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第38話 サーラの過去『全部夢だったら良かったのに』

「サーラ、お前の指名が入った」


 休憩室へと赴いた強面の男は、その野太い声でサーラ・フォンティーヌを呼ぶ。


「はっ、はい!」


 緊張している新人ならではのテンプレートされた返事をするサーラだが、男は決して新人だからと雑には扱わない。


「3名での来客だそうだ。残りの2人は指名がないため、後に空いてるやつが入るから問題ない。今回も期待してるぞ」


 黒服かつ強面のその顔に合わない優しい期待がサーラに寄せられる。

 というのも、このサーラだけは、()()なのである。

 サーラはこの仕事を始めて、まだ1、2週間ほどしか経過していないが、客からも職員からも、彼女の実力は認められていた。


「が、頑張ります!」


 そう言ってサーラは休憩室を後にした。

 この店で彼女の実力を知らない者はただ1人──


(ついさっき1人対応したばっかりなのに、また指名かぁ……ちょっと怖いなぁ……でも、生活のためにはこれくらい……!)


 ──サーラ自身である。

 サーラが客の元へ到着すると、言われていた3人の男がそこにいた。

 風貌は何やら冒険者のようで、恐らく旅の途中で寄ったのだろうとサーラは勝手に想像していた。


「おっ、来ましたよ、セドリックさんの指名」


 右端の男がそう言うと、男達は揃ってサーラを見た。


「セドリックさん、本当にこんなんでいいんすか? やっぱり新人は新人なんじゃ……」


 左端の男は緊張しているサーラを見るなりそう言った。

 どうやら、この男達は、サーラの実力を知らない者達らしい。

 サーラ本人は非常に緊張しやすく、常に判断が遅れてしまうような人間である。

 しかし、いざ客を前にすると、彼女は()()する──


「いらっしゃいませぇ、ヴァーミリオン・エデンへようこそぉ。本日は、このサーラ・フォンティーヌがぁ、あなたの心を癒しちゃいまぁす」


 先ほどまでの華奢な彼女は、妖姿媚態を振りまく大人びた様子へと豹変した。


「やはり、俺の勘は正しかったようだな」


「そんな自慢げに言ってますけど、この店の一番人気なんだから、そりゃそうに決まってるじゃないすか」


 セドリックと呼ばれていた中央の男の発言に、即座に指摘するように右端の男がそう言った。


「あ?なんだと? お前はどうやら俺のパーティを出ていきたいらしいな?」


「そ、そんなわけないじゃないですか! 冗談です、冗談ですよ!」


「それなら……もう二度とそんな無駄口叩くんじゃねえぞ!」


 ──その瞬間、セドリックは左端の男の膝に鋭いローキックを入れた。

 セドリックは金属製、他2人は革製の装備を着用していたために、右端の男は声も出せずに、その場に蹴られた膝を抱えて倒れ込んだ。


「そいつは放っておけ、俺が帰ってくる頃には拾ってやるさ」


 セドリックがそう言うと、左端の男は額に冷や汗を残しながら黙って頷いた。

 しかし、この状態(モード)になったサーラは、なんの恐れも感じていなかった。


「あらあら、乱暴なお客様ですねぇ。ですけど、私は決して嫌いじゃありませんよぉ? あなたの接客が、余計に楽しみになってきちゃいましたぁ」


