴絵(ことえ)はまたいつもと同じく、二人のことを待ち合わせしている。


 すると二人はゆるっとした足取りで こちらに接近してくる。会ったばかりに琴絵(ことえ)は疲れ気味で帰ろうと提案する。


「ふぅ、今日やっと終わった。そろそろ帰ろうか」


「待って、これからバイトあるんだ、先に帰っておくれ」


 里紗(りさ)はだるそうにあくびをする。


「え、夜遅くまで?」


「人間界の法律なんてに束縛されてないから、年齢方面については問題ない。そんなのちょちょいのちょいだよ」


 隠しようもない得意顔をする里紗(りさ)は人差し指を口にあてて、びしっと言葉を放つ。また自信に満ち溢れている快活な口調は彼女の特徴だ。


「いい子はマネしないでね」


「マネしないわ! じゃ(ゆう)と先に帰るね、あんまり遅くならないように。バイト頑張ってね」


「あれ?」


「今度はなに?」


「もしやもしや、寂しがりや? そんなのもっと早く言ってくれればよかったのに、なんなら今サボっちゃうか?」


「妄想が激しいのは知った、じゃあね」


 相手の言動に虚脱感を感じた琴絵(ことえ)はこれ以上付き合ったら、自分までおかしくなるという事態を防ぐため、いってらっしゃいと言わんばかりに手を振る。それから、隣にいる(ゆう)に聞く。


(ゆう)は何か行きたい場所とかない? もしなかったら一直線に家に帰るね」


「うん」


(ゆう)がインドア派でよかったわ……」


 その時(ゆう)は彼女にアピールしたくて、両手を構えて、何かをタップしている様子が伺える。彼女なりの挙動を考察する琴絵(ことえ)は渋い顔しながら顎に手を当てる。


 ──うん? なにこのポーズ……どこかで、あ~ゲームパッドを操作してる時か。


「ゲームやりたい? じゃ帰ったらすぐね」


「うん、うん!」


「初心者でも、短時間で上達できるコツ教えてあげる!」


 琴絵(ことえ)をまかせなと胸に拳をあてて誇らしさをあらわにする。それをこたえるため、(ゆう)は知らず知らずのうちに彼女の手を握った。


 肌のふれあいによって冷たい感触が伝わってくる。さすが吸血鬼だけのことあって、やっぱり体温は人一倍より低くて、持ち歩きクーラーのようだ。


 ──しまった! あれ目あったらいけないやつだ。


 帰り道に、ヤンキーらしきものを発見した琴絵(ことえ)は反射的に目をそらす。そして歩くスピードをあげながらぼろだらけの言い訳を口にする。


「な、(ゆう)、ささっと歩こう。ゲーム禁断症状がぽつぽつと出てきたからね」


「……」


(ゆう)?」


 嫌な予想が的中し、(ゆう)はヤンキー共を隅から隅まで見つめて、さも動物園で珍獣の観覧をしているかのような興味津々な視線を送る。


 ──(ゆう)!! 何してる! もっと早く彼女の目を隠しながら歩くべきだった……


(ゆう)、早く行こう」


「あれなに?」


「え? 人だよぉぉ……」


 ──なんか語彙力増えてるけど、いいことなのかな? よりによってこの時かよ……


 心に戦慄が走ると同時に対策を練っている琴絵(ことえ)(ゆう)と繋いだ手に力を入れる。


「なんだあいつ、俺らのこと指さしてるっぽいすよ、兄貴」


「なんだと……? いい度胸じゃねぇかこらぁ」


「兄貴、こういうの一発ぶん殴られねぇと改心しないっすよ」


 ガラの悪い三人がこちらら迫ってくる。せめて(ゆう)だけを守りたい一心で、内心のガクブルが止まらない琴絵(ことえ)は彼女を自分の背後にいさせる。


「悪気はないので、道をあげてくれない?」


「強気だな、が自分の立場くらいわきまえろよ、こっちの精神賠償どうしてくれよ?」


「はぁ?」


「ダメ、私の」


 後ろから響いてくる声は金属のように冷えて、手足を透き通っている感触だ。心拍数を止めてしまうほどぞくっとする。言葉にならない恐怖を煽られ立ちすくんでいた琴絵(ことえ)だが、それは紛れもなく(ゆう)の声だった。


「なんだ? てめぇ、やんのか?」


「……」


「ただのはったりか? つまらんな」


「う……」


「聞こえんよ、チキンかよ」


 (ゆう)は何も言わずに前を出て、間髪入れずに琴絵(ことえ)を自分の方に引き寄せて、しっかりと彼女を庇う。このような緊急事態に遭遇したにもかかわらず、(ゆう)のその穏やかで規則的な鼓動が琴絵(ことえ)の鎮静剤になる。


「う、せろ」


「なっ……!? なんだこいつ!」


 ──何かあった? どうやらあいつらがビビっているようだが、(ゆう)は今どんな顔してるだろう……


 と思いつつ琴絵(ことえ)はチラッと見ようとしたところ、(ゆう)にガッツリと頭をおさえられて、見上げられなかった。不審に思いつつも、先ほど危惧の念がどこかにぶっ飛ばされた。


「クソぉぉぉぉ……! 逃げろ!!」


 鬼と出くわしたかのようにヤンキー共は目配せしながら、尻尾をまいて必死に逃げる。やつらの姿が徐々に視界から消えなくなるが早いか、(ゆう)は子供をあやすような口調で話す。


