フェイント
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果たして里紗は何を言おうとしているのでしょうか……口喧嘩にはならないで欲しいですね。
──これは、戦争が勃発しちゃう! 早く止めに入らないと、そうだ! あの時と同じ、宥に頼めば……
そう甘い考えを抱えながら、宥の方に助けてと信号を出す。しかし、彼女はうとうとし始め、体が非不安定に前後に揺れたりする。それを見て、心の中に燃えかけた希望の火があっけなく吹き消された。
──ダメだこりゃ。率先してやるしかない……!
だがその時、里紗はもう口を開いて、言葉を飛び出す直前だ。それを止めることなど到底不可能だ。それでもすきを狙ってなんとか中に割って入ろうした琴絵は奥歯を嚙み締める。
「西村、お前」
「ちょっと待って夜途さん、本気の喧嘩はやめっ」
「お前、弁当持ちすぎじゃねぇ?」
「は?」
思わぬ結果に琴絵を間抜けた声を漏らし、抜け殻になってしまった。
またしても食に尽きない貪欲の持ち主──宥がぱっと目を開いて辺りを見回す。好奇心に駆り立てられた彼女は間を置きず、和香のお弁当を覗き込む。お弁当との距離感がバグっているのか、ほぼ顔が突っ込むほどの勢いだった。
「朝華さん、食べます?」
「……」
「わかりました、これが欲しいんですね、はいどうぞ」
「……」
「お礼は大丈夫ですよ」
宥は純粋な子供のように舞い上がるほど喜んでいて、体をさゆにゆらし短い鼻歌をする。まずは目を堪能させてから、ぱくぱくと和香がくれた一段のお弁当を豪快に食べて、満面に喜色を湛えて勝ち誇った表情を見せる。
──和香に通じるの? 感服したな、なんかアニマルコミュニケーターみたいだ。
「宥ってある意味すごいなぁ」
「ふーん、世間話も十分だしここからは本題に入ろう」
里紗は頃合いだなと言わんばかりの凝り固まった顔して、神経をこわばらせる。もはや避けられない事態へと発展していく。
──まだあるの? 暴言吐いたりとかしないよね。お手柔らかにして欲しいが、万が一私が何とかするわ。
今の琴絵はただみじめに祈るばかりだ。何事もないようにと両手を合わせる。
これからの成り行きをひんやりとする琴絵はハラハラしながら見守り、唾を喉に通らせるすらことができず、両膝の上に置いていた手が徐々にスカートのしわを伸ばす。
「西村、結凪の友達になってくれて、感謝する」
「え!?」
「最初は警戒した、結凪みたいな変なやつと絡むなんて、メリットなんに一つももらえねぇよ、寧ろマイナスだ、と思ったけど……」
「傷つくな、その言葉」
「結凪さんは全然、変な人ではないと思います」
その力こもった返答に三人は同時に和香の方向に視線を投げる。それを受け流し堂々と自分の思いをぶつける和香はその時しか見えない凛とした顔、固い意志を表す。
「初めて会ったとき、すごく怖い人だと思って、どこかで恨みを買っちゃったから消しゴムが踏みつけられたのだろうと思いました……」
「へぇ、そんなこともあったんだ……結凪、いじめは感心しないぞ」
里紗は口うるさく忠告し、琴絵への印象が改まり、彼女の顔に穴が開くほど見つめるようにそう念を押した。自分の評判がまっしぐらに下がる一方で、挽回できるチャンスを漏れなく拾い上げて、反撃を出す。
「違う! あれはただの誤解よ、気づいたら消しゴムが勝手に足元に来やがったんだ」
「そうですかー……ごめんな、うちの結凪はそういう子なんだ、許してあげて」
「いえ。根に持っているから蒸し返したのではなく、今はただのいい人だということがわかったんです」
和香は会心の笑顔を浮かべながら唐揚げを口に入れた。初めてそう言われて喜びを隠せない琴絵は目を背けると同時にホットしたため息をつく。頬杖をついた里紗は彼女に問う。
「なんだその険しい顔?」
「お互い様でしょうに! さっき物凄いオーラを放ったよ、自分でも知らないの?」
「そんなっ、ただ挨拶しに来ただけよ、これからも結凪のことよろしく頼むな」
「はぁ? 親目線かよ……でもそれだけ色々心配させちゃったみたいで、すまん」
口答えするもののそこまで考えてくれてる里紗に対し、琴絵は軽く笑いを広げながら両肘を机について、まっすぐに視線とぶつかり合った。
「……」
「夜途さん? まさかロード中? Wi-Fiないから? 鯖落ち?」
「それなら任せてください!」
音割れにも言えるほどの音量で耳が爆ぜる。和香は仕切り直して琴絵に向けて、言葉を続ける。
「攻略はハードルなんですが、色んな策を助言させていただきますので、よろしくお願いいたします!」
彼女はガッツポーズを作り、琴絵の両手をびしっと掴む。いきなり意味不明のことをされて、肩が驚きで飛び上がった。
「だからなによ!」
「え?二人を落とすというパターンじゃないですか?」
その常人はずれた疑問に心の高波から逃げ回る琴絵は胡散臭い笑みをかける。
追い打ちかのように和香は琴絵の耳元まで寄せて、ひそひそと耳打ちする。囁き声を漏らさないように手で隠し、時折里紗たちの目線が気になって仕方なく、あちこち視線を動かす。
「ちげぇよ、ていうか浮気ダメとか言ったのはあんたじゃないの? なのに今は二人を落としてやるなんて言い出すとは……」
「時に固有思考に縛られず生きていくのが正解なんです。とネット上の言葉を拝借させていただきました。カッコイイので一度でも言ってみたかったです、あ、日常生活でも使えますよ。だがしかしっ! 恋愛だけは浮気しちゃうダメ、ゆっくりした方が上策で、自分の気持ちを模索してみてください」
──アンビバレントだな、矛盾してない?