「へぇ?分かってる女じゃねぇか。本当なら1時間だけ楽しむつもりだったが、2時間にしといてやるよ」


「ふふっ、ありがとうございまぁす。それではこちらへぇ」


 そして、サーラは倒れている男を無視して、セドリックを店の奥へと案内した。


* * * * * * * * * * * * *


 2人が個室に辿り着き、サーラは仕事を始める。


「ではぁ、オプションの追加はありますかぁ?」


「オプション……ねぇ……」


 セドリックは少し考えた後に、サーラに近づいた。


「お前がそこで寝ろ」


 セドリックは個室のベッドを指さしながら言った。

 それがこの店で何を意味するのかは言うまでもなかった。

 しかし──


「ふふっ、乱暴な上に大胆でもあるんですねぇ。でもごめんなさぁい? 他の店では良かったのかもしれないけどぉ、この店舗じゃ()()は扱ってないんですよぉ」


 セドリックの圧に負けず、サーラは丁寧な対応をして返す。

 だが、この男がその程度で諦めるはずもなかった。


「代わりのいくらでもいるたかが嬢ごときが、俺の命令に逆らうなんてよぉ? んなことが許されてるとでも思ってんのか?」


 近づかれたことで縮まっていた距離が、さらに詰められていく。


「駄目なものは駄目なんですよぉ。その代わりぃ、今回はお客様がちゃぁんと満足できるよう、精一杯頑張っちゃいまぁす」


 そう言いながらも、詰められる続ける距離を空けようと後退りをしていると、サーラはいつの間にか部屋の隅まで追いやられていた。


「あいつを蹴ってもまだイライラが治まらねえから、お前で憂さ晴らししてやるって言ってんだよ。この()()セドリック様が、直々になぁ?」


「あらぁ、勇者様だったんですかぁ? それなら、尚更こんなことはやめた方がいいですよぉ?」


 サーラは逃げ場をなくしているが、全く怖気付く様子はなかった。


「そうか……いつまで経ってもその態度ってんならしょうがねぇ……」


 そう言うと、セドリックは1歩下がり、サーラを解放した。


「確かお前、さっき言ってたよな?」


 ──そう言った瞬間に、セドリックはサーラの腕を掴み、ベッドの方向へと投げ飛ばした。

 サーラはベッドの上に仰向けに倒れ、セドリックを見上げる。


「──乱暴なのは嫌いじゃないってよぉ!」


 セドリックはサーラを逃がすまいと、素早くサーラに近づいていく。


 ──だが、既の所で、背後からその腕を掴まれた。


「従業員への一方的かつ過剰な接触行為は規約違反だ」


 その声の正体は、店での性犯罪を防止するために、店に複数人配置されている黒服の男だった。

 黒服の男は、間髪入れずに掴んだ腕から手慣れた合気を発生させ、セドリックを床へ叩きつけた。


「クソッ!大事な客様相手に何しやがる!」


「お前はまだ未遂だ。ギルドに通報はしないでおいてやる。分かったなら、さっさとこの店から出てけ」


 セドリックは、黒服の男に後ろ手を組まされ、1度舌打ちをした後に、男と共に個室を出ていった。


「…………」


 個室にはサーラのみが取り残され、静寂が保たれていた。

 客を前にすると()()する彼女だが、それはまた、客がいなくなった時も同様であり──


(こ、こ、こ、こわかったぁ…………あんな横暴な人、私なんかに対応できるわけないじゃない! 黒服の人が駆けつけてくれなかったら、危うく、私……!)


