第41話 『武技』
「──ルーシュ様! ご無事ですか!?」
目が覚めたと同時に視界に映りこんだのは、元々中隊長をやってそうな金髪の中年だった。
「フレディ……さん?」
「ご無事で何よりです! 本当に申し訳ございません、私は……ルーシュ様になんということを……」
酷く悔やんだ表情をしているが、全く話が読めない。
というより、そもそも僕が何故倒れているのかもイマイチ思い出せない。
「えっと……とりあえず、落ち着いてください。何があったのか、いまいち覚えてなくて……」
何が起こったのかについて聞くと、フレディは丁寧に話し始めた。
* * * * * * * * * * * * *
「──危険です!ルーシュ様!」
その警告は届かず、ルーシュは自らの胸を切り裂くこととなった。
フレディの残していた、滞在する刃によって。
突然の怪我のショックにより気を失ったルーシュは、そのまま背中から倒れていく。
フレディは倒れる勇者に近寄ろうと走り出すが、その時には既に勇者を抱えている人物がいた。
「──! あなたは……!」
その人物を見るなり、フレディはその走る足を止めた。
「全く……あなたを死なせてはならないのだと、先ほど自分で気づいておいて……何のつもりですかねぇ、この失態は」
鼻に触る話し方のその人物は、ディアスだった。
「傷は……それほど深くないようですね。そこの……フレディ様、でしたか?包帯を持ってきてもらえますかねぇ。私としたことが、急ぎで駆けつけたため、持ってくるのを忘れてしまったようなので。フフッ」
「──ルーシュ様は無事なのですか!?」
焦る様子のフレディは、出入口の扉に手をかけながら言う。
「この私が駆けつけたのだから無論助かりますとも、まあ、あなたが早く包帯を持ってこなければ恐らく死にますが。包帯の場所はここを出れば分かりますので、早く行ってください」
それを聞いたフレディは、魔人の言葉を疑うことなく一目散に扉を開き出ていった。
「さてさて、慣れない治療を始めるとしますかねぇ」
魔人が胸元から白いハンカチを取り出し、ルーシュの患部に当てると、呪文のように独り言を言い出した。
「──あなたは今、とても落ち着いている。睡眠時のような、とてもリラックスした状態。怪我などはなく、非常に健康だ」
白いハンカチの表面で急速に広がっていた紅の侵食が、徐々にスピードを落としていく。
「圧迫は……面倒ですしやめておきましょうかねぇ、フフッ」
ハンカチをルーシュの患部に置き去りにし、ルーシュの身体をその場に慎重に寝かせる。
それとほぼ同時に、額に汗を滲ませたフレディが手に包帯を抱え帰ってきた。
「思ったより早かったですねぇ? 応急処置は済んでるので、さっさとそれ巻いてください。あなたが不器用だと、血が一気に出るのでご注意を……」
ディアスが言い終わる前に、フレディは既に包帯を巻き始めていた。
「あなたは何故……ルーシュ様を……?」
慣れた手つきで処置を施しながら、フレディがディアスに問いかける。
「あなたには関係の無いことだと思いますが? その包帯、巻き終わったら元あった場所へ戻しておいてくださいね? 次部屋を出る時は一本道になっていませんので、道を忘れないうちにお願いします」
フレディが包帯を巻き終えたのを確認すると、ディアスは部屋を出ていった。
「……同じ魔人とは言え、一括りにするべきではないのか……?」
* * * * * * * * * * * * *
「──といったことがありまして……」
「なるほど……」
自分の胸部に何重にも巻かれた包帯を見て、なんら相違が無いと確信する。
しかし、まだ一つだけ疑問が残っている。
「だいたい分かったんですが……この傷は、フレディさんから受けたものなんですよね?」
「ええ、その通りです。運良く傷は浅く済んだため、処置さえすれば助かるものでしたが……それでも、本当に申し訳ないことを……」
「ああいえ、それについてはもうどうでもいいんです。むしろ、治療していただけたなら、何も無かったも同然ですから。それよりも、確か僕がこの部屋に入って、この傷を負った時……フレディさんの声は、遠くから聞こえた気がしたんですが……気のせいだったんですかね?ただの剣じゃ、遠くから僕を斬ることなんてできるはずが……」