「大丈夫、怖くないよ~」


 守る側になり、カッコイイ一面を見せたかったが、一気に守られた側に切り替えられて複雑な思いをした琴絵(ことえ)は、何とも言えない心情に丸吞みにされた。彼女はその糸口を慎重に拾い上げて再び会話を再開する。


「ありがとう、なんかまた新たなる一面が見れて新鮮だな」


「ゼロ……」


「うん? なに? ちょっと聞こえない、ごめん」


「電池切れ……ゼロ」


 とだけ言い残した(ゆう)は自身の体重を全部琴絵(ことえ)にかかり、完全にまかせっきりの状態だ。大人しく妥協する琴絵(ことえ)は彼女に肩を貸し、支えながら家に帰った。馴染みのある家の匂いが感じたのか、(ゆう)は無力そうに口を開く。


「風呂……」


「え!? 風呂か……そうよね、家に帰ったら最初にやるべきことはお風呂だね」


 ──そうは言っても、また前回と同じ展開になりうるじゃん。


「一人で入れる?」


「……うん、ダメ」


「ドアの前にスタンバイするから、何かあったらいつでも呼べるわ。ね?」


「……うぅ」


 抜けられた風船のように見える速度で萎えてしまう(ゆう)は肩をすくめる。心に失望と虚しさを抱えて悄然と項垂れする。しぼみかけた花のように地面にぱたりと横になった。良心の呵責に苛まれている琴絵(ことえ)は真剣に考える始める。


 ──これ墓穴を掘ったに違いないじゃん。今この空間は私と宥二人きりで、機嫌を損ねたら迅速に抹消される、この世から! 今は屈服せざるを得ないなぁ。


「わかったわかった、一緒に入るよ、背中だけ流してあげる、それでいいよね?」


「うん!」


(ゆう)のテンション、折れ線グラフのようにがったがただな」


 すると二人は共に風呂場に入り、琴絵(ことえ)は真っ先に(ゆう)を椅子に座らせる。なぜかこの時に限って、(ゆう)と出会った頃で背中を流してあげたとうい不思議な出来事を思い返して、心臓がバクバクしている。


「妙にデジャブを感じる……落ち着け、あの時と同じく接していれば問題なし」


「……うん?」


「ほら、あっち向いて、(ゆう)も早くゲームやりたいでしょう」


 しかし、(ゆう)は依然として視線を固めて、観察するように目をすがめる。この状況において微妙な雰囲気が流れ、ましてや風呂場でじろじろと見られ続けると、変な方向まで彷彿とさせる。


「どうしたの? 目が潤うほどのところ何一つもないわ、これ以上見ると目が腐るわ」


 ──こんなぺちゃぱい、スタイルもぼちぼちで、(ゆう)里紗(りさ)には完全に比べにならない……二人とも手足がすらっとしてるし、ちょっとだけ羨ましいな。


 かなり痛い自傷で何十倍以上の精神ダメージを食らった琴絵(ことえ)は頬をかいて自分の軟弱さを隠す。しょぼんとする彼女を見かねて、(ゆう)は彼女の頭をなでなでしてから、背を向ける。


 また(ゆう)に慰められたのねと言いつつ、琴絵(ことえ)は慣れた手付きで(ゆう)の背中を流し始める。傍目から見ればこの二人、毎日一緒にお風呂入ってるかぐらい自然な振る舞いだった。


「じゃお先に湯船つかろうかなぁ……」


「……」


「ほへ~??」


 食い入るように凝視する(ゆう)は、まるで獲物を襲う寸前の猫のように目を細める。彼女は前髪をかきあげて無言で押し通す。(ゆう)の目線を解読する琴絵(ことえ)はすぐに彼女の次の行動を読み切り、質問する。


(ゆう)も浸かるの? ごめんね、すぐ出るからもうちょっと待ってて」


「大丈夫」


 と低くてわざと抑えた声を発した。こんなにも近く耳に届いたはずだが、遠音のような錯覚が生み出した。(ゆう)はサッと立ち上がって湯船に入るや否や、湯水があふれ出ていき、ざあざあと音を立てて流された。


 ──なになに? 一緒に湯船に浸かろうってこと? いやいや、二人ならちょうどいい広さだが、物事には順序がある……これ早くないか?


「あ、入ってきた……」


 銀髪の少女が湯船に入ることによって、風呂場一気に湯気に飲み込まれて、水蒸気は渦巻いているように立ち昇り、(ゆう)の姿をかすませる。短時間でしか浸かってないが、すでに頭が回らなくなった琴絵(ことえ)は正視できずにいる。


 二人は向き合っているものの、(ゆう)からの純粋な眼差しをよそに、視線をさまよわせた結果、一番落ち着きそうな水面を着地点として、見つめるのだ。


 緊張のあまり体がほとんど硬直してしまい、自分のではない違和感を覚えた。本来全身をほぐすための湯船が今、人を不安の渦に落とさせる罪深い存在となった。


 ──これは普通だよな、同じ屋根の下で住んでいるもの、それに友達としてもごく普通のこと。気にする必要ないって!


「大丈夫、狭くない?」


「うん」


「初めてだね、こんな風に」


 琴絵(ことえ)は必死に会話のテンポをつかみ取り、次は何話そうかと体育座りして腕を抱える。顔の半分まで水に浸かって鼻から息を出す。

読んでいただきありがとうございます。次回も楽しみにしていただけると幸いです。

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