 忘れていた緊張が、状態(モード)が解けたと同時に一挙に押し寄せ、サーラの脳内から冷静さを喪失させていた。

 短時間の動悸と息切れを体感した後に、サーラは受付の場所へと戻ることにした。


* * * * * * * * * * * * *


「大丈夫だったか?」


 優しい声の主は、相も変わらず見た目に反している、先ほど駆けつけてくれた黒服だった。


「はっ、はい! 黒服さんがすぐに駆けつけてくださったので、何もされていません!」


 嬢には持て余す堅苦しさで返答すると、黒服は持ち前の優しい声で「なら良かった」とだけ答えた。


「それじゃあ、ええと……お仕事の続きを──」


「ああいや待て。あんなことがあった直後だ、仕事にも支障は出るだろう。それに、お前のシフト時間もあと数十分で終わる。今日はもう帰って、休んでもらって構わない」


 休憩室へと向かおうとするサーラを引き止め、黒服はそう提案した。


「いえいえそんな! この店じゃ、ああいった出来事は少なくないですし、私ばっかり良い待遇を受けるわけには……」


 サーラの言うことは事実であり、今までも事件が未然に防がれた場合は、そのまま仕事を再開するのが普通だった。

 だからこそ、この黒服の男のサーラに対する手厚さに、サーラは違和感を覚えたのだった。


「いいから休め。給料もいつもと同じだけ出しておくから」


「分かり……ました……」


 今の気の弱いサーラでは、その提案を断りきることができずに、結局帰り支度を済ませに行った。


 ──サーラがその場を離れた瞬間に、黒服の男の口角が上がっていたことに、サーラは気づくことが出来なかった。


* * * * * * * * * * * * *


 家の玄関に着き、インターホンを鳴らしたサーラは、黒服との会話を思い出していた。


(そういえば、あの黒服さん、なんで私の給料のことまであんなに言えたんだろう……別に、オーナーでもなんでもないのに…………やっぱり、今からでもお店に戻った方がいいかなぁ?)


 そう思い、腕の時計を確認すると、時刻は既にサーラのシフトの時間を過ぎていた。


(戻っても意味無いかぁ……明日怒られないといいけど……)


 ──その時、玄関の扉が開き、サーラの瞳に光が差し込んだ。


「おかえり、サーラ」


 ──それは、サーラの()のアランであった。


「ただいま、アラン」


 厳密に言ってしまえば、本当は夫ではない。

 しかし、婚約を交わすことで、互いに不都合が出てしまうため、今はまだ未婚であるだけなのだ。


「今日は、いつもより帰ってくるのが早いね? 体調でも悪いのかい?」


「ううん、そんなんじゃないの。今日はただ……えっと……運が良かっただけ!」


 サーラは自分の職業を偽っている。

 というより、職業が職業なのだから、伝えられるはずもない。

 しかし、そんな職業を続けるのも、この2人が抱えている問題を解決するためには、仕方の無いことだった。


「……なら、君と少しでも長く一緒に過ごせる時間を増やしてくれた運命に、感謝しなければいけないね」


 アランがそう言うと、2人は家の中へと入っていった。

 そして、2人がリビングに辿り着くと、テーブルには既に料理が並んでいた。


「実は、今日は僕もギルドの仕事が早く終わったんだ。だから、料理はもう作ってあるよ。一緒に食べよう」


「──ありがとう、アラン」


 彼の穏やかな声と姿は、サーラの今日の出来事も浄化してしまうような安心感で溢れていた。

 着替え等の支度を済ませたサーラは、既に椅子に座っていたアランと共に、食卓を囲む。


「──なあサーラ、突然こんなことを言い出すのも、おかしなことなんだが……」


「どうしたの?」


「サーラが病院で働いているという話は……本当なのかい?」


 アランが突然食事の手を止め、そう問いかけたと同時に、サーラの手まで止まった。

 唯一の隠し事である職業について疑われたことは今までなく、思わず数秒黙ってしまったが、我に返り、すぐさま否定の言葉を考える。


「もちろん!本当だよ! もしかして、私が夜勤のシフトだから疑っちゃった? 私が夜勤なのは、夜勤の方がお金が多く貰えるから──」


「──いや、それはもちろんその通りなんだ」


 サーラの必死の反論を遮り、アランは言った。


「君が病院で働いているという事実を否定する証拠なんてどこにもないし、夜勤である理由にも納得がいくんだ。だけど……今までの君を知っているからこそ……何かが引っかかるというか……」


 アランのその言葉を聞いて、自分の職業がバレてしまったのかと心配する必要がなくなり、サーラは少し落ち着いた。


「も~、変なこと言わないでよ~」


「──すまない。俺は真剣なんだ。ただの勘なんかじゃなくて、確信があるんだよ。証拠も何もないけど、君が俺に嘘をついているという確信が……」


 アランの表情を見れば、彼の意思が強いものであることは明らかだった。

 確信がある、と豪語されては、サーラも否定することを戸惑ってしまう。

 何を隠そう、それは事実なのだから。


「一つ取り違えないでほしいのは、決して俺は君を非難したり否定しているわけではないということだ。人間がより良い形で共存するためには、嘘偽りは必要不可欠だからね。それに俺たちが抱えている問題を解決するために、君が職業を偽っているのだとすれば、それは僕に対する気遣いだ。尊敬されるべき行動だよ」


