6話 天音とのLINE
PM21:00
風呂から出た僕は、スウェットに着替えて、濡れた髪をバスタオルで拭きながら、キッチンのあるテーブルの椅子に座る。ボロアパートの1LDKの一室、ここが今僕が住んでいる家だ。
家から追い出された原因は僕が恋をしたから。夜になると枕を抱いて、ゴロゴロと転げまわり、恋に恋して苦悩の声を漏らしていたのが悪かった。壁が薄かったこともあり、妹に一部始終を聞かれていた。そして妹が「キモっ」と僕を嫌悪するようになり、両親からも散々注意されたのに、僕の恋心は止まらず、とうとう去年の秋に父親がアパートの部屋を借りて、僕は一人暮らしをすることになった。
独り暮らしを始めた頃は、料理はできないし、洗濯もできないし、家事を何もできなくて四苦八苦した。夕食だけは妹が嫌がりながらも、母さんが作った弁当を持ってきてくれたので助かった。
今では少しは料理もできるし、妹も母さんの弁当を持ってこなくなった。夜になると少し寂しい気もする。こればかりは、いつまで経っても慣れない。
椅子から立って、冷蔵庫から麦茶を取り出して、コップに入れてグイっと飲む。冷えた麦茶が美味い。火照って体を麦茶が冷やしてくれる。テーブルの上に置いてあったスマホがブルブルと振動しる。手に取って画面を見ると、天音からのLINEだった。
天音『ハロハロ、元気にしてる? 何してるの?』
僕『風呂から出たばかり』
天音『玉砕くんのエッチwww』
家族と、風太、照信、渉とはLINEをしているが、正直に言って、あまりLINEは上手く使いこなせていない。スタンプもあまり使ったことがないし、絵文字もあまり使ったことがない。女の子にどういうコメントを返していいかわからない。
天音『アタシは何をしてるでしょうか?』
僕『わからない』
天音『ベッドの上でゴロゴロしてるwww』
初めての女の子とのLINEにドキドキするが、何が楽しいのだかわからない。やっぱり僕はLINEは苦手だなと思う。そんなことを感じながら、ダラダラとLINEをしていると、天音から通話がきた。ボタンをタップすると天音の少し鼻にかかった、甘い声が耳に聞こえてくる。
『ヤッホ。ヤッホ。アタシの声、聞こえてる?』
『聞こえてるよ』
『コメント打つのって面倒になるのよね。やっぱ通話のほうが早いわ。キャハハ』
『こんな時間にどうしたの?』
『今日はLINEするって言ったじゃん』
そう言えば学校からの帰りがけに、教室の中で天音が言っていたのを思い出した。天音は宣言の通りにLINEしてきてくれたんだな。でも、こちらから何を話していいのかわからない。
『学校だと、授業とかあるし、あんまり話できないじゃん』
天音が少し拗ねたような声を出す。授業中もあれだけ話していれば十分だと思う。でも天音はまだ話足りないみたいだ。女の子っておしゃべりが好きだものね。
『実はさ、私、玉砕くんと同じ中学だったんだよ。同じクラスになったことはないけどさ』
同じ中学の出身だとは知らなかったな。天音のような派手系の美少女なら話題になってもおかしくないのに。思い返しても全く記憶にない。
『中学の時に会ったことがあるんだね。全く覚えてないや』
『そうだよね。中学の時は校則もうるさかったし、私って地味子だったのよ。人と会話するのも下手だったしね。高校生になったから、オシャレもできるし、イメチェンしたんだけどね。キャハハ』
地味な天音なんてイメージできないし、会話するのが下手だったなんて想像もできない。
『玉砕くんは、よく渉っちと一緒にいたじゃん』
渉は中学の時から有名だったからな。渉の隣にいる僕を覚えていたんだろうな。
『渉っちとは友達なの?』
『渉とは幼馴染』
『そうなんだー。渉っちと玉砕くんは幼馴染なんだー。へー』
僕と渉では凸凹だもんな。渉は優しいし、格好いいし、女の子にモテるから。やっぱり天音もイケメンの渉が気になるよね。
『勘違いしないでね。アタシは別に渉ッちのこと気にしてないから。正直に言って、あまりイケメンって興味ないのよねー。キャハハ。アタシの好みってマニアックなの。マニアック。キャハハ』
なんと返事をしていいのかわからない。言葉が頭をグルグルと回るのに、上手い言葉が出てこない。母さんや妹となら上手く話せるのに、どう返答していいのかわからずに黙ってしまう、情けない僕。
『玉砕くんって、女の子との通話に慣れていないでしょ?』
『うん……』
『アタシで段々と慣れていけばいいじゃん。アタシ暇な時間に、毎日でも玉砕くんにLINEするし、通話もするからさ。キャハハ』
こんな僕に構わなくても、他に女友達や男友達が、天音には沢山いると思うけど……
『今日、聞いたけど、心愛のことは、もう諦めたんだよね?』
『それはシッカリと諦めた。区切りを付けないと心愛に迷惑をかけちゃうから』
『そっか、そっか。玉砕くんにはアタシが一緒に居てあげるからね。ニャハハ』
心愛のことで傷心していると思って気を遣ってくれてるんだね。天音の優しさとが通話ごしに僕の心にジワッと広がり、なんだか心が温かくなる。
『ありがとう』
それからポツリ、ポツリと通話を続け、通話を終えて時刻を見ると、0時を回っていた。既に冷えきった体をベッドの布団に潜らせて、僕は目覚ましの音が聞こえるまで熟睡した。
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