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第44話 『トゥルーライ』

 ──30分ぶりに部屋の外に出た。

 ただそれだけの事で、どうしてこうも清々しい気分になれるだろうか。

 正直、彼女の考えていることがほんの少しは理解出来たので、別にあの調子のまま雑談をしても良かったと言えば良かったが、単純に今は1度気分転換がしたかったのである。

 ただ、外に出たは良いが肝心の用事が無い……

 そういえば、フレディによるとそろそろサーラやノアリノの2人も起床する時間らしいし、1度様子を伺いにでも行くとしよう。


 そんなことを考えながらエントランスの階段を降りていると、入口に相も変わらず言い争っている様子の二足歩行の牛馬コンビが見えた。

 馬の方は冷静だが、その態度に更に腹を立てているのであろう牛からは、距離のあるこの位置でも「殺すぞテメェ!!」とか何とか、野蛮な言葉ばかり聞こえてくる。


(毎日こんな調子なら、下の階に住んでる彼等は嫌でも目が覚めるだろうな……)


「──あっ……」


 階段を丁度降りきったところで、か細い声がすぐ隣から聞こえた。牛と馬に思考を乱されたせいで、人がいたことに気づかなかったようだ。

 声のした方向を見ると、そこにはおどおどしているサーラが立っていた。


「あっ、サーラさん……」


 声をかけたタイミングでフレディの言葉を思い出し、後の言葉を噤んでしまった。この人は、勇者である僕を恐怖しているのだった。

 フレディから事情を聞いたため、こちらも気を遣ってあげたいところだが、この距離で突然離れる方が却って失礼だろう。

 無論、サーラの精神が不安定になることがあれば、即刻人を呼びに行きはするが。


「あ……あっあの……その……す、すみません……でした……!」


 手も足も声も震え、目も泳いでいたが、何とか上半身を前に倒し、大きく謝罪してきたサーラに、僕もおどおどしてしまう。


「え、えっと……何が……ですか?」


 あまりに誠意のこもり過ぎた態度に、思い当たる節を見つけられずに困惑する。


「わ、私が……その……ルーシュ様に……し、失礼な……態度を……取ってしまい……」


 よく考えてみれば、この人が僕に謝る理由など1つしかなかった。

 先にフレディが大きく謝罪をしてきたし、その時にも既に大して気にしていなかったというのもあって、僕の中では完全に不問にしていたから、普通に思い出せなかった。

 自分のやった悪い行いをわざと自分の口から言わせようとする性格の悪い教師みたいなことしちゃったな……


「あはは……大丈夫ですよ。思い出せなかったぐらい全然気にしてないですから。それよりも、サーラさんの体調が良くなったようで何よりです」


 この震える様子だけを見て体調が良くなったというのは判断出来ないが、僕と2人で話しても特に問題は無さそうなので、勝手にそういうことにさせてもらった。


「……あ、ありがとう……ございます!…………えと……あの……突然、ですけど……私がこの世界に来た経緯……って……知ってますか?」


「ああ、知って…………ま……せん」


 危ない。色々と危ないところだった。口調こそ変にはなったが、何とか回避したはずだ。

 突然こんな言葉の(トラップ)が飛んでくるとは思いもしなかった。勿論サーラにそんなつもりは無かっただろうけど。

 サーラの過去は、フレディが内密に知らせてくれただけであり、本来は知っていてはいけないはずのものなのだ。しかも、人にはとても言いづらいであろう厄介な過去である。


「そう……ですか……」


「はい……」


 もしサーラが自ら話してくれる気になれば、こちらも共感と納得を以て対応させていただく。

 話さないならば話さないで、これからも知らぬふりをする。

 次に来る言葉を予想して、こちらも心の準備をしていた。


「ふふっ……やっぱり、フレディさんから聞いてるんですね?」


 その言葉の矢は、僕の準備した防壁を全て通り抜けて、僕の動揺を射抜いた。

 同時に、今の今まで泳いでいたサーラの瞳が漸く合い、胸の鼓動のペースを加速させる。


「な、何で……!?」


 本来動揺するべきなのは間違いなく、秘密を知られていたサーラの方であるはずなのに、こちらの意表の中の意表を突いてきた発言にその定義が覆される。

 例えるなら、()()()()()()()()という弱みを握られたというような心情、心理戦において相手の方が一枚上手だったことを後に知らされたような、そんな心情である。


