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7話 登校

 アパートの玄関を出て鍵を閉め、細い階段を降りて、歩道に出る。ゆっくりと歩いていると大きな三階建ての家から、和さんが出てきた。ゆっくりと歩く姿は、清楚で大和撫子という言葉がよく似合う。そしてふと後ろを振り返って僕を見つけると、ニッコリと笑って小さく手を振ってくれた。


 昨日、和さんと一緒に学校から帰った。その時にわかったのだが、和さんのおばあちゃんが僕のアパートの大家さんだった。小さくて可愛いおばあちゃんで、僕が引っ越ししてきから、何かと気にかけてくれて、野菜や肉などの材料を時々持ってきてくれたりする。


 昨日の帰り道は、和さんのおばあちゃんの話で盛り上がった。和さんはおばあちゃん子で、おばあちゃんから料理や家事を教えてもらっていると話してくれた。


 僕はゆっくりと歩いていき、和さんの隣に並ぶ。和さんが僕の歩調に合わせるように、ゆっくりと並んで歩いてくれるのが嬉しい。



「昨日はキチンと夕食を食べましたか? おばあちゃんが気にしてたので」


「うん。昨日はもやしとニラと卵を炒めて食べたよ」


「ニラタマですね。美味しそう。うふふ」



 和さんがふんわりと微笑む。和さんの澄んだ透き通る声が耳に心地いい。ストレートの黒髪が風にふわりとなびき、日差しに照らされて髪がキラキラと光っている。



「いつでも困ったことがあったら、私に言ってくださいね。私は大家の孫ですから」


「ありがとう」



 和さんの隣にいると、なぜかとても穏やかな気分になる。たぶん和さんの雰囲気のせいだろうな。二人でゆっくりと歩道を歩いていく。すると目の前の交差点の角から風太がロードレーサーに乗って現れた。そして僕を見つけると、にっこりと笑って片手を大きく掲げた。それを見た和さんが、風太と僕を交互に見る。



「風太くんと仲良しなんですね」


「風太とは高校一年からの付き合いで、風太の家のジムに通ってるんだ。風太とは友達で仲いいよ」


「私、風太くんとは同じ中学だったの。玉砕くんもジムに通ってるのね。すごい」


「そんなにすごくない。風太に比べれば、まだまだだよ」



 風太は細かいことは気にしない性格で。とにかく前向きな奴だ。風太の何でもストレートにモノを言うところも、いつも男らしいと思う。体格も大きく、器もでかい。


 和さんがアゴに指を当てて、少し首を傾げる。


「毎年、年末になるとテレビで格闘技の大会が放映されるでしょ。私、その番組が好きなの。腹筋が八個の割れてるのを見ると、すごいなーと思うの。変かな?」



「変じゃないよ。女の子は胸板や腹筋が好きだって、風太が言ってたし」


「風太くんらしいわね。うふふ」



 そうか……和さんは腹筋が好きなのか。おっとりした和さんが、格闘技が好きなんて、ちょっと意外な気もする。和さんが興味深そうに僕の腹を見る。なんだか恥ずかしい。



「玉砕くんって、細く見えるけど、スタイルいいんですね」


「そんなこと言われたの初めてだよ。ありがとう」


「どういたしまして。うふふ」



 一年近くジムに通っているから、何もしていない人よりも腹筋はあると思うけど、風太と比べるとまだまだだ。


 段々と歩道を歩いていると、歩いている生徒達の数が増えてくる。そして前にレンガ造りの校門が見えてきて、その向こうにモダンな校舎が見えてきた。


 女子生徒達のはしゃぐ声が聞こえて、そちらの方を見ると、朝から渉が女子生徒達に囲まれながら歩いていた。渉は静かにしているのが好きで、あまり騒がれるのは好きではない。優しいから言い出せないのだと思う。


 段々と校門が近づいてきた。するといきなり誰かが僕の背中に抱き着いてきた。二つの大きくて、柔らかくて、暖かいモノが背中に押しつけられる。こんなことをする女の子は知る限りでは一人しかいない。



「誰だー。ニャハ」


「天音でしょ。おはよう」


「新、おはよう」



 あれ? 玉砕くん呼びから、名前呼びに変った? そんなことおかまいなしに、天音が僕の右腕を両手で抱きしめて、にこにこと笑う。



「教室まで一緒に行こう。ニャハハ」


「うん。いいよ」



 天音に返事をしながら周囲を見ると、和さんが少し離れた所を歩いて、僕に小さく手を振った。和さんも一緒に教室まで行こうと言うつもりだったんだけど……


 首を振って、天音が和さんを確認して、うんうんと何度も笑顔で頷く。



「和たんはよくわかってるにゃー」


「ん? 何を?」


「新はわからなくていいの。ニャハハハ」



 何が嬉しいのかわからないが、天音が楽しそうに僕を見て笑う。その笑顔が楽しくて僕も笑った。


 天音と二人で校門を潜ると、校舎のほうから視線を感じる。その先へ視線を向けると、心愛がカバンを両手で持って、校舎の前で静かに立って僕を見ていた。段々と距離が近くなり、一mほどの距離になる。心愛が意を決したような顔をして口を開いた。



「あの……おは「おっはよー。心愛たん。キャハ」



 心愛の小さな声は、天音の楽し気な声にかき消され、何を言っていたのか聞えなかった。すると心愛が顔を真っ赤にして、身を翻して走り去っていった。咄嗟に天音を見ると、天音は心愛の消えていった方向へ向けて、小さく舌を出していた。



「???」


「別に気にしなくていいにゃ。新、早く教室へ行こう。キャハ」



 僕は何が起こったのか、全くわからないまま、天音に導かれるように校舎の中へ入った。

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