無謀な勇気
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二人は一体どんな会話をしているのでしょうか、また琴絵の決断は……?読んでいただければと思います。
「あいつは人間じゃない」
「……っ」
事実を告げられた琴絵は絶句し、そっと目をつぶり、壁にもたれる。それを鵜吞みにしようとしたが体的に拒絶反応を起こした。彼女はちゃんとその言葉の意味を嚙み砕いてから、飲み込む。
明らかに眉間にくっきりと皺が出て、琴絵は唇を嚙み締める。そして、眉毛がほんのわずかに揺れて、彼女はぴくりとまぶたを開ける。
「噓つけと言いたいところだが、流石に夜途さんの真顔を見たら、ただごとじゃないと思った」
「理解が早いね……助かる」
里紗は言いたがりそうな顔して、喉の奥から飛び出そうな言葉を踏み荒らすかのようにブレーキをかける。彼女は返答に窮して、ひたすら言葉を紡ごうとするが、その切羽詰まった表情が琴絵の目にうつりこんでいた。
「白を切らないで、本当のことを教えて」
彼女は痺れを切らして、里紗に問いただす。琴絵は手が落ち着かずもじもじしているのを隠し、関心を示す。その次に、床に視線を落とし、頭を空っぽさせる。
「端的に言えば、あいつは吸血鬼だ」
「は?」
「ほら、その反応、半信半疑の顔してるじゃん」
「じゃ、なんでわかったの?」
「あんなの見ればわかる、敵対関係だから一目でわかるよ」
里紗は拳を握りしめるのを緩めて、腕組みして大きく構える。目に宿るのは平静とした海のような雰囲気、さざ波一つさえも起らなかった。まるで自分の中に棲みつく獣を押し殺すかのようだった。彼女は気を紛らわそうと女子とは思えないほど大きなあくびをする。
「敵対!? 種族の溝ということ?」
「頭切れるね、そういうこと、でも一つだけ言わせてくれ。私は分け隔てなく何でも好きだ、たとえ種族が違うとしても、その気持ちは揺るがないものだ」
「じゃ夜途さんの話によると、本来なら互いを敵視するべきが、その中でずば抜けたのは夜途さんだけか……『普通』とはかけ離れた価値観を持ってるの不思議」
琴絵は至って冷静に結論をまとめだした。軽く横目で里紗を見る。ほんの一瞬、その横顔の変化を捉えた。里紗は焦点が定まらない視線して、控えめに微笑をたたえる。琴絵の角度から見れば、あれは過去を思い出すにつれて淡い哀愁のようなものが漂う笑みだ。
「生まれ持ちじゃない、『あいつ』のおかげだ」
──あいつって誰? 友達ってことかな……
「誰のこと?」
「それは……結凪に関係ない話だ」
その感情のこもってない口調からすれば、里紗の瘡蓋がぺりっとめくられたかのように弱体化する。どうしようもない無力感に覆いつくされた彼女は両腕を抱えて、消極な態度を取る。里紗はあえて琴絵とのアイコンタクトを回避する。
その問題がかわされて、これ以上問い詰めても無意味だと悟った琴絵は口をつぐんだ。なんだか胸がプツンと刺されて、何とも言えない苦渋が走った。所詮、会ったばかりの人に全てを洗いざらい吐くわけがない、それは当然だ。
だが、琴絵はパジャマの皺を伸ばし、喉に棘が生えていたかの如く唾を飲み込むすら困難になる。そんなに自分らしくない、落ち込むなんて初めてだ。彼女は辛うじて言葉を絞り出す。
「ごめん。出しゃばったのね、さっきの話に戻ろう」
「違う、そういう意味じゃ……あぁもう、つまりあいつを引き取るかどうかの問題だ」
「ちょっと待て、話の展開が早すぎる。物事の順番は……」
「待たない」
ついさっきまでは琴絵と同じ姿勢して、壁にもたれていたが、里紗は突拍子もなく彼女との距離を一気に縮める。逃げ場を作らせないように手首を掴む。
少しでも反抗らしきものを見せたいが、腕力のないオタク女子がそれを抵抗しようとなんてまさに焼け石に水だ。それを思い知ったのか、琴絵はきれいさっぱり諦めた。こんな至近距離での見つめ合いは初めてだった。
