第6話 『ザックスの行方』
──冒険者ギルドの酒場にて
「あのー、すみません。僕たち、パーティメンバーを探している者なんですけど……もしよろしければ、パーティに入っ……」
「──あっすみません、もう別のパーティに入ってるんです」
「あー、それでしたら、僕たちもそこに入ってもいいですかねぇ?」
「いやー、これ以上人が増えてもしょうがないので……他を当たってみてください」
「……はい、わかりました……」
かれこれ1時間はずっと人に話しかけ続けている。
前世が人見知りだった自分でも、世界が変わると性格も変わるものだと実感する。
「お兄様……そろそろ、張り紙の方も見に行ってみます?」
「ああ……そうしようか……」
1時間も成果が得られないと、やはりどうしてもげんなりする。
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結果として、1人も集まらなかった。
さっさと『勇者』の称号を譲ってサブキャラ生活を全うしたい。
正直なところ、異世界転生などはオタクにとっては人生で1度とない、なかなかのイベント。
楽しむ気はある。
実際、魔法とかアビリティとか役職とか、転生してからの3時間ぐらいはそのことを考え続けていたのが楽しかった。
『勇者』の称号さえなければ。
フェイ曰く、張り紙に勇者パーティだということを書いておけば、幾分かは集まるのでは?とのことだが、あんなことがあったせいて、勇者ということを宣言する気になれない。
そういえば、ザックスはどうやってパーティを集めたのだろうか。
勇者でもないのに、かなり人望があって、パーティメンバーもしっかりいる。
そういう訳で聞いてみることにした。
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──ラナタイト王国にて
しばらく王国内を探しているものの、ザックスが見当たらない。
すると、すれ違った衛兵に声をかけられた。
「ああ、ルーシュ様、ザックス様をお見かけしませんでしたか?」
「すみません、僕も今兄様を探してて……何も聞いてないですか?」
「はい、最近はモンスターの討伐依頼などは来ないから、基本的には城にいると仰られていたのですが……」
「そうですか……国王様に聞きに行ってみます。」
「では、よろしくお願いいたします。」
ザックスが基本的に城内にいるのは僕も覚えていたけど、今日は城を出ているなんて、フェイも僕も何も聞いていない。
これで国王が何も聞いていないのだとしたら、何か事件に巻き込まれているのかもしれない。
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「国王様」
「おお、どうしたルーシュ」
「ザックス兄様がどこに行ったか聞いていないですか?」
「ザックス? はて……城内にいないというのなら、わしもわからんぞ?」
(何か嫌な予感がしてくる)
「……わかりました」
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この世界にはスマホはおろか、電話すら存在していない。
魔法なんて非科学的な物があれば、これぐらいの技術なんてすぐに生み出せるとは思うが……
そんなことよりザックスの行方を探さなければならない。
ルーシュ・ラナタイトの記憶によれば、ザックスは軽い用事じゃない限り、基本的に城内の人間にその用事を伝えていた。
「お兄様。どうされますか?」
「もう1日、もう1日だけ待ってみよう。流石に丸1日帰ってこなかったら軽い用事じゃないはず」
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そうして1日が経ったが、結局ザックスは帰ってこなかった。
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──3時間後
「フェイ、ザックス兄様を探しに行こう」
「はい、既に準備は整っております。城内の衛兵によると、お兄様が姿を消されたのは、私たちがパーティメンバーを探しに出かけてから数時間たった頃だそうです」
「数時間……丁度僕らがギルドでのパーティメンバー集めを断念した時ぐらいかな……」
「恐らくそのくらいかと、まず、ギルドや近くの村に行って、お兄様の目撃情報がないか探ってみましょう。その後、集めた情報を元に、ザックス兄様のおおよその居場所を特定して、ルーシュ兄様の生物探知で探すのが良いかと思います」
「そうだね。細かく計画を練ってくれてありがとうフェイ。じゃあ、最初はギルドから聞きに行こうか」
二手に分かれて探索しても良いとは思ったが、この世界に連絡手段はない。
変にはぐれて、フェイの行方までわからなくなっては元も子もない。
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ギルドでのザックスの目撃情報は0件。
これに関しては納得がいく。
昨日のギルドには僕たちもいたからである。
万が一気づかなかったかもしれないから来ては見たが……成果はなかった。
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城の近くにある村、ラディスでの目撃情報は多数あった。
ただ、おかしなことも2つあった。
村民の目撃情報が全員バラバラなこと。
僕たちの姿も同時に見かけているということ。
もちろん僕たちは、最近この村に来たことは1度も無い。
そのため、2つ目の情報が確実に間違っていることは確か。
別にこの村の村民に虚言癖があるだなんて話は聞いたことがない。
「お兄様……これは……いったい……」
「僕にもわからない……でも、村の人たちが嘘をついているようにも見えない……」
「幻を見せられている……ということでしょうか……ですが……村の人たち全員にまとめて幻術をかけるなど、上位級の魔物でなければ不可能です。とするとかなり厄介な魔物ですよ。それなりに知性があって、なおかつ私たちの存在を認識している可能性があります」
「もしそんな魔物がいるなら、ザックス兄様がいなくなった理由には、その魔物が関係しているかもしれない」
「その可能性はありえます。ですが……村の人たちが幻術にかかってしまっている状態であれば、まともな情報が得られると思いません」
「……試しに、生物感知を使ってみるよ」
生物感知を使ってみたはいいものの、村民とフェイ以外の反応がまるでない。
「生物感知には反応がない。魔力感知も試してみる」
魔力感知を使ったその時──
「──ッ!」
膨大な量の魔力が、一瞬のうちに鋭い衝撃となって脳に与えられた。
そのせいで一瞬しか感知できなかったが、その一瞬で全てわかった。
「お兄様! 大丈夫ですか!」
「……フェイ、村の外に魔法を打ってみてくれ……」
「え?は、はい。エスアエラス!」
フェイの放った風魔法は一直線に進んでいくが、壁にぶつかったかのように、静かに消えた。
「これは……」
「僕たちは今、魔力によって作られた壁に閉じ込められている。」
この村全体が、強大な魔力で覆われており、僕たちが入ってくる前に覆われていたものではなかった。
つまり、僕たちがこの村に入った瞬間に意図的に発動されたということになる。
「……これは……まずいことになったな……」
「お兄様……なにか来ます!」