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第43話 『ドラゴンさん』

「お初にお目に掛かります、勇者様。私は魔王様に認められしドラゴン族の魔人、ヴァシーリエヴァ=イリーナと申します。どうぞお見知り置きを」


(……前半の名前聞き取れなかったな……というか、今魔人って言ったか!?)


 なんちゃらイリーナと名乗ったその女性は、普通礼をし終えた後に、黙って僕を見ていた。


 赤紅色のショートヘアかと思えば、短い後ろ髪を纏めて縛っており、擬似ポニーテールのようになっている。

 服装は、緋と朱を基調としたクラシカルのメイド服のようなものを身につけており、髪色と併せると、()()という()()が同時に視界に入ってくる。

 ここまでだけならば、何の違和感もないただのメイドにしか見えないが、問題なのはその身体に肉体的に付属している異形である。

 赤紅色の美しい髪の隙間から、()()()姿()の名残であろう僅かに赤みを帯びた黒い角が2本生え、衣服の下からは、茜色の大きな尻尾が見えている。


(こりゃ、確かに魔人だな……)


 魔人と言っても、一見すると人間らしい見た目から、僕の後ろに立っている透明魔人よりかは抵抗が無い。

 それに、顔や立ち振る舞いなども、品性を備えた人間のそのもので、実はコスプレをした人間だと騙されたとしても、全く疑わないだろう。


「今彼女が申し上げた通り、彼女もまた魔人ですが、あなたに害を与えるような真似はしません。むしろ、万が一の時は勇者様を守るように指示しています。というのも、城内だけでの話ですがね。勇者様もご存知でしょうが、私はあなたを死なせることを許されていません。ですが、私も多忙なもので、勇者様をいつでも監視するというのは難しいですからねぇ。城内だけでも……と、彼女にその手伝いを頼んだのですよ」


 僕がドラゴン魔人の様子を伺っていると、後ろの透明魔人が語り出した。


「つまりは、こんな身なりをしてるけど、してくれるのはメイドらしい奉仕じゃなくて、僕の監視ってことだろ?」


「──はい」


 透明魔人に聞いたつもりが、目の前のドラゴン魔人がきっぱりとした態度で返事をした。

 同じ魔人とは言え、流石の僕も初対面の相手に皮肉を交えて語りかけるつもりはなかったのだが……まあ、反応してしまったのならしょうがない。


「まあ別に……この城にいる時点で常に監視されてるようなものだし、気にはしないけどさ……」


 今更監視を増やされたところで、そもそも自死とか考えてないし、というより、そんな覚悟はないから、そこまで意味もない。

 透明魔人の言う通り、害を与えてこないのなら何の問題もない。

 そんな感じで、僕は大人しく部屋に入り、透明魔人はまた何処かへ姿を消した。


* * * * * * * * * * * * *


 ──そうして、30分程が経過した。


 部屋に入った時の時間を確認していなかったので、正確には分からないが、入って僅か数分後からは何度も部屋の時計を確認していたので、誤差は限りなく少ないに違いない。

 本当は訓練場での疲労を回復しようと、ベッドに横たわろうと思っていたが、徒に30分が過ぎてしまっていた。

 その30分間何をしていたかと言えば、備えられている机に片肘をつきながら、ただ椅子に座って考え事をして、頻繁に時刻を確認しつつ、たまに()()を一瞥していただけである。

 ──何故この無駄な時間を過ごしたのか、その原因は、全て部屋の隅にいる()()にある。


 そう思いながらそちらへ目をやると、()()()()そこにいるドラゴン魔人と目が合った。


(──何でずっといるんだよ……!?)


