雨の匂い
いつも読んでいただきそして応援をくださり誠にありがとうございます。感想やコメントも大歓迎です。
最近、日本留学の試験や面接のことで、小説の更新を疎かにしてしまいました。本当に申し訳ございませんでした。今後とも更新の頻度をあげるように頑張ります。
「よし、これで帰れる。しかし、雨は降りやまないね……傘あっても濡れ鼠になりそうだ」
──まぁ、全力ダッシュしたらなんとかなるでしょう……
琴絵は傘をさして、駆ける準備をしようとしたところ、地面にある水溜りに視線を向けフリーズする。迂闊に踏んてしまったら取り返しのつかないことが起こるので、急遽作戦を取り消した。
彼女は家の近くにある公園を通りすがる時、無意識に滑り台のところに目をやると、屋根の下に人が座っている。雨のせいなのか、視界がぼやけているのでよく見えていないが、好奇心が掻き立てられて、歩み寄った。
傘に弾ける音はのべつ幕無しに綺麗な響きをたてる。こんな誰でもいない道に、たった一人のために開かれた音楽会、或いは情熱の演奏会を鑑賞しているような気分だ。
地面に踏みつくずっしりとした靴音が公園に入り込むにつれて、湿った土の感触になりかわり、独特な雰囲気をもたらす。そんな足音をかき消すかのように雨はごうごうと降り続ける。それに対し琴絵は無駄な対抗心を芽生え、強く踏みしめる。
「うわ……雨がやばい。でもそこに座っていたのは間違いなく、絶対人だ」
と琴絵は目を細めて下から見上げると、体育座りしている人がお馴染みの制服をきていることが判明した。彼女はしばらく頭を悩ませて声をかけるかどうか躊躇したが、自分はお節介な性格もありつつ、決意を固めた。
──この人傘もってないっぽい、とりあえず一回話してみよう。
「あの……」
琴絵はその滑り台にある鉄の階段を登って、口火を切り出す。一段とやわらいた口調で声を掛けた。しかし、あの人からの返信はおろか、一瞥さえもくれなかった。他意はないと主張したものの、相手はまったく反応を見せなかった。
「大丈夫か? 傘ないの? 全身びしょびしょだよ」
「……」
──どうしよう、全然返事ないけど、私が怖い顔してるから警戒されてんのかな?
彼女はくしゃみこんで傘をしまった。これからどうするのかは何も考えていない、考えるより体が先走ったのは琴絵なりのやり方だ。しかしどれだけ呼んでも、その人は顔をあげることはなく、まるで外との繋がりが遮断されたかの如く、琴絵と接することは避けている。
それを目にして、琴絵は間をおいてからよろよろ立ち上がった。
「な、この傘あげるからゆっくりお家に帰れると思うはずっ。じゃ私はこれで失礼……」
琴絵はその人から視線を切って、階段を降りようとしたところスカートの裾が何かに引っかかれた違和感を感じ、振り返って見ると、その人は無言のまま彼女を引き留める。
「あの……傘はもうここに置いてあるよ、他に何か必要ある?」
「……」
──またしても何も喋らないのか……これじゃ何も解決できない。
正直なところ、どうしたらいいのかパニックになりかけるが、こんな土砂降りの日に、一人ぽっちさせるなんて妥当ではない上に、ここで放っておくわけにはいかないので、不審者と思われても仕方がないと腹をくくった。
「家くる? ここから近いんで、せめて服を乾かそう」
稀にも、その人はチラッとこちらを覗いている。あの緑色の双眸と目が合ったとき、吸い込まれそうになりうっとりしてしまった琴絵ははっとした。その恍惚感が波のように打ち寄せてきて、すごく不思議だった。その子は行こうと言わんばかりに琴絵の背中を触る。
──変な人……これ死亡フラグとかじゃないよね、ゲームだと何かのパラメータがアップしたという設定かな? もし選択を間違ったら即バッドエンドに一直線だ。
こうして雨の中、二人は肩を並べながら歩く。琴絵は傘をさして、か弱そうな女子の方に傾ける。雨は石でも貫くそうな勢いで傘にたたきつけて、次第に肩から寒さが伝わったが、彼女はくしゃみを堪えながらアパートにやって来た。
「着いたよ、私の家は二階にある、あそこの階段をのぼれば到着だ」
二人は階段を登って、琴絵はポケットから鍵を取り出して玄関のドアを開けた。玄関に踏み入った途端に、甘い匂いが鼻の奥に押し寄せてくる。すべての疲れがその一瞬ぶっ飛ばされそうな安心感を覚えた。
「たたいま~」
「お! お帰り」
「何作った?」
里紗はすぐさまゲームパッドをおいて、台所に行き、そしてお椀と木製スプーンを食器棚からとりおろした。それを察したか琴絵は急かすようなトーンで香りのもとについて聞いてみた。
「ほお、鼻が利くね、コーンスープだ。ちょうど冷蔵庫に余った材料あるから、作ってみた」
「夜途さん……」
「なんだよ、その顔、まるでそんなに出来のいいやつなんて聞いてないって顔してるわ!」
「いや……単純に驚いただけ」
琴絵は口元を緩ませて、見逃してしまいそうな微笑が影のように顔をかすめた。体のとこかにほかほかな気持ちが染み渡り、安堵した一息を漏らす。
「まぁ早くあがってくれ、さぞ冷たいんだろう」
「うん、それと……この人」
琴絵に紹介される前に、里紗は彼女の後ろに立っている人に目を凝らす。彼女はカット目を見開いてせわしなく瞬きをして、ハッとした口を抑えたその手で胸を抑える。予想外のことに、里紗は唾を飲み込んでから話し出す。
「おいおい、とんでもないものを拾いやがったなぁ……結凪よ」
読んでいただきありがとうございます。次回も楽しみにしていただけると幸いです。




