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10話 噂

 始業式から一週間が過ぎた。未だにクラスメイト達からは遠巻きにされているし、遠くから視線を向けられている。少し寂しい気もするけど、すぐには改善しないと思う。自分の行動を信じた一年間の結果だから仕方がない。


 席に座って空をボーっと眺めていると、前の席にドカッと照信が座った。そして僕を見て眼鏡をクイっとあげる。


 照信は中学校からの友達で、高校一年生の時には、恋愛啓発本を何冊も貸してくれた。少し神経の細かいところもあるけど、気の良い友達だ。



「新、心愛に告白するのを止めたんだって?」


「うん、そうだよ」


「とうとう玉砕くんが告白を止めたって学校中の噂になってる。この分だと、新の告白の噂も意外と早く消えるかもしれない」



 そうなれば廊下を歩いていても奇異な目で見られることもない。クラスメイト達からも避けられることもなくなる。そうなればいいなと思う。


 照信が身を乗り出してきて、僕の目を覗き込む。まだ何か情報があるのかな?



「最近、天音と仲良くしているらしいな。天音と新が、特別に仲がいい。急接近している。付き合ってるかも? という噂が流れているぞ。それは本当か?」



 この一週間を振り返る。確かに天音とはすごく仲良くなった。席が隣なこともあり、しょっちゅう、おしゃべりをしているし、授業が終わり、教室を出るまで、天音と一緒に居ることも多い。クラスメイト達や他のクラスの生徒達から急接近していると思われても仕方ない。



「天音と仲良くなったのは本当だよ。でも付き合ってない」


「天音は一年生の時から目立っていたから、色々な噂がある。最近は大人しくしているみたいだけどな」



 天音は心愛とは違った感じの美少女だし、目立っていたのはわかる。噂って勝手に広まるものだから、色々な噂があっても驚かないな。


 照信が声を潜めて、僕にだけ聞こえるトーンで、静かに話しだした。



「高校にも通っていない、グレた奴等の集団と遊んでいるという噂もある。それとは別に、ヤンチャな連中と釣るんで、ヤバい遊びをしてるって噂もある。遊び金欲しさにパパ活してるって噂もあるし、援交をしてるって噂もある。どれも確証のない、ただの噂だけどな」



 どれもこれも酷い噂ばかりじゃないか。天音の天真爛漫な笑顔を思い出す。まだ知り合って日は浅いけど、天音は人をからかったり、悪戯みたいなことはするけど、明るくて楽しい女の子だと思う。


 家に帰ってから、夜になると、毎日のように天音からLINEがくる。天音はチャットが面倒だと言い、いつも通話に切り替えて話している。いつも夜は家にいて、天音が夜遊びに出たことなんてない。



「始業式からのことしかわからないけど、噂は嘘だと思う」


「天音は目立つから、女子生徒達の嫉妬や、やっかみもあると思うけど、もし天音と付き合うなら見極めたほうがいいぞ」



 天音と知り合って一週間しか経っていない。それに心愛への恋心に区切りとつけたばかりだ。簡単に誰かに乗り換えられるほど、僕は器用できていない。そんなこと思うのは天音に失礼だと思う。



「誰かと付き合おうなんて思ったことない」


「そうだよな。大失恋したばかりだもんな」


「……」



 教室のドアが大きく開いて、天音が教室に戻ってきた。そして僕と照信を見て、ニパッと嬉しそうに笑い、小さく手を振って歩いてくる。そして自分の席に座って、僕達を見た。



「ヤッホー、照信っち、元気にしてるー。キャハハ」


「今日も元気だな、天音」


「新と照信っちは何を話してたのかにゃ? キャハ」



 天音の屈託のない笑顔を見ていると、何も言えなくなる。あんな酷い噂なんて信じられない。僕が黙っていると、照信が眼鏡の位置を確かめながら、何もなさげに、気軽な感じで天音に答えた。



「天音のことを話してた」


「え、アタシが話題の中心? キャー」


「そう。色々といっぱいある、天音の噂について、俺が新に教えていたんだ。実際のところ、本当はどうなんだ?」



 そんなこと、わざわざ言わなくてもいいのにと思う。照信にどんな意図があって、天音に言ったのかはわからないが、天音にとって気分の良い話ではないはずだ。僕が気を揉んでいると、天音は気分を害した様子もなく、悪戯っ子のように僕達を見る。



「真相を知りたい? 知りたい? ニャハハ」


「俺は別にいい。新が心配しているから、新に教えてやってくれ」



 そう言い残して、照信は席を立って歩いていった。こんな爆弾を投げ込んで、自分だけ退散しないでほしい。すごく気まずいし、後の対処に困る。すごく居心地が悪い。どうすればいいのかわからずに、黙ってしまう。



「新、噂を聞いて心配してくれたの? ニャハハ」


「どれも酷い噂だと思う。だから信じてない。天音も無理して何も言うことないよ」


「新は優しいニャ」



 天音が体を乗り出すようにして顔を近づけてくる。僕の頬と天音の頬が触れる。耳に天音のささやくような声が耳のすぐ横で聞こえた。



「アタシ、まだ処女だよ。だから安心してね」



 自分の顔が火照ってくるのがわかる。頭の中が真っ白で、言葉も浮かばないし、どう返事をしていいのかわからない。めちゃくちゃ恥ずかしくって、天音と目を合せられず、視線を逸らす。



「今日は一緒に帰ろ。新には全部を知ってもらいたいから」



 その言葉を聞いて、視線を戻して天音を見ると、一瞬だけすごく真剣な表情で僕を見ていた。そしてすぐに気持ちを隠すように大きく微笑むのだった。

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