 瞬時に視線を正面に戻し、ついている肘の力を強める。

 僕がこの部屋に入ってから、彼女は一向に出て行く様子がない。

 時折僕が様子を伺おうと一瞥すると、1秒もしないうちに視線が帰ってくる。その視線があまりにも鋭く、何と言うか、恐ろしい。

 確かに監視するというのは聞いた。しかし、透明魔人がこのスタイルじゃなかったために、かなり動揺してしまう。

 部屋では自由に過ごして良いのか、部屋の外に出て良いのか、はたまた彼女に声をかけるべきなのかどうかさえ分からず、悩み続けた30分間を過ごしたのである。


(僕が先に話しかけるべきなのだろうか……というより、話しかける必要があるのか?)


 自分の思考に既視感を何度も感じる。このままでは、また無駄な30分を過ごすのも、文字通り時間の問題である。

 もう……しょうがない──


「あのぉ…………イリーナさん?」


 コミュ障100%、良く考えれば、今までどうしてこの感じにならずに初対面の人達と会話出来ていたのか不思議に思う。


「…………」


 鋭い視線をこちらに向けて、ドラゴン魔人は黙っていた。

 沈黙……無視……話しかけた時に最も取らないで欲しい行動である。

 ──と、思っていたところ、彼女はその鋭い視線を僕に向けたまま口を開いた。


「──いきなり名前で呼ぶとは、馴れ馴れしいですね」


 ──その一声で、死にたくなった。彼女がここにいる限り死ぬことは出来ないが。


(確かに何も考えずいきなり名前で読んだけども! じゃあ何!?魔人さん?ドラゴンさん?何で呼ぶのが正解なんだよ!? あと単純に、やっぱり僕の第一印象が悪かったんだろうけど……)


 溢れんばかりの威圧感に押し潰されそうになっているところに、ドラゴンさんは続けて話した。


「──それで、要件はなんでしょうか?」


 その言葉を聞いて、僕の目的を思い出した。

 相手から聞かれたということもあって、僕も話しやすくて助かる。


「あ……えっと……どうして、ずっと部屋にいるんでしょうかぁ……?」


「──監視するためです」


 知ってる。なんなら僕も聞いてから聞き方を間違えたと感じた。

 この威圧感の中で、これ以上問いを重ねることなど、僕にはとても不可能であり、「あ……なるほど……」とだけ反応すると、またゆっくりと視線を正面に戻した。

 こうしてまた、威圧感に溢れた静寂がこの部屋に訪れることになったのである。


 しかし、そんな様子を見るに見兼ねてか、ドラゴンさんはため息を吐くと、もう一度その口を開いた。


「……私が邪魔かもしれませんが、これはディアス様の指示なので、勇者様の意思にそぐわずとも実行します。ですが、部屋での行動を制限するつもりも、部屋に閉じ込めるつもりはありません。どうぞご自由に過ごしてください」


 そう聞いた瞬間、先程まで充満していた威圧感が全てとは言わずとも消え去り、彼女の表情には、確かに無いはずの()()()すら感じた。

 ──何となく理解した。

 敵である魔人、鋭い視線、溢れる威圧感、それらに恐怖して、勝手に彼女を遠ざけようとしていた。

 彼女は決して畏怖すべき人ではなく、優しい人。そして、忠実な人である。

 返事は深く考えず、ただ彼女に伝える言葉だけが、無意識に出ていた。


「ありがとう……ございます。ドラゴンさん」


 ──その後、「何ですか、その呼び方」と指摘され、威圧感が元に戻ることとなった。

==========

ルーシュ・ラナタイト(回想中)

レベル77

役職(ジョブ)魔法騎士(ルーンナイト)

 体力:902

 魔力:673

攻撃力:392

防御力:299

魔攻力:406

魔防力:351

素早さ:417

 知力:381

アビリティ:王家,勇者,転生者,捕食,自然治癒【体】,自然治癒【魔】,生物感知・極,魔力感知・極,魔導・極,物理耐性・極,魔法耐性・極,毒耐性・極,陽炎・極,水月・極,疾風・極,慈悲・極,個性・極,達人・極

 称号:勇者,美食家

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固有魔法:不明

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