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2話 新学期

 季節は変わり、四月となって僕は二年生になった。体育館での始業式が終わり、廊下に貼り出されているクラス表を確認する。そして廊下をゆっくりと歩いてAクラスの中へ入ると、教室の中にいたクラスメイト達が一斉に振り向いて僕に視線が集まる。


 一年生の時に心愛に告白し続けたことで、僕の奇行は噂で流れ、学生のほぼ全員が知る所となっている。そして付けられたアダ名が【玉砕くん】。だからクラスメイト達が僕のことを奇異な目で見るのも仕方ない。一年生の時の一年間の行動は、今となっては自分でもあたおかだと思う。


 席に座って窓を見るようにして、クラスメイト達の視線から逃れる。心愛のことを好きだった一年間。自分の心を通した一年間、誰に蔑まれようとも、自分の行動にも悔いはない。一年生の時は恋に浮かれていてわからなかったけど、今となっては皆からの奇異な者を見る視線は心に痛いな。


 肩がグイっと掴まれ、その方向へ顔を向けると、風太がカバンを手に持って立っていた。



「よう新、新学期からしけた面してんな」



 さすが毎日ジムで鍛えているだけあってガタイがでかい。そうか風太も一緒のクラスだったんだな。数少ない友人がいてくれたことにホッ息を吐く。



「二年になっても心愛を追いかけるのか?」



 心愛のことに区切りをつけたことは風太にも誰にも言っていない。最後に告白したのが三学期の終業式だったし、春休みに入ってからは、気分が落ち込んでいて、ほとんど外に出ずに家で過ごしていたこともあり、ジムに通ってもいなかった。風太には世話になったし、ここで告げておいたほうがいいかもしれない。



「心愛に告白するのも、追いかけるのも止めたよ。自分の心の中で区切りをつけた。もう諦めたよ」


「そうか。そんな時は汗を流せ。筋肉を動かして発散しろ。いつでも俺は手伝うぜ」


「ありがとう」



 風太の心遣いが心に染みる。筋肉バカな所もあるが、根が正直で一本気で、風太は良い男子だと思う。


 風太と話していると、教室の前のドアが開き、眼鏡を押えながら照信が現われた。そして僕を見つけると、指を差しながら慌てたように駆け寄って来る。そして照信が空いている席に座って体を僕のほうへ向けた。



「全く連絡もない。LINEを送っても既読もつかないし。春休み中、何をしていたんだ?



 始業式が始まる今日まで一切の連絡を絶っていた。誰とも口を聞きたくなかった。区切りをつけると言っても、心は上手くいかなかった。照信には心配をかけてしまったね。申し訳ないことをしたと思う。



「照信、一緒のクラスだね。よろしく」


「新、少し痩せたんじゃないのか? 何かあったら、いつでも相談するんだぞ」


「ありがとう」



 照信は中学校からの友達で、風太は高校一年からの友達だ。僕が紹介すると、たちまち照信と風太は仲良くなった。体育系と文系と色は違うが、馬が合ったみたいでよかったね。


 廊下のほうが騒がしい。女子生徒達の騒がしい声と足音が聞こえる。何があったのかなと顔を向けると、遠巻きに女子生徒達に囲まれた渉が教室に入って来た。そして僕を見つけてクールに微笑みながら歩いてくる。



「やあ、新、もう元気は出たかな?」


「もう元気になったよ。ありがとう」


「それは良かった」



 渉は僕の小学校からの幼馴染でいつも俺を助けてくれる親友だ。渉は春休みに僕の家に遊びに来てくれて、その時に心愛を諦めたことを話した。渉は静かに話を聞いてくれた。何も言わずにずっと。その優しさが嬉しかった。


 風太、照信、渉の三人が今日会ったばかりなのに、気を許した友人のように騒いで、盛り上げて、僕の周りを楽しい雰囲気にしてくれる。その優しさが身に染みる。三人のためにも早く忘れよう。早く立ち直ろう。


 チャイムが鳴って、三人はそれどれの席に戻っていった。なぜか僕の横の席が空いたままだった。もうすぐHRなのに、欠席の人もいるのかと不思議に思っていると、教室の後ろのドアが開き、彼女が教室に入って来た。心愛だ。


 久しぶり見た心愛はまさに天使だった。心愛を見て僕の心臓はドキドキと高鳴り、喉がカラカラに乾く。区切りを付けたはずなのに、諦めたはずなのに、息が苦しい。


 心愛は僕を見て、一瞬だけ目を大きくして驚いた表情をしたが、すぐに目を伏せてシズシズと歩いて、僕の横の席に座った。


 どうしていいかわからず、僕は前を向いたまま硬直する。振り向くこともできない。やっぱり、すっごく、すっごく、すっごく、すっごく、すっごく大好きだったんだな。でもこれ以上は心愛に迷惑がかかる。諦めたんだ。区切りを付けたんだ。僕はそう言い聞かせ続ける。


 すると隣から気配というか、視線を感じる。恐る恐る顔を向けると、心愛がジーっと僕を凝視していて、そして目が合った。心愛の可愛い唇が小さくささやいた。



「今度は同じクラスだね。新くん、よろしくね」



 同じクラスになったことの挨拶。ただの挨拶だということはわかっている。それでも僕の心に大きく響き渡った。頭が真っ白になる。何も考えられない。心愛に返事をすることもできず、僕は机に突っ伏した。


 そしてHRが終わり、クラスメイト達が下校する時間になっても、頭がグルグルと回り、僕はそのままの姿勢で、立つこともできなかった。

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