 アランの話を、サーラは黙って聞いていた。

 サーラたちが抱えている問題、それは即ち経済的な余裕が無いということだった。

 互いに仕事をして、何度稼ぎを足し合わせても、アランの両親が作ってしまった借金を返済しきることが出来ないでいた。

 彼らは元々は幸せな夫婦になれるはずだったのだ。

 しかし、その幸せに嫌気が差し、同時に妬むようになったアランの両親が借金に借金を重ねるようになり、その負債を返済することがないまま他界した。

 おかげで、2人はその両親が住んでいた家にそのまま住み続けることができるようになった。

 しかし、その多額の負債が、サーラを嬢の仕事へと誘ったことも事実である。


「ただ、これだけ、俺から忠告しておきたいんだ。もし君が…………もし君が、自分の身を売る仕事をしているのだとしたら、今すぐに辞めてほしい」


 サーラは身を売ってこそいないが、ほぼほぼ図星を付かれていることに変わりはなかった。


「君は、俺との共存関係である前に、たった一人の恋人なんだ。こんな借金まみれの酷い生活をしているのも、今は俺に責任がある。その責任を君に背負わせることさえ、本来なら辛いことだと言うのに……今俺が言った通りだとするなら、俺は尚更、君に顔向けすることができない……」


 アランの表情と心情は、罪悪感のみを表していた。

 サーラはアランの話を肯定することが出来なかったが、否定することも不可能だった。

 両人に非はない。しかし、2人が負い目を感じてしまう事実は、間違いなくそこにあった。


「……すまない。暗い空気にしてしまったね。折角君が早く帰ってこられた日なんだ。喜ばなきゃ損だ。それに、今言ったことは、あくまで全部、もしもの話なのだから、君が本当は何の仕事をしているのかによっては、深く考える必要なんてないよ」


「……そうだね……大丈夫だよ。身を売るなんてしないから、安心して?」


 アランがいつもの穏やかな調子に戻ったことで、サーラの緊張も和らいだ。

 そうしてそのまま2人は食事に戻り、僅か数時間だけの2人の時間を満喫した。


* * * * * * * * * * * * *


 2人が寝室に行き、ベッドに横たわると、アランが口を開いた。


「俺たちが本当の夫婦になれないのも、()()()()()()()()()()()のも、原因はこの経済難にあるんだ。だから、絶対に君は君を大切にしてくれ」


 その言葉は最も温かく、最もサーラを想った一言だった。


「……うん。分かってるわ」


 それだけ返すと、部屋の明かりが消え、2人は眠りについた。


 この不幸な生活がサーラに及ぼす影響は非常に大きい。

 しかし、その不幸を乗り越えるという目標が、アランとの愛情をより育むものとなっていることもまた事実。

 どれだけ不幸で不安定でも、その中に幸せと安心があればそれでいい、とサーラは思っていた。


 ──すると、サーラは()()夢を見た。

 ぼやけた視界に映ったのは、アランが彼女の右腕を左腕でベッドに押し付け、残った右手で彼女の衣服を脱がそうとする姿だった。


「何……してるの? ア……ラン……」


 夢の中では思うように体が動かず、上手く声も出せない。

 しかし、夢の中アランは彼女の問いかけに答えることなく、その作業を続けていた。


「アラン?」


 彼女がもう一度名を呼ぶと、今度はアランの耳に声が届いたらしく、彼女の顔を見て答えた。


「ああ、大丈夫だよ、サーラ。寝てる君があまりにも綺麗でね? つい興奮してしまったんだよ。くすぐったいかもしれないが、我慢してくれ、すぐに終わらせる」


 聞こえた言葉の節々に、サーラは違和感を感じた。

 彼はこんなに自己的な人だっただろうか?

 彼は私が寝ている所を襲うような人だっただろうか?

 それらの違和感が、サーラの眠っていた脳を目覚めさせた。

 同時に視界のぼやけは消え、はっきりと周囲が見えるようになった。

 しかし、目の前には間違いなくアランの姿があり、それは決して見間違いではなかった。


(ということは……これ、夢じゃない……!)