「私も誤ってのこととはいえ……流石に無罪になるとは思っていなかったのですが……勇者様のその様子では、本気で気にされてないようですね……」
苦笑いをしながら、フレディは僕に近い方の訓練場の端へと移動して、腰元の剣を反対端に向かって構えた。
「これは……本来ならば、他国の人間へ教えることは、我が国の法で禁じられたことなのですが……魔王城で生活させられているような異例な状況下では、そのようなことを気にする必要も無さそうですね。自国へ帰ることの出来る保証さえありませんし……」
フレディが、石造りの床の模様が刻まれた部分に立つと、フレディの剣の構えた方向では、高身長の人程度の長さの太めの原木が床から出現していた。
「この原木を的に、ここでは訓練を行います。私は剣しか使うことが出来ませんが、ルーシュ様であれば魔法の的にするのも良いと思いますよ」
はあ、と軽い返事をしながら、フレディの動きに注目する。
構えていた剣を静かに腰元の方へ戻し、暫時の後にフレディは動いた。
「──衝波ッ!」
フレディが声と同時に、切り上げるように剣を縦に振ると、その剣先から見えない斬撃が確かに放たれた。
その斬撃は真っ直ぐに、早く、そして正確に空間を斬りながら進み、離れた原木を縦に両断した。
その一連の様子は、動きに寸分の乱れも無く、長年の訓練による技術が、その身に刻み込まれたものなのだと、一度見ただけの人間でも感じられるものだった。
「い、今のは……?」
たった今の現象が、魔法ではない何かありえない現象だったのだと気がつくと、僕は反射的に種明かしを求めていた。
フレディが剣を目視しないまま腰元の鞘にしまい、2つに別れた原木が床を転がるのを見つめながら答える。
「これは我が国、クロドールにのみ代々伝わっている技術、『武技』というものです」
「『武技』……?」
聞いたことがない単語に首を傾げる僕に、フレディは丁寧に説明を続ける。
「ええ、話すと少し長くなるのですが……今から何年も前、まだ国家間での争いが止んでいなかった頃、戦争に用いられる主な技術は『魔法』でした。しかし、クロドールでは、魔法の才に長けた者どころか、魔法そのものを使うことすら出来ない民ばかりでした。クロドールの存在するメセイア大陸は他の大陸とは違い、当時のラナタイトを3周りほど大きくした程度の陸地しかなく、メセイア大陸全体をクロドールが統治出来ていたとは言え、周囲が海に囲まれていれば、他の大陸からの移民などはまず存在せず、極僅かに生まれつき何か1つの属性の魔法が使える民がいる程度……まあ、それも数万人に一人いるかいないかでしたがね……そのため、国家戦争において、クロドールは敗戦を強いられることが予見されていたのです」
確かに、クロドール王国が魔法文化の栄えていない国だというのは聞いたことがあった。
アリスティア大陸の人間は、ラナタイト王国の人達がそうであったように、魔法に長けた種族だったということも。
ソスティア大陸の人間も魔法を使うことは出来たらしいが、アリスティア程長けていたわけではなく、大砲や爆弾などの特殊な道具を制作する科学技術が発展しており、魔法はあくまでその制作に用いられる程度だったという話だ。
「間もなくアリスティアの国がクロドールに海を渡って攻めてきた時、その圧倒的な魔法技術により、クロドールは一瞬で陥落の危機に陥りました。しかし、城にいた一人の兵士が、その危機を覆すこととなったのです。その兵士は、片刃の特殊な剣を両手に持ち、見たこともない動きで次々と敵を薙ぎ倒していきました。たった一人で戦況を変えたその兵士は、『英雄』と呼ばれ、クロドール中でその伝説が語り継がれるようになりました。ルーシュ様ももうお分かりでしょうが、この『英雄』がこの戦いで用いた技術が、この『武技』だったのです」
「なるほど……ありがとうございます、フレディさん。僕はまあ、こういう身分ですから、他国の文化に深く触れる機会なんてなくて……とても興味深かったです」
軽く一礼をする僕に、フレディも合わせて、どういたしましてと言わんばかりに礼をする。
