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15話 サボり

 剣持拓也の一件は学校からそれぞれの大人達に話へ報告されて大変な騒ぎとなった。

僕達も何回も呼び出され聴取された。拓也からの被害に遭った女の子達から直接相談を聞いていた渉が説明の矢面に立たされた。


 今回の一件のことは、どこから話が漏れたのかわからないが、生徒達の噂となり、学校中を駆け巡った。今回の一件を解決したのは渉という噂になっている。そのことで渉の人気が跳ね上がり、そのおかげで僕達は目立たなくてよかった。僕達が拓也を追い払って以降、拓也は学校を休んでいる。自主退学するのではという噂も流れている。


 渉が少し疲れたような顔で僕の前の席に座る。



「参ったよ。僕だけが拓也先輩と渡り合ったわけじゃないのに。僕が解決したような噂になって。否定してるんだけど、誰も話をまともに聞いてくれない」


「渉が全面に出て先生達や他の大人に報告したのは事実だからね」


「こんなことで目立ちたくなかったよ」



 渉には珍しく愚痴めいた口調で話す。渉に全てを押し付けたような形になって申し訳ないと思うが、渉のような格好いいイケメン男子が解決したという噂のほうが生徒達は好むものだから、こればかりは仕方がない。


 渉と雑談していると、心愛がシズシズと歩いてきた。その姿はどこかかげっていているようだった。心愛もこの騒ぎの中心に巻き込まれているので疲れているのだろう。僕達の目の前にくると、手に持った手提げの紙袋を見せる。



「これお父さんとお母さんからのお礼です。きちんとお礼がしたいと言ってました。中身は栗饅頭です。私も食べたことあるけど美味しいです」


「ありがとう」



 渉と僕はそれぞれに紙袋を受け取る。紙袋を手渡した後、そのまま心愛がジーっと見つめながら立っている。



「あの……私もお礼をしたいんだけど、何がいいかわからなくて……」


「お礼なら渉にしてあげて。今回、色々と一番動き回ったのは渉だから」


「俺はお礼なんていいよ。なりゆきで動いただけだからね。それじゃあ、新、俺行くから」



 渉が席を立ち、心愛がペコリとお辞儀をして二人で歩いて行った。その後ろ姿を見て、やはりイケメンと美少女が二人並ぶと絵になると思った。


 手渡された紙袋を見ていると、横から手が出て、紙袋を奪われた。振り向くと天音が悪戯っ子のように笑っている。



「アタシも昨日、心愛から貰ったよ。昨日、全部食べちゃった。栗饅頭大好き」


「それなら天音にあげるよ」


「ラッキー」



 めちゃめちゃ嬉しい顔で、天音が紙袋に頬ずりする。女の子は甘いモノが好きだよね。でも本当に大好きなんだな。


 天音が隣の席から腕だけを伸ばして、僕の制服を摘まんで、グイグイと引っ張る。何か企んでいそうな顔だな。



「なんかさ、拓也のことで学校が騒がしいじゃん」


「そうだね。渉ほどではなけど、僕達も結構見られてるよね」


「だからさー……私と一緒に学校を抜け出さない?」



 あまり学校をサボったことはない。窓を見ると青空が広がっていて、外は気持ち良さそうだ。たまにサボってもいいかもしれない。ふとそんな気分がよぎる。



「ねー、いいじゃん。アタシと遊びに行こうよー」



 天音がカバンと紙袋を持って立ち上がり、顔を近づけておねだりみたいな声をだす。なんだかとても恥ずかしい。天音から顔を離すようにして、カバンを持って席を立った。



「行こう」



 僕の言葉を聞いた途端、天音が手を握って走りだす。振り返ると後ろの席で、和さんがニッコリと微笑んで手を振っていた。二人で教室を出て廊下を走る。廊下にいた生徒達が驚いて壁際に避ける。階段を一気に降りて、靴を履き替えて校舎を出る。


 天音と二人で手を繋ぎながら、一気に桜並木を通り抜けて校門を出た。ハァハァと息を吐きながら天音を見ると、満面の笑みが待っていた。学校をサボることが、こんなに爽快感と解放感があるとは思わなかった。すごく楽しい。



「楽しいな」


「めちゃ楽しいー」



 二人で歩道を走る。そして大きく笑い合う。天音もとにかく楽しいらしく、走りながら僕のピョンピョン跳ねる。その姿が楽しい。



「どこか遊びに行きたいところある?」


「全然考えてなーい」



 自動販売機で水のペットボトルを天音が買って、二人で近くの公園に駆けこむ。そしてベンチに座り込んでハァハァと息を吐いた。天音がフタを取って、ペットボトルの水を一気に飲んでから僕に渡す。何も考えずにペットボトルの水を飲む。よく冷えていて気持ちがいい。



「やっぱりサボりって最高」


「たまにサボるのもいいね」



 少し気分の高揚が収まるまで公園のベンチで座っていた。太陽の光が降り注いで、とても気持ちがいい。天音と二人で黙って座っているだけ、それだけでも何だか楽しい。



「今日の記念にスマホで写真撮ろうよ」



 天音がそう提案して、ポケットからスマホを取り出して、僕を撮る。僕もスマホを取り出して天音を撮った。そして天音が僕に寄り添って、二人の写真を撮る。沢山、沢山写真を撮った。どの写真も楽しい笑いで満ちていた。

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