「差し迫っているんだ。もう一つ教えておこう、もしあの時結凪がそのまま家に帰ったら、あいつは間違いなく射殺されるわ。劣悪な天気と人気のない道、ハンターにとってぴったりな条件だもんな」
「狩人? 漫画とかよく出てきそうな設定か?」
「ああ、そんなもんね、一旦発見されたら問答無用で殺されるわ。吸血鬼だけに厳しい……」
里紗は切迫した口調で常人にとって理解しがたい世界観を述べる。またどこから取り出したタバコのパッケージしてるチョコを、一本だけ口にくわえる。それを目に映った琴絵がツッコミ欲を押さえ込んで、彼女の話に所々でヒントを探し出す。
「そんなにダメなの? 吸血鬼の存在って」
「ああ、説明が長くなるから、後日また話してやるよ」
「曖昧だな……それだけで判断しにくい」
「わるい。そんなことになるなんて私には思わなかった。結凪はどうしたい?」
正直彼女自身もわからないのだ。いきなり非日常的なことが訪れて実感が湧かず、ましてやそれをすべて受け止める覚悟なんて持ち合わせていない。琴絵は視線を下に向けて、言葉を探している。
すると里紗は眉間に皺を刻んで、この沈黙の糸を断ち切るかのように、口に含んだままのチョコをパきっとかみ砕いた。
「わがままなのは承知した上、結凪にはわるいと思ってる。こんな面倒なことに絡まれて誰だって漠然とするよ。私はただあんなやつを放っておけないんだ。でも最終決断をするのは結凪自身だ。私からは何も言わない」
「なんか、今日夜途さんの意外性の一面が見れて、貴重だなと思った。あの子に対しての態度、単なる嫌がらせかと……」
「嫌がらせだったら、スープなんてあげないわ、いや、毒盛りにするかも。が、向こうは私のことよっぽど嫌っているだろうけど……」
──これこそ種族の紛争ってやつか、火に油を注ぎたくないぁ、果たしてこれは手に負える問題なのか。こんな状況、攻略本に絶対書いてないだろうし、ここからは自分の力で……
「それって、私の命に危険が及ぶの?」
不自然なところに里紗は黙秘を突き通して、琴絵に刃のような冷たい視線を向ける。それと目が合った彼女はぎくりして、相手の迫力に一瞬鼻白んだ。それでも里紗はしゃべろうとしない。恰も重大なことを言い出す寸前のように、琴絵の顔を凝視している。
「……」
「なんで黙ってたの? 夜途さん」
自分の予測に的中しないでと願うばかりだが、それも虚しく、不吉な予感が黒い雲のように胸に忍び寄る。彼女は里紗の言葉を待ち続けている。
「私と出会った時点で、あなたはもう死と隣り合わせているのよ」
「さらっと怖いこと言うな、心臓に弱いよ……」
「ジョークだよ。そう安易に結凪の命を食わないって。でも彼女を引き取るってことは、相当な覚悟が出来ていないとダメよ」
──確かに、一理ある。ただでさえ悪魔を家に住まわせる時点でアウトやん。でももう一人増えてもあんまりかわらないと思う。それに……
「実際なところどうなるのか知らないが、夜途さんと同じくお節介さんなんで、そう決めるね」
琴絵は鷹揚な物言いして、鼻から深く息を吸い込み口から吐き出す。前までの悩みが一掃されて気が晴れた顔してる。その決断に驚く声をあげた里紗は感心して息を漏らす。
「あっさりだね……熟考を重ねてから決めた方がいいよ」
「なんだ、その脅迫のような語気、そもそもこのアドバイスって夜途さんから考え出したんじゃないか? 世話好きな人だね」
「人じゃないんだけどね」
「はいはい、じゃ私から言うの?」
「それりゃそうさ、この家は結凪のものなんだから。それとさっきも見ただろう、相手の猜疑心が強いってこと。ああいう生き物って意外にも執拗なんだ。まともな理由を考えておかないと、突然暴れだしたら元も子もないから、なるべく自然にふるまおう」
里紗は苦悩に満ちた面持ちで仰向いた。
「うん。わかってる。一番有力なやつ考えたんで」
と琴絵は自信満々に言い、部屋のドアを開ける。
読んでいただきありがとうございます。次回の更新は土曜日にさせていただきますので、楽しみにしていただけると幸いです。




