第37話 『悲哀の病室』
「──そんなことがあった日からも、私は4年ほど勤め続けましたが、やはり周囲の目は辛いものでしたね。ですから、私はとうとう自害を考えたのです。しかし、目を閉じ、剣の刃を私の喉元に突き立てたその瞬間に、突然周囲の空気が変わり、目を開けてみれば、そこには謎の民族らしき人影が……。あとから聞いた話によると、彼らはどうやら、ピスティ族という魔物だったらしいですね」
「あ、それ、リノも聞いた! 変な格好した変な人達だよね?」
「人じゃないよ、リノ。あの時はあいつらの大きい帽子で、顔がよく見えなかったけど、実際は怖い顔らしいぞ」
「えっ!? そうなの!?」
リノが驚いている様子に、フレディが微笑む。
(なんで……この人たちは皆、こんなに普通でいられるんだ……)
僕もそれなりだが、この3人の方がよっぽど壮絶な過去を持ってる。
事実、ノアも最初は僕への警戒心が高かったし、フレディは今言ったように自殺を決心していた。
でも今は皆、僕に自分の辛い過去を話せるだけの余裕ができている。
「──今は……」
僕が口を開くと、3人は僕の方を見た。
「今は、皆さん大丈夫なんですか? 僕が言うのもなんですけど、辛い過去っていうのは、時間の経過だけじゃどうにもならないもの……だと、思うんです」
僕が深刻そうな口ぶりで言うと、3人は互いに少し考え始めた。
しかし、それも束の間、その僅かな沈黙はすぐに破られた。
「リノはお兄ちゃんたちと一緒だから、ぜんぜん大丈夫だよ!」
リノは相変わらずの愛想の良さで言った。
「それなら、オレも……」
ノアは少し照れながら言う。
「私は……大丈夫だと言うと嘘になりますが……この手で斃すべき相手がいますので……」
「それって……仲間を殺した化け物のこと?」
ノアがフレディにそう問うと、フレディは膝の上に置いていた握り拳に力を入れ直した。
「はい。この世界に来て以降も、奴を忘れたことは一時もありません。時間があれば、奴を斃す為の剣を磨くのみです。今思えば、やたらと時間の多いこの世界は、私にちょうど良かったのかもしれません」
(フレディの仲間達を一瞬で殺した人型の化け物……)
「分かってるかも知れませんが、きっと、そいつはあの透明人間と同じ魔人です。相当経験の積んだ冒険者や兵士でも、斃すのが厳しい存在……僕が『勇者』になる時、城の人達からこっぴどく念を押されました」
「魔人……ですか……」
フレディは俯きはしたものの、その心情に宿る意志は揺らいでいなかった。
「魔人であろうと何だろうと、私の生きている意味は奴を斃すことのみにあります。あの日殺された仲間と、私に失望した仲間……その両者へのせめてもの償いを……ですから、私はこの剣を手放さずにいられるのです」
今ではほぼほぼ立ち直りつつあったノアとリノの2人とは反対に、フレディは自分の罪悪感に苛まれ続けていた。
その気持ちを悟ってか、2人もかける言葉を失っていた。
「なるほど……分かりました」
充満した重い空気の中を僕の言葉が通過した。
「2人やフレディさんの話を聞いて1つ疑問があります。僕は魔人に誘拐されたため例外ですけど、皆さんはそのピスティ族という魔物によって、この世界に来た。ですがどうして、こんなに壮絶な過去を持った人がこの世界に呼び出されているのか……ということです」
親を失い、大人達に蔑まれ続けたノアとリノ。
仲間を失い、母国の兵士から苛まれ続けたフレディ。
この3人がこんな世界に呼び出されたことに、なんの共通点も無いなんて有り得ない。
そう考えていると、フレディが口を開いた。
「私がこの世界に来てから、この世界の魔物についてある程度は調べましたが、ピスティ族というのはどうやら、特定の人間を自然界から召喚し、自分達の食料にするらしいのです。そして、その特定の人間というのは、強い負の感情──悲しみ、苦しみ、怒り……それらを持った人間のことを指します。つまり、我々ということですね」