「では次に『武技』そのものの話をしましょう。名前の通り、『武技』とは武器を使用する際に用いられる技であり、それはそれは多くの種類の技が編み出されてきました。私が先程見せた技は衝波と言って、これは波撃属性の基本型の技であり、遠距離の敵を攻撃する……ああ、すみません、少し気が逸ってしまいました。その前に、『武技』の属性の話をしなければなりませんね……少し疑問かも知れませんが、実は『武技』にも、魔法と同様5つの属性が存在します」
打撃、鈍器での殴打で相手に強い衝撃を与える技。
斬撃、鋭い武器で相手を切り裂く技。
穿撃、鋭い武器で相手を貫く技。
弾撃、銃弾や矢などで相手を射抜く技。
波撃、武器で空間に干渉し、一時的な衝撃を作り出して相手を攻撃する技。
「──といった具合に、それぞれの『武技』にはそれぞれの属性が、そしてその属性にはまたそれぞれの特性があるのです。武器によって可能な属性、不可能な属性は様々ですし、己のステータスや職業なども、『武技』を使う上では重要な要素となります」
「な、なるほど……」
話すフレディの顔が少し微笑んでいることを見るに、きっとその『武技』について話すのが楽しいのだろう。
話はきっと丁寧なのだろうが、話す速さや内容の濃さが、初耳の人間には向いておらず、一旦間を挟んで頭を整理する。
「つまりはえっと…………色んな種類が……あるんですね?」
「はい。その通りです」
多分、鸚鵡返しをしてしまったんだろうが、たった数秒で自分なりにまとめた結果がそれ以外無かったのだから仕方がない。
「僕が受けた傷は……さっきフレディさんが使った『武技』と同じものだったってことですかね? 遠くを攻撃するってことなら……」
「ええと……まあ、そうですね。同じ波撃属性かと思いますよ」
なぜ思うなんだ?という疑問は大して頭に残らず、話を転換する。
「良ければ、それらの『武技』を、僕にも教えてもらえたりってできますかね?」
「ええ!もちろんです。むしろ、『武技』の良さを知ってくれる人が増えてくれることは、私としても嬉しいことですから」
『武技』の話になってからのフレディの様子的に、何となくそんな感じだろうとは思っていた。
僕自身にとっても、他国の戦闘技術が身につく機会を無料で教われるのは願ってもないことだ。
勉強や運動で努力することはめっぽう嫌いだったけど、こういうのは割と嫌いじゃない。やっぱり、アニメ感、ゲーム感……フィクション感のあることだからだろうか?
「早速実技を……と言いたいところなのですが、ルーシュ様のその怪我では、安静にする他ないでしょうね。と言っても、原因は私ですが……」
僕の胸部の包帯を見るなり、先程と打って変わって少し落胆するフレディを横目に、傷を包帯越しに手触りで確認する。
「そういえば……もう、そんなに痛くないような……」
何度摩っても痛みが来なければ、傷のような生々しい感触もなかった。
まさかと思い、素早く包帯を外し始める。
「ああ、駄目ですよ!ルーシュ様。傷が完治してない内に包帯を外しては──」
フレディが手を差し伸べたと同時に、包帯を外し終えると、そこには僕にとっては予想通りの、フレディにとっては予想外の跡があった。
「やっぱり、治ってる」
少し変色し、周りの皮膚より赤みを帯びているが、それはただの傷跡であり、全くもって傷ではない。
「これは……確かに傷は浅かったですが……一体どういう……」
流石にフレディも驚いているらしい。
しかしまあ、フレディの話によると、僕の治療をしたのはあの魔人らしいし、僕からすれば、正直どういうトリックだろうと大した驚きは出ない。
そういうわけで、条件は満たされた──
「まあ……事実として治ってますし、問題はありません。僕にも教えてください。『武技』を──」
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ルーシュ・ラナタイト(回想中)
レベル77
役職:魔法騎士
体力:902
魔力:673
攻撃力:392
防御力:299
魔攻力:406
魔防力:351
素早さ:417
知力:381
アビリティ:王家,勇者,転生者,捕食,自然治癒【体】,自然治癒【魔】,生物感知・極,魔力感知・極,魔導・極,物理耐性・極,魔法耐性・極,毒耐性・極,陽炎・極,水月・極,疾風・極,慈悲・極,個性・極,達人・極
称号:勇者,美食家
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固有魔法:不明




