その場しのぎの約束
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一体どんな理由で女の子を説得し、無事におさまるのでしょうか……読んでいただければと思います。
その人が一滴残らずにすべてのコーンスープを飲み干した。それを目にした琴絵急いで鍋の中を見る。頭が入るぐらい入念にチェックする。しかし、中はやはり空っぽだった。それでも、彼女はわざわざ鍋ごとを持ち上げて、底を突き抜けるかのような切望の眼差しをする。
残酷な事実を知らされた琴絵は残念そうな顔して、信じがたい目線を向ける。彼女は空になった鍋をさし、鳩が豆鉄砲を食ったような様子で疑問をぶつける。
「まさか全部飲んだ?」
「……」
「大食い選手権に出れるレベルだなぁ……まぁ喜んでもらえるいいことだが、それを置いといて。その……うち住む?」
「直球な誘い方だな……さっきのお風呂もそうだけど」
里紗は目を閉じながらこめかみに触れてブツブツと呟く。彼女は両手を頬に押し当てて、ソファーになだれこむ。最後の言葉だけ小さく聞こえ、糸のようにか細い声だった。まるでただの糠雨に負けてしまいそうなぐらいの音量だ。
「……」
その女子は不可解に思い、琴絵の萎えた姿を見つめる。その平然とした顔は水面のようで、感情がくみ取れない視線がする。私なんかしたを言っているかの如く、くりっとした無実の双眸でこちらをじーっと見ている。
「ほら、変な目でみられてるじゃないか?」
里紗は呆れたようにソファーで横になって、これからの行き先を恐れているか目を背けて両手でしっかりと顔を覆う。彼女はすべての希望を琴絵に託して、まだ挽回する余地があると信じ込む。
──ここは相手に同意してくれる理由を出さないと……
「そうね……三人ならちょうどよかったから」
「え? ちょっと何言ってるの? 結凪」
「二人だと勝てないじゃん、もう一人いればなんとか勝つっしょ」
「だからなに? あんたにプレッシャーをかけすぎて、頭がおかしくなっちゃった? それでも単純に頭ぶつかった?」
里紗は面食らったかのようにソファーから跳ね上がって、彼女の隣にやってきた。自分を驚かせた琴絵にふざけて叩き、目を丸くする。彼女は両拳を琴絵のこめかみに押し当てて、真面目にやれよと言わんばかりに脅迫に満ちた笑みを浮かべる。
「いや、あのラスボスだよ、勝てないだろう、回復が間に合わないし、攻撃バフやデバフも少なすぎる。こういうときってもう一人増えた方がよかったんじゃない?」
すかさずに琴絵は正論を打ち返す。彼女は落ち着き払った、真剣な声で話し、気楽そうに背筋をグイっと伸ばす。不意につかれた理由に里紗はぎょっと驚いて、まるっきり放心状態に陥った。彼女は首を少し傾けて手を下した。
「うん?」
「だ・か・ら、勝算があがるって、三人パーティーなら回れる気がするんだ。どう? 一から教えるからたぶん問題ない」
「ふざけた理由としか思えない……思いもよらなかったわ、ゲームの話だなんて、やられたわ」
琴絵はサッと距離を縮めて、その人にそっと手を伸ばす。彼女はほとんども瞬きせず、目を見開いている。その人が躊躇いがちに後退して、琴絵の人畜無害の微笑みをまじまじと見つめる。
それもおかしくないことだ。目の前にいる人に突然、居場所を提供してくれて、不審に思って仕方ないこと、向こうは何を企んでいるのか、腹に据えているのは自分への悪意なのか、釘を踏んだように立ちすくんだ彼女は琴絵を信じようと信じまいかを葛藤してる。
しばらくたつと彼女は不安の念を払いのけるよう、琴絵の手を握り返そうとする。まだ躊躇してる自分を後押しして、決意のようなものが眉のあたりに集める。少しばかりに握った手の震えが止まらないため、それを安心させるように、琴絵はその手を包み込んだ。
「すごいなぁ……今の接し方満点だな、あの攻略本を何回読み返した?」
しれっと驚嘆に含まれてるツッコミを入れた里紗は琴絵の一連の行動に思わず頷いた。
「自然と出来たかも。でもこれで後顧の憂いもなくなったね。あごめん、あなた名前は? まだ聞いてなかったね」
