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1話 プロローグ

 高校受験をなんとか乗り切り、合格をもぎ取った僕は私立蜂須賀学園高校に入学した。


 そして入学式の当日……真っ新なブレザーの制服を着て、心を真っ新にして、期待に緊張しながら校門を潜った。


 校門から校舎まで向かう道の両側には立派な桜並木が続いていて、桜の花びらが舞い散る中、眩い日光の日差しに照らされた彼女がいた。


 まるで天からの一条の光が、彼女を祝福しているように思った。


 黒く光り輝き、風になびく髪、透き通った白い肌、涼し気な二重瞼の目元、小さくて可愛い鼻、艶やかな唇。スタイルも抜群で、肢体が長く、制服のスカートから出ている脚が眩しい。


 It`s perfect……僕の第六感がささいた。これは運命だと。そう僕は勝手に確信した。


 これが天使のような心愛と僕との出会いだった。




◇◇◇




 それからの毎日、僕の頭の中は心愛、心愛で埋め尽くされた。初めての恋に舞い踊ってしまった僕に正常な判断力はなかったと思う。恋に狂ってしまった僕は後先も考えずに、心愛を学校の屋上に呼び出して告白をした。



「す、す、好きです。大好きです。付き合ってください」


「ごめんなさい。あなたのことをよく知りません。今は誰ともお付き合いする気持ちはありません。ごめんなさい」



 初めて告白をした。そして、あっけないほど簡単に失恋した。家に帰ってきて、ベッドの上で仰向けになる。失恋したことを考える。なぜダメだったのかを考える。


 僕の容姿は悪くないほうだとは思うが、特別なイケメンではない。簡単に言うと凡人並だ。


 では頭脳は……底辺ではないが、優秀でもない。成績は中学の時から常に中の下から中の中ぐらいをうろついている。これもダメだ。


 運動は……動けなくはないが、俊敏でもない。力もごく一般の高校生ぐらいで、スポーツ万能では絶対にない。


 ファッションは……いつもUNIQLOで買い物をしているだけ。今までファッション雑誌も開いたことがない。論外だな。


 女の子に対する気配りは……そもそも女の子とまともに話したこともない。女の子の友達もいない。気配りなんて全くわからない。……何も言う言葉も見つからない。


 ベッドの上で枕を抱いて、ゴロゴロと転がり、考え、悩み、それでも結果は変わらない。わかっていたことだが、僕には何一つ、人に自慢できるような特質する所はなかった。


 でも心愛を諦めることができない。やっぱり彼女のことが大好きで、大好きで、大好きで、大好きで諦めることなんてできない。ダメで元々、再度のアタックだ。




◇◇◇




 毎日のように告白し、毎日のように断れて失恋する。


 心愛に振り向いてもらうにはどうしたらいいか? そのことばかり頭の中でグルグルとめぐる。でも僕には特質したところがない。辿り着いた答えは、それは努力。凡人の僕には努力しかない。


 中学からの友人には女の子への気配りについて教わった。いくつも恋愛啓発本も友人から数十冊も借りて、熟読した。



「男の魅力は顔ではない。優しさと気配り、この二つがあれば、全てを塗り替えることができる。頑張れ」



 高校に入ってからの友人の家が、ボディービルのジムを経営していると聞き、友人に頼み込んで毎日ジムで鍛えてもらった。



「男の魅力は肉体だ。美しい肉体に女性は惹かれる、親父からはそう教わった。一緒にもうワンセットしよう。根性だ。頑張れ」



 何でもできるイケメンの幼馴染の親友には、一緒に買い物に行ってもらって、服を選んでもらったり、一緒にファッション雑誌を読んで、色々と教わった。そして親友は頭の悪い僕のために、夜遅くまで勉強にも付き合ってくれた。



「これで心愛ちゃんが振り向いてくれるとは思えないけど、ファッションのセンスを磨くことは大事だし、勉強も大事だからね。惜しみなく協力するよ」



 三人三様に色々と教えてくれて、僕を応援してくれた。友達を裏切りたくないし、僕にできることは何でも全てやる。そして、変化した僕を心愛に見てもらいたい。




◇◇◇




 一学期が過ぎ去り、二学期が過ぎ去り、三学期になった。心愛を想い続けて、もうすぐ一年になる。これまで心愛に告白を続けたが、断られ続けて失恋の連続だった。


 そんな恋に狂っている僕の行動を見て、多くの友達や知人達が僕の元を去っていった。クラスメイトだけでなく、廊下を歩けば男子生徒からも女子生徒からも遠巻きに冷たい視線を送られるようになった。


