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第39話 『感謝と願い』

「──サーラはそこで意識失ってしまい、その後、セドリックに何をされたかは分からないそうです。彼女曰く、目覚めた時の身体の状態的に、何もされてはいないと思う、とのことですが……本当のことは、その男以外分かりません……」


「……この世界に召喚されたのが、幸なのか不幸なのか……何とも言い難いですね、それは……」


 淡々と説明してくれるフレディの目には、確かに憐れみが映っていた。

 そんな様子のフレディや、部屋を出ていったノアとリノ、そして、サーラ。

 全員の話には、それぞれ類の違う悲嘆や苦悩が存在していた。

 理不尽な差別、大切な仲間や恋人の喪失、それらの背後にある、虐待やら殺人やら強姦やらの、残虐非道な犯罪行為。


「──何も……変わらないじゃないか……」


 思わず小声を漏らしていた。

 僕が元生きていた世界と、何ら変わりはない。

 どれだけ治安が良くなろうと、差別や犯罪は無くなりなんてしなかった。

 どんな時代、どんな世界だろうと、誰もが幸せに生きられる世界など存在しない。

 もう一つの()()を見た今、それがはっきりと分かった。


「ルーシュ様は、お優しいですね。私どもに同情なさってくれているのがひしひしと感じられます。その親切なお心に、多大な感謝を申し上げます」


 フレディにそう言われると、はっとした。

 僕はここまで思いやりのある人間だっただろうか?

 今までは不親切と言われるほど人に冷たくはなかったものの、出会って間もない人達の心を理解しようと胸を痛めるほど……僕は優しくなんてなかった……はずだ。


「……そう思っていただけたなら……何よりです……」


 それらしい返事をして、思考を続ける。

 そして、一つの可能性を帯びた答えに辿り着いた。


(『勇者』だから……なのか?)


 『魔王』を倒して世界に平和を齎す、それが本来の『勇者』の使命である

 その使命を、僕は無意識の内に達成しようとしているのではないか。

 その過程において、悲しんでいる人を見ると、自分が早く人々に平和を齎すことができない無力さを、自動的に痛感しているのではないか。

 それなら……今僕が、彼らを少しでも助けようと思ってしまったことさえ……『勇者』の使命に生み出された、偽りの──!


 ──それは違いますよ!


 突然声が聞こえた。

 かつて聞いたことのある、優しさ、慈しみに溢れた、とても安心する声が……


 ──お兄様が優しいのは、偽りなんかじゃありません! それじゃあ、お兄様が私を助けようと思ってくれたのは、嘘だったのですか?


 それは……分からない……

 今にして思えば、その感情もなんだったのか……


 ──よく思い出してください! 私があの魔物達に連れ去られた時、身体中怪我をして、満身創痍になっても追いかけることをやめようとしなかったのは誰ですか!


 ……それは…………。


 ──私には、あの時のお兄様の行動が、全て嘘だったとは思えません! だから、思い出してください!本当のお兄様の気持ちを──!


 声が途絶えると、フレディが心配そうにこちらを見ているのが分かった。


「ルーシュ様?大丈夫ですか? 体調が優れていないように見えますが……もしや、まだお怪我が完全には治っておられないのですか?」


 フレディにそう言われたことで、自分が顔に微量の汗を書いていることに気づく。

 ──しかし、それも一瞬で引いた。


「──いいえ、大丈夫です。それより、大切なことに気づくことが出来たので……」


 フェイ……僕が優しくなれたのは、きっと……


「……フレディさん。そして、サーラさんや、ノアとリノ……まだよく知りませんが、その『呪』という人も。僕は、皆さんを必ず救ってみせます──!」


 僕は席から立ち上がり、握り拳を胸に当て宣言してみせた。

 この行動の後に、十数分程度の間、羞恥心に悩まされることになるとも考えずに。


 フレディは最初に呆気に取られたような表情を示したが、その後すぐに、僕に微笑みかけた。


「……とても……有難いお言葉ですね」


 そう言うとフレディは顔を病室の窓へと向け、空を見上げ始めた。


「この()()()()()で、まさかそんな言葉を聞けることになるとは、思ってもみませんでした……誰かにここまで親身に寄り添っていただけたのは、果たして何年ぶりのことなのやら……」


 窓の外には夕焼け色に染まった空が広がっていた。

 本来この景色は暗黒であり、空と言える空は存在していない。

 今見えているこの夕焼けは、あの透明魔人の術による空である。


「ルーシュ様にも、この景色が見えていますか?」


 フレディは空を見続けたまま言った。


「この……夕焼けのことですか?」


 そう言うと、フレディは無言で頷いた。

 どうやら魔人は、僕だけでなく、この城にいる人達皆に術を施しているらしい。


「ルーシュ様もご存知かと思われますが、この景色はあの透明の魔人が作り出したものです。私がこの世界に来て間もない頃に、暗闇は不便だと物を申すと、その魔人は数秒後にこの空を見せてくれました。『これでよろしいですか?』と言って」


「それって……」


「はい、私は頼んでいないのですよ、ここまで美しい景色にしろ、などとは。ただ明るさが欲しかっただけなのですが、あの魔人は、この空を()()()()に作り上げました。当時の私は、その件について特に何も思いませんでしたけど……今考えてみれば、何故わざわざこの美しい空を作り上げたのか、謎なものです」