その人はゆっくりと口を動かす。まるで真冬の日に喋るたびに白い息が吐かれたかのようにぼそっと言う。琴絵は相手の名前を聞き漏らさないように身を乗り出して、彼女の方に寄せると同時に里紗の腕を引っ張って一緒に聞くことにした。
「あさ……宥」
「うん? 朝……なんだっけ?」
「朝華……」
「朝華宥さんか……朝華さん、これからもよろしく」
「宥……」
「うん? ああ、宥さんよろしく……」
「宥……」
相手の意図が読めない琴絵は困惑しつつ、たぶん直接名前を呼ばれたかったんだろうと推測し、それを言い出す前、照れ隠しにわざとらしく咳払いする。その行動を目におさめた里紗は、そんな不器用な琴絵を見て、思わずぐすっと笑い出した。
──慣れないけど、そう呼ぶしかない。
「宥、改めてよろしくね」
かすかに表情の変化を見せた宥は、琴絵の手からスッと離して、自分にない暖かさを貪るかのように、彼女の手をクンクンと嗅いで、自分の方に引き寄せる。その行為にぴくっとした琴絵だが、平静をよそって言う。
「で、でも! 襲い掛かるとかはなしだからね、血を吸わないでくれ……まだ生きたいから、これだけ約束して」
「……うん」
「手を握るまでの経緯が面白すぎて、ツッコミたくても、きりが終わらない……なんだこれ初々しいカップルみたい」
とその時、里紗は冗談を軽い笑いで打ち返し、気抜けたジョークをぶつけた。そして再びふわふわソファーに戻り、胡坐をかく。
「カップルじゃないわよ、付き合ってもいないし。ていうか、ツッコミたいならもっと潔く突っ込んでくれよ、夜途さん」
「突っ込まれたいのかよ、ますます結凪のキャラが分からなくなちゃうわ」
「じゃ、夜途さんこれからは頼んだぞ」
琴絵はテレビを見ている里紗の背中をつつく。琴絵からの依頼の内容が理解できていない彼女は咄嗟に琴絵の手首を掴んで、疑惑の目を向ける。
「あ? 何の頼み?」
「一緒の部屋に住むこと、一個しか残ってないから」
「無理無理、結凪わかってんのかよ、犬猿の仲だよ、向こうがどう私を思ってくれるのかまだ知らないんだぞ。私はいいよ、ソファーで寝るし、ゆっ……宥は一人部屋でね」
里紗はこそこそと琴絵の耳元で囁き、さも独り言をしているかのように声を低くする。元々耳が敏感である琴絵は無意識に首を縮こまって、熱い吐息を感じた琴絵は少し赤面になった。
彼女はある程度の距離を取って、ようやっく冷静を取り戻し、里紗にこう諭す。
「ソファーだったら腰痛むでしょう、いっそ私の部屋で寝るか?」
「っ……!? またそういう軽々しく人を誘うなんて、もっと自覚しろよ、相手が私だったらいいけどよ」
「夜途さんこそ何言ってるのよ、本当にいいの? 私は別にいいけど」
「大丈夫だ。そこまで考えてくれてありがたいが……」
里紗は婉曲に断り、自分から見れば誘惑に等しい言葉を払いのけて、やんわりと首を横に振った。彼女は虚ろな目でじっと宙を見据えて、何か言いかけても、最後まで言い切れなかった。
「え? 気持ちが転々とするね、それでいいならこっちは何も言わないけど」
「ほら、二人だと狭いなぁと思ったから」
「わりとベッドが広いよ、夜途さんも知ってるはずなんだけど、まぁいいっか」
里紗のほっとした様子が宥に捉えられて、彼女は里紗の顔に視線を置く。宥のその様子がさも海の水平線の一点を眺めるかのように真剣みがにじみ出る顔だった。それを感じ取ったのか見つめ返した里紗は溜息をする。
「なによ?」
「……」
宥はまたしても無言のまま、彼女をぼんやりと見る。お人形さんのように感情に乏しく、きれいで、宝石で例えるなら逸品と言っても過言ではではないクオリティー。こう見られるとじっとしていられず、里紗は口を開く。
「……何の御用?」
「……」
「まぁともあれ、これからはよろしくね、何もしないから安心しろ。またスープを飲みたかったらいつでも呼んで」
「ア、リ……ガト」
「片言じゃねぇかよ、お安い御用だ。元々は結凪のために作ったんだから、お礼なんてしなくていい……よ」
里紗はここぞとばかりに決め台詞を言い、変なところに自分のカッコよさをアピールする。こうやって他人に感謝されると意外と落ち着きを失い、気恥ずかしさを表にする。
読んでいただきありがとうございます。次回も楽しみにしていただけると幸いです。