 目の前にはどう見てもアランの姿がある。

 しかし、どう考えてもこのアランはアランではない。

 そうして周囲を見渡すと、信じられない光景がサーラの目に入り込んできた。


「──どういう……こと……?」


 ──寝室の窓際に、倒れているアランがいた。

 さらにその隣には、人影も2つ。

 その2つの情報を察知したと同時に、目の前のアランの右腕を掴んでいた。


「あなた……誰なの……?」


 サーラがそう聞くと、目の前の誰かは黙り込んだ後に、溜息を一つ吐いた。

 ──そして、小声でぶつぶつと何か言いだした。


「……らが…………ェらが──」


 小声さえもはっきりとアランだったが、サーラはもうこの誰かをアランであると思っていなかった。


「──テメェらがそいつを片付けんのに手間取ってっから……!こいつが気づいちまったじゃねぇかァ!」


 大きく荒らげた声が寝室に響くと、アランのそばにいた2人の人影はこちらを向き、サーラは顔を見ることが出来た。

 そして、その顔には見覚えがあった。


「──どうして、ここに……?」


 サーラは彼らの顔を、店で見た事があった。

 それも、つい今日のことである。

 そして、彼らの顔を見たことで、サーラにとある人物を想起させた。


「じゃあ、あなたは……もしかして……」


「──その通りだぜぇご名答」


 目の前の男がそう言うと、徐々にアランの姿が霞んでいき、別の姿が顕現した。


「セドリック……勇者セドリック様のこと……忘れてねぇよなぁ?」


 アランだった誰かは、今日店で自分を襲ってきた、セドリック本人へと姿を変えた。


「わざわざお前のためだけに、あのムカつく黒服とお前の旦那に変身してやったんだ……苦労させたぶん……十分に持て成してもらおうか!」


 正体がバレたことで開き直ったセドリックは、容赦なくサーラの衣服を脱がそうとする。


「──やめて!やめてッ!触らないでッ! アラン!起きて!助けてよ!」


 何度もサーラは叫び、アランに助けを乞う。

 ──すると、セドリックは動きを止めて、突然笑いだした。


「助けて?面白ぇなぁお前。まさか()()に助け求めるやつがいるなんてよォ?」


「──えっ?……」


 あまりに衝撃的な言葉で、サーラは思考が止まった。

 死体?アランが?死んでる……?

 何度も脳に問いかけてしまうほど、その事実を受け入れることが出来なかった。


「死体だよ死体。まさか気づいてねぇとは思ってなかったぜ。俺が誰かに変身するためには、その本人を直接殺さなきゃなんなねぇんだ……まあでも……許してくれるよなぁ?」


 よく見てみれば、倒れたアランの胸にはナイフが刺さっており、衣服の胸元部分全てがが紅く染まっていた。


「──嘘……でしょ?」


「まさか現役の嬢に、旦那がいるなんて思いもしてなかったぜ。まあでも、お前が面倒な反応をするのを防ぐために、わざわざ機転を効かせて旦那を殺して、変身出来るようになってやったんだ。それなのに……気づかれちゃあなんの意味もねぇじゃねえか」


 どうしてアランが死ななければならなかったのか。

 それが永遠と理解出来ずに、サーラは絶望した。


「まっ、バレたならバレたで、面倒な変身する必要がねぇわけだし、俺としてはそこまで悪くないがな? ようやく店の続きができるんだから、愛想良くしてくれよ?」


 そして、セドリックはまた手を動かし始め、サーラの衣服がはだけていく。


 店にこの男が来た時に、私が抵抗しなければ、アランは死ななくて済んだのかもしれない。

 初の体験はアランが良いなどと思い、店での行為を拒否していたせいで。

 いや、アランとすることが出来なかったのは、大きい借金があったせいなんだ。

 でも、それは私がアランと恋人になってしまったせいなのに。

 それならもう、いっそのこと──


 ──全部夢だったら良かったのに。


 ──サーラの瞳から一滴の涙が零れ落ちると同時に、サーラは両目を閉じた。

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