「しょくりょう!?リノ達、食べられちゃうの……?」
「今はもう大丈夫だよ、食べられない」
リノの純粋をノアが落ち着けているのを横目に、更に思考を巡らせる。
強い負の感情……ってことは、サーラと例の『呪』って人もそう……なんだよな
だとすれば、サーラの過去はフレディのさっきの発言で、既に何となく察しがついてるけど……
「話の前に言っていた、『呪』って人のことは、何も分かってないんですよね?」
「ええ、この城のどこに居るのかも分かりません。というより、気配すら感じないので、城内にいるのかすらも……」
城のどこかに隔離されてるのか、自らの意志で適当に離れてるってことなのか、そもそもこの城には居ないのか……
城内捜して見つかったとしても、初対面の人間に無愛想なようじゃ、こっちも対応に困るしな……
うむ、こういう時は一旦忘れとくのが得策ってやつだな。
自分の中で結論が出たと同時に横に目をやると、眠たそうに目を擦るリノが映った。
「今日はもう遅いし、そろそろ部屋に戻ろうか」
リノのその行動に真っ先に気づいていたノアが言葉をかけた。
「でも、リノもうちょっとお話したい……」
子供らしい可愛い我儘を言うリノだが、サーラの話をフレディから聞くためにも、この部屋からは出ていってもらわないと困る。
無理に退室させるのも気が引けるし、どうしたらいいものか……
「この世界なら、明日も明後日も、話す時間はいくらでもあるよ。わざわざ寝る時間を削ってまですることじゃない。それに、昨日の本の続き、知りたいだろ?」
ノアがそう言うと、リノはノアの方を向き、目を輝かせながら激しく頷き、いち早く部屋の扉の前へと移動した。
「それじゃ、オレも行くよ」
そうして、ノアが横を通り過ぎる瞬間──
「──リノには聞かせちゃ駄目な話でしょ?」
小声でそう言った。
どうやら、フレディから僕への耳打ちは、ノアには聞こえしまっていたらしい。
しかし、結構聞こえない音量で話されたはずだったのだが……かなりの聴力の持ち主だな……
なんにせよ、ノアがリノを上手く連れ出してくれて助かった。
2人が部屋から出ていくと、フレディが口を開いた。
「……きっとサーラも、彼らのことは分かってあげられるはずです。むしろ、どうして今まで彼らのことを気にかけてやれなかったのか疑問な程に……」
どうやら、2人の話を聞いて、本当に親身になって考えてくれていたらしい。
「仕方の無い話ですよ。フレディさんも彼らも、自分のことで精一杯で、他人の事を気にする余裕なんてなかったんですから……」
「そう考えると、私がサーラと世間話ができる程度の関係になれたのは、些か奇跡だったのかも知れませんね。何せ、出会った頃の彼女は、会話どころか、近寄ることさえ真面に出来ませんでしたから……」
フレディの悲愴な様子から、今から聞く話の悲惨さが伝わってくる。
でも、聞く覚悟は出来ている。
この世界で過ごすためには必要なこと──
「──話してください。サーラさんの過去」
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ルーシュ・ラナタイト(回想中)
レベル77
役職:魔法騎士
体力:902
魔力:673
攻撃力:392
防御力:299
魔攻力:406
魔防力:351
素早さ:417
知力:381
アビリティ:王家,勇者,転生者,捕食,自然治癒【体】,自然治癒【魔】,生物感知・極,魔力感知・極,魔導・極,物理耐性・極,魔法耐性・極,毒耐性・極,陽炎・極,水月・極,疾風・極,慈悲・極,個性・極,達人・極
称号:勇者,美食家
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固有魔法:不明