 僕が疑問文を完成させる前に、フレディは語った。

 フレディの話を聞いてからもう一度空を見ると、何とも信じ難い気持ちになった。


(あの非道な魔人が、頼まれてもないのに、わざわざ美しい空を作った……か……)


 そもそも、あの魔人が人間のために術を使ったという事実さえも怪しいものだが、フレディがそう言うのだから真実なのだろう。

 瞳に優しく差し込む夕日を眺めていると、自然界にいた頃の記憶が呼び起こされた。


(そういえば、アレスタルの旅宿でも、こんな感じの夕焼け見たっけな……)


 あの頃までは……すぐ隣に……すぐ傍にいたのに……


 自分の不甲斐なさを痛感しつつ、意志を固める。


「──必ず……助け出す……!」


 思わず声に出していたことに気づくと、それを聞いたフレディが僕の方を向いていた。


「……妹様……でしたよね? きっと生きていますよ」


「今の文脈で、フェイのことを考えてたって分かるんですか!?」


 あんな宣言をした直後だ、普通なら自分たちのことについて言っているのだろうと思うはずなのに……


「中年の勘ですよ。ルーシュ様の表情に、より強い意志が出ていたので」


(この人の前で考え事は危ないかもしれないな……)


 なんてことを思っていると、フレディが起立した。


「本日は、なんというか……色々助かりました。出会って間もない他人の無礼に、どこまでも親切に対応していただけて、感謝してもしきれません。ルーシュ様のお陰で、私とサーラも、幼い彼らと交流を図ることができそうです」


「いえいえ! 結果的にそういう形にできただけで……僕はそこまで大それたことをしたつもりは……」


 フレディの感謝の念に圧倒されそうになり、少しおどおどしてしまった。


「またまた、ご謙遜を。それでは、私はこれで失礼します。ルーシュ様の宣言内容、期待していますよ」


 フレディは一礼をすると、病室を出ていった。

 何度も礼を言われると、やはり少し照れくさいものだ。

 しかし、最後の一言を聞いて、自覚してしまった。


「……恥ずかしいな……僕……」


* * * * * * * * * * * * *


──魔王城、廊下にて


 暗闇の道をコツコツと歩く革靴の音が響いている。

 革靴より上はスーツ一式で揃えられており、社会性の塊である。

 しかし、袖からは数ミリの透明な隙間を跨いで白い綿手袋が装着されており、何より違和感があるのは、襟から上である。

 透明なマネキンに紺色で短髪のウィッグを被せたかのようなその姿は、一瞬で人外であることがわかってしまう。


「──意外と人情深いよね? ディアスは」


 透明魔人の背後から声が聞こえた瞬間、魔人は声の方向へ跪いた。


「魔王様!まさか、城内に戻っておられるとは知らず……気づくのが遅れてしまい、申し訳ございません!」


 ディアスの背後にいたのは魔王だった。

 禍々しく、ゆらゆらと揺らめく暗黒色のオーラが、魔王の姿を包み込み、その姿を視認出来なかった。


「十分早かったじゃないか? その姿勢ももうやめていいよ。それよりも、君と少し話がしたくてね?」


「話……でございますか?」


 ディアスが立ち上がりながら姿勢を改まると、魔王は続けた。


「さっき、勇者を助けたよね? 君が幻覚を見せて」


 魔王がそう言うと、ディアスはその言葉の意図を真っ先に察し、素早くまた跪いた。


「申し訳ございません! 私が、魔王様の許可なしに勝手をしたこと……万死に値します!」


「違う違う、その姿勢にはならなくていいって。そうじゃなくて、感謝したいんだよ、君に」


「感謝……とは?」


 またもや姿勢を正そうと、ディアスは立ち上がった。


「うん、感謝。あのまま勇者を放っておいたら、きっと鬱症状でも発症してたよ。もしそうなってたら、今後、色々面倒になってたからね」


「有難き……お言葉……」


 魔王の感謝を聞き、ディアスは一礼した。


「それともう一つ、感謝ついでに頼みたいことがあるんだけど……いいかな?」


 一礼を終えたディアスは、既に整った姿勢をさらに整えた。


「魔王様の命令とあらば、なんなりとお申し付け下さい」


 そう言って、再び跪くディアスに、魔王は少し苦笑いを浮かべた。


「そう言ってくれて助かったよ、それじゃあ──」


 ディアスは自身の視認不可の眼で、魔王の視認不可の表情を見た。


「──勇者を絶対に死なせないでくれるかい?」

==========

ルーシュ・ラナタイト(回想中)

レベル77

役職(ジョブ)魔法騎士(ルーンナイト)

 体力:902

 魔力:673

攻撃力:392

防御力:299

魔攻力:406

魔防力:351

素早さ:417

 知力:381

アビリティ:王家,勇者,転生者,捕食,自然治癒【体】,自然治癒【魔】,生物感知・極,魔力感知・極,魔導・極,物理耐性・極,魔法耐性・極,毒耐性・極,陽炎・極,水月・極,疾風・極,慈悲・極,個性・極,達人・極

 称号:勇者,美食家

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固有魔法:不明

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