「私、()()()()()()()のがとっても得意なんです。さっき訓練場から戻ってきたフレディさんに、昨日ルーシュさんとどんな話をしたのか少し聞いただけで、大体分かっちゃいました。本人は『他愛もない雑談ですよ』とか言ってましたけど……全く!フレディさんは嘘つきです!……ルーシュさんも、ですけどね?」


 微笑みながらそう言う彼女からは、先ほどまでの態度とは打って変わって、会話に無駄な間が無くなり、身体の震えもすっかり治まっていた。

 そんな様子の彼女に対して、僕は言葉を出せる余裕が無かった。


「ふふっ、分かってますよ? 私の過去がとても人には言いづらいものだから、お2人は気を遣ってくれたんですよね? 人間がより良い形で共存するには、嘘偽りが必要不可欠……私の夫が、よく言ってました……」


「夫……アランさん……でしたっけ?」


 フレディから聞いた話で名前は出てきたが、その人の詳細は全く知らない。


「はい。人の嘘を見抜くのも、元々はアランが得意だったことなんです。一緒に暮らしてる内に、いつの間にか私も出来るようになっちゃいました」


 無意識で嘘を見抜く技術を習得出来るほど、長く暮らしていたということだろうか。サーラの作る微笑みの中にある僅かな悲哀に、事件がどれだけ惨憺たるものだったかが表れていた。


「お互いに嘘が分かっちゃうせいで、あの頃の生活は凄い大変でした。でも……私は唯一、自分の職業だけを偽り続けて…………やっぱりアランは、そのことに気づいてたみたいですけど……」


「その旦那さんを殺したのは、勇者を名乗った人なんですよね……なのに、勇者である僕は、もう大丈夫なんですか?」


 サーラの精神は比較的安定してる様子なので、少々核心を迫る問いを投げかけてみることにした。

 その者が本当に勇者であるならば、僕にも関係の無い話ではない。


「──あっ、そうでした! 本当はその話をするはずだったんですよ。見てもらえれば分かる通り、もう全然大丈夫です!」


(……さっきまで凄い震えてたのに……?)


「それに、私あの後考えてたんです。アランと私を襲った勇者は、きっと本物の勇者じゃありません。だって、ラナタイト王国のルーシュさんが、私の出身のクロドール王国で、その勇者から称号を継承したことになっちゃいますから」


 サーラの出身はどうやらフレディと同じクロドールらしい。お互いに元々知り合いだった様子ではなさそうだし、偶然同じなだけだろうか。


「そうですね……僕は、僕の父親のロイ・ラナタイトから、直々にこの称号を継承しました。ですから、その男が先代の勇者であるはずもありません」


「やっぱりそうですよね! 怖いのは……セドリックと名乗ったあの男で、勇者じゃない……そう思ったら、ルーシュさんももう怖くありません! 逆に、ルーシュさんはあの時怯えた私のために、理由も聞かずに距離を置いてくれた、とても優しい方ですよ?」


 そう言ってサーラは、先ほどよりも一段と美しく、可憐に微笑んだ。正しく、()()()である。

 生憎僕にはあまり効果は無いが……


「ですから……何て言うか……ルーシュさんが勇者で、良かったです!」


(……僕が『勇者』で良かった……か……)