「だから、恋なんてっ」
「お前らさっきからなにこそこそとしゃべってんの?」
問答無用で透明人間にされて、気分を害された里紗は眉のあたりに嫌な線が刻み、二人だけ勝手に盛り上がるのはやめなと愚痴しつつ顔を寄せる。琴絵のことをフォローしてあげたくて、和香は素早いスピードで両手を振る。
「なんでもないです、姉さん」
──姉さんってなに?
「おお、まぁそれでいいんだが」
──黙認した! そう呼ばれて嬉しいの? ちょろい!
心の中でこの会話を小馬鹿にして突っ込んだ琴絵は苦笑いする。
そうは言っても平和な雰囲気が漂い、二人の関係が晴れてよい絆が築き上げられることは何よりだ。とその時、彼女とはまったくそぐわない話題が切り出された。
「そういえば、色んなことも落ち着いたし、部活とかは大体決めてましたか?」
「部活?」
「まさか結凪さんは部活とやらに存じないというのですか?」
他の人の耳に入れば、その質問は百パー馬鹿にされたに違いないが、和香にはその気は全然なく、単に聞きたいだけだ。一瞬ムカッとしてきた琴絵は口ごもりながら答える。
「そんっ、そんぐらい知ってるよ、ただ部活なんて私と無縁の話って言いたいだけ」
「結凪は帰宅部な」
「いいって、無所属でいいよ、大体帰宅部に入らなくても家に帰った時点で活動はもう始まってる」
「情けないなぁ、私は運動系のやつかな」
「へぇ、夜途さんは運動上手ですか?」
「自信はある、体力にね」
自分の長所をペラペラと語る里紗はしたり顔して、艶を帯びた眼差しで彼女の方に注ぐ。
「なに? その目、やけにいやらしいわ……宥は? どの部活に入りたい?」
「……」
「音楽か……お嬢様だな」
「待って、今のはどこにそんな要素があった?」
会話の繋がりが見当たらず、テレパシーで交流したかと開いた口が塞がらない里紗はこめかみを押さえる。
「え? 私に聞かれても……和香は?」
「私は……文芸部ですかね、小説を書くことが好きなんです。百合とかも……」
「すごい……でも最後のやつは心の声かな、漏れなく聞こえたんだけど」
「……そんな結凪さんだって、絵がお上手じゃないですか?」
雑に咳払いした和香は当時琴絵の自己紹介を振り返ってみた。
「ああ、まぁ。そこそこかな? 大賞とかもらったことあるんで……」
「えええ!?」
驚嘆の声をあげた和香は口を隠す。しばらくして平常心に戻り、渾身の力で琴絵を説き伏せる。
「だったら、美術部に入るべし! それほどの才能ですから」
「いや、遠慮しとく。それに正直言って、今はあんまり描くことない」
「なんでですか? 初日の時、絵を描くことが好きって言ってましたよね」
「それは……時間がないよ、そう! ゲームばっかやってるから、今はゲーム一筋」
苦し紛れの言い訳、琴絵自身しかわからない、絵を描くモチベーションはもう一欠けらもないのだ。ほろ苦い顔するのもたったの数秒、そのわずかの変化を捉えたのは里紗のみだ。
読んでいただきありがとうございます。次回も楽しみにしていただけると幸いです。