 それでも僕は心愛のことを大好きになれて、恋ができて満足だった。周囲の人達の気持ちなんて全然わかってもいなかった。


 三学期のある日の休日、親友が家に訪れた。いつものように優しい笑顔で、親友はゆったりとソファに座る。いつものような雑談、いつものような笑い話。親友が何気ない様に、僕を見て、何気ないことを話すように柔らかく語った。



「三学期まで様子を見てきたよ。自分なりによく努力して頑張ってきたと思う。それはすごいことだと思う。でも肝心なことに気づいてない。肝心なことが抜けていると思うよ」


「それは何なの? そこまで言ったんだから教えてよ」


「心愛ちゃんの気持ちを考えたことがあるかい? 毎日のように心愛ちゃんが、断り続けてきた気持ちを考えたことがあるかい? 相手の気持ちを考えていない。そこが完全に抜けてるよ。もうすぐ三学期も終わる。そのことも考えないとね」



 親友はそれだけ言って、ポケットからスマホを取り出して、画面に目を落とした。




◇◇◇




 心愛の気持ち……僕が努力すれば、僕が変れば振り向いてくれると思ってた。でもそれは僕の気持ち、心愛の気持ちじゃない。僕は心愛の気持ちを全く知らない。


 廊下で会って挨拶をすれば、必ず丁寧に挨拶をしてくれる。登校途中の道でバッタリ出会った時も、ニッコリと微笑んでくれて、一緒に隣を歩いてくれる。心愛のそんな態度に僕はどこかで安心していた。


 だって告白すると、いつも断られるから。それが心愛の気持ち。


 心愛は僕が呼び出す度に必ず屋上まで来てくれた。猛暑の日も、雨の日も、風が強い日も、心愛は文句も言わずに屋上へ来てくれた。今思えば、それは心愛の優しさだったのだと思う。僕は今まで心愛の優しさに甘えていたんだと理解した。





◇◇◇





 初めての告白から百回を超えた。今日は一年生として最後の日、三学期の終業式。今日で心愛への想いに区切りをつけよう。最後に想いの丈を全力でぶつけよう。僕は決心を固め、心愛が待っている屋上へ向かった。


 階段を駆け上がり、屋上へのドアを開けると、雨の中傘を差して心愛が静かに立っていた。



「呼び出したのに、待たせてゴメンね」


「いいよ。呼び出されるのは毎回のことだから。もう慣れたわ」



 僕が心愛を呼び出して告白するのは、これで百一回目。心愛もさすがに慣れるよね。今まで呼び出しに付き合ってくれてありがとう。心愛には心から感謝したい、ありがとう。



「今日で心愛に告白するのは最後にする。毎回、来てくれてありがとう」


「……」


「この一年間、心愛を見てきた。今まで何回も断られてきたけど、やっぱり好きだ。大好きだ。心愛、僕と付き合ってほしい。お願いします」



 ありきたりな言葉だけど、思いっきり心を込めた。精一杯に大好きだと言った。どうか想いが届いてくれますように。心の中で一生懸命に祈る。願いよ届け。


 静寂が屋上を包む。雨音だけが聞こえる。毎日のように断られ、振られてきたけど、今回は一番答えを聞くのが怖い。怖くて心愛の顔を直視することができない。



「ごめんなさい。まだ恋愛ってよくわからないの。お断りします。ごめんなさい」



 その言葉を聞いて、僕は顔をあげて心愛を見る。心愛は傘を差しながら、丁寧に深々とお辞儀をしていた。



「心愛、これで終わりにする。これで区切りにする。今まで本当にありがとう」



 気がつけば僕は立ったまま、心愛を見たまま、号泣していた。涙が目から溢れ出して止まらない。終わった。これで全て終わったんだ。心愛、本当にありがとう。


 心愛は黙ったまま、目を伏せて、僕の横を通り過ぎる。そして小さくささやいた。



「ごめんなさい……ごめんなさい……」



 僕の後ろから、階段を降りて行く心愛の足音が、段々と小さくなり、そして去っていった。気がつくと目から涙が溢れ、止めることができない。僕はその場で膝から崩れ落ちた。


 こうして僕、神崎新かんざきあらたの恋は終わりを告げた。


 屋上に取り残された僕は、ずぶ濡れになりながら、何時までも灰色の空を見上げて号泣した。

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