 本心で言ってくれているようだが、何とも喜びづらい。全く面倒な葛藤を抱えてしまったものだ。


「あ!そうそう。私が嘘を見抜けること、フレディさんも知らない大事な秘密ですから、内緒にしてくださいね? そうしたら、ルーシュさんが私の過去を勝手に聞いたのも、許してあげます!」


「ああ、はい……分かりました……」


 まあ、嘘を見抜けるのは、ある意味最強の武器とも言えるし、積極的に人にバラす特技でもないだろう。


「約束ですよ? 破ったらすぐに分かっちゃいますからね?」


 念を押してくるサーラに「はい」とだけ返す。

 最初は、僕がサーラの過去を知ってるのがバレて、どうなることかと思ったけど、本人もさほど気にはしていない……のか? まあ知ってるからと言って、それを話題にしたり、利用して脅したりするつもりは無いし、サーラもそう思ってくれているだろう。


「それじゃあえっと、私は皆のところに戻りますけど、ルーシュさんはどうしますか? ノアくんもリノちゃんももう起きてて、元気そうに過ごしてますよ。良かったら顔を出しに来てくださいね?」


「……ああ、はい!もちろん行きます」


 サーラの発言で本来の目的を思い出せた。

 サーラは後ろを振り返り、そのまま皆のいる部屋の方向へ帰っていった。

 あの2人が元気にしている……というのは、会って間もない僕でも、少し微笑ましく思える。

 何気に……僕が来たことによって、この城にいた人達の関係が良くなったのだろうか? もしそうであれば、かなり誇らしくはあるが……


「──話は終わりましたか?」


 考え事に耽っていたところ、突然後ろから声が聞こえ、反射的に振り返る。するとそこに居たのは、例のドラゴンさんことドラゴン魔人イリーナであった。


「──何でいる!?」


 サーラと会話している時には、周りにサーラ以外の気配を感じていなかったので、普通に驚いてしまい、一瞬敬語を忘れた。そもそも必要なのかは分からないが。


「監視するためです」


「いや、それは部屋でも聞きましたけど……そうじゃなくて、いつからそこに……?」


 するとイリーナは首を傾げ、無の表情を変えないまま答える。


「勇者様が部屋を出てから、ずっと後ろに居ましたが? サーラ様とお話される際には、干渉しないようにと1度距離を置きましたが……」


「……会話は?」


 少し間を置いた後、目を逸らしてイリーナは答えた。


「──サーラ様に、嘘を吐くことは出来ませんね」


 そう聞いた瞬間、額から汗が一雫垂れると同時に、無意識にサーラの去った方向を見ていた。


(……すいません……内緒に……出来ませんでした……)


* * * * * * * * * * * * *


 ルーシュと別れたサーラは、廊下を歩いていた。

 しかし、そのスピードは徐々に加速していき、次第には走り始めていた。そして同時に、顔も火照っていく。

 それは、己の行った行動による、()()()のためである。


(どうしよどうしよどうしよぉぉ!? ルーシュさんに謝りには行けたけど、なんか余計な話までしちゃったぁぁ!! ていうかやっぱり、ルーシュさんに私の仕事バレてたぁぁ!! フレディさん何で勝手に教えちゃったの!? もおぉぉ……!!)


 完全ではなくとも、僅かに状態(モード)に入っていたことに、ルーシュはもちろんのこと、当の本人も気づいていなかったのであった。

==========

ルーシュ・ラナタイト(回想中)

レベル77

役職(ジョブ)魔法騎士(ルーンナイト)

 体力:902

 魔力:673

攻撃力:392

防御力:299

魔攻力:406

魔防力:351

素早さ:417

 知力:381

アビリティ:王家,勇者,転生者,捕食,自然治癒【体】,自然治癒【魔】,生物感知・極,魔力感知・極,魔導・極,物理耐性・極,魔法耐性・極,毒耐性・極,陽炎・極,水月・極,疾風・極,慈悲・極,個性・極,達人・極

 称号:勇者,美食家

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固有魔法:不明

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