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交差点の灯火  作者: 霞真れい
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攻略失敗?①

初めての方でも、初めてではない方でも、これを開いてくださりありがとうございます。感想やコメントも大歓迎です。

「ピピピピピピピ……」


 ちょうど七時半に目覚まし時計がなり始めた。耳をつんざくような爆音が部屋中に響き渡るにもかかわらず、私は布団を頭から覆い被った。再び眠りにつくところ、どうしようもない騒音に妨げられて苛立ちを覚えた。


 頭の中に鉛のように重く、目を開けることすらたるくなってきた。すると私は意識がはっきりするまでに、ぼーっとする。あの目覚まし時計が自動的に消えてくんないのかなと無駄な祈りをしてた。


 しかし、世の中にそんな都合のいいことあるわけないだろうと不敵に笑った。二分が経っても、あの目覚まし時計はのべつまくしに騒いでいる。そろそろ止めてあげないと隣人にピンポンされるので、不承不承と布団から腕を出した。


「ああ……もう、うるっせなぁ」


 本能に導かれるまま、あらゆる手の届く範囲まで探ったが、あれらしきものの感触はないのだ。どこに置いてあったのかはちゃんと覚えているはずなのに、どう探しても水の泡だ。


 この味気ない延長戦が五分も続いている中、焦燥感を募る一方だ。腕をギュッと伸ばして、間がいいところで目覚まし時計を見つけた。またぼんやりとした状態だから、ぎこちない振る舞いと共に必死に止めボタンを探す。


 とその時、隣人がピンポンを押した。嫌な予感が的中し、止めボタンを押すのも億劫になり、思わず目覚まし時計に対し倦怠感をぶち込んだ。


「だからうっせぇのよ。ポンコツ野郎!」


 私は思い切り目覚まし時計を壁にぶん投げて、色んな意味で強制的に終わらせた。非人道的行為を受けたやつが不服を唱えるかのようにザザっと変な音を立ったから、息を引き取った。厄介なやつがいなくなり、私は気持ちよさそうなあくびをしながら枕に顔を埋める。


「二度寝するか……どうせまだ早し」


 ──でも今日って入学式だよね。高校一年生の学園生活、だったら起きないとね……ついでに携帯見ようっと。


 昨夜、ゲームばっかやっていたから、くたびれて記憶がぶっ飛んだわ。滅入ちゃった私は布団で自分をぐるぐると巻いてダンゴ虫のように縮こまった。


「大事な入学式なのに、それすら行くの面倒だなんて、もうダメかも」


 ──あ、でも午後ゲームやんないといけないもんね。新しいイベントや期間限定のガチャも出るからコンビニでカードを買わなくちゃ! 


 生き甲斐を見つけたかのように、眠気が一気にぶっ飛ばされて、私は水を得た魚のように生き生きとしている。それからベッドから降りて床にある携帯を手に取る。毎日の課題として欠かさず、ゲームを起動することにして、軽く日常ミッションをクリアする。


 ──今日のためにコツコツと貯めてきた石と魔法のカード両方を持っていればまさに鬼に金棒だ!


 すっかり無我夢中になった私はホーム画面に戻り、現在時刻がぱっと目に入った途端、血の気が引いたかのようにこわばった。その後スマホの電源が勝手に落ちて、真っ黒な画面になったと同時にふわーとしている自分の顔がまんまと映されている。


 二重打撃も受けた私は泡を食らったかのように等々動き始める。


「やっべぇ! このままじゃ間に合わない! もっと早く起きていればよかったのに!」


『何々をしていればよかったのに』が私の口癖だ。なんとか直そうとしたが、有言実行には至らなかった。そんな中、すべてのことを五分で済ませて、限られた時間にてきぱきとこなせるのが私の取り柄だ。足取りを早め学校へ向う。


 ──一人だけ目立つのが嫌だ。全力疾走でなんとか間に合えるはず!


 私は今までにないスピードを出して、他人の異様な眼差しをもろともせずに駆け抜ける。いつも朝ごはんを食べないという自分にありがたく思った。さっそく学校の正門前にやってきた。


「セーフ……」


 全力走ったせいで、息がまだ弾んでいる。ドラムを鳴らしたように心臓の音が異様にさえている。何度か身を震わせながら深呼吸して息を鎮める。その後、私はゆるっとしたステップを踏みながら体育館に入り、席についた。


 ──あっぶねぇ。あと二分ではじまるよ。その代わりに、ここで偉い人の話を聞かなくちゃいけないか……しんどいけど、これからが本番だ。


 上には校長らしき人物が悠揚迫らずに歩き、演台の前に足を止めた。一回こちらに視線を向けるなり入学式の挨拶をし始めた。静寂の空気と厳かな雰囲気に包まれる中、初めて、あ、私これからこの学校で高校生活を過ごすのかと実感した。


「新一年生の皆さん、入学おめでとうございます! この素晴らしき春に……」


 ──どうせ真面目に聞くやつなんているわけねぇだろう。仮眠でもとるか……今日徹夜でイベントを回るから。


 すると私は己の欲を従って目をつぶるのたが、初日で寝るなんてさすがに罪悪感も沸くものだと思い、その行動をやめた。だが、この苦痛の時間が続く限り、私の精神はどんどん削られていく。限界を超える寸前、校長の話が終わり、なんとか耐えられて入学式も終了を迎えた。


 私は心の中で快哉を叫びながら、自分が属しているクラスに入り込んで自然と一番後ろの席についた。そして担任からの恒例のセリフをはじめ、クラス全員気を引き締めて心の準備をする。


「ここからは自己紹介の時間だから、前の人から」


 ──よし、オタクの私でも友達ができるなら万々歳だ。しかし他の人の自己紹介を聞いたから余計に緊張が走ってきた。ちゃんと言えますように!


「では次」


 ついに私の番が回ってきた。ここぞとばかりに体の生気絞り出してもっとも無難な内容を言葉にする。


結凪琴絵(ゆうなぎことえ)です。趣味は絵を描くこと、あと好きな食べ物はパンケーキです。よろしくお願いします」


 ──これ決まったな、女子高生らしく至ってシンプルな自己紹介。この勝負、勝ち取らせてもらうわ。


 自分の表情はわからないものの、割といい感じじゃねぇ? と根拠のない自信が湧いてきた。これなら完璧、オタク要素もまったくにじみ出ていない、普通の女子高校生あるべき姿だ。私は逸る心を抑えて心より吉報を待っている。


 こうして、私にとっての順風満帆な学園生活も始まる……! のはずだった。休み時間に誰一人も声をかけてくれなかった。それが現実であった。

読んでいただき誠にありがとうございます。

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